〜第10話〜
覚醒
第二ラウンド開始のゴングに弾かれるように、二体のレスラーがリング中央へと駆け寄る。
先手を取ったのはリー・Jrだった。
十六夜に背を向けるような形でくるりと回転しながら身を沈め、十六夜の脛を目掛けて裏拳を繰り出す。
小さくジャンプし、上手くかわしたかに見えた十六夜だったが、続けざまに放たれた廻し蹴りをくらい、吹っ飛んでいく。
が、素早く立ち上がり、反撃に移る。
突進してきたリー・Jrの弾腿を間一髪でかわすと、逆にミドルキックをヒットさせる。
カウンターとなりダウンするリー・Jrを認めると、すぐさま宙に舞う十六夜。
急降下し、リー・Jr目掛けてニー・ドロップの体制に移るが、落下したときには既にリー・Jrはそこにいなかった。
距離を置き、相手の出方を窺う両雄。
「RAPか・・・。いい動きだ。」
もちろん、マサキは自分の分身とも言える十六夜に絶対の自信を持っている。
だが、かつてジムから贈られたAPと比べ、格段に洗練されたリー・Jrの動きに驚きを隠せないでいた。
実際、第一ラウンドと比べてもリー・Jrの動きは、速く正確なものとなっている。
(軽いスパーのつもりだったんだがな・・・。)
思わず苦笑するマサキ。
引き下がる訳には行かないが、大会を控えた現在、あまり無理はしたくない。
考えを巡らす。
「ガキッ」
相手のセコンドを背負った位置で、リー・Jrのハイ・キックを受け止めた十六夜の目が不敵に光る。
まるでマサキの考えを読むかのように・・・。
ハッとして我に返るマサキ。
(ふっ。加減の出来ないところはアイツと似ているのかもな・・・。)
ふと思い出し笑いを浮かべると、瞬時にキーを叩き、十六夜に指示を送る。
「そこだ十六夜!! 叩き込めっ!!」
受け止めたリー・Jrの脚を払いのけ、よろめく相手に掌打を連続で放つ。
なんとか凌ぐリー・Jrだったが、続く浴びせ蹴りをまともに喰らい、たまらず二度目のダウンを喫する。
「シット!!」
善戦するものの、リー・Jrの攻撃があと一歩のところで返されてしまい、苛立つクランキー。
何故か一番はしゃいでいるようだ。
隣のキャリーはディスプレイモニタでリー・Jrをチェックしながら、やはり驚いていた。
(今までのリー・Jrなら、RAP発動時はバッテリーが上がる頃だったのに・・・。)
そう、モニタに表示されるバッテリーの残量は、まだ優に三分の二以上を示していた。
ジムからマサキに預けられていたパーツを装着する事により、余分なパワーを使わなくなったのか。
今までのRAPに一番必要だったものが手に入ったのだ。
キャリーはジムに感謝と、改めて尊敬の念を抱く。
(ありがとう、パパ。僕、がんばるよ!!)
リング上では激しいバトルが続いていた。
やや十六夜の方が押し気味のようだった。
「これで・・・どうだっ!!」
小競り合いからリー・Jrをロープに飛ばすと、十六夜は力をタメるかのようにしゃがみ込みながら、タイミングを合わせる。
そして返ってきたリー・Jr目掛けてジャンピング・アッパー「昇竜拳」を繰り出した。
「ビーッ!!」
キャリーのPCが警告音を発する。
同時にモニタに「ALERT!!」の文字。
(なんだ? 今までこんな事は無かったのに・・・。)
刹那、氣が乱れる。
が、リー・Jrの置かれた状況には余裕が無かった。
改めて集中するキャリーだが。
「しまった!! リー・・・・。」
キャリーの打ったコマンドはリー・Jrに届かなかったように見えた。が・・・。
「ガーン!!!」
「何っ!!」
「?????」
キャリー達が見たものは、互いに吹っ飛ばされた二体のプラレスラーの姿だった。
十六夜は、それでもなんとか体制を立て直し、リング上に舞い降りたが、リー・Jrの方は受け身をとる間もなく、リングに叩きつけられていた。
(・・・あの場面でサマーソルトキックを放つか、リー・Jr。あと一歩踏み込んでいたら・・・。)
あと一歩踏み込んでいたら、リングに倒れていたのは十六夜だったろう。
運が良くて相打ち・・・。
だが、まさに神業とも言うべき疾さで微調整し、最低限のダメージで抑えられたのはマサキの腕に他ならなかった。
「ピッ」
モニタにダメージ箇所の報告が出る。
かつてT−REXとのバトルで大きなダメージを受けた場所に近い。
(ふむ・・・。RAPには興味があるが、大会も近い。これ以上のバトルは・・・。)
キーボードから十六夜にリングを降りるよう、指示をだすマサキ。
「今の技はサマーソルトキック!? そんなコマンドは・・・。」
考える時間を与えられず、レフェリー・ロボがカウントを取り始め、リー・Jrを慌てて立ち直させるキャリー。
幸い大きなダメージは無いようだ。
だが、リング上で待ち受けていたはずの十六夜の姿がない。
ふとマサキに視線を送る。
「キャリー君。勝手ばかり言って悪いんだが、スパーリングは終わりにしよう。」
「ホワット??」
クランキーに尋ねる。
クランキーも不思議そうにマサキに尋ねる。
「ミスター・マサキ。何か問題でも? キャリーはまだ闘えると言っていますが・・・。」
「・・・これ以上バトルを続ければ、お互いタダでは済まないと思うんです。RAPの力は充分見せて頂いた。ここで引く事を最高の誉め言葉として受け取ってはくれないかな、キャリー君。」
そのままキャリーに伝えるクランキーだったが、納得しかねてる様子だった。
クランキーに訳してもらうまでも無く、その様子はマサキにも手に取るように伝わっていた。
「はっはっは。まぁ、若いヤツはそれぐらいでないとね。・・・ということなんだが、T−REX!!」
マサキが声を向けた方を見るキャリーとクランキー。
そこには、いつからいたのだろう、黒のレザーに身を包んだ一人の男が立っていた。
(まさかフェイの知り合いか?)
クランキーは渋谷で再会した香港の女性、フェイの姿を思い出していた。
「・・・ったく。何処の馬の骨とも分かんねぇような餓鬼相手になんてザマだ!それでもこの俺のライバルかっ!!恥を知れ、恥を!! 」
片目を閉じ、片方の耳を手で押さえながら、キャリー達に向かって苦笑いするマサキ。
「はっはっは。紹介しよう。私の親友にして、ライバルのT−REXだ。パートナーは・・・。」
笑いながらT−REXを紹介するマサキの隣で、既にTYRANTのセットアップを始めるT−REX。
「・・・TYRANTだ!! まぁ、手加減はしてやるから、気楽にやろうぜ、坊主! わっはっは。」
キャリーに、彼なりに優しく語りかけるT−REX。
が、当然キャリーには伝わらない。しかも・・・。
「ホワット!?」
「○!■!×☆?△!□!!!!」
「あ、違うんだT−REX、彼は本当にアメリカ人・・・」
「腰抜けは引っ込んでろ!! ちっ、餓鬼の癖に生意気なヤツだ。よお〜し! 徹っっっっ底的にお仕置きしてやるから覚悟しやがれ!! マサキ、貴様は手を出すんじゃねぇぞ!!」
「・・・ということでいいかな、キャリー君、クランキーさん」
やれやれ、といった風に両掌を見せて少し首を傾げてみせるマサキにキャリーは笑みで応える。
キャリーにしてみれば、願ってもない状況だった。
マサキの十六夜に続いて、T−REXのTYRANTとも対戦出来るなど、夢にも思ってみなかった事だ。
「FIST」でのランキングトップの座を争う二人。
その二人と対戦する事で、キャリーとリー・Jrは次のステップへと飛翔することが出来る。
そんな気がしていた。
fin
次回予告!!
スーパー・ヘビー級という、巨大な壁を思わせるTYRANTにどう立ち向かうのか。
今までにない緊張を感じるキャリー。
いかにRAPがバージョンアップしたとはいえ、それは無謀な挑戦に見えた。
第12話 試練
ご期待くださいね!!
〜あとがき〜
・・・。なんだかタイトルが逆になっちゃいました。覚醒と飛翔(笑) まぁ、いいんですけど。
次回はいよいよスーパー・ヘビー級との対戦です。
一方的な試合展開・・・にはしないつもりです。
でもパワー爆発の場面もいいかなと。
頑張ります!!