〜第23話〜
防衛
渋谷でジムと別れたキャリー一行は、一路香港にあるフェイが師範を務める道場へと向かった。
アメリカに戻ったジムが、チェンを連れて香港へと着いたのはそれからまもなくのことだった。
アメリカで様々な治療を受けたがどれも功を奏さず、死期が近いことを悟ったチェンが故郷に帰りたいとジムに願ったのだった。
チェンは殆ど話すことも出来ないような状態であったが、ヤンの命を奪ったこと、ほんの少しの気持ちの揺れから大きな過ちを犯してしまったことへの謝罪の意を述べた。
ジムもまた軽い気持ちで声を掛けた結果に深い反省を述べ、十数年越しに二人の友情が復活した矢先の急逝だった。
ジムと入れ違いにコロラドに戻っていたキャリーは、自宅でその報せを受け取っていた。
「そうですか、チェンさんが・・・。」
もちろんキャリーはチェンとの認識はない。
だが同じ截拳道を学ぶものとして、その死を無駄にはすまいと心に誓うのだった。
A.O.A、いやジムから聞いたオルブライト・マッキーがプラレスを悪用するようなことがあれば、全力で叩き潰すつもりだ。
3人と一緒に葬儀に出ようともしたが、コロラド州のプラレスチャンピオンとして招待されていた手前もあり、まずは目前の大会に集中することにしていた。
コロラドの大会は、公式発表ではWPWA のルールに則って行われることになっているが、プラレスオーナーの親睦会のような側面もあり、場合によっては対戦者同士の合意の下、金網デスマッチなどの試合が行われることもある。
近年ではそのシンプルな判定方法が受けて、FISTのルールに近い形での運営が多くなっていた。
3分1ラウンドの5ラウンド、KO・TKO・ギブアップ・ピンフォールといったオーソドックスなルールは、子供連れの観客にも分かり易いと評判だったが、本家と違いランキングが無いことを不満に思うオーナーも多かった。
「クランキーさんがいないけど・・・まぁ大丈夫だろう。」
翌日に準決勝を控え、はやる気持ちを抑えながら眠るキャリー。
もっとも最近ではクランキーの慌てぶりが面白いとさえ思えるほどにキャリーの気持ちは常に落ち着いているのだが。
次の日。
街の一角に特設されたプラレス会場では、連日の熱戦を一目見ようと大勢のギャラリーが押し寄せていた。
キャリーがリー・Jrを伴って会場入りすると、一際大きな歓声が沸きあがった・・・かに見えたがそうではなく、同時に入場した対戦相手の女性が目当ての観客が奇声を発していたのだった。
「お、女の子?」
今まで対戦したのは全て男性だったこともあり、キャリーは驚きを隠せなかった。
しかも年齢もキャリーとそう違わないように見える。
しばし見とれるキャリーを見つけると長い髪をかきあげながら近づいてきた。
「アタシ、ジェニファー。ジェニファー・アンダーソンよ。チャンピオンだったんだよね?去年の。
でも今年はアタシが勝つからね!」
ああ、と上の空で返事をしたキャリーにウインクをひとつ置いていくと、ジェニファーは自分のプラレスラーのセットアップを始めた。
Tシャツにホットパンツ。
均整のとれたプロポーションにギャラリーは見とれていた。
もちろん、子供連れや、婦人と一緒の旦那さまは、もれなく白い目で見られることとなったが・・・。
「・・・ター。・・・スター。・・・マスター!」
「うん?」
ぼおっとしているキャリーを、リーが正気に戻す。
「どうかしたのですか? 鼓動が高鳴っているようですが。」
「いや、ちょっと驚いたんだよ。女の子のオーナーなんて初めてだからさ。」
「もしや一目惚れというヤツでしょうか?」
「バッ・・・バカなことを言うなよ、リー。」
そういいながらも、意表をついたリーの質問にかえって動転してしまうキャリーを見て、一抹の不安を覚えるリー・Jr。
「マスター。本当に大丈夫ですか?」
「心配ないよ、リー。もう落ち着いたから。」
キャリーの視線の先にジェニファーのプラレスラーがいた。
素体はリーと同じくPWH−03と思われるのだが、リー程ではないにしても、人の手がかなり加えられているのが遠目にも確認出来た。
女性を模した姿は愛らしいのが普通なのだが、そのプラレスラーは可愛らしい、よりも力強いといった印象が強い。
「手加減はなしで行くよ、リー。」
「イエス、マスター。」
先ほどまでのデレッとしたキャリーは消え失せ、真剣勝負に向かう少年が戻ってきた。集中している証拠だ。
(あ〜あ、やっぱり色仕掛けは通用しないかぁ。ま、実力勝負だからね。望むところよ。)
モニターの反射越しにキャリーの様子をうかがっていたジェニファーだったが、ここまでのトーナメントの殆どをほぼ色仕掛けも同然で勝ち上がり、緩んだ気を引き締めるために頬をピシャリと叩き、気合を入れる。
「ミラ。いつものことだけど、負けちゃだめよ。」
「イエス、ジェニファー。」
両者が激突するまであと数分。
会場の盛り上がりをよそに、静かに闘志を燃やす二人のオーナー。
「これより、コロラドプラレスリング、Jr・ヘビー級セミファイナルを開始いたします。」
「よろしく。」
「よろしくね。」
握手をしてそれぞれのコーナーへ戻る二人。
既にセットアップは済んでいた。
[キャリー&リーのコーナー]
「リー。」
「はい、マスター。」
「彼女の手なんだけど・・・。」
「・・・柔らかかったとかいうのはナシですよ、マスター。」
表情はないが、明らかに額に冷や汗を浮かべているようなリー。
だがキャリーは真剣な表情だ。
「彼女の手、とても傷だらけだった。・・・僕の手と同じか、それ以上に。」
「・・・。」
「油断せずにいこう、リー・Jr。」
「料理下手なのだと思いましょう。いきます!」
(なんとなく分かるけど・・・。ちょっとズレたジョークはパパにそっくりだ・・・。)
リングに降り立つリー。
今までの激戦の傷も疲れもキャリーの丁寧なメンテナンスで癒され、まさに万全の状態でここまで勝ち上がって来ていた。
[ジェニファー&ミラのコーナー]
「あいつら、今までのやつらとは違うわ。やっぱりチャンピオンになるペアは違うわね。」
「イエス、ジェニファー。」
「ま、アタシだって伊達に勝ち上がって着てる訳じゃないしぃ、勝って有名になるんだもんね。」
「・・・ワタシハ、アノボーイガ キニイリマシタ。トテモツヨソウデス。」
「あら、面食いのあなたが珍しいわね。でも勝負は別。勝ちに行くわよ!」
「ムロンデス。カツノハワタシデス。」
リーに続いてリングにあがるミラ。
レフェリーロボも登場し、一通りのチェックが完了する。
そしてゴングが鳴らされた。