オリジナル・ストーリー黒き帝王

 

―第16話―「くっそぉ〜!!」

 「あぁ〜! なにヨソ見してるんだ!? あのバカ娘が!!」

 TVモニターを見て、絶叫したのはT−REX。

 「ヤナギさん、落ち着いて! あなたがここで叫んだってどうしようもないでしょ?」

 アキが興奮するT-REXをなだめる。

 「どうです? 我がJPWA・ジュニア・チャンピオンの実力は?」

 ナカムラがニヤけた顔で、T−REXを覗き込む。

 「フン! まだ試合は始まったばかりだろうが。 言っとくがなあ、ヒナはそう簡単にはやられねえぞ!?」

 ・・・強がってはみたものの、『簡単にはやられない』その根拠などない。

 負け惜しみに過ぎなかった。

 ヒナの実力はわかっているつもりだ。

 おそらく、この試合、勝てないだろう。

 FISTでの戦績も、勝率は5割というところだ。

 勝つときは派手に勝つが、負けるときは格下の相手にもコロリと負ける。

 性格的にムラがあるのだ。

 ましてや、こんな大会場、大観衆に囲まれて、しかも回りは全て敵。

 こんな異常な状況は、今だかつて経験した事などないハズだ。

 とてもじゃないが、まともな精神状態でいられるワケがない。

 たまたま先制攻撃が上手くいったが、その後すぐに反撃を食らっている。

 ノボセている証拠だ。

 「アキ、あのクイーン・ローズ、どう思う?」

 「悪くないわ・・・。 ここ(JPWA)のレベルは良くわからないけど、反応も、立て直しの早さも大したものよ」

 「だな。 FISTならセカンド・ステージにいてもおかしくないって感じだな」

 「ええ。 オーナーの腕も悪くないわ。 さすがにチャンピオンね」

 「ああ。 だが、あれはオーナーの腕と言うより、機体の性能がいいんだろうよ」

 二人が小声で話しているところに、ナカムラが口をはさむ。

 「さすがですなあ。試合が始まってまだ1分足らずの間にそこまで分析なさるとは!」

 ナカムラは大袈裟に驚いてみせる。

 「やかましい! んなこた、見りゃあ、わかるんだよ! 少しは黙ってろ!」

 毒づくT−REXだったが、その視線はTVモニターから離れることはなかった。

 モニターからはヴァルキリーを攻め立てるクイーン・ローズの姿が流れてくる・・・。

 「あ〜はっはっはっは♪ さっきまでの威勢の良さはどこにいったの? それとも、もう降参?」

 上機嫌でヴァルキリーを攻め立てるクイーン・ローズ。

 ミカの笑い声が響き渡る。

 先程のハイジャンプ・エルボードロップから、ヴァルキリーを無理やり引き起こし、ロープに振ってからドロップキック。

 ダウンするヴァルキリーに今度はギロチン・ドロップ。

 更にストンピングの嵐!

 たまらず、場外に逃げるヴァルキリー。

 しかし、ダウンしたまま立ち上がれないヴァルキリー。

 リング上では勝ち誇った表情?でクイーン・ローズが、ヴァルキリーを見下ろしている。

 「くっそ〜・・・。反撃のチャンスが見えないよ。 一気に攻撃、貰い過ぎたなぁ・・・」

 連続攻撃を受けてしまったヴァルキリーを立ち上がらせようと、ヒナは慎重にキーボードを叩く。

 ヴァルキリーはヨロヨロと、エプロンサイドまで上り、トップロープに手をかける。

 そこへ待ってましたとばかりに、ロープをはさんでクイーン・ローズがヴァルキリーを捕まえる。

 「リングアウト負けなんかにはさせないわ! リング上でバラバラにしてあげるんだから!」

 クイーン・ローズはブレーンバスターの体勢に入り、一気にヴァルキリーを投げ飛ばす!

 しかし、ヴァルキリーは上手く体勢を入れ換え、脚から着地。クイーン・ローズのバックを取る。

 「おっかえしだ〜!」

 気合一閃、クイーン・ローズをジャーマン・スープレックスで放り投げるヴァルキリー。

 ホールド!

 カウントが入る!

 「・・・・・1!・・・2!・・・・・」

 ガバッ!!!

 カウント3直前に跳ね起きるクイーン・ローズ。

 途端に巻き起こる観客達の地響き。

 「ふん! ジャーマン、一回くらいでフォールが取れると思ったら大間違いよ!」

 そう言ったミカの表情は冴えない。

 タイミング的には3カウント入ってもおかしくなかった。

 まさかブレーンバスターを切り返されて、逆にジャーマンで投げられるとは思わなかったのであろう。

 それはレフェリーも同様であった。

 その為、カウントに入るタイミングが微妙に遅れてしまい、結果的にミカはレフェリーのミスに救われた格好となってしまった。

 プライドの高いミカは、それが許せなかった。

 そして、その怒りはヒナとヴァルキリーにぶつけられる。

 「許せない・・・。只のフォール勝ちじゃ気が済まないわ! コナゴナに砕いてくれる!!」

 ミカが呟く。

 と同時にヴァルキリーに向かって突進するクイーン・ローズ。

 しかし、ここで1ラウンド終了のゴング。

 「ゴングに救われたわね」

 ミカは余裕の表情を取り戻していた。

 お互いのコーナーにて、オーナー達は機体のチェックに入る。

 「ちょっと、ナメ過ぎていたみたいね。そろそろ、決めるわよ、ローズ。こんな試合していたら、お姉様に叱られてしまうわ」

 ミカはクイーン・ローズのダメージをチェックする。

 「・・・ダメージは、大したことないわね。大体、あんな安物のプラレスラーがローズに勝てるわけがないのよ。 大体、この機体は・・・」

 一方、ヒナも同様にヴァルキリーのダメージチェックに余念がない。

 「う〜ん。 ちょっと、痛いなぁ。 でも、まだイケる!! チャンピオンって言ったって、全く歯が立たないワケじゃない事がわかったぞ。 ユウちゃん達といっぱい特訓したんだ。絶対に勝てる!!」

 この対戦が決まった1週間前から、シマムラ・テクニカル・ファクトリーで、コウとユウと共に、特訓をしてきたヒナ。

 貴重な時間を割いて手伝ってくれた二人の為にも、負けるワケにはいかなかった。

 そして、この会場のどこかで見ているであろう、父、T−REX。

 その父に一言も相談することなく、勝手にこのような事になってしまい、怒られるであろうと覚悟していた。

 でも、この試合に勝てば、そのカミナリも少しは和らぐのではないか?

 そうだ! 勝てばいいんだ。

 その時は胸を張って父の前に出ることが出来る。

 少しはあたしのことを見直すに違いないぞ!?

 そんなことを考えていた。

 カーーーーーーン!

 そして第2ラウンド開始のゴング。

 「いっくぞぉ!ヴァルキリー!」 

 先手必勝、身構えるクイーン・ローズに突撃していくヴァルキリー・・・。

 控え室のTVモニターを、心配そうな顔をして見ているのは、T−REXとアキだけではなかった。

 「うわっ! ヒナピー! それじゃダメだ!!」

 モニターを見て、叫んでいるのは『ジン』。

 JPWAにフリー参戦している、ジン・クリタ。

 彼は、今日の特別大会に出番がなかった。

 マシントラブルなどで、急遽、試合出場できなくなった選手の代打として、スタンバイしていたのだ。(させられていた)

 (更に言うなら、T−REXとアキに、試合出場を断られた場合の保険として、会場入りさせられていた。)

 「くそっ! 何であの時、気が付かなかったかなぁ・・・?」

 1週間前、『錦』で逢った時、ヒナにクイーン・ローズの事を尋ねられたのを思い出す。

 わかっていれば、もっと詳しく対策を教えてあることが出来たハズ。

 しかし、今の自分に出来ることなど、何もない・・・。

 「ヒナピーよ、まだクイーン・ローズは3割程度しか実力を出していないぞ!? 大体、まだ、『アレ』が出ていない。 ヴァルキリーがそこまで持てばいいんだが・・・。いや、その時点で、もうヴァルキリーに勝ち目はない・・・か」

 ジンはモニターを見つめながらうなだれる・・・。

 2ラウンド開始のゴングと同時に飛び込んでいったヴァルキリーだったが、待っていたのはクイーン・ローズの右ヒザ。

 「あぐっ!!」

 カウンターのヒザを鳩尾にもらい、のた打ち回るヴァルキリー。

 そのヴァルキリーの顔面にローズのサッカーボールキック!

 ガコン!!

 吹っ飛ぶヴァルキリー。

 ヒナのディスプレイに警告メッセージが流れる。

 更に、ダウンするヴァルキリーにニードロップ。

 これは間一髪、逃れたヴァルキリーだったが、強烈な打撃を連続で食らい、動きが一気に鈍る。

 「今のは痛いなぁ・・・。大丈夫? ヴァルキリー、まだいける?」 

 次々と襲ってくるクイーン・ローズのパンチや手刀、キックを避けながらヒナはダメージをチェックする。

 「まだ、いけるね! よぉ〜し、見てろぉ!!」

 体勢を立て直したヴァルキリーは、得意のラフ攻撃へと転じた。

 しかし、当たらない!

 小刻みにパンチやキックをヒットさせるローズに対し、ヴァルキリーの打撃はことごとくかわされる。

 「あははは♪ 当たらないわねえ!」

 ミカが余裕の表情でヒナを見下す。

 「くっそぉ〜・・・!!」

 徐々にではあるが、細かいダメージが、ヴァルキリーに蓄積されていく・・・。

 「そぉ〜れ! これで最後よ!」

 クイーン・ローズが渾身の右ストレート!

 しかし、間一髪、ジャンプでこれを逃れたヴァルキリーは、そのままローズの頭を両脚で挟み込み、後方回転!

 フランケンシュタイナー!!

 一回転してクイーン・ローズの頭がマットにめり込んだ。

 「あぁ!!」

 ふらつきながら立ち上がるローズに対し、今度は飛びつき腕十字!!

 ビキッ!!

 リング中央で、腕ひしぎ逆十字固めが決まった。

 ローズの左腕が悲鳴を上げる。

 「ちっ!」

 「どうだ!? 早くギブアップしろぉ! 左腕、折れちゃうぞ!!」

 「ギブアップですってぇ!? 冗談じゃないわよ。この程度の技で、私のクイーン・ローズがギブアップするわけないでしょう!?」

 ミカはキーボードを叩き、強引に脱出を図る。

 ギシギシギシ・・・。

 パワーで強引に立ち上がるローズ。

 ついには技をかけているヴァルキリーをそのまま持ち上げてしまった。

 そして、そのままリングに叩きつける。

 ガシャーン!!

 後頭部をしたたかに打ち付けられたヴァルキリー。

 と、ここで第2ラウンド終了のゴング。

 ジュニア・チャンピオンとして、絶対に負けられないミカ。

 ユウ達のためにも、絶対に負けられないヒナ。

 女?の闘いはまだ続く・・・。

 

完 

 

あとがき

 決着、つきません。

 次回でこの試合は終わる予定。

 試合のシーンになると、どうしても技の名前が多く出てきます。

 プロレスや格闘技に興味がない人には、何をしているのかさっぱりわからないでしょう。

 ごめんなさいね。

 

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