〜第19話〜
敗北
「リー!?」
あまりにも突然の事に、キャリーとクランキーは言葉を失ってしまった。
話の出来るプラレスラーは別に珍しくは無かった。
ただリー・Jrが話をした事が二人にとっては予想もしていなかった事だった。
何ヶ月もかけて解析したはずのプログラムなのに、まだまだ秘密があるのか? あるとすれば一体どんなものなのだろう。
二人はジムの思惑が読み取れずに困惑していた。
当のジムは別室のモニターでその様子を嬉々として眺めていた。
「やったな、キャリー!! ははっ。見てくれフェイ! キャリーがリー・Jrと新たな絆を結んだ瞬間だ! それでこそ私の息子だ!!」
フェイもにっこりと微笑んでジムとモニターとを交互に見ていた。
「人とマシンが信頼しあえる時代…。なんて素敵なんでしょう!」
「そうだ。人が一方的にマシンを支配していた時代はまもなく終わりを告げるだろう。これからは…。 そう、キャリーの様な子供たちが、リー・Jrの様なマシンと共に歩んでいく時代がすぐそこまで来ているんだ。」
「そうね。その為の道を作るのが私たちの仕事…。行きましょう、ジム!!」
ぐいっとジムの手を引き、フェイが部屋を後にする。
モニターを見つめながら、引きずられる様にジムも部屋を出た。
行く先は決まっていた。
「マスター。あなたは十分過ぎる程私の面倒を良く見てくれた。彼の言う事なんて真に受けることはありません。その証拠に…。」
(ピピピピ…)
リー・Jrが両腕を拳窩(けんか:わきの下)に構え、軽く気合を入れる。
それと同時にキャリーのモニターに多数のメッセージが表示された。
今までのバトルの中で表示されたもの、全く意味がわからないもの、様ざまなメッセージで画面が流れていった。
驚くべきことにバッテリーの残量も僅かながら回復しているようだった。
そして更に…。
「キャリー、見てごらん…。」
モニターに釘付けになっているキャリーに、そっとリー・Jrの様子を教えるクランキー。
「?」
そこには、赤でも黒でもなく、真っ白な、光を纏ったリー・Jrが静かに立っていた。
「リー・Jr!?」
「これがRAPの真・最終形態…リンク・オーラ・プログラムです、マスター。」
「リンク…オーラ・プログラム!? リンクって一体…。」
「絆…なのか。どうやらリー・Jrとリンクしているのは…君自身のようだね、キャリー。」
クランキーが驚くでもなく、妙に納得した表情で口を開いた。
「どういうことです!?…!!」
キャリーは、いつの間にか自分の体が薄い光のヴェールを纏っていることに気付いた。
「…。」
何が起こっているのか、理解出来そうには無かった。
だが不安も無い。
リー・Jrとクランキーの顔を交互に見ながら、キャリーは不思議と安堵感を覚えていた。
「…覚悟が決まったんなら、さっさとケリつけようぜ、ブラザー!!」
まるでこうなることを予測していたかの様なタイミングでブルースが口を挟んできた。
「…望むところだ!」
キャリーとリー・Jrが同時に答える。
「ヒューヒュー! 妬けるねえ、お二人さん。あんまり熱いと、こっちまで赤くなっちまう…ぜっ!!」
(シカッ)
一瞬の間を置き、ブルースの体が漆黒から深紅へと変化する。
「さて、行くぜ…ん!?」
戦闘態勢に入ったブルースは、またもリー・Jrとキャリーが同じく片手を伸ばし、こちらを制していることに気が付いた。
「…遠慮は要らない。本気でやろう。」
そうキャリーに言われ、ボリボリと頭を掻く仕草を見せるブルース。
「あー。一応、さっき警告はしたからな…。」
そういうと、ブルースは両腕を拳窩(けんか:わきの下)に構え、軽く気合を入れる。
ついさっきのリー・Jrの様に…。そして光が溢れる…。
「感謝しますマスター。そして…。」
リー・Jrが、リンク・オーラ・プログラムを発動中のブルースに対して感謝の意を述べる。
しばし対峙する二体のプラレスラー。
「たぶん、オレが勝つぜ…。」
「知っている。」
「…スクラップにならない様、気を付けな、ブラザー。」
「天ノ将ニ之ヲ与エントスルヤ、マズ之ヲ苦シム、さ。」
「…意味は目が覚めたときに教えてくれ、ブラザー。」
「わかった。」
時が止まる。
そしてキャリーが叫び、時が動き出す。
「Go!! リー・Jr!!」
(がんっっっ!!!)
フィールド上で、二体のレスラーが激突し、辺りが眩しい光に包まれる。
その光が消えたとき、キャリーはフィールドに仰向けに倒れたリー・Jrを認めた。
「…リー。…!!!」
(ィィィイイイイ…)
不意に機械音が鳴り、フィールドのドームが回転、開き始めた。
「・・・ったく。マメな奴だぜ。黙って寝ときゃあ良かったのによ、違うかい、マスター!?」
「そうだな・・・。」
ふとブルースを見ていたキャリーは、彼のボディに付いた無数の傷を発見した。
ひどい所では配線が剥き出しになるほどの傷となっていた。
いや、そんなことより・・・。
「マスター? まさか!!」
あわてて振り返るキャリーとクランキー。
そこには見覚えのある顔がキャリーにとっては一つ、クランキーにとっては二つ並んでいた。
そう、探し求めた人物が満面の笑顔でこちらを見ていたのだ。
「パパ!!!!」
「キャリー!!!! ・・・それと、え〜っと・・・。」
「おいおい、こんな時にジョークだろ!? まったくお前って奴は・・・ジム!! それから・・・。」
「はいはい、お約束はいいから。元気そうで安心したわ、二人とも!!」
待ち望んだ瞬間に身をまかせる四人を見つめるブルース。
その傍らのリー・Jrが僅かに動く。
「!! よう、起きたか、ブラザー。」
「・・・お互い、いいマスターを持ったもんだな。ブルース。」
「そうだな・・・。って! リー! お前、あんまり動けないんじゃなかったのか? それなのにオレのボディをこんなに傷つけやがって。」
「フッ。ヒーローっていうのはそういうものさ!」
「・・・お前、オレよりジムっぽいかもしれないな。似すぎだぞ、そのポーズ。」
リー・Jrは横になったまま、ジムが良くするように顎に手を当て、見えないカメラに目線を送っていた。
「はぁ、なんか先が思いやられるぜ・・・。」
「心配するな、ブラザー! オレがい・・・る・・・。」
(イイイィィィィ・・・)
「リー! ・・・ちっスリープしやがった。やれやれ、頭がイタイぜ、まったく・・・。」
そんなブルースの気持ちを知る由もなく、キャリー達四人の会話は尽きることなく続いていた。
fin
次回予告!!
再会を果たしたキャリーとジム。帰国を前に、世話になった人々に挨拶したいというキャリーの提案で
一行はある模型店へと足を向ける。偶然なのか、そこにはあの少年も訪れていた。何気ない少年の話が、
またも事態を急変させる・・・。
第20話 帰途
ご期待くださいね!