―第10話―「入れ替え戦」
1
「あーっと、ここで小龍、ついにギブアップだ!! 入れ替え戦、第一試合、『デストロイド・エース』対『小龍』の試合は4ラウンド、1分28秒、エースが跳びヒザ蹴りからのフェイスロックで小龍からギブアップを奪いました! セカンド・ステージランキング2位、小龍、惜しくも力及ばず、無念の敗退となりましたぁ〜!! これにより、エースはファースト・ステージに残留、入れ替え戦初挑戦の小龍は、夢のファースト・ステージへの昇格は見送られることとなりました!!」
実況アナウンサーが絶叫する。
ウインター・カップ、最終戦、数あるFISTの闘いの中でも、最も盛り上がるといわれる、ファースト・ステージとセカンド・ステージの入れ替え戦の第一試合が終わった。
「ゴメン・・・師匠、勝てなかったよ・・・。 やっぱり、ファースト・ステージの壁は厚いや・・・」
小龍のオーナー、アキは悔し涙をこらえ、小龍を大事そうに抱え、控え室へと戻る。
先日行われたタイラントとの一戦で、ボロボロにされた小龍。
機体の調子は万全ではなかった。
しかし、そんな事は何の言い訳にもならないし、誰も聞いてくれない。
アキもそれが敗因とは思っていない。
厳しいようだが、条件は皆同じ。
激戦を潜り抜け、耐え抜いた者だけが、栄光のファースト・ステージに立てるのだ。
控え室に戻ったアキに、次の入れ替え戦、第2試合に出場のT−REXが声をかける。
「アキ、惜しかったな。 まぁ、これで終わったわけじゃねえんだ。 また頑張りな! じゃあな、一足先にファースト・ステージで待ってるからな。 そこで俺の試合を良く見とけや。 すぐに戻ってくる」
会場からタイラントの入場テーマが流れる。
T−REXはタイラントを肩に乗せ、去っていった。
2
T−REXが会場に姿を現すと同時に、観客席から大きな歓声が上がる。
先程のD・エースVS小龍は、Jrヘビー級の小型機同士の対戦であったが、この試合はお互いにスーパーヘビー級、先程とは異なる、大型機同士の対戦に観客のボルテージは最高潮に達しようとしていた。
「タイラント! SET−UP!!」
T−REXの掛け声の下、彼の肩から漆黒のプラレスラー、『タイラント』がリング内に降り立つ。
タイラントは大きく息を吸い込むようなしぐさから、腕組みをして対戦相手がSET−UPするのを待つ。
対戦相手は、ファースト・ステージのランキング12位、『クレイジー・モンスター』。
オーナー『後藤』はT−REXを睨みつけながら自らの分身である、『C・モンスター』をリングに向け、高々と放り投げる。
「クレイジー・モンスター!! SET−U〜P!!!!」
ズシン!!!
タイラントの倍はあろうかと思われる、巨大なプラレスラー『C・モンスター』がリングに降り立つ。
「久しぶりだなぁ〜。 T−REX〜。 お前と対戦できるのを待ちわびたぜぇ〜!! この日のために改良に改良を重ねたんだ。 今日こそ我がC・モンスターがその黒いポンコツをスクラップにしてやるからなぁ〜」
後藤は日頃の鬱憤を晴らすべく吼えまくる。
「…相変わらずうるせえ野郎だな。 俺はな、せっかくの入れ替え戦がテメェみたいな単純バカが相手でウンザリしてるんだ。 テメェなんか眼中にねぇんだよ。 ツブしてやるからさっさとかかってきな!!」
T−REXも負けてはいない。
T−REXに対し、異様な敵対心を燃やす、後藤。
それに対し、T−REXは本当にウンザリした表情で後藤と目を合わせようとしない。
この二人の初対決はもう何年前になるのだろう…?
状況は今と同じ、入れ替え戦が舞台だった。
ファースト・ステージ、ランキング12位のC・モンスターと、セカンド・ステージ、ランキング1位のタイラント。
その時はタイラントの完勝であった。
ゴングと同時にC・モンスターは一方的にタイラントを攻め続けていたが、反撃に転じたタイラントにあっという間に敗れている。
機体を粉々に砕かれたC・モンスターはしばらく戦線離脱を余儀なくされた。
それはプライドの高い後藤にとって屈辱的な敗戦であった。
復活してからも、何度かタイラントと相対することがあったが、一度も勝てなかった。
C・モンスターは『パワー』という点ではFISTに参加しているプラレスラーの中でもトップクラスである。
しかし、T−REXに言わせると、直線的なパワーだけではタイラントに勝てるわけがないのだそうだ。
そして、それはファースト・ステージに在籍している怪物たち(プラレスラー)のオーナー全てがそう感じていることなのである。
力持ちが君臨できるほど、ファースト・ステージは甘くない。
それに気付いていないのは後藤だけ・・・。
セカンド・ステージならそのパワーを生かしてトップに立つことも出来るだろう。
しかし、ファースト・ステージでは、もっと複合的な要素を持つプラレスラーでなければ、その在籍を許されない。
故にC・モンスターはファースト・ステージに上がることは出来ても、勝ち進む事がなかなか出来ないのだ・・・。
「くっくっく・・・このC・モンスターが今までと同じだと思っていたら大きな間違いだぞ!? 今まで以上の強大なパワーと、恐ろしいまでのスピードを身につけたコイツにもはや死角はなぁ〜い!! 見よ!!」
後藤はキーボードを叩き、C・モンスターに指令を送る。
カッ!!
C・モンスターの瞳が光り、背中に装備されたノズルから青白い炎を噴出しながら、リング内を縦横に滑走する。
それはスーパーヘビー級のプラレスラーの『移動速度』としては、目を見張るものがあった。
Jrヘビー級のプラレスラー並みの動きだ。
その大きな機体をロープに預けるたびにリングが大きく揺らぐ。
「わぁ〜はっはっは!! どうだ見たか!このスピードを!! そして、これが数秒後のタイラントの姿だぁ!!」
後藤が絶叫すると同時にC・モンスターはロープを支えるリングの支柱に向かってラリアット!!
グワワ〜ン!!・・・
支柱が曲がり、リング全体が震えた。
「どうだ!? T−REX! タイラントもこの支柱と同様、ボロクソにしてやるぜぇ!!」
後藤は自信満々の表情を浮かべ、T−REXに視線を送る。
T−REXはやれやれといった表情で後藤に視線を送ると冷たく言い放つ。
「後藤さんよ、アンタの見せ場はこれで終わりだ。 しばらく欠場させてやるから少しは頭冷やしてきなっ! おい!ゴング鳴らせ!!」
カーーーーーーーーーン!!
「欠場するのはてめえだ!T−REX!! いけっ! C・モンスター!!」
「ウガーーー!!」
C・モンスターは先程と同じく背中のノズルから炎を吐き、タイラントに向かって突っ込んできた。
「タイラント! 一撃で決めてやれ! これ以上こんなバカの相手をするのは沢山だ!!」
「ウオオオオオオオオ!!」
タイラントはT−REXの声に呼応して、突っ込んできたC・モンスターに向かって大きく振りかぶり、上段から右のエルボー!!
ゴシャ!!!
タイラントのエルボーがC・モンスターの脳天に突き刺さり、哀れC・モンスターは首を引っ込めた亀のようになり、その場に崩れ落ちる。
試合時間わずか4秒。
結果、タイラントはファースト・ステージに返り咲き、T−REXの宣言通り、C・モンスターはしばらく欠場する羽目になってしまった。
3
勝って当然、嬉しくも何ともないといった表情で控え室に戻ったT−REXをアキが出迎える。
「おめでとう。…さすがね…」
「へっ! あんなバカ相手に勝つのは当たり前だ。 いくらプラレスラーを改良したって肝心のオーナーがバカじゃ話にならん」
「バカって、後藤さんのこと?」
「あぁ。 アイツが相手だったらアンタもファースト・ステージに上がれたかもしれんな。 ま、それを言っても始まらんか」
入れ替え戦のカードはランダムである。
当日まで、対戦相手は誰にもわからない。
観客は誰と誰が闘うのか、あれこれ予想をして楽しむ。
それもまた入れ替え戦の魅力の一つとなっている。
「しかしな、アキ。 今日の試合を見て思ったんだが、小龍もこのままでは厳しいぞ!?」
「厳しい?」
「あぁ。 もう一つ、最後に決める大技がないとこれから先、勝てなくなるぞ!? 今回、昇格できなかったとはいえ、入れ替え戦に出場したって事は、小龍はセカンドの連中に完全にマークされたって訳だからな」
「…そうね。 それは私も感じていたんだけど…」
このT−REXのアドバイスを受けて、小龍は必殺技、『回転連舞』を身に付けるのだが、それはまだ先の話である・・・。
「そうだ。 話、変わるが、ジンを覚えているだろ?」
「ええ」
「アイツから昨日連絡があってな、何とかJPWAに参加することになったってよ。 ま、後はアイツがなんか面白い話を仕入れてくるまで気長に待つとしよう」
そして、そのジンから『面白い話?』が飛び込んでくるのだが、それもまだ先の話なのである・・・。
第10話 完
〜あとがき〜
今回はウインターカップの入れ替え戦が舞台です。
小龍は昇格できませんでしたが、タイラントは久しぶり?の勝利で昇格することが出来ました。
これでやっと時間を元に戻せます。
第3話から今回まで、『過去』のお話だったもので。
次回からは時間的に第2話の続きからお話が始まる予定。