オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第8話―「あなたはだぁれ?」

 「ん…うぅ〜ん…あれ?」

 アキは見知らぬベッドの上で目を覚ました。

 「え〜と…なんでこんなところに寝てるんだろ?」

 自分の状況が把握できず、寝ぼけ眼でゆっくりとあたりを見渡すアキ。

 その時、一人の少女の姿が目に飛び込んできた。

 小学生? それも低学年らしき小さな姿だ。

 少女はアキが目を覚ました事に気づかず、パソコンを開いて、なにやら話し込んでいる。

 「よーし、ヴァルキリー、次は前方回転受身いってみよーっ!」

 少女の視線の先には、白いプラレスラーが少女の指示に従い、動き回っているのが見える。

 「よーし。いい子だね。良く出来たよ。さて次は…って、あー!つまんないよー!! 受身の練習なんてもーやだー!」

 「ねえ、あなた…」

 「うきゃっ!?」

 少女は背後から声をかけられ、ビックリしたようである。

 「あっ、おねーちゃん、気がついたの!?」

 「ええ。 ねえ、あなた。…だぁれ? ここで何してるの?」

 「あたし? あたしはヒナ。「ヤナギ・ヒナ」。お父さんに言われてヴァルキリーの受身を練習してたの」

 「ヒナ?」

 「おねーちゃん、今日の試合はすごかったねぇ! 小龍は大丈夫だった? 入れ替え戦には勝てそう!?」

 一人で退屈だったのであろう、少女は目を覚ましたアキに質問をぶつける。

 「ね、ねえ、ごめんなさい。ヒナちゃん。話が全然見えないわ」

 アキは『ヒナ』と名乗るこの少女が何者で、何故ここにいるのか、自分は何故ベッドで寝ていたのか、さっぱりわからなかった。

 試合終了後、控え室でT−REXと何か話をしていたのは覚えている。

 何の話をしていたんだっけ?

 ……そうだ。思い出した。

 ユーリの話になって、いきなり両肩をつかまれて、振り回されたんだっけ。

 すっごい力なんだもん。

 気を失ってしまったのね。

 それで医務室にでも運ばれたのかしら?

 「ねえ、ヒナちゃん1つ聞いていい?」

 「な〜に〜?」

 「あなたはここで何してたの?」

 「お父さんに言われたんだもん。おねーちゃんの様子を見ててくれって。ヒマならヴァルキリーの受身の練習でもしてろ〜って」

 「お父さん? あなたのお父さんはなんて人?」

 「お父さんの名前? 名前は『ヤナギ・タツヤ』って言うんだよ」

 「ヤナギ…?」

 誰だっけ? 記憶にないなぁ…。

 「でもみんなからは『T−REX』って呼ばれてるよ」

 えっ!! って言うことは『あの』T−REXの娘さん!? 

 アキはまじまじとヒナの顔を見つめる。

 タレ目がちな瞳と、頑固そうな太い眉毛はT−REXに似ている…。

 「…で? T−…じゃなかった。お父さんはどこ?」

 「知らなぁい。ユウちゃんのお父さんとお話でもしているのかな? ヴァルキリー、お父さんを探してきて!」

 ヒナの肩に座り、ヒナと一緒にアキの顔を覗き込んでいた白いプラレスラー『ヴァルキリー』は勢い良く飛び上がり、ドアの隙間から外に駆け出していった。

 「ねえ、ヒナちゃん。あなたもプラレス、やるの?」

 「あ〜!あたしのこと全然知らないんだなぁ!? くそ〜…やっぱ早くセカンド・ステージに上がって顔を売らなきゃ…」

 「セカンド・ステージって、あなたもFISTに参加してるの?」

 「そうだよ。前にFIST参加選手の中でサイネンショーだって言われたことがあるもん!」

 ヒナには『最年少』の意味がわからないのであろう。大威張りでアキに答える。

 FISTは基本的にオープン参加である。

 しかし、それはあくまでもサード・ステージでの話。

 テストバトル機『サーペント』に勝利して、サード・ステージの参加資格を得る。(これは飛び入りも同様である)

 サーペントに勝てる腕前を持ってして初めて参加できるのである。

 そして、それはヒナの年齢から考えると、スゴイ事なのだ。

 (ちなみにヒナは現在8歳。マサキの娘、『ユウ』と同級生である)

 「へぇ〜、すごいねぇ〜。 さっきのはヒナちゃんのプラレスラーね?」

 「そうだよ♪ ヴァルキリーってゆうの。強いんだぞぉ!! でも今日の試合には負けちゃったけどね」

 「あら。今日も試合があったの?」

 「うん。『ファイヤー・ドラゴン』っていう奴に負けちゃった。 市販機に毛が生えたような奴に負けるなんて、あたしもまだまだ修行が足りないんだなぁ」

 「そうなんだぁ。だからさっき受身の練習してたのね?」

 「うん。お父さんがね、「ヴァルキリーは強い! それなのに負けるのはお前がヘタクソだからだー」ってさぁ。 攻撃ばかりじゃなくって、防御も練習しとけーっ!って」

 ヒナは両手の人差し指で両眉の端を吊り上げながら顔をしかめ、アキに答える。

 どうやらT−REXの顔真似をしているようだ。

 「あはは♪ 厳しいお父さんねぇ」

 「でもユウちゃんの『ワルキューレ』よりは強いよ! コウちゃんの『雷牙』にはまだ勝てないけど、それも時間の問題だもんね〜♪」

 ユウもコウもアキにとっては始めて聞く名前だったが、きっと友達なのだろうと、ヒナにあわせて会話を続けた。

 二人の会話は途切れることなく続いていたが、そこに両肩にタイラントとヴァルキリーを乗せたT−REXが入ってきた。

 「ヒナ、ご苦労。アキ、気分はどうだ?」

 「あ、お父さん!」

 「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」

 「よかったよかった。いきなり寝ちまうからどうしたのかと思ったが…いや、すまなかったな」

 「何言ってんのよ。お父さんの馬鹿力で振り回されれば誰だって失神ぐらいするよ!」

 「馬鹿力とはなんだ! このヘタクソ娘!!」

 「何よー! 自分だって結局反則負けだったじゃない!! ヘタクソオヤジ〜!!」

 「なんだとコラ!?」

 「なによぉ!? やる気ィ!?」

 アキは同レベルでケンカする二人を見て困惑している。なんか、すごい親子だ。

 「さて、バカ娘の相手はこのくらいにしてと。 腹減ったな。アキ、メシでも食いに行こう。ユーリの話も聞きたいしな」

 「えっ、あっ、はい」

 いきなり話し掛けられ、勢いで返事をしてしまうアキ。

 後ろではヒナが「バカ娘とはなんだー! 勝負しろぉー!!」と一人、いきり立っていた…。

 T−REXはアキとヒナを連れて馴染みの店である、居酒屋『錦』にいた。

 店のマスターがプラレス好きという事もあり、FISTのみならず、様々なプラレス団体のモデラーやプラレス好きなヤロウ達の溜まり場ともなっており、その手の人間には聖地のような場所でもあった。

 店の片隅にはリングまで用意されている。

 聞けば定期的に常連の初心者同士で草バトルが開かれているらしい。

 「さて、控え室での話の続きだ。 ユーリは今どこにいるんだ? アキ、あんたの知ってる範囲でいい。教えてくれ」

 食事を終え、落ち着いたところでT−REXが切り出す。

 満腹になったヒナはそろそろオネムの時間だ。座布団を枕に寝息を立て始めた。

 「困ったな。あたしの知ってる範囲って言っても、はっきり言って何にも知らないのよ…」

 「なんだと? 弟子のあんたが何にも知らないって事はないだろう?」

 「ホントに何も知らないのよ。失踪してから2・3回メールが届いただけで、今どこで何してるのかなんてさっぱり…」

 「メール?」

 「そう。それも「元気だから心配しないで」って…これしか書いてないんだもん。あたしからは何回もメール出しているのに」

 ユーリが失踪してから半年以上が経つ。その間、アキも彼女を懸命に探した。

 しかしユーリとの連絡手段が電子メールと携帯電話のみなのだ。

 当然、携帯に電話をかけてみてもユーリが出る事などなかった。

 弟子といっても、私生活を覗かれることを嫌ったユーリの住所をアキは知らない。

 手掛かりになるような情報など、皆無なのだ。

 「あのね、これはあたしの想像なんだけど、少なくとも師匠には突然身を隠す必要なんてなかったはずなのよ。 だってあの日、ちゃんと会場入りしてるんだもん。そうでしょ?」

 「そうだな。俺との対戦があるのに試合直前になって姿を消したんだ。敵前逃亡なんて言葉が世界一似合わん女がな」

 「でしょう? キングであるユーリが逃げる訳ないのよ。と言う事は何者かに連れ去られたんじゃないか?って思ったの…」

 「連れ去られた? えらい物騒な話じゃねえか!? 誘拐されたってのか? 誰が? 何のために?」

 「そんな事わからないよ…」

 「まあ、人一人消えちまったんだ。警察だって動いている。誘拐とかだったらもう少し騒ぎが大きくなってもよさそうなもんだろ?」

 「だからあたしの勝手な想像だって言ったでしょ?」

 「う〜む…」

 二人の間に重い空気が流れ、沈黙の時間が流れる。

 T−REXにしてみれば、せっかく掴んだと思ったユーリの行方に関する情報が無駄とわかり、憮然とした表情でタバコに火をつける。

 アキもそんなT−REXの顔を見つめながらグラスに残っていたビールを一気に飲み干した…。

 

第8話 完

 

あとがき

今回は退屈でしたな。

次回は少々キナ臭い話にする予定。

早くみんなに追いつかないと。

 

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