―第21話―「ラッキーカラー」
1
カーーーーーン
第1ラウンド終了のゴングが響く。
小龍は片脚を上げた蹴りの体勢のまま、テュポーンはヨロヨロになりながら、ゴングの音色を聞いた。
「小龍! 戻っておいで!」
アキは、自軍のコーナーに小龍を戻らせ、機体チェックに入る。
その表情にもう迷いは無い。
彼女は小龍の顔面を真っ赤に染めている染料を拭き取ると、モニターのチェックを始める。
どうやら正常に作動しているようである。
小龍のダメージは思った程ではなかった。
尻尾の攻撃は要注意だが、それ以前に受けた打撃のダメージはアキの予想に反して軽微であった。
ガードしていたからか?
さっきもそう思ったが、どうやらそうではないような気がしてきた。
実は攻撃力そのものはたいしたこと無いのではないのか?
それともいたぶって遊んでいたのか?
1ラウンドだけではそこまでワカラナイ・・・。
「アイツの変な形とあの変態男に惑わされちゃ駄目なんだ。 FISTの試合の方がよっぽどハードだもん! いつもの実力を出せば勝てる! 色々考えちゃ駄目。 いつも通り、普通にやろう!」
ふっきれたアキ。
しかし、相手は普通ではない・・・。
2
「いやああぁぁあぁぁぁああぁあああぁぁあぁあぁぁぁ!」
叫んでいるのは女性ではない。
ハカマダ。である。
第1ラウンド終了寸前、愛機テュポーンが、まさかの反撃を食らい、半ば半狂乱である。
「ぅおんのれえぇぇぇ〜・・・。 許さないわっ! アタシのテュポーンを足蹴にするなんて・・・。 半殺しで済ませてあげようと思っていたけど、もういやっ! 跡形もなくコナゴナにしてやるからっ!!」
傷ついたテュポーンの応急処置をしながら、自軍のコーナーで物騒な独り言を呟くハカマダ。
「まさか『コレ』を使うまでも無いと思っていたけどね〜、アタシが思っていたより、厄介な相手みたいだわん。 ・・・ハゲオヤジの話、ちゃんと聞いといた方が良かったのかしら?」
ハカマダはこの試合の数日前、ハゲオヤジ(ナカムラ)から小龍の情報を聞く機会があった。
対FISTとの対抗戦、JPWAの完全勝利を狙うナカムラは独自のルートにより、ヴァルキリーや小龍、そしてタイラントの情報を集めていた。
そして、その情報をハカマダに流していたのだ。
しかし、元々プライドが高く、人の話などまともに聞かないハカマダ。
ハカマダは究極のナルシストであり、美の探求者であり、比類なき自信家である。 他人の事などどうでもいいのである。
話半分、耳が日曜日の状態で気にも留めていなかった。
チビ・デブ・ハゲの三拍子そろったナカムラなど、汚物も同然。
汚物の話など聞く耳はもっていない。
(ナカムラはクイーン・ローズのオーナー、ミカにもヴァルキリーの情報を流したのだが、ミカはハカマダ以上にプライドが高い。 故に彼女もナカムラの話など聞いていない。逆に彼女に怒られたのであった)
ハカマダはテュポーンの胸のパーツを開き、『ソレ』をセットし、ニヤリと笑う。
「さぁ〜て、第2ラウンドよっ! 早くゴングを鳴らしてっ!」
3
そして始まった第2ラウンド。
第1ラウンドは、のらりくらりとなかなか組み合ってこなかったテュポーンが、ゴング開始から猛然と攻撃を仕掛けてきた。
しかし、今度はハカマダがイラつく番だった。
冷静になった小龍のスピードについていけないのだ。
打撃は難なく避けられ、捕まえようにも、それを小龍は許さない。
小龍は拳法スタイルの打撃ファイターである。
一撃で相手を黙らせるような技は持っていないが、小刻みに連打を加え、ダメージを重ねていくのを得意としている。
投げ技もいくつかはプログラムはされているが、それは相手の勢いを利用した物がほとんどで、自ら組み合ってから投げるような技はプログラムされていない。
逆を言えば、捕まったら終わりなのだ。
それが克服できれば、FISTでもファースト・ステージで通用するであろう・・・。
ハカマダのイライラは頂点に達していた。
先程から仕掛ける技は全て避けられているのだ。
そればかりか逆に当身を食らう始末。
テュポーンはヤケクソ気味に大技、テール・アタックを見舞う。
しかし、小龍は余裕でかわし、一気に懐へと入り込み、真下からアゴに向かって強烈なエルボー!!
更にジャンプしてテュポーンの頭を抑え、顔面に膝蹴り!!!
「ゴアアアァ!!」
立て続けに強烈な打撃を食らったテュポーンはもんどりうって後方に倒れる。
「テュポーン、何してるのよっ! アンタ、これ以上ダウンしたら佃煮にして食っちまうわよっ! 立ちなッ!」
ハカマダが叫ぶ。
テュポーンはすぐさま起き上がるが、その視線の先に小龍はいない。
小龍はテュポーンが起き上がると同時に大きくジャンプ。
そして、テュポーンの後方にあるハカマダのコーナーを蹴り、ムーンサルト。
美しい弧を描き、そのまま両膝をテュポーンの脳天に突き立てる!
グシャ!
「uem1/.,qrv:nhfgw;をぴ8あdmつ9r3ん、j・・・」
テュポーンは声にならない悲鳴をあげながら、再度大きくダウン。
「、Mdんbq、りflぃとhpw−@1m/jykぐwげ・・・」
ハカマダも同様に声にならない悲鳴を上げる。
場内にどよめきが走る。
テュポーンはピクリとも動かない。
これで終わってしまったのか?
あっけない結末にアキも困惑気味である。 こんなものなのか?
確かに今の攻撃は最高のタイミングで入った。
勝ったのか?
小龍は恐る恐るダウンしているテュポーンに近づく。
「アキちゃん! 油断するなよ! 奴はまだ死んじゃいないぞ!!」
ジンが叫ぶ。
しかし、その声は観客達の悲鳴にかき消され、アキに届かない。
「なぁ〜んてね♪」
さっきまで声にならない悲鳴をあげていたハカマダは舌をぺろりと出し、アキに視線を送る。
その瞬間、テュポーンの尻尾が小龍に巻きつく。
「しまった!」
一瞬の油断が取り返しのつかない事になる。
それは身に染みてわかっていたハズなのに・・・。
小龍は両腕を封じられ、身動きが取れない!
「やぁ〜っと捕まえたわ♪ アンタみたいにすばしっこい娘を捕まえるのには死んだフリに限るわね。 とは言え、今の攻撃は効いたわよ〜。 もう少しでパ〜ラダイスに行っちゃうかと思ったわん♪」
テュポーンは頭を抑えながら体を起こす。
「さぁ〜て、今度はアンタが地獄を見る番よっ! それ!」
テュポーンは小龍を尻尾で掴んだまま、高々と持ち上げ、マットに叩きつける!
叩きつける!!
叩きつける!!!
ビー!ビー!ビー!
小龍が叩きつけられる度に、アキのパソコンから警告音が鳴り響く。
このままでは戦闘不能どころか、一気に作動不能にまで陥ってしまう!
もはやこれまでか!?
アキはモニターに表示される小龍のダメージを見ながら、脱出の方法を考える。
「ふふん♪ 冗談じゃないわ〜。 この程度で終わらせるワケな〜いじゃな〜い♪ 苦しむのはこれからよッ! じ〜わじわいたぶってやるんだから!」
ハカマダは上機嫌である。
テュポーンは小龍をリングに叩きつけるのを止め、彼女を持ち上げたまま、今度は締め上げ始めた。
ギシ・ギシ・ギシ・・・
ゆっくりと、しかし確実に小龍の身体にはダメージが蓄積されていく。
テュポーンの尻尾は小龍の足元から絡みつき、両腕をも封じている。
パワーファイターではない小龍には自力で脱出する術が見当たらない。
いったいどうすれば・・・!?
絶望の表情のアキ。
それとは対照的に恍惚の表情を浮かべるハカマダ。
「いい? アンタみたいな小娘がアタシに勝てる訳がないのよ〜。 今日の占いにもそう出ていたんだから〜♪」
ハカマダは意気揚揚と話し出す。
彼は自ら作成した占いソフトを使い、その日一日を占うことを日課としている。
そして、その結果は彼にとって絶対なモノだった。
「今日のアタシの運勢は総体運、金運、恋愛運、勝負運、etc、全て◎だったのよ〜。 ラッキーカラーは赤! だから今日は真っ赤な衣装でコーディネートしてみたわ♪ なぁ〜んて美しいのかしらアタシって! それに、聞いたらアンタのプラレスラーは青いって言うじゃない!? アンラッキーカラーは黒だったからNO〜プロブレム!! 何の問題もないわ!」
真顔で何を言っているのだ? この男は。
アキにはハカマダの言っていることが理解できなかった。
というか、それどころではない。
何とか脱出しなければ・・・。
4
そんな様子を最前列で観戦していたヒナは、隣に座っているジンに尋ねる。
「ねえ、ジンちゃん、今あの人、なんて言ったの?」
リング上でのハカマダの演説は、最前列といえども聞こえるものではない。
場内が沸きまくっているとなれば尚更だ。
ジンは苦虫を噛み潰した顔でヒナに答える。
「ああ。多分、今日の占いの話だろうよ。 アイツがあの顔をするときはいつもその話だ」
「うらない?」
「あの男はな、占いバカなんだ。 いや、バカ占いって言ったほうが良いのかな? その日の占いの結果が悪いとさ、どんなに重要な試合が組まれていても平気でサボるんだよ。 そのかわり会場に来る日はアイツにとって良い日だからさ、試合が組まれていない日でも平気で来るんだ。 で、強引に試合を組んでもらうのさ。 お偉いさんも奴が出りゃ興行が盛り上がるもんだから、カードを急に変更したりしてな」
「なんか・・・すごいね」
「今日の占いは奴にとって良かったんだろ? 今頃『今日のラッキーカラーは赤なのよ〜』なんて言ってるぜ?」
「ラッキーカラー? だから真っ赤なお洋服着てるの?」
「そう。 前なんかスゴかったぞ。上から下までゴールドだったからな。 金色のメイクしてる奴なんて始めて見たよ。 あんな服どこで売ってんだ?ってなくらい金ピカピカリンの衣装でな。 今日の衣装なんか大人しいくらいだよ」
「・・・・・・」
「でもな、俺はここ(JPWA)に来てから、アイツが反則負け以外で負けたのを見た記憶がないんだ・・・」
「え!?」
「つまり、KOやフォール、ギブアップとかでアイツは負けたことがないんだよ」
「うそぉ?」
「反則で負けた時だって、相手は完全にクラッシュしてたからな。 試合じゃなくて『壊しあい』だったら負けていないって事になるんだ」
「う〜ん・・・」
考え込むヒナ。
じっとしていられないジン。
悩むアキ。
上機嫌のハカマダ。
ニヤニヤしながらTVモニターを見つめるナカムラ。
眉間にシワを寄せながら、同じくTVモニターを見つめるT−REX。
それぞれの思いが交錯する中、闘いは続く・・・。
完
あとがき
まだまだ終わりません。
次回ぐらいで決着つくかなあ?
ちなみにハカマダの占いによる行動は、某将棋漫画からのパクリです。
堂々とパクるあたり、最低だな。俺は。