第40話「地下〜Act15」
1
十六夜の状態をモニターしているマサキのPCが異常を示す。
文字通り鋼鉄の鎧を身に纏った十六夜の装甲に、ダメージは無い。
しかし、頭部にパッケージングされているMPUや、メインメモリーが衝撃を受けているのである。
十六夜の重要なパーツ群は、マサキが愛用しているG−SHOCK同様、ケースに密封され、耐衝撃吸収ゲルの封入された容器の中に収められている・・・にも関わらずである。
「これは・・・。」
驚きの声をあげるマサキ。
ダウンしたプロセスの中には、通常ではダウンする事が考えられない様なモノ。
例えば、AASCやバランサー等の自動起動による基本プログラムの常駐部分も数多く含まれていたのだ。
マサキの指が、しきりにキーボードの上を走る。
「十六夜・・・。」
その間にも、隼が十六夜を無理矢理立ち上がらせる。
「く・・・。」
基本プログラムのいくつかが起動していないままの十六夜の膝元が、がくがくと震える。
まだ足元がおぼつかない十六夜と、PCのモニターを交互に見やりながら、マサキが次々とダウンしたプログラムを再起動させるが、その間にも、ふらつく十六夜に容赦無い隼の攻撃が続く。
「ひゅっ・・・。」
鋭い呼気と共に跳ね上げられた左脚の脛が、最短距離で十六夜の右脇腹に吸い込まれる。
「ぐふ・・・。」
またも、その衝撃は右脇腹から内部に浸透し、左肩口へと抜ける。
その衝撃によって、十六夜の身体各所を繋ぐ神経系サーキットが衝突を起こし、がくがくと関節を軋ませる。
「く・・・。」
それを勝機と見たか、隼の鞭の様な蹴りが十六夜の両脇腹に2度、3度と叩き込まれる。
「このまま、クラッシュに追い込んでやる。」
叫びと共に、隼の右肘が十六夜の左こめかみに叩き込まれ、更に頭突き、首相撲からの膝蹴りが十六夜を襲う。
成す術の無い十六夜。
その度にマサキのPCがけたたましい警告音を発する。
ガードしても可動限界を超えて、更にしなる関節構造を持つ隼の蹴り。
牛神自ら習得したタイのムエタイと韓国のテコンドーの技を併せ持つ隼。
柔なる関節構造によって、隼の蹴りは最短距離を飛び、その振り抜きによって内部に浸透する威力を発揮しているのであった。
2
鞭の如く襲い来る、隼の猛攻の前に、外見の無傷さとは裏腹に後退を余儀なくされる十六夜。
その十六夜の身体が硬直したのは、隼が今まさにフィニッシュ・ブローたるサマー・ソルト・キックを繰り出さんとした時である。
ヒュウゥゥン・・・。
硬直、そして。
「十六夜、セット・アップ。」
ブウン・・・ヒュイイイイイイイイィィィィ。
マサキの叫びと共に、硬直していた十六夜のカメラ・アイが、再び輝きを取り戻す。
「何いっ! 再起動だと! 試合中に、よくもそんな・・・。」
驚愕の表情で、マサキを見る牛神。
地を蹴った隼の右脚が、凄まじい勢いで十六夜の頭部を捕らえんとする。
その瞬間、十六夜の両掌が隼の右脚に添えられる。
「馬鹿め! そんなガードなど無効だと、まだ判らないのか!」
雄叫びと共に、ガードごと蹴り上げる隼。
激しく吹き飛ばされ、宙に舞った十六夜が、器用に身を捻ってマットに着地する。
「む・・・。」
手応えを感じない、その感触に違和感を感じつつ、キック主体のプラバトラーの本領発揮か、立て続けに隼の蹴りが十六夜を襲う。
その度に、隼の蹴り脚に両掌を添えてガードする十六夜。
「流石だな・・・。 インパクトの瞬間にタイミングを合わせて跳ぶとは・・・。」
隼の言う通り、インパクトの瞬間にタイミングを合わせて、十六夜は自ら跳躍していた。
これでは柔構造によって威力の増した攻撃も意味が無い。
十六夜は着地した場所で、左半身のファイティング・ポーズを取り、前に突き出した左掌を開いて上に向け、かかってこいと言わんばかりに隼を手招く。
「ギリ・・・。」
すると挑発に乗ったのか、それとも自らに絶大な自信を持っているのか、隼が無造作に十六夜に接近する。
次第に隼が速度を上げ、一気に間合いを詰める。
「いやああああああ!」
隼の雄叫びがリングに響いた。
つづく
〜あとがき〜
40話だって。
もういいかげん隼戦は終わらないといかんかな〜と思いつつ、まだ続いたりする。
2系統構造は、ジョロナだよね。
具体的にどうっていわれれば、かなり厳しいんだけど。
解釈として、各関節部を微妙に伸縮して引き出すとか、可動限界以上に逆方向へ曲がるのもアリかと思います。
プラレスらしくない地味な展開は前回のみ。
やっぱりサブ・ミッション系の表現は難しいな・・・と。
〜あとがき・2〜
展開を再考しました。