オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第4話―「悪夢の1日」

 「…7・8・9・10!!」

 カンカンカンカンカンカン!!

 無常にも試合終了のゴングが鳴り響く。

 「第3ラウンド 2分28秒、KOにより、KING・OF・FIST ガイアの勝利!!」

 実況アナウンサーが声高らかに勝者を称える。

 ノンタイトル戦ではあったが、ガイア対タイラント、今回で7回目の対決であった。

 今回こそは!と気合い十分のT−REXとタイラントであったが…。

 「T−REX、アンタいい加減に諦めなさいよ。何度やったって、結果は同じ!あたしに勝てる訳ないんだから。もうプラレスやめて漫才師にでもなったら〜?」

 毒舌女王、ユーリがとびきりの笑顔で敗者、T−REXに鞭を打つ。

 「そうねぇ〜…アンタがあたしとの勝負で勝てるとしたら、睨めっこぐらいかしらねぇ〜♪」

 「………」

 酷い言われようである。

 しかし敗者であるT−REXに言葉は無い。

 「あ〜はっはっは! 今までよりはイイ試合だったかな? 3ラウンドまでもったしねぇ〜。 少しは上達したのかしら? アンタも少ない脳ミソで頑張るわねぇ〜。 ま、今度やる時までもっと腕を磨いときなさい! そしたらちょ〜っとだけ本気を出してあげる♪」

 ユーリは満面の笑みを浮かべ、観客の声援に応えながら去って行った。

 ここはFIST。

 強者の集うリング。

 強ければ上に上がれる。

 そこには男も女もない。

 キャリアも年齢も社会的地位も一切関係ない。

 それが『FIST』の掟。

 全てにおいてこれほど平等な事があろうか?

 勝者には全てが与えられ、敗者には何も残らない。

 残るものは敗北感のみ。

 だからこそ全ての者は、己の勝利の為に努力する。

 いい試合が出来れば負けても悔いは無い。

 結果よりもプロセスを重視する、そういう考え方の持ち主もいる。

 それはそれで良い。

 批判するつもりなど無い。

 しかし、T−REXは違う。

 正々堂々闘って、勝たねば意味が無いのだ。

 不戦勝などもっての他。

 もちろん、勝つ為には何をしても良いという訳ではない。

 姑息な勝ち方は彼が一番嫌う勝ち方である。

 常にまっすぐ、一直線に闘う。

 それが彼とタイラントの闘い方。

 しかし、そんな闘い方をする相手は、ユーリとガイアにとって、一番やりやすい相手なのかもしれない。

 はっきり言って『カモ』なのだ。

 今回の試合もそうだった。

 ラリアットを狙って突っ込んできたタイラントに対し、一瞬速く身を屈め、下から顔面を掴んだガイア。

 そのまま勢いを利用し、持ち上げると同時に脚払いを掛け、リングに叩きつける!

 またしても自らの勢いを利用され、マットへ急降下したタイラント。

 後頭部をしたたかに打ち付けられたタイラントは、またしても立ち上がる事が出来なかった。

 …勝てない。

 どうしても勝てない。

 今まで同じ相手に連続して7回も負けたことなど無かった。

 プライドは既にズタズタだ。

 次は勝つ! 絶対に勝つ!!

 T−REXは復讐のチャンスをひたすら待った…。

 次期シリーズ最終戦、そのチャンスは意外に早く訪れた。

 ガイアとタイトル戦を予定されていたリック・モチヅキのデストロイド・エースがマシントラブルにより、試合をキャンセルせざるを得なくなったのだ。

 そこで、当日試合予定の無かったタイラントに急遽、挑戦権が与えられた。

 突然振って沸いたようなこのチャンスに、T−REXは嬉々として喜んだ。

 「よっしゃー!! リックにゃ悪いが、この機会を逃してたまるか! 今回は勝つ!!もう負けねえ!!」

 秒殺で終わった初対決以来、打倒ガイアに全力を注いできたT−REX。

 今回は自信があった。

 今までの7回に渡る闘いで、ガイアのデータと戦闘パターンは攻略済みだ。

 ユーリの口撃にさえ気を取られなければ、負ける要素など一つも見当たらなかった…。

 試合当日―――

 セミファイナルが終了し、いよいよメインのガイア対タイラントのタイトル戦が始まろうとしていた。

 重低音が鳴り響き、タイラントの入場テーマが流れてくる中、タイラントを肩に乗せ、ゆっくりと入場してくるT−REX。

 その表情はガイアと闘える嬉しさと、自信に満ち溢れている。

 気合だけが空回りしていたこれまでとは違い、妙に落ち着いた感じすらする。

 彼は十分に時間を掛けて入場し、コックピットに座り、ユーリの入場を静かに待つ。

 そして、今度はガイアの入場テーマが華やかに鳴り響き出し、客席から黄色い悲鳴があがる。

 ユーリは男性はもちろん、女性からも圧倒的な支持を得ている。

 彼女に憧れてプラレスを始めた少女も少なくない。

 正にカリスマ的存在なのだ。

 

……しかし、テーマ曲が終わろうとしているにも関わらず、ユーリは入場してこない。

 いつもなら投げキッスでもしながら踊るような足取りで入場してくるのだが、その気配すらない。

 客席からどよめきが聞こえる。

 しかめっ面でユーリの入場を待っていたT−REXの目に、バックヤードで騒ぐFIST関係者の姿が飛びこんでくる。

 何やらトラブルが発生したようだ。

 T−REXは耳を澄まし、彼らの様子を凝視する…。

 「……ないんです!」

 「なんだって!?」

 「だから、ユーリ選手、いなくなっちゃったんです!」

 「さっきまでいただろう!? 何やってんだ? ちゃんと捜したんだろうな?」

 「捜しましたよ! 控室はもちろん、トイレの中まで探したのにいないんです」

 「どうするんだ? もう、T−REXは入場しているんだぞ!!」

 「なんて説明すれば良いんだ? ヘタすると暴動が起きるぞ!」

 一向に入場してこないユーリに対し、ついに観客達が騒ぎ出す。

 テーマ曲はすでに終了している…。

 しかし、FIST側からは何の説明も無い。

 ただおろおろしている関係者の青い顔が目に付くだけだ。

 観客達の怒声が次第に大きくなってきた。

 このままでは本当に暴動が起きてしまう!

 そんな中、T−REXがマイクを手に取った。

 「やかましい!! 静かにしねえか!! 馬鹿どもが!!」

 …マイクなど必要が無いほどの大声でT−REXが怒鳴り散らすと、暴動寸前までテンションの上がっていた客席は、水を打ったように静まり返った。

 「おい、責任者は誰だ? どうなっているのか、出てきて事情を説明しろ」

 T−REXはマイクを片手に責任者を呼ぶ。

 観客とT−REXが見守る中、今大会の責任者『山口』が事情を説明し始めた。

 試合開始直前になり、ユーリが会場から姿を消してしまった事。

 そのユーリと今現在、全く連絡が取れない事。

 故にメインのタイトル戦は中止、タイラントの不戦勝であるという事。

 後でユーリには事情を聞き、厳重注意と共に相応のペナルティーを課す事。

 そして、山口が言った最後の言葉にT−REXはキレてしまった。

 「なお、規定により、ガイアの王座剥奪。タイラントを暫定王者として認定致します」

 ブチッ!

 既にセットアップを済ませ、リング上で待機していたタイラントの右腕をレフェリー『Joe』が高々と掲げる。

 山口もT−REXの右腕を掲げ、祝福?の言葉をかける。

 「おめでとう。暫定ではあるが、今日から君がチャンピオンだ。頑張ってくれたまえ」

 バキッ!!(×2)

 その言葉を聞いたと同時にタイラントはJoeを、T−REXは山口を殴り倒していた。

 「なんだとぉ〜! 冗談じゃねえ! 規定により暫定王者として認定するだぁ〜? フザけるな!! 闘いもせずにチャンピオンになって喜ぶと思っているのか? クソ野郎が!!」

 T−REXは制止に入ったFIST関係者を相手に暴れまくる。

 タイラントはJoeを破壊し尽くし、更に制止に入ったサーペント(註)数機を次々にスクラップへと変えていく…。

 その後、タイラントはバッテリーが無くなるまで暴れまくり、T−REXは数人の警備員に取り押さえられ、この騒動は収まった。

 観客達は思わぬ大立ち回りを観戦できたと大喜び、なんとか暴動は起こらずに済んだ。

 そして、この悪夢の1日は終わった。

 今回の騒ぎによりタイラントはセカンド・ステージへ降格、3ヶ月間の試合出場停止という裁定が下された。

 結局『KING・OF・FIST』は空位のまま、次期シリーズはKOFを決める為のトーナメントが開かれる事になった。

 (次期シリーズは1ヶ月後に行われた為、タイラントはトーナメントに出場していない)

 しかし、そのトーナメントでも、その後、幾度となく行われた王者決定戦でも、トラブルや事故が相次ぎ、結局現在まで新しい王者が決まる事はなかった。

 その度に『ユーリとガイアの怨念だ』などとタチの悪い冗談が飛び交う程であった。

 一方、ユーリとは依然として連絡が取れなかった。

 いくら豪放で毒舌家であろうともきちんとスジは通す女だ。

 一言も無しに消えるなど考えられなかった。

 結局ユーリとガイアは、失踪による引退という形でFISTから姿を消した…。

 今から約1年前の出来事である…。

 

第4話 完

 

あとがき

 せっかく出てきた「ユーリ・ミヤギ」ですが、いきなり姿を消してしまいました。

 ま、いずれ復活させるつもりでいますんで、少々お待ち下さい。

 それと今回、タイラントとT−REXが同時に暴れまくるシーンが出てきますが、その時のタイラントはT−REXの指示を受けていません。

 勝手に暴れています。

 プラレスラーは、オーナーからの指示が無くても、基本プログラムで独自に動く事が出来ます。

 当然、複雑な動きは指示を受けなくては出来ませんが、単純な攻撃や回避行動は自分で判断する事が出来ます。(と、私は考えています)

 ストッピングサーキット(緊急停止回路)を使わなかったのは、それを作動させる人間(FIST関係者)が、T−REXによってKOされており、使えなかったので。

 

註:サーペントについては『プラレスラー名鑑』を参照の事。

 

 

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