〜第6話〜
承前
都内にある小さなビルの一室。
薄暗い明かりの中でキーボードを叩く音だけが、まるで音階を刻むようにリズミカルに聞こえていた。
窓際。
デスクトップのパソコンに向かい、一人の男が黙々と作業をしていた。
傍らには一体のプラレスラーが男を見据えるかのように立っていた。
まるでスパゲッティ・シンドロームのようにそのロボットに繋がれた数々のケーブルは、途中いくつかの交わりをみせながら男の操作するパソコンへと延びていた。
男は時折キーボードから離れ、ロボットのボディと思われる部分のハッチを開け、いつくかのケーブルを外し、パソコンを操作しながらまた繋ぐ、そんな作業を繰り返していた。
「よし、これでオーケイかな・・・?」
男はロボットから全てのケーブルを外し、キーボードを操作する。
モニターには「Warm Up」の文字が点滅し始めた。
同時にロボットが、まるで命を与えられたかのように躍動を始めた。
「円」を基本とした動き。
ゆったりと、時に激しく、ロボットは人間がするのと同じ動きを正確にこなしていった。
香港の、特に「功夫映画」を観たことのある者ならば、それが中国に古くから伝わる「拳法」の動作だということに気づくかもしれない。
さらに精通する者ならばそれが「太極拳」の動きとほぼ同じ、いや、そのものだと気づくことだろう。
「ビーッ!!」
警告音が鳴り響き、身の丈30cmほどのロボットが動きを止める。
「・・・また最初からやり直しか。」
男は深く息を吐き出すと、椅子から立ち上がり、煙草に火を点けながらゆっくりとブラインドを上げる。
真夏の太陽が、薄暗かった部屋の隅々まで照らし出す。
「カチャリ」
ドアを開ける音が響き、一人の女が部屋に入ってきた。
「戻ったわ、ジム。」
ジムと呼ばれた男は、ゆっくりと声の主の方へと振り向き、笑顔をみせる。
「おかえり、フェイ−レイ。何か収穫はあったのかい?」
煙をたなびかせ、ソファーへ腰を下ろすジム。
次いでフェイ−レイも彼の正面に座る。
「酷いものよ。奴等また表舞台へと上がろうとしてるみたい・・・。」
フェイが胸元のペンダントに仕込まれたマイクロデジタルカメラをいじりながら傍らに置いてあるパソコンを起動し、映像の転送を始めた。
しばらくして、画面には無残に破壊された数体のプラレスラーが映し出された。
「これは・・・。確かに酷いもんだな・・・。」
殆んど全てのプラレスラーが胸に大きな空洞を開けられ、そこから破裂したかのようなクラッシュの仕方だった。
「少しね、気になるネタがあるんだけど・・・。」
フェイはキーボードを叩き、画像の一枚を拡大してみせる。
「10年前、東京ドームで開催された全日本選手権関東地区大会。そのひとこまよ。」
モニターに映し出された映像。
そこには女性型のプラレスラーの胸から突き出ている、真っ赤にヒートアップした異形の腕がはっきりと見て取れた。
「・・・ん、月読・・・なのか?」
ふと、古い友人達を思い出すジム。
しかし3年前に日本に来たときに「ある部品」を預けるために再会して以来、まったく会っていなかったため、記憶が曖昧で、確証は無かった。
表向きは「誘拐・失踪」とされる身分ゆえ、僅かな時間しか会えなかったことも一因だろう・・・。
ふとそんな事が頭の中をよぎる。
「知っているの? このプラレスラーのオーナーを?」
「いや、なんでもない。・・・ふむ、そうだな。普通であれば、この写真のようにヒートアップさせた、鋭いパーツで攻撃すれば穴が開くだろうが・・・。」
「そう! 破裂したように見えるのはAPが関わっているからに違いないわ!・・・残念だけど。」
フェイは立ち上がり、憤慨したような表情を見せながら珈琲を淹れようと部屋の奥へと歩き出した。
「・・・・・。」
無言でモニターを見つめるジム。
(この月読とおぼしきプラレスラーの相手が、現在APを悪用している者達と関係があるのだろうか。・・・いや、それはないな。時期があまりにもずれている。)
「・・・ん!? これは!」
ジムは数枚の写真の中から1枚の画像を選び出す。
ボディの装甲が厚かったのか、貫通せずにボディの中ほどまでえぐられただけで済んだプラレスラーの画像。
「フェイ、奴等のフィニッシュ・ブローはキック系じゃないか?」
視点を変えず、しかし険しい表情を浮かべ奥にいるフェイ−レイに声を掛ける。
「ええ! そうよ。ドロップキックにものすごいスピンをかけてくるって話よ。」
愕然とするジムの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。
「封心脚か・・・。やはり奴が黒幕なのか・・・。」
ズキッ!!
ジムの胸にある古傷が痛みだす。そして12年も前の出来事が鮮明に蘇えってくる。
愛する女性と、かけがえの無い親友を無くしたあの日が・・・。
fin
「次回予告!!
12年前。
留学先の香港で、仲間と共に初めてプラレスラーに出会ったジム。だがそれは、彼の運命を変える出来事の序章であった。
第5話 過去
オリストを開くと、何かが起きる・・・。
〜あとがき〜
どうも。げんです!! 毎回楽しみに読んで下さっている方には(いるのか?)毎回いいところで終わる某TV番組のような展開で申し訳なく思います。
過去と未来の話は大体出来てるのですが、繋ぐのが・・・苦しい!!
しかも伏線の張り過ぎで、全部繋げて発表出来るのか、心配です(笑)
読んで下さいまして、ありがとうございました。次話もお楽しみにっ!!