第41話「地下〜Act16」
1
雄叫びを上げて、十六夜に接近した隼の身体が左半身のまま、ぐっと低く沈み込む。
その右拳の4指の付け根部分で、僅かに青白い光がスパークする。
この試合2度目のスタン・ナックルである。
それに呼応するかの様に、十六夜の身体も右半身の構えから、右拳を繰り出す。
無造作に接近する隼を認め、マサキが先行して入力していたプログラムが走ったのである。
接近した間合いで交差する十六夜と隼。
隼の右拳が十六夜の腹部を捕らえんと上昇し、その身体も右拳の後を追って上昇する。
そして十六夜の右拳もまた、隼の腹部を捕らえんと上昇する。
バチッ!!
ガガ!!!
絡み合う様に空中で接触した隼と十六夜が、互いに弾き飛ばされてマットの上に叩き付けられる。
「ガ・・・ハ・・・。」
背中からマットに叩き付けられた為、苦悶の呻きを上げて十六夜が立ち上がろうとする。
「ぐ・・・むう・・・。」
同じ様にマットに叩きつけられた隼もまた、腹部を左手で押さえ、呻きながら、立ち上がらんとしていた。
「・・・。」
「・・・。」
ようやく立ち上がってファイティング・ポーズを取る2機の両脚が、ガクガクと震える。
相打ちとなったお互いの技の異なる点といえば、十六夜の昇竜拳が膝蹴りを同時に繰り出しているのに対し、隼のそれには膝蹴りが無い事であろうか。
その代わりに、隼の拳に仕込まれた「スタン・ナックル」が相手の回路を麻痺させるのだ。
十六夜は、腹部から胸部にかけて内臓されている制御系パーツに不具合を生じていた。
堅牢な装甲と柔軟なフレームに守られているとはいえ、その内臓パーツは市販のモノと大して変わらないのである。
その制御系内臓パーツが、電撃によるダメージで悲鳴を上げている。
対する隼もまた、柔構造による弊害と昇竜拳の膝によるダメージで、脚部と内臓パーツにそれぞれ不具合を生じていた。
理想的なしなりを生み出す柔構造であったが、本来の可動限界を超えた各関節には大きな負荷がかかるのだ。
2
お互いのダメージを推し量る様に、2機の動きが細かなモノに変わる。
これまでの攻防で、2機ともに相当量のバッテリーを消費しているのだ。
牽制の右ロー・キックを出しながら、ジリジリと間合いを詰める隼。
一見すると地味な攻防であるが、本来の立ち技の攻防に戻ったと言うべきであろう。
再度、牽制の右ロー・キックを出した瞬間、十六夜が動く。
ロー・キックを左脚を軽く上げてかわしながら、十六夜が左半身の構えから懐に飛び込む。
「シッ!」
左右のワン・ツーからなる中段突きを繰り出し、間髪入れず右ハイ・キックを繰り出す十六夜。
同時に隼も右ハイ・キックを繰り出すが、突きでわずかに後退させられた体勢からでは不利であった。
「ちっ!」
舌打ちしながら隼が左腕でガードする。
ロー・キックで十六夜の注意を下に向けさせ、再度ロー・キックがくると見せてハイ・キックを見舞うつもりでいたのだ。
それが読まれていた。
一瞬、ガードによってがら空きになった腹部に、十六夜の両掌が吸い込まれる。
ドン。
衝撃と同時に弾き飛ばされた隼には、一瞬何が起きたのか判らなかった。
十六夜は、俗に言う『発頸』の一種。
FISTのリングでZERO相手に繰り出した技と同じ、両掌による打撃を見舞ったのである。
腹部に走る激痛に、手を当てて起き上がる隼。
ガッ!
その隼の肩口に、十六夜のあびせ蹴りが鈍い音を立てて打ち下ろされる。
衝撃に身体をくの字に折り、次いで仰向けに仰け反りながら、隼は倒れていくのであった。
3
〜同時刻・首都高速〜
夜の首都高速環状線を抜け、レインボー・ブリッジを疾走する巨大な黒いトレーラーが、お台場出口向かう。
その内部。
「よし、雷牙の準備は出来たよ。」
「わたしも!」
トレーラー内部のパーツを使って、雷牙のカスタムに勤しんでいたコウとユウが、ほぼ同時に声を上げる。
ライナスは、その仕上がりを見て驚きを隠せなかった。
余剰パーツをゴテゴテ付けるのではなく、主に伝導効率の良いケーブル類への交換やより高速の互換CPUへの換装等、とても小学生の行うカスタムとは思えなかったからである。
つづく
〜あとがき〜
ようやく41話リリースしました。