オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

 

第9話「異変」

 「よう! T−REX。 タイラントの調子はどうだい?」

 遅れてユウとヒナの元へやってきたマサキが、先程からシュークリームを頬張り続けるT−REXに話し掛ける。

 「調子良いに決まっておる! そっちは?」

 「まずまずかな。 ところでなT−REX、ヒナちゃんから聞いたと思うが蜘蛛型可変プラレスラー・・・名前を鬼蜘蛛という。 覚えているか?」

 「あー?・・・知らん! 俺にはガイアしか見えとらんからな。」

 「そうか、そうだったな。」

 (ガイア・・・か。 ユーリ、一体どこにいるのか・・・。 結婚して引退するとも思えんが?)

 半ば苦笑しながらマサキが続ける。

 「だが、聞いてくれ・・・渋谷に限らず、都内の公式メカ・リングがどうも妙な事になってるんだ。」

 「どういうことだ?」

 「あれは、うちの店に奴が来た日のことだ。 俺は渋谷TOPにいた。」

 

―――東京・渋谷―――

 JRのみならず各私鉄の乗り入れる渋谷駅。

 そこに隣接するデパートの屋上に渋谷TOPメカ・リングはあった。

 「こんにちは。 リングは空いてる?」

 受付けの女の子に登録カードを渡しながら、いつも通りに聞いてみる。

 マサキは、ここの雰囲気が好きだった。

 こうした場所では常連組と新参者との間に、目に見えぬ壁のようなものが存在するのだが、渋谷TOPではそれが無いのだ。

 それこそ様々なモデラー、それがプラレス初心者であれ、各メーカーのテスターであれ、すぐに打ち解けあってしまう・・・そんな空気がここにはあった。

 そしてそれは、ある1人の人物のかもし出す雰囲気のせいであるともいえた。

 「あ!シマムラさ〜ん。 空いてるもなにも、見てのとおりガラガラですよお。」

 「ホントだ・・・。」

 受付けの女の子はカードを返しながら、何かを言いたげにマサキを見つめる・・・と、その時背後からマサキに話し掛ける男がいた。

 「こんにちは、シマムラさん。」

 「あ、剣さん。 お久しぶりです。」

 その男こそ、ここ渋谷TOPの古くからの常連モデラーであり、FISTのみならず様々な団体のリングに上り、かつ独立団体である『Dream・Operation』を率いる剣ジュンであった。

 「久しぶりですね、ちょうどよかった。 あなたにお伝えしなければならない事があるんです。 」

 「なんでしょう?」

 「実は・・・ここ1ヶ月ばかり、妙なプラレスラーが現れるようになったんです。」

 「妙なプラレスラー? 」

 「そのプラレスラーは、ここら辺りでは見かけないタイプで、蜘蛛型から人型に変形する珍しいプラレスラーでしてね。」

 「!」

 蜘蛛型・・・それを聞いたマサキが顔色を変えたのを、剣は見逃さなかった。

 「やはり、ご存知でしたか。」

 「おそらくあの時のプラレスラー・・・名前は『鬼蜘蛛』と言いますが、それと同種でしょう。  もう10年も前になりますが、全日本選手権会場で1度闘っています。 」

 「『鬼蜘蛛』・・・。 確かにそいつを操っていた男は、そのプラレスラーをそう呼んでいましたよ。 一体何者なんです?」

 「正体は判りません。 ですがオーナーの土鬼と彼の『鬼蜘蛛』は、対戦相手を破壊することしか頭に無いようです。 あの時は『鬼蜘蛛』が突然爆発して、土鬼は行方をくらませてしまったのです。」

 「そうでしたか。 実は、彼らが現れてからというもの、常連達が軒並み『鬼蜘蛛』に再起不能なまでにクラッシュさせられているんです。 そして彼らは試合後決まってこう尋ねるのです

 ――― マサキと十六夜はどこか?―――

 と。」

 「そんな事が起きていたんですか・・・。」

 (いやな予感がする)

 『復讐』

 そんな言葉がマサキの脳裏をかすめる。

 (やつが帰ってきたとでも言うのか? ただ俺達に復讐する為だけに!)

 「もしかしたら、昨年の暮れ以来多発している『例の事故』と何か関係あるんでしょうかね?」

 「どうなんでしょう? 例の事故にあったプラレスラーは私も見たことがあります。 まるで内部から爆発したかのようでした。 10年の間に進化したと見るべきなんでしょうか?」

 「現在の『鬼蜘蛛』による傷痕をご覧になりますか? 昨日、私の『スカーレット・アフロディテ』も片腕をクローで破壊されましたが、どうにか逃げ切りましたよ。 スカーレット!」

 剣の呼びかけに応じて、オレンジと真紅に彩られた女性型プラレスラーが剣の肩に飛び乗る。

 「どうでしょう? シマムラさん。」

 「拝見します。」

 マサキはスカーレットを大事そうに受け取り、各部のダメージを調べてみる。

 スカーレットのボディには、10年前十六夜の腹部に刻まれたものと同じ傷痕があり、左腕は途中からホット・ナイフで切り取られたような傷痕を残している。

 (間違いない!やつだ。 しかし・・・。)

 「10年前と少しも変わっていない。 剣さん、これは間違いなく『鬼蜘蛛』のヒート・クローによるものです。 しかし、例の事故とは無関係のようですね。」

 そう言いながら、スカーレットをそっと剣の手に返す。

 「そうですか。 しかし、どうにもキナくさくなってきましたね。 シマムラさん、STFの場所は誰も教えていないと思いますが、くれぐれも用心なさってくださいね。」

 「すみません!! 俺の為に、スカーレットやみんなのプラレスラーが・・・。」

 そう言いながら、剣とスカーレットに頭を下げるマサキ。

 しかし、剣はいつもと変わらぬ穏やかな表情で答える。

 「気にしないで下さい。  あ、そうそう! 今日はせっかく久しぶりに会えたんですから、私の『クイーン・ビューナス』をご覧になっていって下さい。 今度の大会には彼女と参加するつもりですから。」

 「いいんですか? 私が見てしまっても。」

 「ええ!もちろんです。 彼女にはあなたの十六夜に組み込まれている『MC・システム』を参考にしたパーツを取り付けてみたんです。 本物には及びませんが、制御が難しくって・・・。 その辺のノウハウを教えて頂けたらな〜なんて。」

 「本当ですか!? それは是非。」

 「それでは、こちらへどうぞ。 あ、それとどうです? 後で一杯飲みませんか?」

 マサキは剣に促され、よく整理された剣のメンテナンス・テーブルに案内された。

 そこには、ショート・ヘアーのスカーレットと異なり、ロング・ヘアーをなびかせた真紅を基調とする女性型プラレスラーが、闘いの時を静かに待っていた。

―――――

 「・・・というわけなんだ。」

 「それで帰ってみたら、どこで知ったのかお前の店にやつが来た後だった訳か。」

 「そういうこと。」

 「でもあれだろ? うちのヒナが撃退したんじゃねえか。 小娘にやられたとあっちゃ、もう二度と現れるめぇ。」

 「だといいんだがな・・・。 剣さんが言うには、彼らが現れた同じ時刻に別のメカ・リングにも妙なプラレスラーが現れているらしいからな。 そして、そいつは蜘蛛型じゃないそうだ。 」

 「めんどくせえから、もういいや。 お前も忘れろ♪忘れろ♪」

 「まったく・・・危機意識の無いやつだなあ。」

 「どんな相手でも、俺達は負けん!ワッハッハ!!」

 「・・・ユーリに負けたくせに(ボソリ)」

 「うっ・・・く・・・もう負けんわ!」

 「おっと! もうそろそろ開会式の時間だぞ?」

 「話を聞けー! マサキぃ!!」

 「コウ! ユウ! 雷牙とワルキューレの最終調整は済んだかい? まだ? じゃあ開会式後でまたやろう。 アスミ! 忘れモンないな? じゃあ、ヒナちゃん、ユミさん、またね〜。 ・・・じゃあな、T−REX!」

 マサキはT−REXをからかうだけからかうと、その場を後にする。

 しかし、その後のマサキの表情は険しかった。

 (鬼蜘蛛、そして謎のプラレスラー、もしも参加してくれば波乱含みの大会になりそうだな。 アスミ、コウ、ユウ・・・父さんと十六夜はお前達をどんなことがあっても守ってみせる! それが例え、規則に反することになったとしても。)

 こうして、それぞれの思いを胸に、FIST恒例『サマー・カップ』は幕を開けたのであった。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 異動になって1ヶ月あまり・・・ようやく書く機会を得ることができました。

 そして、またしても新たな登場人物。

 今回登場の剣ジュンは日頃お世話になっている「Dream〜」の管理人さんをモデルにさせていただきました。

 今後、ご本人の承諾が得られれば、順次お馴染みの方々にご登場頂こうと思っています。

 その節はよろしくお願いいたします。

 

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