〜第8話〜
過去 〜Act.2〜
ジム達が「五龍武館」に居候を始めて一月が過ぎようとしていた。
だが、截拳道を始めとする武術の稽古をしているのはクランキーだけであった。
ジムはといえば、プラレスラーの魅力にすっかり惹かれてしまい、自分でファイティング・サーキットのプログラムを作り、ヤンのプラレスラーをカスタマイズしていた。
具体的には、従来の動きに剄の力が働くプログラムを加えたもの・・・。
そう、オーラ・プログラムの誕生であった。
「ジム、いいこと? 剄というのは、自然の力を理解した上で始めて体に取り込むことが出来るものなのよ。いくらプログラムしたって、ロボットはその表面上の力しか発揮することは出来ないのよ!?」
日頃から練習生に何度も言っている言葉をジムに言って聞かせるヤンだったが、ジムは聞き入れることなく、その実現だけを目指してプログラミングに励んでいた。
「大丈夫。なんといっても、僕がプログラムするんだから、間違いないさ。」
(どこからそんな自信がくるのかしら・・・?)
まるで子供のようなジムに、いつしか婚約者のチェンと同じ感情を持つようになっていたヤンは、いつものように自然にあふれる笑みを隠しながら道場に出て行った。
一人残ったジムもまた、次第にヤンに惹かれていく自分をどうしたものかと思案しながらキーボードを叩き始めるのだった。
「ドンッ!!!」
クランキー会心の蹴りがチェンにヒットする。
もんどりうって倒れこむチェン。
「よっしゃ〜! チェンから一本とったぜい!!」
ジムとは対照的に、毎日チェンと稽古していたクランキーはメキメキと力を付け、ついにチェンからダウンを奪える程になっていた・・・。
だが実際には、ヤンにあまりにも近づきすぎたジムに気を取られ、稽古に身が入らないというチェンの精神状態に原因があった。
「大丈夫? チェン!」
事務所から出てきたヤンが、倒れたチェンに手を差し出す。
「ああ、これぐらい、平気だよ・・・。」
ヤンのぬくもりを感じ、チェンが安らぎを感じたその時、事務所からヤンを呼ぶ声がする。ジムだ。
「おおい、ヤン! すまん、ちょっと教えてくれ!」
(またかっ!!)
「またなの・・・。」
言いかけたヤンを制し、彼女を隠すように立ち上がるチェン。
その表情はまるで悪鬼の如く険しいものへと変わっていた。
「ジム、いいかげんにしてくれ! 彼女は僕の婚約者でこの道場の師範だ! 君がここへ来てからロクに稽古もしてないんだ。少しは遠慮してくれ!」
辺りが静まり返る。
チェンは刺すような視線でジムを見据えていた。
「チェン!?」
いつもと様子が違う事に気付き、チェンをなだめようとするヤン。
「落ち着いてチェン。彼には時間がないのよ。アメリカに帰る日も近いの、だから・・・。」
「うるさいっ!!」
止めようとするヤンを振り切り、ジムへと襲い掛かるチェン。
「レディはもっと丁寧に扱うもんだぜ!」
迎え撃つジム。
だが殆ど稽古をしてないジムの不利は明らかだった。
「貴様のような奴が俺の女を口説こうとするなど、許せん!!」
次々と拳を繰り出すチェン。
「ふん。アメリカじゃ、恋愛も自由なんでね。いい女は放っておけないタチなのさっ。」
次第に腫れ上がる顔で強気に反論するジム。
だがチェンは容赦なく手刀を叩き込む。
一瞬のことに呆然とする練習生達。
ヤンとクランキーが止めに入ろうとする。
「やめろ、やめるんだチェン!!」
が、チェンの圧倒的な力の前に為す術なく弾かれる二人。
「ああ、そうさ。俺もヤンを愛している。だが最後に選ぶのは彼女だ!!」
「ふざけるな! 許さん許さん許さん!! きっさまぁ〜〜!! 殺してやるっ!!!」
怒りが頂点に達したチェンがバックステップし、ジムの胸元目掛けて飛び蹴りを放つ。
「だめぇっ!! やめてぇ〜!!」
チェンの動きを察知し、叫ぶヤン。
「あれは封心脚! 殺すつもりか!」
クランキーは以前チェンに見せてもらった技の威力を思い出していた。
煉瓦でさえも貫通する、そんな技をくらったら・・・。
すでにフットワークも使えない状態のジムに避ける力など残っておらず、ジムは死を覚悟した。
だが!!!
「ヤーーーーーーーーーン!!!!!」
とっさに飛び出したヤンが盾となり、チェンの蹴りはジムの鳩尾にわずか届いただけだった。
当然、ヤンにとっては致命傷である。
文字通り胸に穴が開いていたから。
「ジ・・ム・・・。」
それだけを発し、ヤンの体から全ての力が抜けていった・・・。
「なんてことだ・・・。」
クランキーは目の前の出来事が信じられないまま立ちすくんだ。
「ヤン・・・。ヒャハッ・・・ヒャーッヒャッハ・・・。」
おびただしい血の色で赫足となった男は、突然奇声を発すると、練習生の群れを割って道場から逃げ出していった。
彼もまた自分の犯した過ちを認めることが出来なかったのだろう。
「ヤン・・・。頼む、もう一度目を開けてくれ・・・。頼む・・・。」
それが叶わぬ願いであることは彼女の血を全身に浴びたジムが一番理解していた。
「なぜこんなことに・・・。くっ。」
傍らで天を仰ぐクランキー。
折りからの雨が、瞬く間に土砂降りとなり、辺りを赤く染めていった。
「ヤーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
ジムの叫びは、ただ空しく灰色の空へと吸い込まれていくだけだった。
数日後、ジム達は傷心のまま香港を発ち、コロラドへと帰っていった。
ジムとヤンの尊敬する「ブルース・リー」からとった、「リー」という名のプラレスラーを彼女の形見として携えての帰国であった。
fin
次回予告!!
過去との決別を誓うジム。
そのキーパーソンとなるべく、キャリーとリー・Jrが手に入れたものとは?そしてマサキ&十六夜との出会いは彼等に何をもたらすのか?
第9話 成長
おたのしみにっ!!
〜あとがき〜
ああっ、ごめんなさい、ごめんなさい。ええ、次回こそは、こう・・・プラレス全開で(笑)
はい、頑張りますのでよろしくお願いしまっす!!