〜第26話〜
欠点
[3R]
開始のゴングが鳴らされた。
両者がともにボクシングスタイルのまま中央で対峙する。
互いに軽いフットワークのまま、若干の膠着状態。
この大会には通常のレフェリーロボの他に、ギャリラーによる判定が採用されている。
仮に決着がつかないまま最終ラウンドを終えた場合はギャラリーの投票が勝敗を分けるのだが、そうなった場合、キャリー達の敗北は明らかだった。
そうなるように日頃からファンにサービスしていたジェニファーの作戦が効いているからだ。
彼女のHPもブログも、ファンからのメッセージが絶えたことはない。
無論、そんなことをキャリー達が知るはずもなく、K.O.で勝ちたいというのが二人の目標であり、判定などは初めから考えてはいないのだが。
前のラウンドに続き、先に手を出したのはリー。
相手の土俵に上がって闘う、とでも言わんばかりにボクシングのスタイルで応戦している。
実際はボクシングに近い拳法の「套路」を用いているだけだが、傍目にはボクシングの試合としか見えないほどだ。
「ソンナ サルマネデ ワタシニカテルノカ?」
「猿真似とは失礼だな。そういうことは私に勝ってから言ってくれるかい?」
「フッ クチノヘラナイ ヤツメ!」
パンチの応酬のなか、ミラはじっくりと相手の隙をうかがっていた。
リーもまたあるタイミングを待ち構えていた。
「・・・1、2。・・・1。・・・1、2。・・・1。・・・間違いない。リー!」
「イエス、マスター!」
キャリーの声にリーが瞬時に反応する。
それはミラのパンチの癖を見抜いた瞬間だった。
「クッ」
ドガッッッ
ミラが放ったボディへのブローを、リーが掴み、引き寄せて・・・ヘッドアタックを叩き込む。
体勢が崩れたまま強烈な頭突きをくらい、仰向けに吹っ飛ぶミラ。
「レディに頭突きって!どんな教育受けてきたのさ!ちょっとは加減してくれてもいいのにっ。」
対応するジェニファー。
彼女の反応も手伝い、ミラは尻餅からすぐさま回復する。
が・・・。
「手加減はしない。それが僕達の礼儀だから。」
「マ・・ダ・・・ダ」
間髪入れずに接近してきたリーに、かろうじてジャブを放つミラ。
だがそのパンチはリーによって弾かれ、ガードがガラ空きとなったボディに絶招・猛虎硬爬山が炸裂する。
ドンッッッ
「ミラ!」
ロープまで吹っ飛ばされ、リングに打ちつけられたミラは、連続して受けた大きなダメージによりシステムダウンを起こしていた。
レフェリーロボがリングに降り立ち、ミラの状態を確かめ、程なく手を頭上で大きく振る仕草を見せる。
歓声が沸きあがるとともに、キャリーとリーの勝利が決まった。
「う〜ん。勝てなかったか〜。残念っ!」
ミラを抱きかかえるジェニファー。
「スミマセン、ジェニファー。チカラガ オヨビマセンデシタ。」
不安定な稼動状態ながらジェニファーに詫びるミラを、ジェニファーが優しく抱きしめる。
「いい試合でした。ジェニファー、そしてミラ。」
彼女に歩み寄り、笑顔を浮かべながら手を差し出すキャリー。
「・・・まあ、今回はあなたの勝ちにしておいてあげるか。キャリー君、リー君。」
この期に及んでも強気な発言の続くジェニファーだったが、その光景は二人にとっても有意義な試合であったことを物語っていた。
しっかりと握手を交わす両者に会場からも拍手が起こる。
一部からはブーイングも起こったが、いつの間にか歓声の中に消えていた。
リングでは男性に軍配があがり、リングの外においては女性達に軍配があがる結果となった。
「ひとつだけ聞きたいんだけど・・・。」
「何だい?」
「どうしてあんな簡単に拳を掴めるのかしら?ミラ渾身のストレートだったんだけど?」
「ああ、それは簡単だよ。ミラのパンチは、ワンツー、ワンツーときて次のストレートの時に体の軸がブレていることがあったんだよ。だからタイミングを合わせて・・・。」
「・・・! そんなこといつ分かったの? 今日が初めての対戦なのよ? まさかアタシの偵察を・・・!」
「そうじゃないけど。2Rでコーナーポストに追い込まれた時になんとなく。そして今のラウンドで確証がもてたんだよ。」
「呆れた。チャンピオンは伊達じゃなかったのね〜。こんなわずかな時間でそんなこと見抜くなんて。(・・・ってことは格好いいけどあまり良くないんだ、あのタイミング。兄貴に教えなきゃ・・・。)」
「運が良かったのさ。あとはリーが良く動いてくれたから・・・。どうしたの?考え込んじゃって。」
「あ、ううん、何でもないの。ミラの動きって兄貴の真似だったからさ。もしかしてって思ってさ〜。それにしてもボクシングで負けるのは悔しいな〜。」
「リーはボクサーじゃないんだ。截拳道(ジークンドー)の拳士見習いさ。」
「ジ・・・聞いたことあるような、ないような。」
「話せば長くなるけど、世界中の武道のいいところを集めて修練を積み、高みを目指す"道"なんだ。 僕は特に中国拳法の八極拳が好きで・・・。」
「そうなんだ〜。なんだか良くわかんないけど、次は勝つから。それまで負けないでよね、チャンピオン。」
「あ、ああ。」
「それと、あんまりベラベラ喋る男の子って嫌いなんだ、アタシ〜。その欠点直した方がいいよ。そしたら少しだけ優遇してあげてもいいかな〜。じゃあね〜。」
「あ、ああ。」
踵を返して自分のコーナーに戻り、瞬く間に荷物をまとめると会場のファンに惜しまれつつ、にこやかに退場するジェニファー。
男性限定ではあるが、勝っても負けてもファンが増えるようである。
「・・・ター。・・・スター。・・・マスター!」
「うん? 何だい、リー。」
「やはり一目惚れというヤツでしょうか?」
「そうじゃないって。うん、違うと思うよ。」
「ああいうタイプは苦労しますよ、恐らくですが。」
「じょ、冗談言ってないで撤収するよ、リー。・・・あれ?」
振り返るとリーが名刺大のカードを抱えていた。
そこにはジェニファーの名前とメールアドレス、そして・・・。
(本日24:00までの限定アドレスなので、忘れずにメールしてね!)
「なんか・・・彼女に気に入られたのかな?」
「さ、さぁ?メールしてみてはどうですか?」
「そ、そうだね、リー。ともかく次の試合に備えなきゃ。ファイナルなんだから。」
メンテナンステーブルに戻る二人。
テーブルの上に影が伸びる。
「・・・さっさとどきな、シュガーボーイ。」
「すみません、今片付けますから・・・。」
キャリーが声の主を確かめようと振り向く。
そこには2mはあろうかという大男が立っていた。
「せっかく次の決勝であのチャラチャラしたオーナーともども粉々にしてやろうと思ってたんだが・・・。
まぁ、粉々になる相手が変わっただけだ。なぁ、相棒!」
大男の肩に載ったプラレスラーがリーを睨みつけるようにして頷く。
おそらく全てハンドメイドと思われるその容姿は禍々しい、といったところだろうか。
ウェイトもリーよりもありそうに見えた。
「あなたは確か・・・。」
「ふん、やっと思い出したか。前回の激闘の相手を忘れるとはな。俺は一日も忘れたことはなかったぜ。
まぁいいだろう。前のようにはいかないぜ、お前らはバラバラになるのさ! ハアッハッハァ!」