―第14話―「3拍子揃った男」
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先日、全日本選手権を終え、興奮冷めやらぬJPWA。
今日は来るべき世界選手権へ向けての『特別興行』。
開場まで後1時間と迫った全日本プラレス会館の正面ゲートでは、この大会を観戦しにきたプラレスファン達でごった返していた。
本日行われる『特別興行』はお祭り的な要素が強い為、カードは全て伏せてある。
観客達には選手が入場してくるまで、カードを予想して楽しんでもらおうという、JPWA側の戦略である。
この形式はここ最近の『特別興行』の目玉になっており、今のところ、すこぶる好評なのだ。
毎回、『あっ』と驚く、大物ゲストの参戦があり、ファンの期待を裏切る事は無かった。
ファンが群がる正面ゲートを通り過ぎ、『関係者入口』と書かれた裏口へ1台の高級車が滑り込む。
「お〜お〜、大した人気じゃねえか、JPWAさんよ」
真っ黒なリムジンの後部座席から降りたのはT−REX。
「よう、黒服さんよ、JPWAはいつもこんなに人が集まるのかい?」
「・・・・・・」
無言の黒服。
「ちっ! 愛想のねえ奴だな」
黒服の男・・・。
全日本プラレス会館に出向こうとしたT−REXの自宅に、リムジンで迎えに着たJPWAの使者。
全身を真っ黒なスーツで固め、サングラスで覆ったその顔からは、感情というものが感じられない。
やがて裏口が開き、T−REXは場内の様子が一望できる部屋へと通された。
「あ、ヤナギさん」
中にいたのはアキ・タカマツ。
と、おそらくはアキを連れてきたであろう黒服の男。
T−REXの姿を見て安心したような声を出す。
「よぉ、アキ」
部屋の中は高級そうなソファーと机、豪華なシャンデリア。
そして場内の様子を映し出しているTVモニター。
貴賓室といった感じだ。
「ビックリしたわよ。 すっごい車でお迎えに来るんだもの」
「だな。 一々やることが大げさだな。JPWAさんは・・・」
二人が部屋の中をうろうろしているところへ、一人の男が先程の黒服を従え、姿を現す。
童顔を隠すためか、蓄えられた口ヒゲ。
アキと比べても大して変わりない身長。
その割にアキが三人いても勝てないと思われる体重。
おまけにアタマは大分寂しい。
チビ・デブ・ハゲと3拍子そろった中年男だ。
「ようこそ、いらっしゃいました。 ヤナギさん、タカマツさん」
3拍子が話し出す。
「まずは自己紹介から致しましょう。 私はJPWAの副会長をしております、ナカムラと申します」
『ナカムラ』と名乗ったその男は名刺を差し出す。
「副会長と言いましても、実質、JPWAの責任者なのですよ。 会長は現在、病気療養中なのでね・・・。 いやぁ、どうです? この客の入り! FISTさんが台頭してきてから、私どもは大分苦戦してきましてねえ。 やっと、ここまで盛り返すことが出来ましたよ。 いやいや・・・」
「ナカムラさんよ、俺達はアンタと世間話をしに来たんじゃねえんだよ。 早いトコ、本題に入ってくんねえかな?」
T−REXはナカムラの話を途中で遮り、強引に話し出す。
「・・・まぁまぁ、そう焦らないで下さいよ。 私もまわりくどい事は言いません。 では本題に入りましょう」
ナカムラは運ばれてきたコーヒーに山程砂糖を入れ、一息入れる。
「単刀直入に言いましょう。 ヤナギさん、タカマツさん、JPWAに移籍する気はありませんか?」
二人は予想外のナカムラの発言に驚いた。
1週間前、ジンから聞いた話とは大分様子が違う。
「なんだぁ!? 俺達をFISTから引き抜こうってか? アンタ何考えてんだ?」
「そうよ。 いきなり何を言い出すかと思えば、冗談は顔だけにしてよ!」
このナカムラの発言には普段おとなしいアキも思わず、声をあげた。
てっきり、この特別興行とやらに参加させられるものだとばかり思っていた二人は、驚きを通り越して呆れている。
「話にならん。 わざわざアホみたいな車で迎えに来て、何を言い出すかと思えば・・・。 俺達がそんな話に乗るとでも思ったのか? アキ、帰ろうぜ」
二人は部屋から出ようと立ち上がり、出口へ向かう。
そうはさせじと、黒服達がドアの前に立ち塞がる。
T−REX一人なら、ここで暴れてでも帰る所だが、アキのことがある。
そうした場合、彼女の安全は保障できなかった。
「まぁまぁ、落ち着いてください。 せっかくいらして頂いたんだから。 試合だけでも御覧になっていって下さいよ?」
3拍子、ナカムラは葉巻を吹かしながら、余裕の表情で二人を引き止める。
断られるのがわかっていたような表情だ。
二人は強引にソファーに戻された。
「まぁ、とりあえず、先程の話は置いておく事にしましょう。 おっと、もう第一試合が始まってしまった・・・」
TVモニターからはその様子が流れ、観客たちの歓声が響き渡る。
ナカムラがどこまで本気なのか?
紳士的な口調と、目が笑っていない笑顔からは、得体の知れない不気味さが漂ってくる・・・。
2
しばしの沈黙の後、T−REXが切り出す。
「そういや、ナカムラさんよ、『アレ』はどういう事だ?」
「あれ?」
「招待状に同封されてたモンの意味だ。『例の女・・・』って奴だよ」
「お〜ほほほほ♪『アレ』ですか。 もう大体、何の事かお解かりなんでしょう?」
「ま、大体はな・・・」
「それなら話は早い。 どうです? ここは交換条件って事で?」
「交換・・・条件?」
「そうです。 あなた方が移籍を承知してくれたら『例の女』に関する情報を教えましょう」
「・・・このチビ! てめぇ、調子にのってんじゃねえぞ!?」
「そうよ! このデブ!! いい加減にしなさいよ!!」
アキも思わず叫びだす。
ナカムラは『チビ』『デブ』と続けざまに罵られ、顔を引きつらせるが、かろうじて冷静を装う。
「ほっほっほ。 FISTの方は口が悪いですなあ。 わかりました。 移籍の話は無かった事にして下さい。 元々、あなた方が素直に移籍して下さるとは、私も思っていませんでしたからね。 そのかわり、例の女の情報は無しということで。 よろしいですね?」
いくらユーリに関する情報が欲しい二人も、こんな一方的で無茶苦茶な条件を呑める訳が無かった。
二人が反論の言葉を捜している間に、ナカムラは次の条件を話し出す。
「では、こうしましょう。 実は今回の特別興行、あなた方の他にもう一人、他団体からゲストを呼んでありましてね? その方はこの後、試合に参加して下さるんですよ。 でもせっかくの特別興行、その方だけではイマイチ盛り上がらない。 そこで・・・」
「俺達にも試合に出てくれってんだろ? プラレスラーにまで招待状を送るくらいだ。そんな事、アホでもわかるわ」
またもや、T−REXはナカムラの発言を遮り、彼が言おうとしていたであろう言葉を続ける。
「おお! さすがはヤナギさん。 話が早いですなぁ! FISTさんを代表する実力者が二人も参加してくれれば、この特別興行も大成功!という訳ですよ。 もちろん、ギャラはお支払いいたしますよ?」
「あのなあ、何で俺達がアンタらの興行を盛り上げなくちゃならんのだ?」
「お〜ほほほ♪ まぁ、これは無理な相談でしたかな? 我がJPWAの精鋭達が相手では勝ち目が無いとでも言うのですかな? つまり自信がないと・・・。 我々はWPWA(世界プラレス協会)と交流をもっている。 当然、世界の強豪とも闘って来たという経験と実績がありますからな。 FISTさんはまだ本当の世界のレベルを知らない訳ですし、逃げたくなるのもわからない訳ではないのですが・・・」
「何だと、このハゲ! 面白いこと言うじゃねえか? つまらねえ挑発しやがって。 いいだろう、やってやるよ! アンタの言うJPWAの精鋭とやら、俺達がブッ潰してやる!」
「いいんですね? 負けたら赤っ恥ですよ?」
「赤っ恥かくのはアンタ等の方よ! 何を考えてるのか知らないけど、アンタの思い通りにはいかないから!!」
アキはこのナカムラという男に心底、腹が立っていた。
普段はおとなしく、あまり自分の感情を表に出すことの無いアキが、ここまで感情を表に出すのは珍しかった。
T−REXも同じく、ナカムラには腹を立てていたのだが、彼の方がまだ冷静であった。
「じゃあ、こっちからも条件を出そう。 このままじゃ、俺達に何のメリットも無いからな。 その試合、俺達FISTの人間が勝ったら『例の女』の情報を教えてもらおう!」
「そうね。 それを約束してくれなきゃ、私達FISTの者は動かないわよ!」
「・・・いいでしょう。 約束しましょう」
そう言ったナカムラの顔は、・・・笑っていた。
「あなた方FISTの人間、『三人とも』勝ったのなら、例の女の事を教えましょう! 約束します」
「三人!?」
「そうですよ♪ さぁ、まずは一人目の入場です!!」
『三人』の意味がわからず、T−REXとアキは顔を見合わせる。
そして二人は、ナカムラの指差すTVモニターに、信じられない光景を見た。
リングに向かう花道を、スポットライトに照らされ歩いてくる、見覚えのある小さな人影を。
「ヤ・・・ヤナギさん・・・あの娘!・・・」
「ヒナっ!?」
完
あとがき
3拍子、ナカムラの登場です。 3拍子は3重苦でも良かったんだけどね。(んなこたどうでも良い)
さて、次回はいよいよ『クイーン・ローズ』VS『ヴァルキリー』!!
ヴァルキリーの戦闘シーンを書くのは初めてだな。
実力差のあるミカのクイーン・ローズに対し、ヒナのヴァルキリーはどう闘うのか!?
どんな試合になるのか自分でも楽しみ!