オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第2話―「チャンピオン・ガイア」

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 「ほれ! どうした!? そんなこっちゃ、いつまでたってもセカンド・ステージに上がれねえぞ!?」

 「くっそ〜! 立って! ヴァルキリー!」

 「早くしろよぉ〜。 アクビが出ちまうぜ」

 「うるさぁ〜い!! いけっ ヴァルキリー!」

 ここは、T−REXの自宅ガレージ。

 その片隅にスパーリング用のリングが置かれている。

 今、ここではT−REXの『タイラント』とヒナの『ヴァルキリー』はスパーリングの真っ最中である。

 と言っても、タイラント(T−REX)はほとんど何もしていない。

 一方的にヴァルキリーが攻め立てているのだ。

 しかし、操作技術の未熟さからか、ヴァルキリーは簡単にあしらわれ、転がされている。

 夕食前の恒例行事、このスパーリングはほとんど毎日行われている。

 ヒナはその年齢を考えれば、十分な腕前を誇っているハズだが、まだまだT−REXの敵ではない。

 必死にタイラントに食らいつき、己の存在価値を示そうとするヴァルキリー。

 T−REXはこのスパーリングで、確実に腕を上げてきている娘を嬉しく思いながらも、彼女が天狗にならぬよう、毎回厳しい言葉をかけている。

 自分の影響でプラレスに興味を示すようになってどのくらい経ったのか・・・?

 彼女の願いにより、専用のプラレスラー『ヴァルキリー』を与えてやったのはいつだったか・・・?

 初めて自分のプラレスラーを手にした時の、あの笑顔は忘れられない。

 強くなりたいが為に、俺とスパーリングをしようと言い始めてからどのくらい経ったのだろうか・・・?

 今はまだ、サード・ステージでもなかなか勝てないが、今からこんなことを続けていれば、将来、どんな選手になるだろう・・・?

 T−REXは娘とのスパーリングの時には、いつもこんなことを考え、自然に顔が緩む。

 「あ〜! お父さん、何笑ってんのぉ〜! ねえ、本気出してる〜?」

 「あぁ!? 本気だ〜!? あほぉ。 俺が本気出したら勝負にならんだろう!? 早く、俺に本気ださせるように腕を磨きな!」

 「ちくしょー!」

 「ほい、今日はここまでだ。 腹減ったよ」

 「うきー! 今日も勝ち逃げだー! ダメだよ〜、あたしが勝つまでやるんだから!!」

 「お前が勝つまでやってたら、いつまでたってもメシにならんぞ?」

 「う〜・・・ しょうがない。おなか減ったし・・・。 今日はここまでにしといてやる〜!」

 「そりゃこっちのセリフだよ・・・」

 毎回、お馴染みのやり取りの後、二人はガレージを後にする・・・。

 夕食後、茶をすするT−REXに向かってヒナが尋ねる。

 「ねえ、お父さん、ヴァルキリーって強いんだよねえ?」

 「ん? なんでだ?」

 「だってあたし、全然勝てないんだもん」

 「ヘタクソだからさ」

 「そうかもしれないけどさぁ〜・・・。 ねえ、ズルしてなぁい?」

 「何だよ、ズルって?」

 「だってヴァルキリーもタイラントもお父さんが造ったんじゃん!? ヴァルキリーだけ弱くしたって事なぁい?」

 「あのなぁ〜。 ヴァルキリーは決して弱くないぞ。 そりゃあ、タイラントと比べたら性能的には劣るかもしれんが、そこらの市販機よりはずっと強いハズだ。 それでも、そいつらにはまだ勝てねえだろうな」

 「なんでよ!」

 「さっき言ったろ? 『お前が』ヘタクソだからさ」

 「む〜!」

 「あのな、ヴァルキリーは『小型のタイラント』ってコンセプトで設計されてるんだ」

 「こんせぷと?」

 「つまり、少々の事ではブッ壊れないように、頑丈に出来ているんだ。 そのかわり、余計なものは一切ついていないけどな。 正直言うと、背中と脚のバーニアだって付ける予定はなかったんだから」

 「そうなの?」

 「お前みたいにガチャガチャしてる娘が、精密機械の塊のプラレスラーを扱うんだ。頑丈にしとかんといくつあっても足らんからな」

 「ひどーい!!」

 「あほ。壊れて痛い思いするのはヴァルキリーなんだぞ?」

 「ヴァルキリーは機械だもん。 痛いなんて思わないよーだ」

 「バカもーーーーーん!」

 T−REXの怒声がリビングに響く。

 「お前はそんな風に思っていたのか!? パートナーの痛みがわからんようじゃ、プラレスをやる資格なんてないぞ!?」

 「・・・・・・」

 うつむくヒナ。

 「いいか? 確かにプラレスラーは機械だ。 痛いなんて思わないかもしれん。 でもな、オーナーであるお前がそんな考えでいるようなら、お前にヴァルキリーを任せてはおけんぞ!! 愛情を注いで、ヴァルキリーの気持ちがわかるようにならんと本当に強くなんてなれないぞ!」

 「・・・ごめんなさい」

 「技術的な事なんて二の次なんだ。 まずは楽しめ。 自分のパートナーと気持ちが通じ合うようになれば、自然と強くなっていくハズだ」

 「はぁ〜い」

 「わかればいい。 ほれ、そろそろ寝ろ」

 「うん。 おやすみ〜」

 ヒナは2階の自分の部屋へと駆け上がっていく。

 リビングにはT−REXと洗物を済ませたユミ。

 「ずいぶん偉そうな事言ってたじゃない?」

 「ん? いかんか?」

 「べつに〜・・・。 しかしあの娘も好きねぇ〜。 ねえ、タッちゃんだって昔は弱かったんでしょ?」

 「そりゃあそうさ。 最初っから強い奴なんていねえだろうよ。 俺だって散々負けてきたからな。 ま、今じゃあ俺を唸らせるような強い奴の方がいなくなっちまったけどな」

 「ふうぅ〜ん」

 ユミは半分バカにしたような顔つきでT−REXを見る。

 「あ、なんだ、てめぇ その眼つきは!?」

 「な〜んでもないわよ。 さぁ〜て私も寝るかな?」

 「あ〜あ〜 さっさと寝ろ! バーカ」

 「は〜いはい」

 リビングに一人残されたT−REX。

 「強い奴・・・か」

 TーREXは煙草に火をつけ、独り言を呟く・・・。

 …彼が真に強いと認めたのは過去に3人。

 1人目は終生のライバル、マサキ・シマムラの『十六夜』

 タイラントより二周りは小型のJrへビーでありながら、我がタイラントを苦しめる名機『十六夜』

 これまで数多くの名勝負を残してきており、T−REXはライバル心と同時に、尊敬の念まで抱いている。

 十六夜との闘いはこれからも続くであろう。

 二人がプラレスを続けて行く限り、おそらく完全決着というのは、あり得ないのではないだろうか? この頃はそんな気がしている。

 2人目は過去、アメリカ修行中に出遭った、ジムの『リー』

 アメリカで出遭ったプラレスラーは、ほとんどがその国土に比例して、大型でパワー一直線の機体ばかりであったが、こいつは違った。

 レスリングというより、中国拳法のそれに近い動きを見せ、思わぬ苦戦を強いられたのだった。

 あれほどのプラレスラーなら、いずれはFISTに招待されるであろう実力の持ち主のはずだが、最近、噂にもならない。

 引退してしまったのだろうか?

 あの頃からずいぶんと年月が流れた。俺もタイラントも格段に強くなっているはずだ。

 それは奴も同じ事であろう。

 ぜひもう一度、手合わせをしてみたいものだ。

 そして、3人目。

 T−REXに、そしてタイラントにこれ以上ない屈辱と敗北感を与えたまま、引退してしまった元ファースト・ステージチャンプ、「KING・OF・FIST」の『ユーリ・ミヤギ』とプラレスラー『ガイア』である。

 ユーリは女性でありながら、最強プラレスラー『ガイア』を駆り、永きに渡って、FISTの頂点に君臨していた天才モデラーである。

 T−REXは今までに7回、ユーリと公式に闘っている。

 しかし、一度も勝てなかった。

 彼はFISTに落ち着くまで、アメリカやヨーロッパでも闘った。

 日本に戻ってきてからも、地方の独立団体やストリート・ファイトでも闘った。

 JPWAの大会にも乱入していったこともある。

 危険なガレージプラレスに籍を置いていた事もあった。

 様々な団体や組織を渡り歩き、そこのチャンピオンを撃破してきた。

 自信もあった。

 我こそが世界最強だと思いこんでいた。

 『黒い帝王』と呼ばれ、恐れられた。

 そんな時、『FIST』の噂を耳にした。

 デビュー以来、無敗のチャンピオンがいるという。

 何よりもFISTにはマサキがいた。

 迷わずFISTに参加を申し込んだ。FISTのそれまでの昇格記録を塗り替えて、最短記録でファースト・ステージにまで駆け上がった。

 そして、ガイアとの初対決の日を迎えた。

 『KING・OF・FIST』のタイトルマッチだった。

 これ以上ない、最高の舞台であった…。

 

 

 …一撃。だった。

 ガイアの放った、たった一発の手刀で、タイラントは敗れた。

 これまで築いた自信が崩れ去っていった。

 一気に地の底へ落ちていってしまった気がした。

 「…冗談じゃねえ。あのアマ、勝手に引退しやがって。 どこへ行きやがった…。」

 T−REXは煙草を揉み消し、始めて味わった屈辱を思い出していた…。

 

第2話 完

 

あとがき

T−REXの奥さん『ユミ』は彼のことを『タッちゃん』と呼んでます。

T−REXは亭主関白のつもりでいますが、実はカカア天下なヤナギ家です。

次回からは『ユーリ』&『ガイア』とのお話にする予定。

さ〜て、どうしようかなぁ?

 

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