オリジナル・ストーリー「黒き帝王」

 

―第24話―「悪名」

1

 「にゃ?」

 猫ではない。

 「にゃんだと?」

 しつこいようだが猫ではない。

 「負け? アタシ、負けたの?」

 呟いているのはハカマダ。

 場内はブーイングの嵐。

 勝ったアキへのブーイング。

 そして、負けたハカマダへのブーイング。

 「ウソよーッ! なんで? なんで? アタシが負けるワケ無いじゃない! これは何かの間違いよー!」

 ハカマダは現実を受け入れようとしない。

 リング上に無残な姿で横たわる愛機『テュポーン』を見ようとしない。

 試合が終わってもコックピットから離れようとしないハカマダに、黒服の係員達が近づく。

 それに気づいたハカマダは黒服達を制する。

 「冗談じゃないわっ! アタシの負けなんて認めない! あっちだって、小龍だってもう動けないはずよッ! 少なくてもアタシの負けじゃないわっ! 引き分けよッ! 引き分けだってんなら判定でアタシの勝ちよッ!」

 無茶苦茶である。

 すでに裁定は下っている。

 いくらなんでも一度下った裁定が覆ることはない。

 それを認めればJPWAは自分の首を絞める事になる。

 しかしハカマダは納得しない。

 絶対に引こうとしないハカマダに、それまでおとなしくしていたアキがついにキレた。

 「いい加減にしなさいよ! 男らしくないわね! ・・・ってオカマにそんな事言っても無駄なの!?」

 「おおおおおおおお、オカマですってええ!」

 「うるさいっ! 小龍が動けないかどうか、よぉ〜く見ときなさい!!」

 小龍は眼前に横たわるテュポーンの顔面を蹴り飛ばす。

 すでに崩壊寸前だったテュポーンの頭部は、小龍の蹴りによって弾き飛ばされ、ハカマダの顔面に命中。

 「うぴっ!?」

 ハカマダは妙な叫び声をあげてその場にダウン。

 涙でメイクはボロボロ、テュポーンの頭部がヒットした顔面からは鼻血を出し、倒れた拍子にコブまで作って、駆けつけた黒服の男達に担がれ、退場していく。

 登場から退場まで騒がしい男であった。

 アキは胸をなでおろし、両腕を失った小龍を大事に抱えながら、大きく溜息をついた。

 「終わった・・・。」

 安堵の表情を浮かべるアキに突き刺さる、会場内の冷たい視線と大ブーイング。

 アキがその視線に気付くと同時に、自分を呼ぶ声に気がつく。

 「アキちゃーん、こっち、こっちーぃ!」

 声の方に視線を向けると、リングサイドに陣取っているヒナとジンの姿が目に映る。

 アキは二人の下に駆け寄り、座席に倒れこむ。

 「おめでとう! スゴイじゃん! かっこよかったよ〜!」

 「いや、マジよかったス! おめでとう、アキちゃん!」

 ヒナとジンが興奮を隠し切れず捲くし立てる。

 「ありがとう。 応援しててくれたの!? うん、何とか勝てたよ・・・」

 アキは両腕の中の小龍を見ながら二人に言葉を返す。

 いつかのタイラント戦の時のように、また小龍に無茶をさせてしまった。

 小龍のダメージは見た目より遥かに深刻だ。

 テュポーンのギロチン・テールアタックで腰椎のパーツが歪んでいるところに、『回転連舞』を放った為、脊髄のパーツまで歪んでいた。

 しかも最後は予期せぬ爆発により、両腕を失ってしまった。

 よく最後まで立っていてくれた・・・。

 「あ、アキちゃん、五体満足ってワケじゃないけどさ、小龍は良くやったよ。 俺のヴァイパーなんか、テュポーンと闘った時、火ィ噴かれてデロデロになっちまったんだからさ。 テュポーンの火炎食らって、原型が残っている奴なんて、今までいなかったんだぜ!?」

 「そうだよ。 あたしのヴァルキリーよりずっと軽傷だよ。 すぐ直せるよね!? 今度、ヴァルキリーも、お父さんにうんと強くしてもらうんだ! スーパー・ヴァルキリーにね!」

 ジンとヒナは気落ちしているアキを励まそうと、喋り捲る。

 自分より遥かに年下の小学生のヒナが励ましてくれている。

 今はJPWAの所属であるジンも、FISTの自分を励ましてくれている。

 そうだ。

 バラバラになったわけではない。

 勝ったのだ。

 もっと嬉しそうにはしゃぐべきなのだ。

 「うん。 ありがと、ヒナちゃん、ジンさん。 もうだいじょうぶだよ。 ごめんね。 勝ったんだもんね、よ〜し、私もスーパー・小龍に改良するかなっ!?」

 二人に支えられ、アキに笑顔が戻る。

 『回転連舞』は確かに凄まじい破壊力を持つが、機体にかかる負担が大きく、今のままでは諸刃の剣なのだ。

 回転連舞を放っても、後々影響が出ないような強靭な機体に仕上げ、プログラムを変更せねばならない。

 それが上手く融合できたとき、小龍はファースト・ステージの常連になっていることだろう。

 そして、その日はそう遠い日ではない・・・。

 (余談だが、ヴァルキリーと小龍では、小龍の方がダメージが大きい。

  見た目のダメージがヴァルキリーの方が派手に見えるので、ヒナはヴァルキリーより軽傷であると言ったのだ。

  実際は腰椎と脊髄のパーツが歪んでいる小龍の方が遥かに重傷なのである)

2

 一方、こちらはナカムラとT−REX。

 ナカムラは辛うじて平静を保ってはいるが、そのイライラは頂点に達していた。

 自信を持ってぶつけたこのカード、まさかハカマダが敗れるとは思いもしなかったのだ。

 まさか、FISTのレベルがこれほどまでとは・・・。

 十分に情報収集をしたハズだった。

 小龍ってあんなに強かったのか? 否! そんな報告は受けていない!

 まさか、『Jrチャンピオン』のミカが、無名の子供に負けるとは・・・。

 まさか、『あの』ハカマダが、あのルールで負けるとは・・・。

 T−REXは小龍が勝って当然と言った顔で、ふんぞり返っている。

 「さぁ〜て、次は俺の番だな。 おい、ナカムラさんよ、約束、忘れんじゃねえぞ!?」

 T−REXに声をかけられ、ビクつくナカムラ。

 「え? ええ。 もちろん忘れてなどいませんよ。 こちらとしては興行が盛り上がれば良いのですから」

 そう言ったナカムラの声は裏返っていた。

 「はっはっは〜! 確かに盛り上がってるなぁ! 別の意味でな! もう少しで暴動が起きるかもしんねえなぁ! あっはっはっは!!」

 T−REXは大声で笑いとばす。

 苦虫を噛み潰した顔のナカムラ。

 『興行が盛り上がれば良い!?』

 ・・・冗談じゃない。

 このままFISTの連中に連勝などされてみろ! この興行は大失敗だ。

 なんとかせねば・・・!

 このままでは本当に暴動が起きるかもしれん!

 困惑するナカムラを無視し、立ち上がるT−REX。

 「おい、ハゲ、すぐ戻ってくるからな。 そこで震えて待ってな。 おい、案内しろや」

 T−REXはドアの前で立っていた黒服の男に声をかける。

 男は焦ってドアを開け、T−REXは出て行った。

3

 場内はざわついていた。

 雰囲気は最悪だ。

 JPWAファンにはFISTを始め、他団体の存在を快く思っていない者が多い。

 老舗であり、最大規模を誇るJPWAこそが最強の団体である!と信じて応援しているのだ。

 その目の前で『よく知らない』FISTの無名選手が、自分達の憧れのスター選手を立て続けに破ったのだ。

 いつ爆発してもおかしくない雰囲気に包まれていた・・・。

 場内では先程のテュポーンの爆発により、壊れたリングの撤去作業が行われている。

 試合再開まではまだ時間が掛かりそうである。

 T−REXはステージの袖で案内した黒服に話し掛ける。

 「なぁ、にいちゃん、俺の相手はどんな奴なんだ? まだ、ここのチャンピオンってのが出てきていないようだが、そいつが俺の相手なのか?」

 「・・・・・・」

 「なんだよ、無視すんなよ。 つまらん奴だなぁ」

 「・・・・・・」

 「しかし、まさか、この俺がもう一度JPWAのリングに上がることになるとはなぁ・・・」

 「?」

 今までT−REXの言葉に何の反応も示さなかった黒服の男の表情が変わる。

 T−REXがJPWAのリングに上がるのは今回で2回目。

 約10年程前、世は第2次プラレスブームの真っ只中。

 プラレス黄金期と呼ばれていた時代。

 イコール、JPWAの黄金時代でもあった。

 当時のJPWAは、過剰なエンターテイメントと化したプラレスを提供していた時代だ。

 T−REXがアメリカから舞い戻り、久しぶりに見た日本のプラレス中継。

 それがJPWAだった。

 しかし、そのTV中継は彼を怒りへと誘うものだった。

 過剰すぎる演出、チャラチャラした選手達、派手なだけで強さの微塵も感じられないプラレスラー達。

 せっかく日本に帰ってきたのに、何故こんな茶番を見せられなきゃならんのだ!?

 これが今のJPWAなのか!?

 俺がガキの頃から憧れていたJPWAはどこに行っちまったんだ!?

 こんなのはただのショーじゃねえか!?

 アメリカもこれと大して変わらなかったが、あちらはエンターテイメントの本場だ。

 まだ許せる。

 それに、このTV中継を観る限り、アメリカのリングの方が遥かに厳しい。

 エンターテイメントの中にも激しい闘いがあった。

 しかし、JPWAは何だ!?

 怒り心頭の彼は、JPWAのシリーズ最終日のメインイベントにタイラントと共に乱入し、当時のJPWAチャンピオン『マキシマム』を脳天への手刀1発でKOしてしまったのである。

 それだけならまだしも、そのオーナー『伊集院・マサト』をもKOしてしまったのである。

 (T−REXはそいつ等の名前なんか覚えていない。

  っていうか最初から知らない。

  ちなみに伊集院はアイドル並のルックスも手伝って、女性からの支持は絶大なるものがあった。

  もう一つ付け加えると、伊集院は当時のJPWAの最大スポンサーであった『イタチ製作所』の御曹司。

  ちなみに現在のJPWAの最大スポンサーは『ONDA』である)

 当時、人気絶頂であったマキシマムと伊集院をKOし、一躍有名人になってしまったT−REX。

 結果、しばらくの間、メジャーな団体に出場できなくなってしまった。

 (JPWAやJPWAファン、そしてイタチ製作所の圧力により追放されたのだ)

 当初はJPWAに強制的にでも参加させて、試合上で報復措置を取るという案も出たのだが、チャンピオンを一撃で仕留めた実力と、その実力の持ち主をマキシマム以外のプラレスラーが倒すという事は、マキシマムの存在価値が無くなってしまうという判断から報復は取り止められた。

 当然、マキシマムがタイラントを倒せれば問題なかったのだが、その可能性は皆無に等しかった。

 そしてJPWAの勢いは、その事件が発端となり、徐々に衰退していく。

 JPWAの衰退、第2次プラレスブームの衰退の原因を作ったのはT−REXとタイラントなのだ。

 それからFISTに定着するまでの間、彼は地方や地下に活躍の場を移した・・・。

 「さて、そろそろ出番かな?」

 回想に浸っていたT−REXに登場アナウンスが聞こえる。

 「・・・っ続きまして、本日のメインイベントの開始です。 ここまでの負けは何かの間違いだ! コイツをブッ潰して、俺達の溜飲を下げてくれ! まずはFISTの野郎から紹介するぜ!」

 リングアナウンサーもこれまでの敗戦でキャラが変わっている。

 ゲストをコイツ扱いだ。

 「さぁ、出てきやがれ! FIST『ファースト・ステージ代表』、T−REXの入場だ!!!」

 『T−REX』!?

 コアなJPWAファンでこの名を知らぬ者はいない。

 『あの』悪名高きT−REXが入場してくる!?

 場内は更に激しいブーイングに包まれた・・・。

 

 完

 

 あとがき

  23話がアップされてから1ヶ月以上も経つのに、まだ試合が始まりません。

  すぐに試合に入ろうと思っていたのですが、ネタが浮かばなかったもんで・・・。

  ちなみにマキシマムをKOしたのはタイラント。

  伊集院をKOしたのはT−REXです。 (本文だけだと不十分に思えたので一応、ね)

 

 

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