〜プロローグ〜
轟と響き渡る、地鳴りのような大音響。
東京ドームは大観衆に埋め尽くされ、その目は中央に5つ設置された特設リング上に立つ、身長わずか30pあまりの人形に注がれていた。
いつもならば、ドーム内に吐き出され続ける空気圧が、連日30度を越える猛暑を完全にシャットアウトし、内部は快適な温度に保たれているのだが、この日ばかりは観衆の熱気によって、外気温以上の暑さを感じる。
カウント2.8
中央のリングで組み伏せられていた青い人形が、覆い被さっていた黒い巨体の人形をはねのけたのだ。
「くっ!タイラント・・・予想以上にパワーを使っちまったか? 十六夜ごときを抑え切れんとは・・・。」
タイラントと呼ばれる黒い人形に内蔵されたバッテリー残量を、手元のパソコンで確認しながら、夏だというのに黒衣に身を包んだ長身の男がつぶやく。
「さあ立つんだ十六夜、俺達の勝負はこれからだ。 だがお前も右足のダメージが大きい・・・ここは一発で確実に仕留めよう。」
黒衣の男とリングをはさんで反対側にいる、Tシャツにジーンズというラフないでたちの、これも長身の男がやはり手元のパソコンで損傷をチェックしながら、十六夜と呼ばれるもう一方の青い人形に語りかけた。
損傷している右足を庇うように立ち上がり、肩で息をするかのような独特のリズムを刻みながら、十六夜は左半身のファイティング・ポーズを取る。
十六夜に対してファイティング・ポーズを取らずに立っているタイラントは一見無防備に見えるが、かえって迫力があり内に秘めたパワーの強大さを物語っているかのようである。
両者が互いの間合いをはずしながら、ゆっくりと円を描きはじめると、いつしかリング上は異様な緊張感につつまれる。
誰もが、次の攻防がこの勝負を決するであろうことを予感した。
「ガー!!」
タイラントが「暴君」の名に恥じない雄たけびをあげて、十六夜をつかまえんと両腕を伸ばす。
しかし、その両手の先に十六夜はいなかった・・・。
ガキッ!!
次の瞬間、下から突き上げる強い衝撃がタイラントを宙に浮かせる。
「なにぃ!」
宙に浮いたタイラントと同じ軌道をたどって、右腕を挙げ右ひざをたてた十六夜が上昇、やがて上死点へと達した十六夜は静かにリングに着地すると、右ひざを折ってひざ立ちの姿勢を取る。
ズズーン・・・
やや遅れてリング上に落下したタイラントには腹から首にかけて青い擦過傷が付き、フェイスマスクが外れていた。
「しょ・・・昇竜拳・・・」
立ち上がらないタイラントを認め、WPWA公認FIST公式レフェリーロボ「ジョー・タイプ」が駆け寄り、カウントをはじめる。
「1・2・3・4・・・・」
「マサキよ、勝負あったな。今日は俺の負けだ・・・これで49勝50敗・・・引き分けは数え切れんがな。」
モニターに現れた「作動不能」の点滅を見つめ、T・REXは静かにパソコンを閉じる。
「10!勝者、イザヨイ」
カウントが終了すると、「ジョー・タイプ」は右ひざをついたままの十六夜の右腕を挙げる。
再びドーム内に鳴り響く、地鳴りのような大音響・・・かつて、柔王丸やリキオー、マッドハリケーン、エル・ウラカン等の名プラレスラー達の名勝負の数々に心惹かれ、憧れた者たちによって新たな時代が創られようとしていた。
つづく。
〜あとがき〜
どうもです。オリジナル・ストーリーはやっぱり難しいですね。
とりあえず雰囲気作りから、はじめてみましたので話の盛り上がりは今後ってことで・・・(^^;
今回はピースケ作のタイラントを相手に選ばせていただきました。
彼のタイラントのコンセプトは十六夜のライバルたるプラレスラーってことだったので、引き分けが多い、無茶苦茶な対戦歴にしてあります。
ご自分のオリジナル・プラレスラーを使ったオリジナル・ストーリーやその他のオリジナル・ストーリーも大歓迎ですので、管理人あてにお送り下さいませ。