―第26話―「マヌケなゴトウとヤスダの事情」
1
「おい、ゴトウ! さっさと片付けろ! 邪魔だ!!」
T−REXが声を荒げる。
彼の視線の先には、口をぽかぁんと開き、固まっているゴトウ。
そのゴトウのの視線の先には、リング中央に仰向けに倒れ、大の字になっているクレイジー・モンスター。
ゴングが鳴る前に突進してきたゴトウのクレイジー・モンスター。
まだリング中央に背を向け、コーナーで待機していたタイラントが、振り向きざまに放った裏拳によって
頭部を吹き飛ばされ、そのまま崩れ落ちた。
試合時間? 0秒。(まだ試合開始のゴングが鳴っていなかったのだ)
奇襲を仕掛けたゴトウだったが、なんともあっけない結末を迎えてしまった。
以前、FISTでの入れ替え戦でタイラントと闘ったときも、脳天へのエルボー1発でマットに沈んでいる。
最新のパーツを組み入れ、絶対の自信を持って挑んだタイラント戦。
その試合前、「誰と当たろうが、秒殺でケリを付けてやるぜ!」 と、自信満々で望んだ入れ替え戦だったが、
逆に秒殺でケリを付けられてしまったゴトウ。
あの試合に敗れ、長期欠場を余儀なくされ、FISTに自分の居場所を無くしかけていたゴトウに、
ある日、JPWAのスカウトマンと名乗る人物から、移籍の話を持ちかけられる。
最初は迷ったゴトウであったが、FIST在籍時の倍近いギャラの提示をされるとコロリとその話に乗ってしまった。
当然、JPWAの狙いはゴトウを通じてのFISTに関する情報収集である。
既にこの時、今回の対抗戦を視野に入れていたJPWAにとって、
ファースト・ステージに在籍していた実績を持つゴトウは、生の情報収集源として、
また、『FIST』ファースト・ステージ在籍経験者のレベルを計るのにうってつけの人物だったのだ。
更にJPWAは、クレイジー・モンスターの改修に関しても最大限のサポートを約束してくれた。
最大スポンサーである、『ONDA』の未発表パーツを惜しげもなく、ゴトウに与えたのだ。
(これは新製品のモニターも兼ねていた)
そしてゴトウは生まれ変わったC・モンスターと共に、JPWAにデビューを果たす。
そして、今日のこの試合まで、27戦27勝18KO。(そのうち13機を完全にクラッシュさせている)
と、負け知らずであった。
JPWAの王座が見え始めてきたゴトウにとって(これはゴトウの勝手な思い込みである)、
今回の試合は一石二鳥の千載一遇のチャンスであった。
FIST時代、一度も勝てなかったタイラントだが、今の俺様が負けるワケがねえ!!
のこのこ乗り込んできたT−REXに赤っ恥をかかせてやる!
その上で、日本最大のプラレス団体JPWAの王座に挑戦できる!?
そうなりゃ俺様が日本一だ!!
今の俺様に勝てる奴なんかいやしねえ!
ラ・ヴィアン・ローズ!? 今まで、俺様の挑戦から逃げまくっていた腰抜けチャンプめ!
10秒でボロ雑巾にしてやるぜ!!
クソ生意気なヨシザワのガキや、クソ真面目なヤスダの野郎なんぞに、オイシイところをとられてたまるか!
てめえらの出番なんかねぇんだよ!!!
と、ゴングが鳴る前に奇襲をかけた。
「バカめ! リングに上がって後ろ向いてる奴がマヌケなんだよぉぉぉぉ!」
しかし結果はまたしても・・・。
2
「あ〜ぁ。 ゴトウさん、固まっちゃいましたねぇ。 まったく、何を勘違いしてたんだか知らないけど、
ちっとも成長しませんねえ。 このお人は」
「・・・バカにつける薬はないのさ」
「ヤスダさん、どうします? 僕が先に行きましょうか?」
「・・・いや、私が行こう」
呆けた顔で固まっているゴトウを横目で見ながら、ヤスダは静かに立ち上がる。
それを見てほくそえむヨシザワ。
「・・・頑張ってくださいね。 ヤスダさん」
『ケイジ・ヤスダ』
札幌を中心に北海道全域で活動してきた『道産子プラレス』の『元』代表で、同団体のエースでもあった男。
『妥協無き激しい闘い』をキャッチフレーズに、理想を掲げて、ヤスダが旗揚げした地域密着型の団体であったが、
経営状態が悪化し始めた1年程前、JPWAの妨害工作?も手伝って、道産子プラレスは解散。
20名程いた参加者のほぼ全員がJPWAに吸収された。
しかし、皆、数ヶ月でJPWAを去っている。
皆、JPWAの路線と自分達の待遇に耐えられなかったのだ。
去っていった仲間に比べ、代表者であったヤスダの待遇は非常に優遇された。
ヤスダは代表者であり、エースでもあった為、その実力を高く評価されたのだ。
(JPWAは基本的に『商品』になるような選手にしか用は無い。
実力=人気の図式は当てはまらない。
極端な話、弱くても、人気があればOKなのだ。 人気=金を稼いでくれる選手にしか用は無いのだ)
JPWAにとっても、ヤスダほどの腕前の人物は配下に置いておきたかったし、
自力で団体を旗揚げするような『行動派』を野放しにすることは、新たな脅威の元である。
プラレス界の統一を目論むJPWAにとって、どんな小さな芽であろうと、摘んでおかねばならなかった。
最初の選手契約の際、破格のギャラを提示され、3年契約を結んだ。
3年我慢すれば、そのギャラを元に新生・道産子プラレスを旗揚げできる!
そう思っていたヤスダだが、すぐに後悔することになる。
いくら高額なギャラを貰ったとしても、JPWAに自分の居場所は無かった。
地味な性格のヤスダにとって、ここでの闘いはストレスが溜まるものだった。
本人の意思とは関係なく、強引に仕立てられたドラマの中に身を投じなければならなかった為である。
JPWAお得意の過剰演出の登場人物の一人を演じなければならないのは、苦痛でしかなかった。
リングに上がるのすら苦痛になってきたヤスダは、すぐにでも飛び出して、道産子プラレスを再スタートしたかった。
しかし、3年契約の満期まであと2年もある・・・。
それを一方的に破棄することは出来なかった。
莫大な違約金が発生するためである。
破格のギャラを貰っていても、違約金を払ったら意味が無い。
意味が無いどころか、確実に借金を背負うことになる。
そうなれば道産子プラレスの再興など夢のまた夢となる・・・。
そんな時、オオキから声をかけられた。
「ヤスダよ、お前さんがここを出て行きたいのは知ってるぜ? つれえなぁ〜。 後2年も契約残ってんだもんなぁ〜。
勝手に出て行きゃ、下手すりゃ裁判沙汰だ。 お前さんに勝ち目はねえぜ?
巨額の借金背負ってまでやることじゃねえよなぁ〜♪」
「・・・・・」
「どうだ? 俺の話にのらねえか? そうすりゃ俺がナカムラのおっさんに話をつけてやるぜ?」
「!?」
「あのな・・・」
そして、オオキは約束してくれた。
この試合、タイラントに勝てば、自分の好きなようにして良いと。
JPWAを出て行こうが、道産子プラレスを再建しようと一切構わないと。
そしてヤスダは決意する。
「T−REX。 あんたに恨みは無いが、この試合、絶対に負けられんのだ!!」
完
あとがき
さて、『あっ』という間にゴトウ戦にケリを付けて、次の刺客、ケイジ・ヤスダの登場です。
次回はタイラントVSサンダー・ウルフ、試合開始です。
ウルフのビジュアルイメージは某格闘ゲーム、『ヴァンパイア』シリーズに登場する人狼『ガロン』です。
描くのはめんどくさいので、これにて勘弁。
では。