―第22話―「飴と鞭」
1
テュポーンの尻尾が小龍に巻きついてから、どのくらいの時間が過ぎただろうか?
第2ラウンド終了まで、残り約40秒。
このまま締め付けられれば、小龍の負けは確定的だ。
「お〜ほほほほほほほ♪ そんなに哀しい顔しなくたって良いわよぉ〜。誰もこんな地味な技で仕留めようなんて思っていないからぁ〜♪」
上機嫌のハカマダは何を思ったのか、締め上げるのを止め、小龍を真上に放り投げる。
それまでのダメージが大きく、アキは受身を取るように指令を送ったが、小龍は反応できなかった。
そして受身も取れずリング上に落下する小龍。
うつぶせにダウンする小龍に真上から襲い掛かる巨大な鞭、テュポーンの尻尾が直撃!!
ドカッ!!!
「がはッ!」
効いた・・・。
これは効いた。
機体が真っ二つに折れなかっただけマシ・・・。
それほどの衝撃が小龍を襲った。
立てるか!?
いや、自力は立てまい。
それはアキのモニターに表示されたダメージ数値が物語っている。
アキの表情に絶望の色が浮かぶ。
もはやこれまでか!?
「言ったでしょう!? こんな地味な技で終わらせないって!」
すでにハカマダの一人舞台だ。
その表情はサディストのそれと同じ。
完全にどこかにイッてしまっている。
「そろそろ、第2ラウンドも終わりでしょう? いいわっ。 あたしの攻撃はここまでよん♪ 続きは第3ラウンドのお楽しみにしときましょ♪」
ハカマダがそう言い終わるのと同時に鳴り響く、第2ラウンド終了のゴング。
小龍はなんとか自力で自軍のコーナーにたどり着き、アキの応急処置を受ける。
「・・・腰椎のパーツが歪んでいる。もうあまりもたないわね。 次のラウンドで一気に決めなきゃ、勝ち目はないなぁ。・・・しょうがない。 人様のリングで披露したくなかったけど、あの技、試してみようか・・・? ねぇ小龍・・・」
アキはバッテリーを充電しつつ、呟く。
まだ、完成品とは言えない、小龍の新技。
『回転連舞』
以前、T−REXに指摘された、『最後に決める大技』の不足。(第10話参照)
あれから色々考えて、試行錯誤の末、どうにか形になった新必殺技。
まだ実戦で試した事は無いけれど、この際、そんなこと言ってられない。
まだまだ改良の余地はあるが、まともに決まれば、起死回生の一発逆転技になるハズ・・・。
「あとはチャンスが来るのを待つだけ・・・」
アキは静かに目を閉じ、第3ラウンドのゴングが鳴るのを待つ。
2
一方、すこぶるご機嫌のハカマダ。
「じょ〜おだんじゃなぁいわよ〜! もっと抵抗してくれなきゃ面白くないじゃなぁ〜い。 まぁいいわ♪ 次のラウンドで決めてあげるから〜♪ この際だからう〜〜〜んと派手にやっちゃうわねん!」
ハカマダは客席に向かい笑顔でアピールをする。
ハカマダはこの対抗戦に出場を依頼された時、最初は断ったのだ。
そんな事は知ったことじゃない。 なんでアタシがそんな面倒くさい事をやらなければならないの? と。
しかし、猫なで声で、自分に(ハゲた)頭を下げる中年男、ナカムラを哀れに思い、次のような条件を付けたのだ。
ルールは自分の得意の凶器攻撃ありの『何でもあり』のルールにする事。
いつものJPWAルールでは出場しないと言い放ったのである。
この条件にナカムラは断る理由はなかった。
何でもありのルールならハカマダが負ける訳はないし、その方が試合(興行)も盛り上がる。
願ったりかなったりであったのだ。
即答でOKを出したナカムラに、かえってヘソを曲げたハカマダは、もうひとつ条件をつけた。
『その試合に勝ったら現JPWAチャンピオンである、ラ・ヴィアン・ローズとのタイトル戦を組め』と。
これにはナカムラも即答は出来なかった。
確かにハカマダの人気は凄まじいものがある。
しかし、由緒あるJPWAの最高位に、このような問題児を挑戦させても良いものであろうか?
占い結果が悪いと、どんな大切な試合だろうと平気でドタキャンするような男だ。
いかにテュポーンと言えども、ラ・ヴィアン・ローズにはそう簡単には勝てやしないだろうが、万が一と言うこともあり得る。
試合中、形勢が悪くなって火でも噴かれたら大変な事になる!?
しかし、結局は他に適当な人間もいない事もあり、ナカムラは悩んだ結果、この条件を飲んだのだ・・・。
「・・・へっ! あの小娘に勝てば、ラ・ヴィアン・ローズとのタイトル戦が待ってるんだからな。 派手に決めてタイトル戦への弾みにしなけりゃな!」
男言葉で呟くハカマダ。
聞く人が聞いたら「ハカマダが男言葉で話してる!?」と驚くところであるが、そんなことはどうでも良い。
そして・・・
澄み切った音色が響き、第3ラウンドが始まった。
「テュポーン、派手に決めるわよ〜!」
「小龍、行くよッ!」
オーナーの号令とともに、弾けるようにリングに飛び出すテュポーンと小龍。
先に仕掛けたのは小龍。
「先手必勝! 初公開、スクリュー・ナックル! 食らえ!!」
小龍の両手首の先が回転を始める。
ギュルルルルルルルルルル!!
ドカッ! バキッ!
そのままテュポーンのドテっ腹と顔面に、ワン・ツーパンチ! 回転するその拳を叩き込む!
通常のパンチに回転モーメントが加わり、その威力は今までとは比べ物にならない。
小龍流、コークスクリューパンチ!
「ゴバァァァァァアァァァ!」
テュポーンの機体が大きく揺らぐ。
体勢を整える間もなく、小龍の後ろ回し蹴りが後頭部にヒット!
ダウンは何とかしのいだテュポーンだったが、3ラウンド開始早々からフラフラである。
「こら〜! テュポーン、てめぇ何してやがる!」
怒り心頭のハカマダ。
テュポーンを操作しているのは自分なのに、避けられないのはテュポーンのせいなのである。
理不尽大王、ハカマダ・ジョージ。
小龍の続く右の上段蹴りは間一髪避けたテュポーン。
カウンターでモンゴリアン・チョップを狙うもスカされ、更にカウンターの左の後ろ回し蹴りをわき腹に食らってしまう。
これ以上、連続して攻撃をもらったら、マズイとばかり、尻尾を振り回し、小龍を追っ払う。
そして、睨み合い。
「う〜ん、やっぱり捕まえないとダメねぇ〜。 といってもまた死んだフリする訳にもいかないし・・・ フン! こうなったら秘密兵器を出しちゃおう♪」
ハカマダはキーボードを叩き、テュポーンに指令を与える。
テュポーンは自らの両肩から突き出た棒状のパーツに手を伸ばし、それを引き抜いた。
ガコッ!
左手に握られていたのは先端が丸くなっている『ハンマー』。
ガコッ! ズルルルルル・・・
そして、右手に握られていたのは先が3本に分かれた『鞭』。
「さぁ〜て、いくわよ〜♪」
両手に武器を手にしたテュポーンを見て、アキに緊張が走る。
テュポーンは右手の鞭を振るい、小龍に襲い掛かる。
鞭そのものにはたいした攻撃力は無さそうだが、あれに捕まると厄介だ。
2度、3度と襲い掛かる鞭をかわしながら、何とか懐に入り込もうとする小龍。
しかし、その鞭に気を取られていたその瞬間、背後からテュポーンの尻尾が足元をすくう。
「あっ!」
思わず尻餅をついてしまった小龍。すかさず巻きつく3本の鞭。
「つっかまっえた♪」
テュポーンは鞭に絡まった小龍を引っ張る!
両脚で踏ん張り、抵抗する小龍。 両腕は鞭により塞がっている為、上手くバランスが取れない。
それでも必死に抵抗を続ける小龍。
「ちっ! 無駄な抵抗を〜・・・。 そういう悪い子は〜 お仕置よッ!」
テュポーンが鞭の手元のスイッチを押す。
バリバリバリ!!
小龍の身体がガクッと崩れ落ち、アキのモニターにノイズが走る。
「電流!? なんて事すんのよ!」
一瞬だが、絡まった鞭から電流が流れたのだ。
テュポーンは崩れ落ちた小龍を一気に引き寄せ、左手に持つハンマーでカウンターの一撃を小龍の顔面に叩き込む。
バキッ!!
ニュートラルコーナーまで吹き飛ぶ小龍。
「あひゃひゃひゃ♪ どう? これがテュポーンの秘密兵器、『飴と鞭』攻撃よ〜♪ 悪い子を教育するには、鞭ばかりじゃダメなのよ〜! 飴もあげなきゃ〜♪」
「なぁ〜にが『飴』よ! それのどこが飴なのよッ!」
「ん〜? なぁ〜んか言ったぁ〜? 聞こえないわぁ〜!?」
いけない。
またあの男のペースにハマっている。
アキは気を取り直し、小龍の立て直しを図る。
しかし、先程の電流のせいか、反応が鈍い。
先程のハンマーの一撃で鞭は外れているが、ニュートラルコーナーに追い詰められた格好になってしまった。
そこに3本の鞭が土砂降りの雨のように降り注ぐ。
必死にガードする小龍。
しかし、3本の鞭は容赦なく小龍の胴着を引き裂いていく。
(小龍はダメージ軽減のため、青い胴着を身に付けているのだ)
機体そのものには大したダメージは無いのだが、これが蓄積されていくとマズイ。
なにより、このままでは反撃すら出来ない。
しかし、鞭の攻撃はいきなり止んだ。
アキは思わずハカマダの顔を覗き込む。
また何かたくらんでいるのか?
・・・しかし、ハカマダは、青ざめていた。
ハカマダの視線の先には、ボロボロの胴着の小龍がいる。
「な・なんで?」
「?」
「なんでなのよーッ!?」
「??」
いきなり絶叫するハカマダ。
完
あとがき
今回で決着を付けるつもりでいたのですが、ハカマダ君の絶叫で今回は終わります。
早く主人公を出したいので、この試合は次回で決着がつきます。
結末をお楽しみに。