―第15話―「トラ・トラ・トラ!」
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「ヒナっ!?」
なんで?
何でアイツが花道を歩いてるんだ?
T−REXはTVモニターに映し出される愛娘の姿が信じられなかった。
「てめぇ! ナカムラ!! これはどういう事だ!!」
T−REXは怒りをあらわに、ナカムラへ詰め寄ろうと立ち上がった。
しかし、控えていた黒服の男達に阻まれ、ナカムラに近寄ることが出来ない。
「落ち着いて下さいよ。 これは本人も同意の上です。 あなた方と同じように招待状を受け取り、今日の参戦を了承したのですよ。 父上である貴方が、何も聞いていなかったのですか? いけませんなぁ。 コミニュケーションが不足していますよ?」
ナカムラはニヤリと笑いながら答える。
「招待状を受け取っただと・・・?」
「そうですよ。 1週間前に、対戦相手であるウチの選手から直接、手渡された筈ですが?」
「ヤナギさん、ホントにヒナちゃんから何も聞いてないの?」
アキも信じられないと言った顔つきでT−REXに詰め寄る。
「なんか、最近、様子がおかしいとは思っていたんだが・・・まさか」
呆然とTVモニターを覗き込むT−REX。
TVからは、アナウンサーの絶叫する声が聞こえてくる・・・。
「さぁ、本日のスペシャルゲストはなぁ〜んと、我がJPWAの宿敵、あのFISTから登場だ!! FIST、サード・ステージ代表、ヤナギ・ヒナ!! プラレスラーはヴァルキリー!!!」
それまで歓声で支配されていた会場は、『FIST』の言葉に一気に怒号とブーイングにかわった。
「これを迎え撃つのは、我らがアイドル! JPWA認定、ジュニア・チャンピオン! カトウ・ミカ!! プラレスラーは、お馴染みクイ〜ン・ローズ!!」
うおおおおおおおおおお!!!!!
アナウンサーがミカのコールをした途端に巻き起こる、大歓声。
老舗であるJPWAのファンはFISTに限らず、他団体の存在を快く思っていない連中が多い。
昔から見続けてきた愛着もあるのだろうが、コアなJPWAファンにとって、ゲスト参加であろうが、招待選手であろうが、新興団体に所属するモデラーは『敵』そのものなのだ。
ましてや、ヒナはJPWAのファンにとってはほとんど、無名の存在である。
(FISTの中にあっても、サード・ステージに在籍しているヒナの名前を知っている者はあまりいない。 参加人数が多い為もあるのだが。 ついでに言うと、T−REXとヒナが親子であると言うことも、あまり知られていない。 公表していない事もあるが、FISTには『T-REX』として選手登録されており、本名は公開していない為。 もちろん、マニアには周知の事実である)
そんな無名の選手が、事もあろうにジュニア・チャンピオンと闘う。
誰だか知らない無名の子供が、憧れのチャンピオンの相手?
それだけでJPWAファンにとっては許せない事であり、完全にヒナは『敵』なのだ。
それは子供であろうが関係ない。
一方、ジュニア・チャンピオンである、ミカの人気は凄まじいものがあった。
愛くるしいルックスも手伝って、JPWAでは圧倒的な人気を誇っている。
(JPWAには『ミカ・マニア』と呼ばれる連中まで存在している)
その辺はミカも心得ており、普段の学校でのあの傍若無人なワガママ振りは微塵も見せず、カワイコぶりっ子を演じているのである。
「(うふふふ♪ 計算通りだわ。 観客は全て私の味方。 あなたはこの四面楚歌の状態で私と闘わなければならないのよ。 こんな大観衆の中で闘ったことなんてないでしょう? プレッシャーで潰れてしまいなさい!)」
ミカは正面に位置したヒナを見ながらほくそえむ。
「うわー・・・すごい人だ。 FISTでも、こんな大勢の人の前で試合したことはないなぁ」
ヒナは不思議なほど落ち着いていた。
自分に向けられる、敵視した視線に気付かないわけではなかったが、なぜだろう、あまりにも現実離れしたこの状況に、テレビでも見ているような気分でいたのだ。
そして、自分はそのテレビの主人公なのだ。
そう考えると、不思議と緊張した気分は消え失せ、妙に落ち着いた気持ちになれたのだ。
程よい緊張感と、高揚した気分。
ミカの思いとは裏腹に、ヒナの精神状態は最高の状態にあった。
両者がリングサイドのコックピットに座り、パソコンをセット。
「両者、プラレスラーをセット・アップして!!」
レフェリーの合図と共にリング上に飛び出す2機のプラレスラー。
「クイーン・ローズ、セット・アップ!!」
ミカの左肩から、真っ白なドレスを纏ったクイーン・ローズがリング上に降り立つ。
「ヴァルキリー、セット・ア〜ップ!!」
同じく、ヒナの肩から勢い良く飛び立つヴァルキリー。
お互いのコーナーを背に、リング上で2機が向かい合う。
それを確認した後、レフェリーが二人に注意を促す。
「この試合はJPWA・ジュニア部門の公式ルールに乗っ取って行う。 3分を1ラウンドとし、それを5ラウンド行う。 決着がつかない場合は、3人のジャッジによって勝敗を決定する。 いいね?」
「うふふふ♪ 5ラウンドもいらないわ。 見に来てくれたファンの皆様には申し訳ないけど、1ラウンドで終りよ」
ミカが天使の笑顔でレフェリーとヒナに語り掛ける。
「うん。 5ラウンドもいらないよ。 1ラウンドであたしが勝つからね♪」
ヒナも負けてはいない。
「なぁんですってぇ〜!? フザけたこと言ってんじゃないわよ!! ナメた事言ってるとブッ殺すわよ!!」
「あ、やっといつものミカに戻った・・・」
・・・舌戦はヒナが一歩リード。
もちろん、1ラウンドで勝つ自信などなかった。
言ってみただけだ。
「ふん! いいでしょう! もしも、万が一、私に勝つことが出来たら、このベルトを、JPWA・ジュニア・チャンピオンの称号をくれてやるわよ!! そのかわり、負けたらどうなるか、わかってるんでしょうね!!」
興奮のあまり、ミカがとんでもないことを言い出した。
レフェリーが慌ててミカをなだめる。
観客達にこの会話が届いているわけはない。
しかし、いつもと違うミカの様子に唖然としている。
「うるさいわね! あんたはジャッジだけしてればいいのよ! 早くゴングを鳴らしなさい!!」
カーーーーーーーーーン!!
澄み切った音色が響き渡る。
と、同時に会場内のボルテージは一気に上がる!!
ドレスを脱ぎ去り、ヴァルキリーの様子を伺うクイーン・ローズ。
しかし、ドレスを脱ぎ去るほんの一瞬、クイーン・ローズはヴァルキリーの姿をLOST。(見失った)
「!?」
「いっけー! ヴァルちゃん!! ローリング・ヒップアタック!!!!」(註1)
ガシャーーーーン!!!!
不意を付かれたクイーン・ローズのドテっ腹を、ヴァルキリーのヒップアタックが捕らえる。
勢いあまって場外に転落するクイーン・ローズ。
「汚いじゃないの!! いきなりなにするのよ!!」
いきり立つミカ。
「へっへ〜〜ん! ゴングはもう鳴ってるんだから! よそ見しているあんたが悪いだも〜ん!」
そして、場外で体勢を立て直すクイーン・ローズに向かって、トペ・コンヒーロ!!(註2)
グワシャーーーーーン!!!
こんなにキレイにこの技が決まったなんて、初めてじゃない?と思うくらい、見事に決まった。
「うっきー! やったぁ! よくやった! ヴァルちゃん! えらいぞ!!!」
ヒナは嬉々とした表情でヴァルキリーを誉める。
ヴァルキリーは場外で倒れこむクイーン・ローズを見下ろし、リングに戻る。
観客席からは怒涛のブーイング!! 会場が揺れる!!
「なんだよぉ・・・ ゴングが鳴ってるのに油断する方が悪いんだぞぉ・・・」
ヒナは思わず、会場内を見渡す。
「そうね。 油断するのはいけないわね」
「!?」
場内のブーイングに気を取られたヒナとヴァルキリー。
その瞬間、いつのまにかリングに戻っていたクイーン・ローズに、バックを取られるヴァルキリー。
「あっ! いつのまに・・・」
ヴァルキリーの抵抗も空しく、クイーン・ローズは美しいブリッジを描いて、投げっぱなしのジャーマン・スープレックス!
そして間髪いれず、コーナー最上段からひねりを加えたサマーソルト・ドロップ!!(註3)
更に、横たわるヴァルキリーに、ハイジャンプ・エルボードロップ!!
JPWA・ジュニア・チャンピオン、クイーン・ローズの逆襲が始まった・・・。
完
あとがき
ついにゴングの鳴った、クイーン・ローズVSヴァルキリー!
T-REXの心配をヨソに、以外にも落ち着きを見せるヒナ。
ヴァルキリーの奇襲で始まったこの試合。今後どうなってしまうのか!?
まぁったく決めていません。書いている時のノリで、試合内容と結末が変わっていきますんで、
自分でもどうなるのか・・・? ご期待下さい。
註1:『ローリング・ヒップアタック』
プラレスラー紹介では『前方回転ヒップアタック』として記載されている、ヴァルキリーの必殺技の1つ。
体育座りの体勢で全身を抱え込み、回転しながら相手に突っ込んでいく捨て身技。
(転がっていくワケじゃないですよ。背面に装備されたバーニアで推力を得て、飛んでいく技です)
ブルー君の『蒼き疾風・第3話』では『ダイビング・ピーチボンバー』として紹介されています。
註2:『トペ・コンヒーロ』
場外にいる相手に向かって、リング上から助走をつけて、トップロープの上を回転しながら飛び越え、
背面からぶつかっていく、これも捨て身の技。
註3:『サマーソルト・ドロップ』
転倒している相手に、ジャンプしながら前方回転して、背中から相手に落ちていく技。
元・全日本プロレス『マイティ井上』選手の得意技でもある。
マイティ選手がこれを出すと、会場が一気に盛り上がったものである。