オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第31話―「ラリーとF1」

 場内はキョウココールの渦だった。

 ゴングが鳴り響いた後、リングアナウンサーが叫ぶ。

 「さぁ、ついに始まりました! 本日のメインイベント、『ラ・ヴィアン・ローズ VS タイラント』!!

 今回の対抗戦、なんと我がJPWAは屈辱の5連敗という信じられない結果であります!

 しかし、我らが女神、キョウコ様が負けるワケが無い! 

 一気に蹴散らしてJPWAファンの溜飲を下げて欲しいものであります!

 なお、この試合は特別ルールを採用し、時間無制限1本勝負で行われます!」

 おおおおおおおおおおおおおおお!

 場内はアナウンスにどよめく。

 プラレスは基本的に3分1ラウンドで行われる事が多く、シングルマッチで時間無制限での試合形式はあまり例が無い。

 それは何故か?

 人間と違い、プラレスラーは機械である。故に一度失ったスタミナ(エネルギー)は絶対に回復しない。

 人間であれば、試合中であれ、『間』(ま)を置く事により、ある程度は体力の回復を図ることが出来る。

 しかし、プラレスラーはバッテリーを充電しない限り、スタミナ=エネルギーが回復することは在り得ない。

 基本ルールであるならば、3分闘った後に1分のインターバルがある。

 その間に消費したエネルギーを補充したり、損傷箇所の応急処置などが行われるのが常である。

 時間無制限で試合が行われた場合でも、短時間で決着がつけば問題は無いのだが、

 なかなか決着がつかない場合、時間が経つにつれ、当然両者共に動きが極端に悪くなってくる。

 スピード感溢れる試合展開が出来なくなり、試合がダレてしまうのだ。

 プラレスの場合、このスピード感が無くなるという事は面白みが無くなってしまうということなのだ。

 F1レースで1回もピットインしなかったら?

 レース自体、成り立たないのと同じ事である。

 当然、時間無制限の勝負であったら闘い方も変わってくる。

 F1とラリーでは全く異なるのと同じ事である。

 各機種ごとに機体差はあるが、プラレスラーの稼働時間など、通常時で30〜40分がいいところだ。

 これが試合になると、もって10〜15分というところだろう。

 当然、激しい試合になると、その稼働時間はもっと短くなる。

 バッテリーの消費量は機体の大きさに比例する。

 また、バッテリーの搭載量も機体の大きさに比例するのが通常である。

 サブバッテリーを詰め込めるスペースを持つ機種も存在するが、結局はその分、自重が重くなる。

 大型機種はバッテリー総量が多いが、消費率も高い。

 小型機種はバッテリー総量は少ないが、消費率は低い。

 結局、機体の大きさに関係なく、稼働時間はどの機体も大して変わりは無いのである。

 時間無制限1本勝負。 

 これが意味するもの、

 3試合連続して闘って来たタイラントはエネルギー補給の間を与えられないということなのだ。

 1試合目は秒殺で決着した為、バッテリーを補充する必要が無かった。

 2試合目もタイラントは攻撃を受けていただけで、大きくバッテリーを消費したのは最後に攻撃をした時のみ。

 バッテリー補給はこの試合が終わった後に多少補給したが、フルチャージをする間もなく次の相手との試合が始まってしまった。

 しかし、3試合目、ペルフェクシオンの執拗な関節技にタイラントは思わぬ苦戦を強いられた。

 強引に関節技を外した為、予想外にエネルギーを消費した。

 この試合の前にそれをやる機会はあったが、オオキの挑発に乗り、メンテナンスをする間もなくゴングが鳴ってしまった。

 これは完全にT−REXのミスである。

 時間無制限1本勝負。

 まさか、この試合に限り、そうなるとは思いもしなかった。

 F1レースのつもりで試合に臨んだT−REX。

 しかし、レースがスタートしてからラリーであると告げられたのだ。

 3試合闘わせた後で間髪入れず次の試合につなげる。

 これは完全にオオキの策略であり、T−REXはまんまとそれにハマってしまったのだ。 

 3試合のうち、誰かがタイラントに勝てば、その場でそいつとラ・ヴィアン・ローズを闘わせる予定であったし、

 仮にタイラントが勝ち残ったにしろ、クセ者である3機と闘って無事に済む訳が無い…。

 キョウコ様が確実に勝つためにはどんな汚い手段でも使う。 それがオオキの仕事。

 「う〜ん、こりゃマズイなぁ…。 バッテリーがヤバそうなのは気付いてたんだがな〜。

 1ラウンド終了時に補充すれば良いと思っていたのが甘かった! こんな残量じゃあ(稼働時間は)2分ってとこだな」

 様子を伺いながらT−REXはこの試合のシミュレーションをしていた。

 しかし、相手の『ラ・ヴィアン・ローズ』のデータが何も無いのだ。

 どういうタイプなのか? どういう戦法を取ってくるのか皆目見当がつかない。

 以前、ジンからラ・ヴィアン・ローズの情報を聞いたような気がする(第13話参照)が、T−REXが覚えているワケが無い。

 一応、JPWAの頂点にいるようだし、甘く見ているつもりはない。

 日本で最大のプラレス団体のトップに君臨しているほどの奴だ。

 相当の性能を持っているに違いないし、オーナーの腕も悪くは無いはずだ。

 「しょうがねえな。 どっちにしろ短時間勝負なんだ。 たまにはこっちから仕掛けてやるか!」

 タイラントはゆっくりと歩を進める。

 と同時にラ・ヴィアン・ローズもタイラントに向かって真っ直ぐに歩いてくる。

 両者はリング中央まで歩み寄り、睨み合う。

 数秒間、睨み合った後、組み合う両者。

 タイラントはスーパーヘビー級、ラ・ヴィアン・ローズはタイラントより一回り小さいヘビー級である。

 体格とパワーに勝るタイラントが徐々に機体を預けていき、体勢が有利になったところで、

 一旦離れて右のエルボーを繰り出す。

 が、ラ・ヴィアン・ローズは瞬時に左腕でガード。 と同時にその力の動きに逆らうことなく

 時計回りに回転し、振り向きざま右手でタイラントの側頭部に手刀を叩き込む。

 「ウガッ!」

 辛うじてダウンを免れたタイラントだったが、機能を失った左眼の視界に潜り込まれ、

 追い討ちのハイキックを浴びて崩れ落ちてしまった。

 この動きは…!?

 エルボーをガードしながら回転して手刀を決める…。

 「ガイア!!」(×2)

 T−REXとタイラントは同時に叫ぶ。

 幸か不幸か、手刀が叩き込まれたのは側頭部。 

 T−REXの脳裏にガイアとの初対決の様子が思い出される…。

 「なんてこったい!? あの時のガイアと同じ動きをしやがるとは!」

 組み合ってから、一旦離れてエルボーを繰り出すのはタイラントが得意とする定番ムーヴの一つである。

 それを逆手に取られたわけだが、わかっていても対処できるプラレスラーはほとんどいない。

 単に避けるか、ガードするかのどちらかである。

 「何を驚くことがある!? キョウコ様の腕前を持ってすればそんな芸当は朝飯前なんだぜ!

 どこかのちいせえ団体のトップに出来た事が出来ねえとでも思っていたのか!?」

 とニヤつくオオキとは対照的に能面のように無表情なキョウコ。

 「ちっ! さすがはJPWAのチャンプってワケか!」

 T−REXは少々の焦りと同時に嬉しさがこみ上げてきた。

 ピンチの筈なのに何故か笑顔がこぼれる。

 こんな感覚は久しぶりだ。

 先程までの3機とは明らかに違う。 コイツは強敵だ。

 警戒しつつ、立ち上がるタイラント。

 その瞬間、タイラントの左眼の死角に回りこみ、ヒザ裏にローキックをブチこむローズ。

 そのまま走りこみ、体勢を崩したタイラントにロープの反動を利用した強烈なニールキック!

 何とか堪えたタイラントだったが、続けざまに低空ドロップキックを左脚に食らい、またしても崩れ落ちてしまった。

 そして倒れたタイラントに間髪要れずにダブルニードロップ。

 バッテリーが残り少ない為、余計なエネルギーは極力使いたくない。

 しかし、このまま攻撃を食らい続けていては、いくらタフなタイラントでももたない。

 「う〜ん、ヤバいな。 機体の性能もそうだが、オーナーの腕も相当なもんだぞコリャ…。

 一発逆転を狙いたいところだが、うまくいくかな?」

 立ち上がろうとするタイラントに更にドロップキックの追い討ち。

 堪えるタイラント。

 倒れなかったと見るや更に助走をつけて突っ込んでくるローズ。

 しかし、これはカウンターのパワースラムでローズをリングに叩きつける。

 だが、タイラントの反撃はここまでだった。

 バッテリー残量が僅かになり、目に見えて動きが悪くなっていった。

 パワースラムで叩きつけたものの、技を食らったローズの方が早く起き上がる。

 オオキの挑発に乗った時点で勝敗は決まっていたのかもしれない…。

 

 

あとがき

約半年ぶりの新作となりました。 お待たせして申し訳ない。 海より深く反省しております。

ちょこちょこ書いてはいたのですが、思っていることがうまく表現できず、ずるずると時間だけが過ぎてしまいました。

なかなか話が進まないので自分でもイライラしてますので、この試合は思ったよりも短くなりそうです。

お楽しみに。

 

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