オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第30話―「悪いのは僕じゃない!」

 ダウンしたタイラント。

 ピクリとも動かないまま、カウントが進む。

 5・6・7・8・・

 勝負あり!と思われたその時、

 ガバッ!

 予備動作も無く、カウント8で跳ね起きるタイラント。

 場内の歓声が溜息に変わる。

 しかし、ペルフェクシオンに背を向け、棒立ち状態。

 (どうだ? 暴走するか、機能停止するか、賭けだったけど、どっちにしろその様子はまともじゃないな?)

 しばらく様子を見るヨシザワ。

 しかし、棒立ちのまま動かないタイラントを見て、一気に勝負を決めにかかった。

 「立ち上がっただけか! もう何も出来まい!!」

 ペルフェクシオンはバックから組み付き、ジャーマンスープレックス!

 しかし、カウント1も入らないうちに跳ね起きるタイラント。

 そして棒立ちのままペルフェクシオンに背を向ける。

 背を向けられたペルフェクシオンは更にバックドロップ!!

 しかし、ペルフェクシオンが起き上がるより早く立ち上がるタイラント。

 立ち上がろうとするペルフェクシオンを見下ろすタイラント。

 無抵抗の相手をタイミングよく投げ飛ばしたハズのペルフェクシオンの動きが止まる。

 なんだ?

 どうなっているんだ?

 技を仕掛けているのはこっちだぞ?

 なんでお前の方が早く起き上がるんだよ?

 ヨシザワは困惑した表情でT−REXに視線をやる。

 T−REXは腕組みをしたままリングを見つめている。

 「(え? 操作していない?)」

 そんなヨシザワの一瞬の隙がペルフェクシオンの命運を分けた。

 タイラントは、立ち上がろうとするペルフェクシオンに真上からのヘッドバッド!!

 目を回した?ペルフェクシオン。

 ふらつき、防御の姿勢をとる間もなくヒットするタイラントのとてつもなく重いパンチ。

 顔面をブン殴られたペルフェクシオン。

 更にあっという間に極められる逆十字固め。

 先程とは逆に、リング中央で右腕を固められたペルフェクシオン。

 「ほれ、ギブアップしろよ。 お前の負けだ」

 T−REXは腕組みをしたまま呟く。

 第2ラウンド開始から1分も経っていない。

 ヨシザワは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 「ギギギギギ ギブアップなんかするもんかッ! ぼッ僕にょペルフェクシオンは完璧なんだぞ!? 

 こんな技すぐに切り返してやる!!

 (おかしいぞ? 腕組みしたままだ。やっぱり操作していない・・・なんで?)」

 「そうかい、やってみな」

 ビキッ!

 T−REXが言い終るのと同時に響く嫌な音・・・。

 「・・・まだやるか?」

 ペルフェクシオンの右腕は曲がるはずのない方向に向いていた。

 「・・・・!! やる! やってやる!!」

 ヨシザワは泣き顔である。

 「そうかい。 どうやら相当頭が悪いようだな。 しばらく欠場させてやるから何で負けたのか、よ〜く考えろ!!」

 「頭が悪いだってぇ!? この僕を誰だと思ってるんだ!? 常に学年トップの成績で天才モデラーと言われる僕に向かって・・・」

 「知らねぇよ。 手元がお留守だぜ」

 頭が悪いと言われたことが相当、彼を刺激したようだ。

 ペルフェクシオンのコントロールをすっかり忘れている。

 タイラントはコントロールを失い、ふらつくのペルフェクシオンの両脚を掴むと超高速のジャイアントスイング!!

 そしてニュートラルコーナーに向かって放り投げる。

 ガシャーン!!

 コーナーに叩きつけられ、動くことの出来ないペルフェクシオンに向かって、タイラントはショルダーアタック!

 更に必殺のボディブロー。

 垂直落下式のブレーンバスター。

 どてっ腹にニードロップ。

 そして、頭とアゴを掴んでのチンロックからキャメルクラッチ。

 反り返るペルフェクシオン。

 「ギブアップしな。 まさか、まだ勝てるなんて思ってネエだろ?」

 「ッギギギギブアップなんてするもんか! おい! ペルフェクシオン! お前なにやってんだよッ! 早く跳ね返せよ!

 誰がお前を作ってやったと思ってるんだ! 天才モデラーのこの僕に恥をかかせる気か!?

 このまま負けてみろ! お前なんか、後で僕がバラバラにしてやる!」

 「何言ってんだ? 負けそうなのはオーナーであるお前が悪いんだろ? お前の操作ミスと戦略ミスだぞ?」

 「うるさい! 僕にミスなんか無い!! 悪いのは僕じゃない!!」

 「付き合ってらんねえな。 おい、ペルフェクシオン、お馬鹿なオーナーにバラバラにされるんじゃお前も辛かろう。

  せめて闘いの中で眠らせてやるよ。 自分のミスを認めようとしない奴に何言っても無駄だな」

 タイラントはペルフェクシオンの頭部を一気に捻り回す。

 ゴキッ!!・・・

 頭部を180度回転させられ、頚椎のパーツを捻じ切られたペルフェクシオンはついに沈黙した。

 「ああ!」

 ヨシザワは悲痛な叫びをあげる。

 第2ラウンド、1分37秒、KOにより、タイラントの勝利・・・。

 正式に裁定が下された後、タイラントはゆっくりと立ち上がり、そして機能を停止した。

 「おい、なんで負けたかわかるか?」

 「・・・・・」

 「お前、後頭部を狙ったって事は、コイツのこと多少は調べてきたんだろ?

 残念だったな。 それに、片目、潰してくれたろ? コイツも加減が出来なかったじゃねぇか。

 コイツを怒らせたのが敗因だ。 わかるか?」

 「暴・・走・・・してたのか?・・・」

 「してねェよ。 完全な暴走状態に入ってたら今頃、お前のプラレスラーもレフェリーもバラバラになってるよ。

 強いて言うなら『後頭部を狙われてキレた』ってところだな。

 途中から俺がコントロールしてなかったのには気が付いたか?」

 「・・・うん」

 「あん時、コイツに言われたんだよ。 『オーナー、アンタは手を出さないでくれ』ってな。

 それからは勝手に暴れてたんだぜ。 俺は見ていただけだ。 

 でも、最後だけは俺に指示を仰いできたぞ。 このまま首を捻じ切ってもいいか?ってな」

 「・・・・・」

 「あ〜と、ひとつ言っとくぞ。 お前、今のまんまじゃ絶対にそれ以上強くなれねえぞ」

 「なんでさ? 僕は天才だぞ? ペルフェクシオンを超えるプラレスラーなんて簡単に作れるんだ!」

 「天才だぁ? ダメだこりゃ。 この敗戦で少しは勉強になったかと思ったがな。

 はっきり言ってやる。 お前、ヘタクソ。 いっくら高性能のプラレスラー持っていたって、

 それを生かしきれていないのに気が付かないのか?

 お前の技は見てくれだけなんだよ。 全ての攻撃が軽すぎるんだ。

 ま、自分で天才なんて言ってるおバカさんにゃわかんねえか。

 もういいや。 そのまま屈折しながら生きてきな」

 ヨシザワはT−REXの言葉の意味を掴めぬまま、退場していく。

 彼はその後、ペルフェクシオンを越える性能をもつ新型を引っさげて復帰するが、

 以前のような活躍は出来なかった。

 「さて、と。 3機片付けたは良いが、もう1試合あるんだったよな。 やべえな。 まともに動くか、なと」 

 T−REXは機能停止したタイラントの再起動を試みる。

 ・・・−−−−・・・

 「どうやらなんとかなりそうだな。 しっかし片目を潰されたのは痛ェなぁ。 それに・・・」

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 突然、場内が騒然となる。

 T−REXが視線を上げると、先程までヨシザワが座っていたコックピットに派手な女の姿が飛び込んできた。

 JPWAチャンピオン、『ラ・ヴィアン・ローズ』を肩に乗せ、無表情でこちらを見つめるオーナー、『カトウ・キョウコ』である。

 そしてキョウコの傍らに立つ、不釣合いな男、自称キョウコ様のボディガード兼マネージャー『オオキ・ダイスケ』。

 『美女と野獣』という言葉がこれほど当てはまるのを見るのは滑稽である。

 その野獣、オオキがマイクを持ち、がなりたてる。

 「T−REX!! よくぞ、勝ち残った! キョウコ様と闘うにはそれ相応の実力が無ければ認められんのだ。

 貴様の実力の程は良〜くわかった。 キョウコ様と闘う資格があると認めてやろう!

 しか〜し、貴様の命運もここまでだ! さっさと死ね!!」

 「やかましい! 宇宙人は黙ってろ! てめぇが試合するわけじゃねぇんだろが! 引っ込んでろ! デカヅラ!!」

 2人の舌戦を人事のように無表情で見つめるキョウコ。

 観客を煽りつつ、T−REXのペースを乱そうと、口を出すオオキ。

 挑発とわかりつつ、オオキとの舌戦に応じるT−REX。

 そして、大歓声の中、ゴングの音色が響く。

 

 

あとがき

 今回、タイラントは半暴走状態に陥っています。

 ダウンから回復した後は勝手に暴れています。

 文中の『加減が出来ない』というのは正確な表現ではありません。

 片目しか機能していない状態では、相手との間合いが正確に測れず、

 タイラントが『大体この辺だな』と見当をつけて攻撃していたので、こういう言い方をしただけです。

 ド近眼の人が、裸眼でバレーのスパイクを打っている様なものだと思ってください。(わかりづらい?)

 さて、次回はいよいよJPWAチャンピオンの登場です。

 『ラ・ヴィアン・ローズ』VS『タイラント』試合開始です。

 長かった・・・。

 

 

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