オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第6話―「お願い、もう立たないで・・・」

 リング上ではファイティングポーズをとりながら小刻みに動く小さなプラレスラー『小龍』と、小龍を捕らえようと徐々に距離を詰める『タイラント』の姿があった。

 既に試合開始から3ラウンド、観客の目からは一進一退の好試合に見えているのだが・・・。

 Jrヘビー級の小龍の全高は259ミリ。

 スーパーヘビー級のタイラントの全高は380ミリ。

 その差は約120ミリ。12センチの身長差である。

 プラレスラーの(基本)統一スケールは人間の1/6と設定されているので、単純に人間のサイズにしたら約60cmの差があるということになる。

 大人と子供の闘いだ。

 いい試合に見えても、子供、小龍は必死である。

 「くっ! さすがにファースト・ステージの常連だったタイラント、強いわ・・・」

 アキの端正な顔が歪む。

 ゴングが鳴ってから小龍はタイラントを攻め続けている。

 手数は圧倒的に小龍の方が多い。

 しかし、タイラントにダメージらしいダメージを与えていない。

 むしろ小龍の方がダメージは大きいのだ。

 アキは次第にあせりを感じていた。

 小龍がいくら攻撃を重ねてもタイラントはダウンしてくれない。

 一息つく暇がまったく無いのだ。

 しかも、相手はスーパーヘビー級、タイラントの攻撃は一発一発がズシリと重い。

 捕まったら終わりだ。

 距離をとって確実に打撃をヒットさせる。

 小龍にはこの戦法しか残されていなかった。

 チャンスは必ずくるはずだ。

 アキは自らにそう言い聞かせ、その瞬間を待った。

 しかし相手はファースト・ステージの常連でもあったタイラント。そう簡単に隙は見せてくれない。

 あせりからか、次第にアキのオペレーションが雑になってきた。

 雑な操作は無謀な攻撃となってあらわれる。

 回し蹴りを放つが、タイラントは避ける素振りも見せず、脇腹にヒットさせる。

 そのまま蹴り足を捕まれてジャイアントスイング気味に振り回され、ロープを支える支柱、コーナーポストに叩きつけられてしまった。

 その支柱に寄りかかりダウンする小龍にむけ、タイラントは走りこんでショルダーアタック!

 グワワワワン・・・。

 間一髪、サンドイッチになるところをジャンプで避けた小龍。

 リングが衝撃で揺れている。

 その衝撃と支柱に叩きつけられたダメージにより、小龍はダウンしてしまう。

 タイラントはダウンする小龍を無理やり起こして、投げっ放しのパワーボムからジャンピングエルボー。

 エルボーは何とか寸前で避けることが出来たが、エルボーを自爆したタイラントは何事も無かったかのようにゆっくりと立ち上がり、小龍との距離を詰める。

 「小龍か・・・、確かにマサキの言った通り、いい機体だ。 オーナーの腕も悪くない」

 小龍の攻撃を捌きながらT−REXは冷静に分析する。

 津波のようなタイラントの攻撃を何とか凌いでいるのは、アキの腕に他ならない。

 並のモデラーならとっくに勝敗はついている。

 「いい腕だが、まだ俺の相手じゃねえな」

 フラフラになりながらも、ファイティングポーズをとって攻撃のチャンスを伺う小龍を、じりじりとコーナーへ追い詰めるタイラント。

 逃げ場がなくなってきた小龍は気合一閃、渾身のハイキックを放つ。

 ガキッ!!

 ハイキックはタイラントの顔面にヒット。

 しかし、ひるむ気配をまったく見せずに小龍をコーナーに追い込むタイラント。

 そのまま、コーナーを背に逃げ場のない小龍の両肩を掴みヒザ蹴り。更にマシンガンチョップ!!

 ドガガガガガガガ!!

 小龍はなす術が無い。

 立ったままダウンも出来ない。

 否、ダウンさせてもらえない。

 「ああっ・・・小龍・・・!」

 アキの悲痛な声が響く。

 スタンディングダウンだ!そう判断したレフェリー『JOE』は攻撃を続けるタイラントをニュートラルコーナーへ下がらせるため、強引に両者の間に入り込んだ。

 「タイラント、サガレ! シャオロン ノ スタンディングダウンダ!! ニュートラルコーナーヘ サガレ!!」

 攻撃を続けるタイラントに対し、JOEが叫ぶ。

 「なんだぁ?JOE、邪魔だ!!どけ!!」

 T−REXはいきなり間に入り込んできたJOEに気をとられ、攻撃の手を止める。

 タイラントからはJOEが邪魔になり、小龍が確認できない。

 邪魔者を払いのけようとタイラントはJOEを右手で突き飛ばす。

 JOEが視界から消え、代わりに体勢を立て直している小龍の姿が見える。

 「チャンス! 小龍!! フルパワーで百烈脚っ!!」

 勝機はここしかない。

 アキはJOEに感謝しながら小龍に指令を送る。

 その瞬間、小龍は左足を軸にして、右足で必殺の連続蹴りを放つ!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 直撃だ。

 小龍の連続蹴りがタイラントの全身を捕らえる。

 大きく体勢を崩したタイラントに隙が出来る。

 その一瞬を逃さず、小龍がジャンプ。タイラントの頭部を両手で掴かみ、そのまま右膝を後頭部に押し当てリングに着地する。

 タイラントは後ろに大きく仰け反る様な格好で倒れこむ。

 ガキン!! バチッ!

 タイラントの後頭部から火花が散る。

 「うおっ!」

 T−REXが思わず声をあげる。

 タイラントは仰向けにダウン。

 小龍はカウントを取れとJOEを探すが、JOEは先程タイラントに突き飛ばされ、ひっくり返ったままピクリともしない。

 「お願いっ! もう、立たないで・・・そのままダウンしていて・・・」

 アキは祈るようにリング上を見つめる。

 フォールに行きたくても、小龍はフルパワーで攻撃した反動で、思うように動いてくれない。

 仮にフォールの体勢になってもカウントをとるレフェリーがいない。

 しかし・・・

 バチッ!バチッ!

 タイラントは後頭部から火花をあげたまま、静かに立ち上がる。

 「あぁっ・・・これでもだめなんて・・・ なんてタフな奴・・・ もうバッテリーがもたないよ・・・」

 アキは落胆の表情を浮かべる。

 タイラントのような大型機とは、対峙するだけでも、大きくエネルギーを消費する。

 ましてや、いくら攻撃を加えても何事も無かったかのように向かってくるタイラントに対し、ここからどうすればよいのか、何をしたらこの強大な敵を打ち倒せるのか、アキにはわからなかった。

 小龍はもうボロボロだ。

 戦闘不能になるまで、あと1分も無いだろう。

 ラウンド終了までは1分以上ある。

 バッテリー切れで(動けなくなり)試合終了なんて冗談じゃない。

 しかし、先程の攻撃で仕留められなかった小龍にはもう、打つ手が残されていない。

 棒立ち状態の小龍にタイラントがゆっくりと近づいてくる。

 半分、放心状態のアキがつぶやく。

 「どうしたら・・・いいんだろう・・・」

 

第6話 完

 

あとがき

 今回の主人公は小龍のオーナー「アキ・タカマツ」です。

 プロレスを見ない人には試合のやり取りが理解しにくいと思います。

 まったくもって表現不足で申し訳ない。

 さて次回はどうなることやら・・・。

 

 

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