―第16話―「くっそぉ〜!!」
1
「あぁ〜! なにヨソ見してるんだ!? あのバカ娘が!!」
TVモニターを見て、絶叫したのはT−REX。
「ヤナギさん、落ち着いて! あなたがここで叫んだってどうしようもないでしょ?」
アキが興奮するT-REXをなだめる。
「どうです? 我がJPWA・ジュニア・チャンピオンの実力は?」
ナカムラがニヤけた顔で、T−REXを覗き込む。
「フン! まだ試合は始まったばかりだろうが。 言っとくがなあ、ヒナはそう簡単にはやられねえぞ!?」
・・・強がってはみたものの、『簡単にはやられない』その根拠などない。
負け惜しみに過ぎなかった。
ヒナの実力はわかっているつもりだ。
おそらく、この試合、勝てないだろう。
FISTでの戦績も、勝率は5割というところだ。
勝つときは派手に勝つが、負けるときは格下の相手にもコロリと負ける。
性格的にムラがあるのだ。
ましてや、こんな大会場、大観衆に囲まれて、しかも回りは全て敵。
こんな異常な状況は、今だかつて経験した事などないハズだ。
とてもじゃないが、まともな精神状態でいられるワケがない。
たまたま先制攻撃が上手くいったが、その後すぐに反撃を食らっている。
ノボセている証拠だ。
「アキ、あのクイーン・ローズ、どう思う?」
「悪くないわ・・・。 ここ(JPWA)のレベルは良くわからないけど、反応も、立て直しの早さも大したものよ」
「だな。 FISTならセカンド・ステージにいてもおかしくないって感じだな」
「ええ。 オーナーの腕も悪くないわ。 さすがにチャンピオンね」
「ああ。 だが、あれはオーナーの腕と言うより、機体の性能がいいんだろうよ」
二人が小声で話しているところに、ナカムラが口をはさむ。
「さすがですなあ。試合が始まってまだ1分足らずの間にそこまで分析なさるとは!」
ナカムラは大袈裟に驚いてみせる。
「やかましい! んなこた、見りゃあ、わかるんだよ! 少しは黙ってろ!」
毒づくT−REXだったが、その視線はTVモニターから離れることはなかった。
モニターからはヴァルキリーを攻め立てるクイーン・ローズの姿が流れてくる・・・。
2
「あ〜はっはっはっは♪ さっきまでの威勢の良さはどこにいったの? それとも、もう降参?」
上機嫌でヴァルキリーを攻め立てるクイーン・ローズ。
ミカの笑い声が響き渡る。
先程のハイジャンプ・エルボードロップから、ヴァルキリーを無理やり引き起こし、ロープに振ってからドロップキック。
ダウンするヴァルキリーに今度はギロチン・ドロップ。
更にストンピングの嵐!
たまらず、場外に逃げるヴァルキリー。
しかし、ダウンしたまま立ち上がれないヴァルキリー。
リング上では勝ち誇った表情?でクイーン・ローズが、ヴァルキリーを見下ろしている。
「くっそ〜・・・。反撃のチャンスが見えないよ。 一気に攻撃、貰い過ぎたなぁ・・・」
連続攻撃を受けてしまったヴァルキリーを立ち上がらせようと、ヒナは慎重にキーボードを叩く。
ヴァルキリーはヨロヨロと、エプロンサイドまで上り、トップロープに手をかける。
そこへ待ってましたとばかりに、ロープをはさんでクイーン・ローズがヴァルキリーを捕まえる。
「リングアウト負けなんかにはさせないわ! リング上でバラバラにしてあげるんだから!」
クイーン・ローズはブレーンバスターの体勢に入り、一気にヴァルキリーを投げ飛ばす!
しかし、ヴァルキリーは上手く体勢を入れ換え、脚から着地。クイーン・ローズのバックを取る。
「おっかえしだ〜!」
気合一閃、クイーン・ローズをジャーマン・スープレックスで放り投げるヴァルキリー。
ホールド!
カウントが入る!
「・・・・・1!・・・2!・・・・・」
ガバッ!!!
カウント3直前に跳ね起きるクイーン・ローズ。
途端に巻き起こる観客達の地響き。
「ふん! ジャーマン、一回くらいでフォールが取れると思ったら大間違いよ!」
そう言ったミカの表情は冴えない。
タイミング的には3カウント入ってもおかしくなかった。
まさかブレーンバスターを切り返されて、逆にジャーマンで投げられるとは思わなかったのであろう。
それはレフェリーも同様であった。
その為、カウントに入るタイミングが微妙に遅れてしまい、結果的にミカはレフェリーのミスに救われた格好となってしまった。
プライドの高いミカは、それが許せなかった。
そして、その怒りはヒナとヴァルキリーにぶつけられる。
「許せない・・・。只のフォール勝ちじゃ気が済まないわ! コナゴナに砕いてくれる!!」
ミカが呟く。
と同時にヴァルキリーに向かって突進するクイーン・ローズ。
しかし、ここで1ラウンド終了のゴング。
「ゴングに救われたわね」
ミカは余裕の表情を取り戻していた。
お互いのコーナーにて、オーナー達は機体のチェックに入る。
「ちょっと、ナメ過ぎていたみたいね。そろそろ、決めるわよ、ローズ。こんな試合していたら、お姉様に叱られてしまうわ」
ミカはクイーン・ローズのダメージをチェックする。
「・・・ダメージは、大したことないわね。大体、あんな安物のプラレスラーがローズに勝てるわけがないのよ。 大体、この機体は・・・」
一方、ヒナも同様にヴァルキリーのダメージチェックに余念がない。
「う〜ん。 ちょっと、痛いなぁ。 でも、まだイケる!! チャンピオンって言ったって、全く歯が立たないワケじゃない事がわかったぞ。 ユウちゃん達といっぱい特訓したんだ。絶対に勝てる!!」
この対戦が決まった1週間前から、シマムラ・テクニカル・ファクトリーで、コウとユウと共に、特訓をしてきたヒナ。
貴重な時間を割いて手伝ってくれた二人の為にも、負けるワケにはいかなかった。
そして、この会場のどこかで見ているであろう、父、T−REX。
その父に一言も相談することなく、勝手にこのような事になってしまい、怒られるであろうと覚悟していた。
でも、この試合に勝てば、そのカミナリも少しは和らぐのではないか?
そうだ! 勝てばいいんだ。
その時は胸を張って父の前に出ることが出来る。
少しはあたしのことを見直すに違いないぞ!?
そんなことを考えていた。
カーーーーーーン!
そして第2ラウンド開始のゴング。
「いっくぞぉ!ヴァルキリー!」
先手必勝、身構えるクイーン・ローズに突撃していくヴァルキリー・・・。
3
控え室のTVモニターを、心配そうな顔をして見ているのは、T−REXとアキだけではなかった。
「うわっ! ヒナピー! それじゃダメだ!!」
モニターを見て、叫んでいるのは『ジン』。
JPWAにフリー参戦している、ジン・クリタ。
彼は、今日の特別大会に出番がなかった。
マシントラブルなどで、急遽、試合出場できなくなった選手の代打として、スタンバイしていたのだ。(させられていた)
(更に言うなら、T−REXとアキに、試合出場を断られた場合の保険として、会場入りさせられていた。)
「くそっ! 何であの時、気が付かなかったかなぁ・・・?」
1週間前、『錦』で逢った時、ヒナにクイーン・ローズの事を尋ねられたのを思い出す。
わかっていれば、もっと詳しく対策を教えてあることが出来たハズ。
しかし、今の自分に出来ることなど、何もない・・・。
「ヒナピーよ、まだクイーン・ローズは3割程度しか実力を出していないぞ!? 大体、まだ、『アレ』が出ていない。 ヴァルキリーがそこまで持てばいいんだが・・・。いや、その時点で、もうヴァルキリーに勝ち目はない・・・か」
ジンはモニターを見つめながらうなだれる・・・。
2ラウンド開始のゴングと同時に飛び込んでいったヴァルキリーだったが、待っていたのはクイーン・ローズの右ヒザ。
「あぐっ!!」
カウンターのヒザを鳩尾にもらい、のた打ち回るヴァルキリー。
そのヴァルキリーの顔面にローズのサッカーボールキック!
ガコン!!
吹っ飛ぶヴァルキリー。
ヒナのディスプレイに警告メッセージが流れる。
更に、ダウンするヴァルキリーにニードロップ。
これは間一髪、逃れたヴァルキリーだったが、強烈な打撃を連続で食らい、動きが一気に鈍る。
「今のは痛いなぁ・・・。大丈夫? ヴァルキリー、まだいける?」
次々と襲ってくるクイーン・ローズのパンチや手刀、キックを避けながらヒナはダメージをチェックする。
「まだ、いけるね! よぉ〜し、見てろぉ!!」
体勢を立て直したヴァルキリーは、得意のラフ攻撃へと転じた。
しかし、当たらない!
小刻みにパンチやキックをヒットさせるローズに対し、ヴァルキリーの打撃はことごとくかわされる。
「あははは♪ 当たらないわねえ!」
ミカが余裕の表情でヒナを見下す。
「くっそぉ〜・・・!!」
徐々にではあるが、細かいダメージが、ヴァルキリーに蓄積されていく・・・。
「そぉ〜れ! これで最後よ!」
クイーン・ローズが渾身の右ストレート!
しかし、間一髪、ジャンプでこれを逃れたヴァルキリーは、そのままローズの頭を両脚で挟み込み、後方回転!
フランケンシュタイナー!!
一回転してクイーン・ローズの頭がマットにめり込んだ。
「あぁ!!」
ふらつきながら立ち上がるローズに対し、今度は飛びつき腕十字!!
ビキッ!!
リング中央で、腕ひしぎ逆十字固めが決まった。
ローズの左腕が悲鳴を上げる。
「ちっ!」
「どうだ!? 早くギブアップしろぉ! 左腕、折れちゃうぞ!!」
「ギブアップですってぇ!? 冗談じゃないわよ。この程度の技で、私のクイーン・ローズがギブアップするわけないでしょう!?」
ミカはキーボードを叩き、強引に脱出を図る。
ギシギシギシ・・・。
パワーで強引に立ち上がるローズ。
ついには技をかけているヴァルキリーをそのまま持ち上げてしまった。
そして、そのままリングに叩きつける。
ガシャーン!!
後頭部をしたたかに打ち付けられたヴァルキリー。
と、ここで第2ラウンド終了のゴング。
ジュニア・チャンピオンとして、絶対に負けられないミカ。
ユウ達のためにも、絶対に負けられないヒナ。
女?の闘いはまだ続く・・・。
完
あとがき
決着、つきません。
次回でこの試合は終わる予定。
試合のシーンになると、どうしても技の名前が多く出てきます。
プロレスや格闘技に興味がない人には、何をしているのかさっぱりわからないでしょう。
ごめんなさいね。