―第20話―「調子に乗るんじゃないわよっ!」
1
「コラ、ハゲ・・・。 ずいぶん面白いルールでやらせるじゃねえか?」
テュポーン対小龍の試合形式がアナウンスされ、湧き上がる会場内が映るTVモニターを見つめながら、ハゲ、いや、ナカムラに語りかけたのはT−REX。
彼の乱暴な言葉使いはいつもの事なのだが、違うのは全くの無表情であった事。
これは彼が怒っている証拠でもある。
「面白いルール? ほっほっほ。 興行が盛り上がるのであるなら、なんだってしますよ。 あのハカマダという男は、普段は問題も多くてね、試合はサボるし、反則は多いし、我がJPWAの中では、異端児なのですよ。 しかしね、試合を盛り上げることに関しては天才的なモノを持っているのですよ」
無表情のT−REXを横目で見やり、ナカムラは言葉を続ける。
「ですがね、困ったことに、あの男はこういう試合形式じゃないと本来の持ち味を発揮出来ないのですよ。 能力は100%発揮してもらわねば。 これも管理者の務めですよ」
「こんな試合形式でアキが本来の能力を出せるとでも思っているのか?」
「いやぁ、それを言われると辛いですな。 そうそう、以前ハカマダが所属していた団体、DOAをご存知ですか?」
「DOA? あぁ、確か、過激な試合が売りとか言ってて、自滅してったバカな連中だろ?
・・・なるほどな。(それでああいうルールにしたってワケか)」
「そうです。 バカな連中ですよ。 でもね、バカでもハカマダは金になります。 実際、彼がここに来てから観客動員数が増えましたからね。 私としてはバカだろうがなんだろうが、関係ないのですよ」
「ハッ! 経営者の鏡だな。 金になれば何でもいいってか!? 尊敬するよ」
T−REXに表情が戻る。
呆れ顔だ。
ナカムラは得意の顔でモニターを見つめる。
モニターには困惑しているアキの表情と、心底笑顔のハカマダが交互に映し出されていた。
2
アキは軽いパニック状態の中にいた。
初めて見る異形のプラレスラーと、初めて出遭った異様な人間。
そして、『何でもあり』の危険なルール。
観客達は小龍が如何にして破壊されていくのか、それを期待している・・・。
何もかも初体験だ。 頭の中で整理がつく前にゴングが鳴ってしまった。
とにかく、相手のデータが何もないのである。
先手必勝とばかりにうかつに攻撃にいけない。
ここはじっくりと構えて、相手の出方を伺うしかない・・・。
しかし・・・。
小龍の視線の先には、シュルシュルと無気味な駆動音を響かせているテュポーンがいた。
人型の上半身だけでもかなりの大きさであり、とぐろを巻いた下半身まで入れればおそらく1メートルを超えるであろうテュポーン。
リングの三分の一程がテュポーンの機体で埋め尽くされている。
これでは本体に近づくのも至難の業だ。
そのテュポーンは小刻みに機体を揺らしながら、リング内をゆっくりと旋回している。
しかし、テュポーンはまったく小龍に視線をよこさない。
場内を見回し、観客達の反応を楽しんでいるように見える。
オーナーであるハカマダも場内を見回し、観客達に愛想を振りまいており、アキや小龍など、まったく眼中に無い様子である。
その状態は一分程も続いた。
いくら相手の出方を伺うといってもこのままではラチがあかない。
さすがに業を煮やしたアキが小龍に指令を送る。
「・・・うぅ〜。 やる気がないなら一気に終わらせてあげるわっ! 小龍!!」
小龍はとぐろを巻いた下半身を飛び越え、得意の打撃を繰り出そうと、テュポーンの顔面へ迫る。
しかし、その瞬間、 『プシューーー!!』 テュポーンの口から噴き出される真っ赤な霧。
「あぁ!」
小龍は顔面を真っ赤に染められ、反射的に顔を覆う。
そこへ、すかさず小龍の喉元に地獄突きを食らわすテュポーン。
まったくの無防備の状態で喉元に打撃をもらった小龍は、マットの上を転げ回る。
「あひゃひゃひゃひゃ! かかったわね! おバカさんねえ!? まんまとアタシの策にハマってくれたわん♪」
ハカマダは高笑いである。
「なによ!? 何したのよッ!?」
激怒するアキ。
「何って、毒霧よ〜♪ 毒霧を噴いたのよ〜♪ 毒霧って言ったって、ただの赤い染料だけどねぇ〜。 安心して。 洗えば落ちるから」
「毒霧ィ!?」
「なに怒ってるのよ? 洗えば落ちるって言ってるじゃないのぉ。 そんなに怒らないでよぉ」
「そんなこと言ってんじゃないわよっ!」
「う〜〜ん♪ 怒った顔もカワイイわねえ、あなた♪ ゾクゾクするわぁ」
「!!!!!」
・・・会話になっていない。
しかも、この会話の最中にも、喉元を抑え、のた打ち回る小龍に対し、容赦ない攻撃を加えるテュポーン。
逃げられないように下半身で小龍を囲み、両腕で、突きの猛ラッシュ。
小龍は身を屈めて耐えるしかなかった。
小龍のモニターは完全に使用不可能に陥り、アキはモニターを通しての情報を得ることができなくなってしまった。
「(くそッ! こんなバカ相手に話し掛けるんじゃなかった。 ごめんね、小龍。 今なんとかするからね)」
通常、プラレスラーを操る場合、視覚情報はプラレスラーの視線がオーナーのパソコンモニターに表示される。
プラレスラーの視線は操縦者の視線でもあるのだ。
基本的にプラレスラーは、ラジコン等とは異なり、機体そのものを見て操作するものではない。(全てがそれに当てはまるとは限らないが)
相手の動きや周りの状況を知るためのセンサー等はいくつか装備されているが、これでは目隠しをして闘っているようなものである。
「くそっ! モニターが全然役に立たない・・・。 とにかくこの状況をなんとかしなくちゃ!」
アキは焦りつつも冷静にキーボードを叩き、脱出を試みる。
小龍は不十分な体勢ながらも、テュポーンのわき腹にキックを見舞うことに成功。
不意に打撃を食らい、大きく体勢を崩すテュポーン。
その隙になんとかテュポーンの下半身を振りほどき、場外へと逃げる(転げ落ちる)ことができた。
「ふうっ・・・。 助かった。今のうちに機体の様子をチェックしとかなきゃ」
アキは小龍のダメージを調べ始めた。
リング上ではテュポーンがゆらゆら蠢いているのが見える。
「さて、ダメージはと・・・」
小龍はリング上のテュポーンを警戒しつつ、リングの周りをゆっくりと歩きながら呼吸?を整え、アキの機体チェックが終わるのを待っている。
「毒霧?のせいでモニターは完全に死んでいる・・・。 これは一ラウンド終わったら拭いてやれば良いとして、その他のダメージは・・・?? あれ? あれだけやられたのに、たいした事ないじゃない・・・。しっかりガードしていたからかな?」
そうなのだ。
小龍のダメージはアキが思っていたほど深刻な状況ではなかった。
モニター(カメラアイ)は確かに死んでいるが、これはラウンド終了時に拭けば良い事。
どういう事だ? まさか手を抜いていた訳ではあるまい。
いたぶって遊んでいたのか?
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。
リングアウト負けが無いとはいえ、このままでは何も進展しない。
小龍は場外から一気にリングサイドにジャンプし、リングの中を伺う。
ここでのテュポーンの攻撃を予測していたが、以外にも、テュポーンは小龍から一番遠い反対側にいた。
こちらの様子など見向きもしない。
「(・・・以外ね。場外からリング内に入る時なんて、一番攻撃し易いだろうに・・・。何もしないなんて)」
アキはそれでも用心しながら、慎重に小龍をリングの中に入れようとキーボードに手を伸ばす。
その瞬間、小龍に響く激しい衝撃!
バキッ!!
リングに入ろうとした小龍の両脚を払うように、遥かかなたから飛んできたテュポーンの尻尾が直撃したのである。
その勢いで小龍はまたしても場外に転落した。
「お〜ほほほほほ♪ いけないわぁ。だめよぉ、油断しちゃあ。 テュポーンのビューテホー・テール・アタック、射程は長いんだから♪」
またしてもハカマダの高笑いが響く。
「あぁ! 小龍!」
アキの悲痛な叫びは、ハカマダの高笑いと場内の歓声によってかき消された。
「おおっと、今度は場外で一休みなんてさせないわよっ! テュポーン! 奴を捕まえなさい!」
テュポーンは場外でうずくまる小龍を、リング上から尻尾を伸ばし、捕らえ、強引にリング内へ戻す。
小龍は尻尾の直撃と、場外に落ちたショックで、朦朧としている。
テュポーンはその隙を逃さず、更に尻尾で打撃を加える。
ドカッ!!
先程の両腕の打撃とは格段の破壊力だ。(このおかげで小龍は朦朧状態から脱出できた)
しかし、自らの機体を支えながらの尻尾での攻撃は、振りも大きく、単調になりがちだ。
2発目が飛んでくるところを間一髪避けた小龍は、隙を見て本体に一気に詰め寄る。
そして、テュポーンのどてっ腹に渾身のエルボーを撃ち込む!
ズドン!!
「ゴアアアアアアアアアアア!!」
今度はテュポーンがリング上をのたうち回る。
「調子に乗るんじゃないわよっ! 今度はこっちの番だ! あんたの漫才に付き合ってるとこっちまでおかしくなってきちゃう! 一気に決めてやる! 小龍!!」
この試合、初めて攻勢に出たアキが吼える!
そして腹部を抑えて苦しむテュポーンに対し、小龍は得意の連続蹴りを叩き込む!!
「この間合いならモニターが死んでたって関係ない!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
テュポーンの全身にかつて無い衝撃が走る!
そしてテュポーンのダウンと同時に鳴り響く第1ラウンド終了のゴング。
テュポーンの毒霧で始まり、小龍の反撃で終わった第1ラウンド。
闘いはまだ始まったばかり・・・。
つづく
あとがき
やっと試合が始まった対抗戦第2戦。
まだまだ続きます。
相変わらず、主人公の出番が少ないな。 今回も強引に出したくらいだし。
さて、次回はどうなることやら・・・。