オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第11話―「JPWAの女」

 都内某所。

 海辺に面したその場所にそれはあった。

 全日本プラレス会館。

 日本最古にして最大のプラレス組織、『JPWA』の常設会場であり、現在もJPWAの大会はここで行われている。

 初代チャンプに今や伝説と化した名機、『柔王丸』を抱き、マッド・ハリケーン、リキオー、エル・ウラカン等の名勝負を輩出したJPWA。

 だが、第1次プラレスブームの後半から、その勢力は当時の勢いを失い始めていた。

 『プラリンピア』(註)なる他競技の出現と、他団体が台頭してきた為である。

 それに焦った当時のJPWA幹部たちは、かつての人気を取り戻そうと、最も安易な方法を取ったのである。

 『プラレスのエンターテイメント化』

 プラレスを完全にショーと化したのである。

 TVプログラムとしてのプラレス。

 無敵のヒーローのようなチャンピオンプラレスラー。

 アイドル的なルックスのオーナーやそれを盛り上げるためにだけ存在する悪役。

 ベビーフェイス(善玉)とヒール(悪玉)のわかりやすい対立構造で作られる勧善懲悪のドラマ仕立ての演出・・・。

 そして、それらは子供達には非常に受けた。

 ファン層の拡大にも繋がり、JPWAはかつての栄光を取り戻すことに成功する。

 第2次プラレスブームの到来である。

 第2次プラレスブームはJPWAの黄金期でもあった。

 しかし、JPWAの蜜月は長くは続かなかった。

 所詮は子供騙しの戦略であり、ファンに飽きられてきたのである。

 ファンの目が肥えてきた頃、JPWAはまたしても弱体化していった。

 また、JPWAのやり方に不満を抱いていた良識あるモデラーやファンからは完全にそっぽを向かれた。

 TV視聴率の取れなくなったプラレスラーやオーナー、いわば『商品』として魅力のなくなった者たちを実力の有無に関わらず、使い捨てていったJPWAに対し、愛想を尽かしたモデラーたちが、自らの理想を求めて、次々と団体を旗揚げしたのである。

 そして来た、第3次プラレスブーム。

 ブームに乗って、第2次プラレスブームより、更に爆発的に増えたプラレス団体。

 皮肉にも、JPWAが自ら仕掛けたプラレスブームは、他のプラレス組織の誕生を生み出し、結果として、ファンの流出、自らの衰退という事態を招くことになった。

 しかし、今もってJPWAが日本最大のプラレス組織であることには変わりはない。

 そして第3次ブームを迎え、JPWAは新たな戦略を打ち出したのである・・・。

 「…ってことは何か? 言い換えれば、地方団体とかがブッ潰れてったのはJPWAが裏で糸ひいていたって事か?」

 「そこまで言ってないでしょ? 潰れた団体は企業努力が足りなかったって言いたいのよ」

 薄暗い部屋の中、怪しい照明の下、ジンと女が会話をしている。

 ジン・クリタ。

 フリーのモデラーであるジンは、数ヶ月前からJPWAに参加している。

 所属選手になることを嫌ったジンは、ここでもフリーのモデラーとして登録されている。

 JPWAにとっては異例の措置であった。

 「ようするに、だ。 JPWAは今みたいに、団体が多数あるプラレス界の状況をを快く思っていない。 日本プラレス界の統一を願って、かつての勢力を取り戻そうとしているわけだ」

 「そう。 でも前みたいに子供騙しのショーみたいなことはやめて、トップモデラー達を集めて、実力でも日本一の組織になるのが狙いね。 昔ほどの勢力はないといっても、まだJPWAの権限は大きいし、モデラーへの影響力も大きいしね」

 「なるほどね。JPWAにとっちゃ、一石二鳥って訳だ。地方団体や独立団体を潰していって、そこであぶれた優秀なモデラーを集める…。 いや、逆かな? 優秀なモデラーを配下に置くために、他団体を潰していったって方が素直な解釈かな? どっちにしろ、あまり誉められた話ではないな・・・」

 「今のところ、上手くいってるようね。 実際、以前あなたがいたSSSも解散に追い込めたし」

 「そうだよ! SSSが解散しちまったおかげで俺はギャラを貰い損ねたんだからな! 笑い事じゃねぇっつうの」

 「いいじゃない。 そのおかげであたし達、『こういうこと』になってるのよ? ね? もう一度、しよ♪・・・」

 「・・・」

 二人の影が絡み合う。

 第2ラウンド開始・・・。

 隣で静かに寝息を立てる女をベッドに置いて、ジンはシャワーを浴びている。

 この女、名前、なんていったかな?

 ここ(JPWA)に来た時から目をつけていたんだが、意外にオトすのに時間がかかったな。

 まぁ、もう食っちまったわけだし、用はねえな。

 名前なんかどうでもいいや。

 まったく、JPWA幹部の秘書なんてお堅い仕事をしてる割にゃ、激しい女だったな。

 ま、組織の内情知るには女に聞くのが一番手っ取り早いってね。

 しっかし、聞いてもいない事ベラベラ喋りやがって、よっぽどストレスが溜まっていたのかな?

 イカンねぇ、JPWA。

 あんまり女の子にストレス与えちゃいけないよぉ〜。

 まぁいいや。

 面白い話も聞けたし。

 そんな事オイラにゃ関係ねぇかんな。

 さて、さっさと帰るか。

 あんまり長くいて、これから付きまとわれたら厄介だしな。

 ジンは浴室から出て、帰り支度を始める。

 「あれ? ジン君、帰っちゃうの?」

 物音が女の目を覚ましてしまったようだ。

 「ん? あぁ。 明日早いんでね」(←大嘘である)

 「そう。 じゃあ、最後にもう一つ面白い話をしてあげる」

 「なに?」

 「さっきの話だけどね、ひとつだけ、上手くいかなかったところがあるの」

 「どこ?」

 「あなたのお義兄さんがいるところよ」 

 「FIST・・・か?」

 「そう。 はっきり言って、FISTはJPWAが一番潰したい団体なのよ。 優秀なモデラーを集めているのはFIST潰しが目的でもあるのよ。 以前のJPWAだったら、組織力では勝っていたけど、肝心のモデラーの質やプラレスラーではFISTに敵わない所があったからね。 対抗戦でもやったらFISTには絶対勝てなかっただろうし」

 「で、FIST対抗要員としてもモデラーを集めた・・・?」

 「そういうことね。 さっきジン君は『一石二鳥』って言ったけど、『一石三鳥』なのよ」

 1:日本プラレス界統一の為に他団体を解散に追い込む。

 2:そこであぶれたモデラー達を集める。

 3:対FIST。

 「なんてこった・・・。で?上手くいかなかったってぇのは? ・・・ひょっとして『ユーリ・ミヤギ』の引き抜きに失敗したって事か?」

 「さぁ? そこまではわからないわ。 でも、他の団体(のトップモデラー達)みたいにお金や脅しじゃ動かなかったらしいけど。 あそこのチャンピオンは。その辺の詳しい話は知らないわ」

 「金? 脅し? えらい物騒な話だな!?」

 地方団体や独立団体はモデラー個人が資金を調達して運営されているのがほとんどである。

 いくら理想を求めて旗揚げされた団体といえども、台所事情はどこも厳しい。

 JPWAはまず、巨額なギャラを持って各団体のチャンピオン達へ直接攻撃に出たのだ。

 どこの団体も、代表者=チャンピオンとは限らないので、代表者(団体)を無視して個人に話を持っていったのだ。

 「あなた、チャンピオン(トップモデラー)なのに、この程度のギャラで満足しているのですか? JPWAにくればもっと高額なギャラと好待遇を保障しますよ」と。

 いくら単価が下がったとはいえ、プラレスラーは金食い虫である。

 ましてや、チャンピオンクラスともなれば、その開発費や維持費等は相当なものとなる。

 そうしてほとんどのモデラーはJPWAへの移籍を承諾した。

 一度契約してしまえば、後はがんじがらめの契約で身動きできなくしてしまう。

 再度、新団体の旗揚げなど出来なくしてしまったのだ。

 また、金で動かなかったモデラー達(団体)にJPWAは何をしたのか?

 徹底的に興行(大会)の邪魔をしたのである。

 その団体の興行日に合わせ、同じ日に程近い場所でJPWAの興行を打つ。

 その団体の興行(大会)チケットを買い占める。(当然、チケットがないのだから、招待客しか見に来ない)

 観客数の激減。

 もしくはサクラを雇っての嫌がらせ・・・。

 それを繰り返したのである。

 規模の小さな団体はひとたまりもない。

 解散。

 モデラーの流出。

 JPWAへの移籍。

 第3次プラレスブームに入り、JPWAの打ち出した戦略とはこれであった。

 しかし、FISTにはそのどちらの戦略も上手くいかなかったのだ。

 FISTにおけるユーリ・ミヤギの待遇はJPWAの提示したそれに引けを取らなかったし、第一、いくら金を詰まれても、ユーリはFISTを離れる気はなかった。

 また、興行の邪魔をしようにも、当時のFISTの人気や規模はJPWAに迫る勢いにあったので、チケットの買い占めや嫌がらせなど、出来得る状況ではなくなっていたのだ。

 「なるほどねぇ・・・。 予想はしていたが、裏でここまで汚くやってるとは思わなかったな」

 ジンは呆れた顔でタバコに火をつける。

 「まぁ、俺も金欲しさに参加した口だから大きな事は言えねえけどな」

 「でもね、下準備も出来たし、体制も整ってきたみたいだから、そろそろ仕掛けるらしいわよ」

 女は火のついたタバコをジンから取ると、自分の口元に運ぶ。

 「仕掛ける? なにを?」

 「FIST潰しに決まってるじゃないの」

 「なに!?」

 「FIST潰しの第一弾はタイラントと小龍。 どちらもFISTのレベルを知るには格好の相手らしいじゃない?」

 「アニキとアキちゃん!?」

 「とりあえず、二人には今度の大会の招待状を送っといたから、楽しみねぇ♪〜」

 「招待状送ったって、そんなもん無視されちまえばそれまでじゃねえの? 特にアニキはJPWAには何の興味もないはずだぞ? 来るわけねえよ!? 『めんどくせえ』の一言で招待状なんかその場でゴミ箱行きだ」

 「大丈夫よ。絶対に来るわ」

 「?」

 「あの二人はユーリ・ミヤギに特別な思い入れがあるみたいだからね♪」

 「どういう事だ?」

 「さぁね〜♪」

 ジンは首を傾げながら女と別れた。

 これ以上は話の進展もなさそうだし、聞き出せなかった。

 なによりこの女に深入りしたくなかった。

 招待状か・・・

 とりあえず、明日アニキの所に顔だしてみるかな?

 考えるのはそれからだ。

 ジンはくわえタバコのまま歩き出す・・・。

 

第11話  完

 

 PS:

 ・・・その後、ジンもJPWAを離れる決心をする。

 JPWAのやり方についていけなくなった訳ではなく、この女に付きまとわれる羽目になった為である。

 

あとがき

 黒き帝王、前半の山場を迎えたお話でした。

 ジン・クリタに特定のモデルはいませんが、『女性にはルーズだが、マヌケでどこか憎めない奴』というキャラとして大事にしていきたいと思います。

 JPWAは原作にも出てきたプラレス組織ですが、こんなヒドイ事はしていません。

 あくまで、私のお話の中でだけ悪役になってもらっています。

 JPWAに強い思い入れがある方がいらっしゃいましたら先に謝っておきます。

 「あっかんべ〜♪」

 あっ、そういえば今回T−REX出てきてないや。 主人公なのに・・・。 

 

註:プラリンピア

 これも原作に出てきました。 戦車レース、槍投げ、レスリングを行い総合得点を競う競技。

 プラレスラーのオリンピックみたいなもの。

 原作ではこのプラリンピアのお話の途中で連載が終わってしまった!(哀)

 やはり、プラ3U、ケジメをつける意味でもやるべき!!

 

オリジナル・ストーリー目次へ戻る

第10話に戻る

第12話に進む