オリジナル・ストーリー「オーラ・プログラム」

 

〜第20話〜

 帰途

 その夜。

 再会とお互いの無事を祝い、ジム一行は都内にある中華料理の店にいた。

 ただ一人フェイの姿を除いて。

 「さて諸君! とは言っても三人だけなんだが・・・。」

 何年かぶりに再会した息子と親友を前におどけて見せるジム。

 キャリーとクランキーは笑顔でグラスを掲げる。

 「皆の再会と無事を祝して、カンパ・・・。」

 そこまで言いかけたジムを遮るように、チャイナドレスを着た背の高いウェイトレスが三人のテーブルにオーダーを取りに来た。

 「お客様、注文の品はお決まりでしょうか?」

 あまりのタイミングの悪さに、三人はあっけに取られ、そのウェイトレスの顔を覗き込んだ。

 「あ・・・。」

 フェイである。

 つい先程までジム達と一緒にいたパンツルックの彼女とは違い、ドレスのスリットからのぞく脚線美が、大人の女性を演出していた。

 「私を注文するのは勝手だけど、高いからねぇ。 ま、今夜は他のもので我慢してね。」

 そう言って笑うと、フェイは慣れた手つきでオーダーに記入し始めた。

 「お、おい、フェイ。 こんな所で何してるんだ?」

 事情をしらないクランキーが半ば呆れた顔でフェイに尋ねた。

 「・・・いいこと、クランキー。 あなたみたいに遊んでばかりいたんじゃ生きていけないのよ、おわかり? いい年してぶらぶらしてると、婚期逃しちゃうわよ〜。」

 「よ、余計なお世話だ! それよりなんでここに・・・。」

 「はぁ〜っ。あんたばかぁ? だ〜か〜ら〜。」

 ひととおりオーダーの記入を終えると、腰に手を置き、クランキーの顔を覗き込むようにしてフェイが話し掛ける。

 「私、ここで働いてるの。 滞在費だって馬鹿にならないのよ。 ビザの関係もあるしね。 まったく、相変わらずのノー天気ぶりね、クランキー。」

 言いたい放題のあと、フェイは踵を返して厨房の奥へと消えていった。

 途中何人かの客から声を掛けられたが、軽く愛想を振りまくだけであった。

 それでも客は満足しているようだ。

 いわゆる「看板娘」という存在なのだろう。

 挨拶をされた客のテーブルに別のウェイトレスが向かうと、客は喜んで追加のオーダーを頼んでいた。

 「・・・はぁ。 まったくあいつといると疲れる。」

 いきなりぐったりするようにうな垂れるクランキー。

 隣にいるキャリーは顔が赤くなっていた。

 「ふむ。キャリー、その様子だとまだガールフレンドはいないようだな。」

 「!! パパ、突然何を言い出すんのさ・・・。」

 耳まで赤くなりながら、慌てたようにキャリーが答える。

 「はっはっは、いいんだよ。 パパもおまえぐらいの時には似たようなものだったさ。 コロラドに帰ったらハイスクールに復学して・・・。」

 「・・・そのことなんだけど、パパにお願いがあるんだ。」

 途端に真面目な表情になったキャリーが、真っ直ぐジムを見つめる。

 そのまま少しの時間が流れる。

 「どうしたの? 黙りこんで。」

 不意にフェイがテーブルに戻ってきた。

 見るといつもの服装に戻っていた。

 「ン・・・。 うむ、まぁその事は後で話そう、キャリー。」

 「あら、キャリーは今話したいみたいよ、ジム!?」

 ジムとキャリーの顔を交互に見てフェイが呟く。

 「そうか、わかった。 だがまずは乾杯しよう、皆も腹が減っただろう?」

 「そうだな、そうしよう。 ほら、フェイも・・・。」

 そう言ってフェイのグラスにワインを注ぐクランキー。

 そのうち一つ二つと料理が運ばれてきた。

 「よぉし、では皆の再会と無事を祝って、かんぱ〜い!!!」

 「かんぱ〜い!!!」

 グラスを重ねて、離れていた時間を埋めるように、四人の話は尽きる事が無かった。

 「ところでキャリー。 さっきの話なんだが・・・。」

 食事が一段落した所で、ジムが切り出した。

 キャリーもスプーンを持つ手を休めて話を始める。

 「パパ、僕香港に行って自分自身の功夫を高めたいと思うんだ。」

 クランキーと話し込んでいたフェイもキャリーの方に意識を向け、クランキーもそれに倣う。

 「ふむ。」

 ジムは腕組みをすると、黙り込んでしまった。

 だが驚くようなことではなかった。

 そうなるように仕組んだのは他ならない、ジム自身だったからだ。

 「今日ブルースと闘ってみて感じたんだ。 リー・Jrはどんどん進歩してるのに、僕だけ昔のままなんじゃないかって。 僕が進歩したら、リー・Jrはもっと強くなれるんじゃないかって。」

 真剣な眼差しを向けてくるキャリーに、ジムは嬉しくありながらも、同時に寂しさも感じていた。

 クランキー、そしてフェイも同じ想いに違いなかった。

 「おまえがそう言うのなら、パパは止めたりはしないよ。 でもね・・・。」

 「大丈夫よ、ジム。 あたしが教練(コーチ)になるんだから、心配しないで。」

 「そうそう、それに君と違ってしっかり者の僕も一緒に行くんだから、大丈夫。」

 フェイとクランキーが相次いでジムの話に割り込み、勝手に話が決まってしまったかのようだ。

 「パパ・・・。」

 二人の賛同を得て、改めてジムに向き直るキャリー。ジムは黙って頷くのであった。

 「オッケー! じゃあキャリーの新たなる旅立ちに・・・乾杯!!」

 再会の夜は更けていった。

 ―――――

 次の日。

 キャリーの希望により、日本を離れる前に、世話になった人たちに挨拶したいと言うことで、一行はまず「シマムラ・テクニカル・ファクトリー」を訪れていた。

 消息不明となっていた友人との再会を、マサキはとても喜んでいるようだ。

 「何をしているかと思っていたよ、ジム。」

 「いや何、たまには日本のヤマトナデシコをじっくりと見てみたくてね。」

 「あら、奥さんに言いつけちゃおうかしら、まったく何歳になってもそれは変わらないのね・・・。」

 フェイに軽いお灸を据えられてもジムには全くこたえてはいないようだった。

 「それにしても、RAP。 なかなかの物じゃないか。 一体どんな仕掛けなんだい?」

 「はっはっは。 いくらマサキでも教えられないな。 企業秘密さ。」

 「オーケー。 そう言うだろうと思っていたよ。 キャリー君、リーの調子はどうだい?」

 ふと、マサキがメンテナンステーブルにいるキャリーに声を掛ける。

 彼は昨日のブルース戦でダメージを負ったリー・Jrのメンテナンスに余念が無かった。

 今日はフェイが通訳をかって出ていた。

 「はい。 リー・Jrは皆さんとのバトルのお蔭でだいぶレベルアップをしたと思います。 だから今度は僕がレベルアップする番です。 次に十六夜やタイラントと対戦するときは勝ちにいきますから。」

 「・・・だいぶ自信を付けたようだね。 そう、またリー・Jrと対戦できる日を楽しみにしているよ。 どうせならワールド・チャンピオン・シップあたりのベルトを賭けて、ね。」

 「はいっ!!」

 「おいおい・・・。」×3

 力強く返事をするキャリー。

 ファースト・ステージの、キング・オブ・フィストに最も近い人物に堂々と宣戦布告してしまったことに、ジム達の方が驚いてしまうのだった。

 (この少年・・・きっと”くる”だろうな・・・)

 後日、マサキはその時の印象をT−REXに話した。

 彼はただ一言。

 「そんなこと当たり前だろう。」

 そう答えただけだったと言う。

 ふと気が付くと、店の入り口が騒がしい。

 どうやら”とりまき”を従えた子供が来たようだ。

 思わずその方をみるキャリー。

 中心にいる少年と目が合った。

 「キャリー!?」

 「ケンタかい!?」

 キャリー達が来日してすぐ、「渋谷TOP・メカ・リング」で対戦した相手だ。

 「もうアメリカに帰ってると思ってたよ、元気そうじゃん!!」

  握手を求めながら笑顔で話し掛けるケンタに、キャリーも手を差し伸べる。

 「どうしてここに? 確かケンタの家は・・・。」

 「うん、実は今日アミューズ・オブ・アメリカに連れて行ってもらう筈だったんだけど、急にパパが仕事になっちゃって・・・。」

 異国の友達と仲良く話す息子を、ジムもまた笑顔で見守っていた。

 ふと日本の少年が口にした「アミューズ・オブ・アメリカ」が気にかかった。

 「日本にもあったのか、A.O.A。」

 「ああ、ジムは知らなかったかい? 今度日本でのトップが替わるらしくて、TVニュースに出ていましたよ?」

 マサキがテレビモニターのスイッチを入れ、ニュース専門のチャンネルに合わせる。

 「おっ、これだ・・・。」

 ボリュームを上げると、抑揚の無い、ロボットの様なアナウンサーの声が聞こえてきた。

 「・・・は今日の午前の便でアメリカに帰りました。 地域の発展に貢献したとして、地元の有力者達が多数見送りに訪れた模様です。 あ、さて・・・。」

 「マッキー・オルブライトか・・・。」

 マサキが安心とも、落胆ともとれるように息を吐き出す。

 「ご存知なのですか?」

 クランキーが何気にマサキに尋ねる。

 「いえ・・・。 でも色々と有名な方でしたよ、在日中は。良くも悪くも・・・ね。 そうだプラレスも多少やってるみたいですよ。 詳しくは知りませんが。」

 そうですか、といってジムの方を見るクランキー。

 視線の先には、テレビの画面を凝視してピクリとも動かないジムがいた。

 「チェン・・・。」

 キャリーと一緒にケンタと話していたフェイも、ジムの様子に気付き声を掛ける。

 「ジム、チェンって・・・まさか・・・?」

 身じろぎもせずにジムが答える。

 「ああ。 やっと見つけたぞ、チェン!! まさか”あの”マッキー・オルブライトと一緒だとはな・・・。 いや、詮索は後だな。 よし。 キャリー、こっちに来なさい。」

 おもむろに椅子から立ち上がるとジムはキャリーに声を掛け、フェイとクランキーに視線を向ける。

 「二人とも、キャリーの事、よろしく頼むよ!」

 「ああ、でもどうしたんだい、急に? チェンが見つかったって、一体・・・?」

 戸惑うクランキー。

 そしてキャリーも、ついさっきまでの和やかな表情が消えたジムを見て、今までにない緊張を覚えるのであった。

 

次回予告!!

 急ぎアメリカに戻ることになったジム。己を鍛える為に香港へと向かうキャリー。

 互いに、また離れ離れになってしまうことに、ほんの少しの寂しさを覚えながら、

 それぞれの目的の為、に二人は新たなる一歩を踏み出すのだった。

 第21話 約束

 ご期待下さいね!

 

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