オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第5話―「アキ」

 T−REXは退屈だった。

 ユーリが消えて、既に半年。

 ここ数年、打倒『ガイア』打倒『ユーリ』に全精力を注いできた彼にとって突如として目標が消えてしまったのだ。

 試合出場停止期間が明け、『FIST』に復帰してもセカンド・ステージでの闘いは物足りなかった。

 確かに、セカンド・ステージはファースト・ステージでの洗練された闘いに比べると荒削りで破天荒な試合が多い。

 (しかしFISTのレベルは恐ろしく高い。セカンド・ステージの上位ランカーともなれば、他団体であれば簡単にトップを取れるはずである)

 そこが魅力ではあったが、T−REXにしてみれば、物足りないのだ。

 中には、将来のFISTを背負って立つであろう若いモデラーもいたが、まだまだ彼の相手ではない。

 ガイアのいない今、実力的にはファースト・ステージ上位にランクするであろうタイラント。

 セカンド・ステージのプラレスラーには少々荷が重いのだ。

 また、いつ、暴走状態になって(T−REXの制御を外れ)、ルール無用で暴れ出すかもしれないタイラントと闘うのはイヤだ!と試合をキャンセルする者まで現れてきた。

 目標の無い日々が続き、格下の相手と試合をこなす為だけに会場入りするのがバカらしくなってきたT−REXは次第に無断で試合を放棄する事が増えてきた。

 勝つとわかっている勝負など、やる意味がない。

 ファースト・ステージでは空位になったキングの座を求め、熾烈な闘いが展開されている。

 それに参加できない悔しさと、二度とガイアと闘う事の出来ない状況にイラつき、彼は荒んでいった。

 「あ〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ! つまんねぇなぁ!! いくら規定がそうなってるからって、結局入れ替え戦で勝つまでセカンド・ステージで我慢しなくちゃならんとはなぁ・・・」

 「そう言うなよ。自分が悪いんじゃねぇか。いきなり大会役員ブン殴りやがったくせに」

 試合を終えたT−REXが、メインの試合を控えるマサキの控室にきてグチをこぼしている。

 二人はライバルであると同時に20年来の親友でもある。

 故に、二人だけの会話となると、つい昔の口調に戻ってしまう。

 「で、どうなんだ?次のウインター・カップではファースト・ステージに上がれそうか?」

 十六夜のチェックをしながらマサキはT−REXに尋ねる。

 「あたりまえだ。仮に次の試合に負けても勝率はトップなんだから問題ない。消化試合みたいなもんだ。入れ替え戦の出場枠には入ってるからな。」

 「そうか、試合サボってたくせにな。 で、その次の相手は誰なんだ?」

 「誰だったかな? さっき、教えてもらったんだが・・・それ、ちょっと見せろや」

 T−REXはマサキの傍らにおいてあったパンフレットを広げる。

 パンフレットには、今大会出場者の名簿と簡単な紹介が載っている。

 「あ、コイツだ。えーとプラレスラー『小龍』、オーナーが『アキ・タカマツ』・・・」

 「ほぉ〜。今、売り出し中の女の子じゃないか。『小龍』か・・・結構いい機体だぞ」

 「ふ〜ん・・・知らねぇなぁ・・・。オマエ、知ってんのか?」

 「まったく・・・お前は人の試合なんかちっとも見ねぇんだから。同じセカンドだろ? 噂ぐらい耳に入ってくるだろが!」

 「わ〜るかったな。 で、どんな奴なんだ?」

 マサキは十六夜のメンテナンスを中断し、知っている情報を話し出す。

 「たしか(小龍の)ファイトスタイルは中国拳法をベースにしていると思った。 パワーはイマイチだが、スピードで相手を撹乱しながらの小刻みな連打を得意としているはずだ。 それにオーナーの『アキ・タカマツ』の本職はシステム・エンジニアだけあって、キーボードワークは鬼の速さだ。甘く見てると足元すくわれるぞ?」

 「ああ! 思い出した。たしか、俺に勝てば入れ替え戦の出場枠に入れるとか言ってた女だ!」

 

―――アキ・タカマツ

 FISTには何人かの女性モデラーも参加している。

 ユーリがいた頃は彼女の圧倒的な存在感もあって、あまり他の女性モデラーが目立つ事もなかったが、ユーリが引退した今、にわかに注目され始めるようになっていた。

 そんな中、一番の成長株であるのが『アキ・タカマツ』の『小龍』なのだ。

 長身でスタイル抜群の大人の女であったユーリとは異なり、カワイコちゃんタイプのアキには、ユーリにはなかった親しみやすさを感じさせ、小柄で可愛らしい印象を与える。

 肩まで伸びたさらさらの髪。

 くりくりの丸い目。

 印象的なえくぼ。

 性格同様、控えめな胸元。

 ユーリが気高き女王なら、アキはどこにでもいるような普通の女の子といった印象だ。

 そんな普通の女の子が(男だらけのむさくるしい)プラレスの世界で活躍している。

 故に『オタク』系と呼ばれるプラレスファンからは絶大なる人気を誇っていた。

 「ほぉ〜、お前に勝てば、入れ替え戦に出られるってか。 こりゃいよいよ油断ならんな。 そうとう気合い入れて試合に臨むはずだぞ?」

 「アホウ! いくらなんでも、この俺様が女に負けるかよ。 俺より強い女がそう何人もいてたまるか!」

 「ま、そうだろうな。どうでもいいが、早くファースト・ステージまで上がって来いよ! コイツも寂しがってるんだ」

 マサキはメンテナンステーブルの上で、静かに立つ十六夜に視線を移す。

 二人には、その言葉を聞いた十六夜が「その通りだ」と頷いたように見えた・・・。

 

 その後、メインの試合に出場すべく、会場へ向かったマサキと十六夜。

 T−REXはマサキの試合を観戦後、会場を後にした。

 

―――

 そして、タイラントVS小龍の試合の日がやってきた。

 先程も述べたが、この試合の勝敗に関わらず、入れ替え戦の出場枠2名の中に名を連ねるタイラント。

 一方、小龍はこの試合に勝たねば入れ替え戦には出場できない。

 赤コーナーの控室では、緊張の面持ちで小龍の最終チェックを行うアキの姿があった。

 「さぁ、小龍。今日は大一番だよ。この試合に勝たなくちゃ入れ替え戦に出られないんだから・・・。 今日の相手はあなたが今まで闘った相手の中で、たぶん一番強いプラレスラーだよ? でも負けられないからね。 おとーちゃんもおかーちゃんも応援してくれるんだ。 勝機は必ずある筈だから。タイラントに勝って、入れ替え戦にも勝って一気にファースト・ステージに乗り込んでいくからね!」 

 アキは小龍に語り掛け、試合開始を静かに待った。

 一方、緊張のアキに比べ、青コーナー控室のT−REXは落ち着いていた。

 アキとは違い、これまで大舞台に立つ事など何度もあった。

 今更緊張などするはずもない。

 「なぁタイラント、この前マサキが言ってたろ? 十六夜が寂しいとさ。 セカンドには面白い奴がたくさんいたが、ここは俺達の舞台じゃない。 今日の試合も入れ替え戦もバッチリ頂こうぜ!」

 ・・・そして、両者は様々な思いを胸に秘め、リングへ向かう。

 大観衆が見守る中、タイラントVS小龍のゴングが今、鳴ろうしていた。

 

第5話  完

 

あとがき

 新キャラ『アキ・タカマツ』の登場で、今回は終わります。

 次回はタイラントVS小龍です。

 どのような試合になるか、お楽しみに! (まだ考えていませんが…)

 ちなみに『小龍』は『しょうりゅう』とは読みません。

 xiao long(シャオロン)です。

 

 

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