―第17話―「決着」
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会場内は異常な熱気に包まれていた。
第3ラウンドが始まって既に1分が経過している。
この1分間、ヴァルキリーは何も出来ずにいた。
執拗にクイーン・ローズに打撃を加えるも、全てガードされ、有効なダメージを身体に与える事が出来ない。
逆にクイーン・ローズは、確実に有効打を与えている。
ローズの打撃がヒットする度に大歓声。
ヴァルキリーが攻撃しようとするだけでにブーイング。
そして・・・
バキッ!!!
カウンターで放った右のハイキックが、ヴァルキリーの顔面を捉える。
右のハイキックはクイーン・ローズが最も得意とする打撃技の1つだ。
ガクッ!
ヴァルキリーは静かに崩れ落ちていく。
場内のボルテージはMAXだ。
「・・・1・・2・・3・・4・・」
無常にもダウンカウントが告げられていく。
「あははは♪ 良くがんばったわねえ! もういいわよ。そのままオネンネしていなさい♪」
ミカは大歓声に押されて上機嫌だ。
「・・7・・8・・9・」
ガクガクと機体を揺らしながらもヴァルキリーは何とか立ち上がる。
「まだ、イケる!!」
ヴァルキリーはファイティングポーズをとり、戦闘続行可能をアピールする!
「(なんてしぶとい・・・。普通ならここで終わっているわ。 このタフさはいったい何? こんなタフな奴、はじめて・・・)」
ミカは一瞬、驚きの表情を見せるが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「良い事を1つ教えてあげるわ。 クイーン・ローズの秘密をね。 この子はね、普通の機体じゃないの。 業界最大手のメーカー、『ONDA』(註1)の最高傑作なのよ。 しかも、市販するにはコストが高すぎて出来なかった技術が、目いっぱい詰め込まれているの。 ハナから性能が違うのよ!! あなたの様などこのメーカーかわからないような、ハンドメイドの安物とはワケが違うのよ!!」
「ハンドメイドのどこが悪い! ヴァルキリーはお父さんがあたしのために造ってくれた、最高のパートナーだ!! 性能だけで勝てると思うなーっ!!」
ヒナの絶叫と共に、ヴァルキリーはローズに向かい、もう一度、飛びつき腕十字を狙う。
しかし、ローズの左腕を掴んで、身体を絡ませようとした瞬間、
「ナメないでよね! 同じ技を2度も貰うようなノロマじゃないわ!!」
クイーン・ローズは掴まれた左腕を強引に振りほどき、返す刀でヒザ蹴りを見舞う。
「ガッ!!」
ヴァルキリーは、またしても崩れ落ちる。
すでにヴァルキリーはボロボロだ。
「さて、これ以上やると、単なるイジメになってしまうわ。 そろそろ終わらせてあげるから安心なさい♪」
ミカが、天使の笑顔で悪魔の微笑を見せる。
「クイーン・ローズ! フィニッシュよ!! ショータイムの始まりよ♪」
おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
ミカが叫んだ途端に巻き起こる、大歓声。
観客達にとってこれから起こるであろうシーンは、JPWAでは馴染みの情景であり、この大歓声はミカの勝利を確信した時の歓声なのだ。
これを食らってまともに立ち上がってきた相手はいない。
まさにクイーン・ローズのショータイム・・・。
「今、楽にしてあげる♪」
ミカはキーボードを叩き、フィニッシュ・プログラムを実行する。
クイーン・ローズは自らの足元でダウンするヴァルキリーを強引に立たせ、両腕をヴァルキリーの胴体に絡ませる。
「GO!」
ミカの号令と同時に、クイーン・ローズの体が反り返り、ヴァルキリーをマットに叩きつける。
バックドロップ!
そのまま腕のフックをはずさずフロントスープレックス!!
体勢を入れ替えダブルアームスープレックス!!!
間髪入れずにサイドスープレックス!!!!
更にバックを取り、とどめのジャーマンスープレックス!!!!!
クイーン・ローズのショータイム、連続スープレックスが大歓声と共に終了した。
ローズはそのままフォールには行かず、完全にダウンするヴァルキリーを尻目にゆっくりと立ち上がる。
「さぁ、ダウンカウントを取って頂戴♪」
憎らしいまでに余裕の表情で、ミカとローズがレフェリーに視線を送る。
「・・・・1・・2・・3・・4・・」
ミカとローズはヴァルキリーを見ようともせず、勝利を確信し、歓声を送る観客たちに笑顔を振りまく。
「・・7・・8・・」
その時である!!
ダウンしていたはずのヴァルキリーは突然跳ね起き、ロープに向かって走り出す。
「!?」
そして、その反動を利用してローリング・ヒップアタック!!
ガキーーーーーーーーーン!!!
完全に勝利を確信していたローズは、避ける事が出来なかった。
吹っ飛ぶクイーン・ローズ。
しかし、その恐るべき反応速度で辛うじて両腕でのガードに成功。直撃を免れた。
だが、ガードした両腕、特に先程、逆十字を決められ、それを強引に振り解いた左腕のダメージは深刻だ。
「くそぉ! ダメか!? 隙だらけだったのに、ガードされちゃったよ!」
ヒナは心底悔しそうな顔でつぶやく。
「どうしてよ!? 何で立っていられるの!? 完全にダウンしていたじゃない!?」
ミカは信じられないといった表情でヴァルキリーを見つめる。
「へっへ〜んだ! あんなヘナチョコ・スープレックスなんて、何発食らったって倒れやしないよっ!(この1週間、ユウちゃん達と受身の特訓してたんだから!!)」
・・・特訓。
対戦が決まってからの1週間、ユウ達と共に、徹底的に受身の練習をしてきた。
コウのクラスメイトに熱心な『ミカマニア』がおり、彼らからクイーン・ローズの情報が入手できた為である。
(その友人は、それとなくクイーン・ローズの事を聞いたコウに「これでもか!」とばかりにミカの可愛らしさと、クイーン・ローズの偉大さを語ってくれたのだ。 コウにとってはウンザリするような話だったが、このおかげで、フィニッシュ・ホールドである、連続スープレックスを把握できたのである)
それに以前、父から『攻撃だけでなく、受身の練習をしろ!』と指摘された事もあった。
ヴァルキリーは完全攻撃型であり、今まで、ガードや受身の練習など、ほとんどしてこなかったヒナにとって、この1週間はかなり地味で退屈な日々だった。
しかし、この練習が役に立った!
ヒナは嬉しくてたまらなかった。
「ヘナチョコ・スープレックスですってェェェェ!!!」
激怒するミカ。
今まで、このショータイムで試合が終わらなかった事はなかった。
完全に平常心を失ってしまっている。
もうひとつ、傷ついた左腕がネックになっていた。
ダメージが残る左腕での投げ技は、フックが完璧ではなく、本来の威力を発揮する事が出来なかった。
「今度はあたしの番だ! 受けてみろ! ヴァルキリーの必殺技!!」
ヴァルキリーはニュートラルコーナーに向かって走り出し、コーナーポストから上空に向かって、空高くジャンプし、ムーンサルト。
最高点に達したところで両膝を抱え込み、後方回転!
同時に両脚と背中に装備されたバーニアを最大噴射。
ヴァルキリーは先程のローリングヒップアタックとは逆に回転し、フルパワーでクイーン・ローズに突っ込んでいく!!
ローリング・ダブルニーパッド!!(後方回転両膝蹴り)
クイーン・ローズにとって、こんなモーションの大きな技など、回避する事は造作もない事だ。(しかも予告までされて)
しかし、それはチャンピオンたる、ミカのプライドが許さなかった。
受けてみろと言われ、逃げるわけにはいかない!
「こんな技、叩き落してやるっ!!」
ギュルルルルルルルル!!!!!
上空から回転しながら突っ込んでくるヴァルキリーに得意のハイキックを見舞う!!
グワキーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
クイーン・ローズの右膝とヴァルキリーの両膝が激突!!
吹き飛ぶ両者。
弾かれ、コーナーポストに激突するヴァルキリー。
同じく弾かれ、ロープに飛ばされ、その反動でリング中央に倒れ込むクイーン・ローズ。
レフェリーが駆け寄り、両者にダウンカウントを告げていく。
「・・・1・・・2・・・3・・」
フルパワーで必殺技をかましたヴァルキリー。
それまでの激闘で全身はもう、ボロボロだ。
それでも最後の力を振り絞り、コーナーポストにしがみつき、何とか立ち上がろうとする。
しかし、ローズのカウンターキックをもらった両膝は悲鳴をあげている。
「・4・・・5・・・6・・」
ダウンカウントは進んでいく。
クイーン・ローズは左腕と右膝以外にはダメージらしいものは見当たらない。
しかし、その左腕と右膝は既に限界に達していた。
「ローズ! 立ちなさい!! あなたはチャンピオンなのよ! こんなところで、あんな安物に負けていいの!?」
ミカは半狂乱だ。
髪を振り乱しながら、キーボードを叩く。
クイーン・ローズは右膝を庇いながら何とか立ち上がろうとする。
しかし、体勢を崩し両手をマットについてしまった。
その瞬間、砕けるローズの左腕。
再度倒れ込むクイーン・ローズ。
「・・8・・・9・・・10!」
レフェリーがカウント10を告げる。
会場内は静寂に包まれた。
場内の観客達は唖然としている。
・・・ヴァルキリーは、立っていた。
コーナーポストを背に、ファイティングポーズをとっていた。
レフェリーがヴァルキリーの右腕を掲げ、勝利を宣言する。
と、同時に崩れ落ちるヴァルキリー。
既にヒナのパソコンには、ヴァルキリーからの応答は無く、ディスプレイには『作動不能』のメッセージが点滅していた。
3ラウンド・2分36秒。
JPWA・ジュニア・チャンピオン『クイーン・ローズ』対FIST・サード・ステージ代表『ヴァルキリー』の激闘はここに幕を下ろした。
完
あとがき
やっと、決着がつきました。
コウ君、ユウちゃん、君達のおかげだよ。
さて、次回は対抗戦第2弾、アキ・タカマツの『小龍』が登場。 このお話を書きたかった!!
楽しみ〜♪
(註1)『ONDA』 PUREの第1話で出てきた、日本の市販メーカーの最大手。自動車メーカーの「恩田技研工業」(ONDA)の事。
ミカの父はその『ONDA』の重役である。