オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第13話―「ゴージャス・ミカリン」

 まいったなぁ・・・。 どうしよう?

 実はあたしも、もらっちゃってるんだよねえ・・・。

 招待状。

 ま、あたしの場合、郵送じゃなくって、直接、受け取ったんだけど・・・。

 今だ、何やら難しい話をしている父や、ジン、アキの顔を上目遣いに眺めつつ、ヒナは今日の学校での出来事を思い出していた。

 先日、FISTのTV中継で、注目の最年少選手として紹介されて以来、ヒナは学校ではちょっとしたヒーロー(ヒロイン?)だった。

 登下校の途中や休み時間など、常に話題の中心になっていた。

 試合に負けて、からかわれる事はあっても、誉められた事など一度も無かったのだ。

 今までこういった形で注目を浴びたことが無かったヒナにとって、ここ数日は照れ臭くもあるのだが、気持ちのいい日々だった。

 しかし・・・

 「そこのアナタ、ちょっとTVに出たからって、ヘッタクソがイイ気になってるんじゃない?」

 皆に持ち上げられ、鼻タ〜カダカになっていたヒナは、キツイ一言でいきなり現実に引き戻された。

 声の主は・・・

 ヒナの学校では知らぬ者はいないという名物女、『カトウ・ミカ』。

 某企業の重役を父に持つ超ワガママお嬢様。

 5年生でありながら、全身を豪華なブランド物で固め、天然パーマのその髪と、大人びたその顔は派手なフランス人形のようである。

 黙って座っていれば、まさに可愛らしい人形のようなのであるが、一言、言葉を発すれば一瞬にしてそんな印象は消し飛ぶ。

 常に自分に注目が集まっていないと気が済まない性分で、ここ数日のヒナフィーバー?は彼女の気分を害するものだった。

 「あ、カトウ・ミカ・・・」

 ヒナはこのカトウ・ミカが大っ嫌いであった。

 いつも何人かの取り巻きの少女達を従え、女王様気分で学校内を徘徊するこの女を生理的に受け付けなかったし、何より、誰に対しても高圧的で、服従を強いるようなその喋り方が許せなかった。

 そして、彼女はもう一つの顔を持っている事でも、有名である。

 JPWAのジュニア・チャンピオンという肩書きである。

 JPWAは小学生対象のジュニア・クラスを設けており、ミカはそのチャンピオンなのだ。

 「この私を呼び捨てにするなんて、2年生のくせにイイ度胸してるじゃない?  ふふん、TV見たわよ。 でも、あの程度の腕で満足しているなんて、幸せよねえ〜」

 ミカはヒナを見下ろしながら、取り巻きの少女達の同意を求める。

 少女達は「その通り」とばかりに大きくうなずく。

 「いいこと? この学校で、いや、日本全国の小学生の中で、この私が1番、美しくて優秀なモデラーだって事を証明してあげるわ。 私とアナタとの腕の違いを見せてあげる。 私と闘いなさい! クイーン・ローズ、いらっしゃい!」

 ミカの掛け声と共に、取り巻きの少女の一人が大事そうに抱えていたプラレスラーがミカの肩に飛び乗る。

 メタリック・ピンクに彩られた派手な女性型プラレスラー、JPWA認定、ジュニア・チャンピオンのクイーン・ローズだ。

 「闘いなさいって、今ここで?」

 ヒナは一方的にまくし立てられ、戸惑いを隠せない。

 そうなんだ。

 この人はいつも自分本位に話を進めるんだ。

 人の都合なんて考えない。

 だいたいあたしのヴァルちゃんは今、おウチだもん。 いくらなんでも学校に持ってこないよ・・・。

 前に先生に怒られたモンね。

 「バカねぇ。 こんなところで闘う訳ないでしょ? 私のファイトは常に有料なの。 1週間後よ。 JPWAの大会に招待してあげる。 アナタにう〜んと恥をかかせてあげるんだから。 もっと大勢の人の前でね♪」

 そう言うとミカは1枚の封筒をヒナに手渡した。

 「いいこと? これは招待状。 あなたのガラクタと一緒に絶対に来るのよ!? まぁ、あんな安物プラレスラーとなんて闘うまでもないのでしょうけど。 こなかったら学校中に言いふらしてあげる。『弱虫』ってね!」

 愛機ヴァルキリーをバカにされた挙句、弱虫呼ばわりされたのではたまらない。

 「ガラクタだと〜!? にゃろぉ! 誰が弱虫だー!! 行ってやる! 闘ってやる〜!!そんな趣味の悪い派手な奴に負けるもんか!」

 「お〜ほっほっほ♪ 楽しみにしてるわ。 じゃあ、1週間後ね。 詳しくはその封筒をお読みなさい。 では、ごきげんよう♪」

 高らかに笑いながらその場を去っていくミカ・・・。

 「ヒナちゃぁ〜ん、だいじょうぶ?」

 ミカという暴風が過ぎ去った後、まだ興奮しているヒナにユウが恐る恐る声をかける。

 「あ、ユウちゃん。 ごめんね。 もうだいじょぶだよ」

 「でも、嫌な人と関わっちゃったねえ」

 「ふーんだ。 いいチャンスだよ。 逆にやっつけてやるんだから!」

 「でも、あの人、チャンピオンだよ? 勝てるかなぁ・・・?」

 「・・・・・・」

 はっきり言って自信などなかった。

 同じ小学生とはいえ、ミカは5年生。

 しかもチャンピオン。

 いくらTVで注目選手として紹介されようと、ヒナはまだ2年生。

 すべてにおいてミカの方が勝っているのだ。

 いつか、父に言われた言葉、『ヴァルキリーは強い。 それなのに負けるのはお前がヘタクソだからだ』

 今となって、父のその一言が重くのしかかる・・・。

 「くそ〜・・・。 もっと真面目に練習しとけば良かった。 ・・・よし! こうなった以上、特訓だ!」

 「とっくん?」

 「うん。 ユウちゃん、今日から毎日放課後、遊びに行くからね。 STFのリング貸してよ! そだ! コウちゃんにも手伝ってもらおう!」

 「わかったよ、ヒナちゃん。 こうなった以上、私もお兄ちゃんも全面協力するからね!」

 「でも、特訓の事、誰にも言っちゃダメだよ?」

 「どうして?」

 「特訓って秘密にやるものじゃん!?」

 「(そうなのかな?)わかったよ。 あたしとお兄ちゃんだけの秘密にしておくよ♪」

 「よぉ〜し、絶対、勝ってやるんだから〜!!」

 さて、舞台は変わり、ここは居酒屋『錦』。

 「どうした? ヒナ。 ボケっとして・・・」

 「え? なんでもないよ。 ねえ、ジュースもらってもいい?」

 T−REXはさっきから心ここにあらずといったヒナに気付き、声をかける。

 T−REXはジュースを注文し、ジンに尋ねる。

 「ところで、ジン、俺達も少しJPWAの情報が欲しいな。 昔とは大分違っているわけだろ?」

 「そうね。 私もJPWAのTV中継、ほとんど見ないし。 どんな感じなの?」

 「そうッスねぇ。 ま、簡単に言うとね・・・」

 ジンがJPWAについて語った事をまとめるとこのようになる。

 以前のエンターテイメント路線は基本的には変わっていない。

 ただ、第2次ブームの頃と決定的に違うのは、(他団体から吸収した)『実力者』が加わった事。

 これにより、第2次ブームの頃と比べて、全体のレベルが格段にアップしたらしい。

 現在のチャンピオンはプラレスラー『ラ・ヴィアン・ローズ』。

 数々の大技をもつ、正統派テクニシャンといったところらしい。

 相手によって、戦法を変えることで有名で、変幻自在なその闘い方も人気なのだそうだ。

 また、小学生対象の『ジュニア・クラス』を新設し、低年齢層のモデラーとファンの獲得にも乗り出している。

 そして、ファンにとって1番の魅力はWPWA(世界プラレスリング協会)からの招待選手が見られる事だ。

 (いわゆる『外人レスラーの招聘』である)

 通常、雑誌やネット等でしか拝めない海外の『有力選手』(有名選手)をナマで見ることが出来るのは、今のところ、JPWAだけである。

 (FISTでも海外から選手を招待する事はあるのだが、『有力選手』であるかといえば、必ずしもそうではない)

 「まあ、こんなところかな? アニキもアキちゃんも昔のJPWAの印象しかないんだろうけど、今は大分違ってきていると思うよ」

 「なるほどな。 大体わかった」

 「そうね。 ジンさんがいてくれて助かったわ」

 ジンの話を聞き、現在のJPWAの状況を把握したT−REXとアキ。

 と、そこへジュースを飲み干したヒナが口をはさむ。

 「ねえ、ジンちゃん」

 「何? ヒナピー」

 「そのジュニア・クラスのチャンピオンって・・・強いの?」

 「ジュニアの? ああ、クイーン・ローズかい? 一応チャンピオンだからね。 結構強いと思うよ。 打撃も投げ技もいっちょ前に使いこなすからね。 今のところ、ジュニアじゃ敵無しって感じかな?」

 「ふ〜ん。 ありがと・・・」

 妙に難しい顔をしてうつむいてしまったヒナを見てT−REXは声をかける。

 「どうした、ヒナ? 何かあったのか?」

 「いや・・・べつに・・・。 あたしのヴァルちゃんと闘ったらどっちが強いのかなぁ〜って思っただけ・・・」

 「今のお前の腕じゃあ、まだ無理だろうな。 相当練習しなきゃ」

 「そうか・・・」

 「???」

 先程より更に難しい顔をしてうつむいてしまったヒナ。

 大人3人は顔を見合わせる。

 「(今日は来て良かったな。 ジンちゃんにクイーン・ローズの事を聞けたし。 よぉ〜し、明日から改めてユウちゃん達と特訓だ! ぜえ〜〜〜〜〜〜ったい勝ってやる!!)」

 密かに決意を固めるヒナ。

 そして、錦からの帰り道。

 「ねえ、お父さん」

 「なんだ?」

 「あたし、どうやったら早く強くなれるかな?」

 「強くなるのに近道は無いぞ。 俺もタイラントも、散々負けて、強くなっていったんだ。 しかしな、たとえ相手がどんなに強くても、勝機は必ず来るはずだ。 それまでは耐えることだな。 なんだよ、今日はどうしたんだ? 珍しいこと聞いてくるじゃねえか?」

 「いや、なんでもないよ。 あたしも早くセカンド・ステージに上がりたいなぁ〜って思ったからさ・・・」

 「このヤロウ〜。 生意気言ってんじゃねえよ♪」

 T−REXは娘の頭をクシャクシャなでまわす。

 「よし、1つイイ事を教えてやろう。 勝利への秘訣だ」

 「???」

 「どんな奴でも、だいたい勝利を確信した時ってのが一番、隙だらけになるモンなんだ。 今までのお前がそうだ。 思い出してみろ」

 ・・・確かに思い当たる。

 「お前が負ける試合はほとんどがそれだ。 だから格下の奴にもコロッと負けたりするんだよ」

 「・・・そうだね。 そんな気がするよ」

 「それを直すだけでもお前はもっと強くなれるはずだ。 お前の年齢を考えれば、技術的には問題ないんだから。 後は気持ちの問題だよ。 自分は強いと思うことは大事だ。 強い思い(想い)は時に実力以上の力を生み出すものだからな。 もっと自信を持って良いぞ。 ただし過信はイカン。 わかるか?」

 「う〜ん? よくわかんない」

 「はっはっは♪ まあ、いい。 早く強くなってファースト・ステージまで上がって来い♪」

 「うん♪」

 2年生のヒナにとって、今の父の言葉は少々難しかったようだ。

 彼は今まで、ヒナにこのようなアドバイスをした事が無かったからだ。

 それは、勝ち負けより、まずは『プラレスを楽しめ!』と考えていたからだ。

 T−REXは無邪気に笑う娘を肩車する。

 「(結局、招待状の事、言いそびれちゃったな。 まあいいや。 こうなったら当日まで秘密にしといて、お父さん達を驚かせてやろうっと! これはあたしの闘いだもん。 お父さんには関係ないんだ!)」

 そんな娘の決意を知るはずもなく、T−REXは笑いながら歩き出す。

 そして・・・

 T−REXにはいつもと変わりない、

 アキには緊張の、

 ヒナには特訓の、

 それぞれの1週間は『あっ』という間に過ぎていく・・・。

 

 

あとがき

またまた出てきた新キャラ『カトウ・ミカ』。

コマッタちゃんの彼女にもモデルはいます(名前だけね)。 ゴージャスな某芸能人?です。

同姓同名の方がいたらごめんなさい。 

さて、次回からは少し派手な展開になるかな? JPWAの大会編、スタートじゃん!?

 

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