〜第2話〜
初陣 〜Act.1〜
「渋谷TOP・メカ・リング」
大勢の客で賑わう渋谷のデパート。
夏休みのせいだろうか、平日だというのに家族連れで店内はごった返している。
その屋上に、プラレスラーの聖地とも呼べる場所はあった。
この3年間、キャリーはこういった場所へは立ち入った事がなかった。
仲の良さそうな親子をみるのが辛かった為だが、今日ばかりはそうは言ってられなかった。
いや、それ以前に日本での初めてのバトルのことで、頭がいっぱいだった。
(ずいぶんと集中しているな・・・。)
隣を歩くクランキーは、久々にみるキャリーの真剣そうな顔に見入っていた。
いつもであれば、ジョークでも飛ばして緊張をほぐしてやるところだが、今のキャリーには無用のことに思えた。
やがて2人はリングのあるフロアーへとたどり着いた。
「ここですね・・・。」
軽く辺りを見回しながら、メンテナンスのテーブルへと向かう。
いくつかのリングが設置してあり、子供から大人まで大勢のオーナーとプラレスラー達が対戦やセッティングを行っていた。
中央に置かれたリングは、大会などで使われるのだろうか、無人のままであるが強者しか立つ事を許さない、そんな独特の威圧感を放っていた。
「じゃあ、キャリーはセットアップの準備を。私は登録を済ませて来るよ。」
そういうとクランキーは返事も聞かずに受け付けの方へと向かっていった。
「わかりました。クランキーさん・・・。」
既にメンテナンステーブルに仁王立ちになったリー・Jrの真紅のボディをチェックしながらキャリーが返事をする。
ケーブルを繋ぎ、メンテナンスプログラムを立ち上げる。
長旅の割には疲れはないようだ。
そんなことを考えつつも、久しぶりのバトルに備え、念入りにチェックを行う。
リー・Jrは「PWH−03」をもとにジムとクランキーが改良を加えたものである。
改良と言っても、リアル・オーラ・プログラム(RAP)を新たに搭載するため、内部構造はもとより、外見にもその変化が見て取れる程の改造が施されていた。
そのためかジムとクランキーの2人も、リー・Jrのことを「CPJ−ZZ」という名称で呼んでいたようだ。
クランキーの話によれば、試作段階の「CPJ−Z(ゼータ)」を経て、現在の(ほぼ)完全体である「CPJ−ZZ(ダブルゼータ)」が生まれたのだという。
真の完全体となるには、RAPの能力を全て引き出すことが必要不可欠であるが、ジムはその役目をキャリーに負わせるべく、「Carry」の頭文字をとって「CPJ−ZZ」と呼んでいたのだった。
「もしかすると、親子の絆もRAPに関係するのだろうか?」
ふと疑問に思ったクランキーはジムに尋ねてみたのだが、彼はただ笑うだけだったという。
まさにハンドメイド並みの慣らしが必要となっている上、RAPを搭載していることも、メンテナンスを複雑にしている一因となっていた。
が、キャリーは苦にもせずに全てのチェックを終えると、メンテナンスのプログラムをキャンセルし、コントロールプログラムを起動する。
3年の間、2人はファイティング・サーキットに組み込まれたRAPの解析に精力的に取り組んできた。
共に開発に取り組んだクランキーではあったが、実質的には情報収集などのサポートにまわることが多かったため、ほとんど零からの出発であったようだ。
キャリーにいたっては内部回路への着手など全く経験がなく、その作業は容易なものではなかった。
だが、解析が進むにつれて、地元コロラドでの小さな大会での勝率がアップし、また全米大会の予選などにおいても確実にその力を発揮するようになった。
そのことはいつしかキャリーの自信へと繋がっていったようだ。
「キイィィ・・・ン」
セットアップを選択すると同時に、鈍い光をその眼に宿したリー・Jrが起動する。
「よし・・・。」
正常な起動を確認したキャリーは続いて「Warm Up」をリー・Jrに転送する。
簡単にいえば準備運動のようなものだが、その動きは彼らの学んだ中国拳法の套路、つまり空手でいうところの「型」を再現したものに他ならない。
プラレスを知らない人がみたなら、「舞踊の人形」なのかと思えるほど優雅な動きである。
手元のディスプレイにはリー・Jrからの情報が次々と送られてくる。
それを一つ一つチェックしながら、キャリーは満足そうに頷いていた。
「だっせ〜、変な動き〜。」
ふと振り返ると、プラレスラーを抱えた少年が彼の友達と一緒になって、侮蔑の眼差しをリー・Jrに、そしてキャリーへと送っていた。
「What?」
困惑しながら少年たちに尋ねるキャリーだったが、無論言葉が通じるはずはなかった。
ただ、彼らが自分たちを馬鹿にしていることは容易に理解できた。
「キミたち、私たちと対戦してみないか?」
少年たちの後ろからクランキーが声を掛けてきた。
ほっとするキャリー。
が、会話の内容は依然としてわからない。
ただ静観していることしか出来ないのがもどかしい。
しばらくして少年たちはキャリーとリー・Jrに一瞥をくれるとその場から立ち去って行った。
「クランキーさん?」
待ちかねたようにキャリーが質問を投げかける。
「待たせたね。なんとか登録できたよ。最初は外国人ということで難しいかなと思ったけど、コロラド州のチャンピオンカードを見せたらあっという間だったよ。」
クランキーは「サード・ステージ」の認定カードをニコリと笑いながらキャリーに手渡す。
「レベルは残念ながら、初心者クラスからだそうだが・・・。問題ないだろう。」
「はい、ありがとうございます。え〜と・・・。」
言いかけたキャリーをさえぎり、クランキーは話を続ける。
「今の少年達が最初の相手になってくれるそうだ。お手柔らかに頼むぞ!」
クランキーは軽くウィンクしてみせると、メンテナンスの続きを始める。
あいつらが最初のバトルの相手か・・・。
少しばかりの怒りと、緊張がキャリーに伸し掛かる。
套路を終えたリー・Jrも、静かに闘志を燃やしているように見えた。
「よし、全てオーケーだ!」
パソコンのディスプレイを閉じると、2人はそれぞれ荷物とリー・Jrを抱え、対戦者の待つ「Dリング」へと向かった。
「勝算は?」
おどけながらクランキーが尋ねる。
無言のまま笑顔を返すキャリー。
だがその瞳に確かな自信と、必ず勝利するという想いが眩しいほどの輝きとなって現れていることをクランキーは見逃さなかった。
そしてそれは、優しげな少年が一人の誇り高きプラレスバトラーへと変貌した瞬間だった。
fin