第10話「新たなる敵〜Act1」
1
ズズ・・・ン。
「ああー! 彗星王!!」
試合開始早々マットに引き倒される白い細身のプラレスラー・・・名を『彗星王』という。
彗星王は、他の要素を廃してまでスピードを追求したプラレスラーである。
かつて、FISTが発足する以前の大会においては、当時のなみいるヘビー級レスラー達をことごとく撃破して決勝進出を決めたのも、そのスピードゆえであった。
ヘビー級レスラーが彗星王を捕まえようとしても速すぎて捕まえられず、ならばと繰り出す打撃技は軽々とかわされる。
それほどのスピードを誇ったのである。
その彗星王の上に跨るようにして、俗に言う「マウント・ポジション」をとるのは、これも白く輝く鎧を身にまとった様なプラレスラーであった。
「あのプラレスラーのファイト・スタイルは・・・純然たるレスリング・・・パンクラチオン・・・いや!グレイシー柔術のそれに近いな。」
かつて、彗星王と王座を争ったプラレスラー『十六夜』のオーナー・マサキが呻く。
「うむ! それにしても彗星王を捕まえることが出来るとは。 お前の十六夜ぐらいだと思ってたんだが。」
マサキの横で、めずらしく興味を持ったのかT−REXが呟く。
「あのタックルの速さを見たか? 決して俺みたいに思い付きなんかではなく、自分のファイト・スタイルとして何度も練習を積んだんだろう。」
いいながらマサキは、パンフレットをめくる。
「えーと、彗星王の対戦相手はと・・・あった! これだ。」
ようやく見つけた対戦表にはこう記されていた。
――― プラレスラー:アレックス 、オーナー:矢口(仲プラ所属)
「アレックス・・・。」
仲プラの名前を背負った眼前のプラレスラーに畏敬の念を抱きつつ、マサキは再びリングの上に視線を戻す。
マウント・ポジションを取られた彗星王は、フォールを取られないように肩を浮かしながら、力の乗らない張り手を見舞う。
「くっそう! このままじゃどうにもならん!!」
速さのみを追求したがゆえに、パワーを犠牲にした彗星王には逃れるすべもなく、オーナーのヒサシは天を仰ぐ。
「これで一気に決めよう、アレックス。」
矢口の指がキーボードの上を滑る。
するとアレックスは、まるで矢口がそうオペレートすることが分かっていたかのように、跨ったままの体勢から彗星王を強引に引っくり返し、左腕を首に巻き付け両足で胴体を挟み込み、そのまま締め上げる。
「胴締めスリーパー!!」
それは、一見地味だが確実に彗星王を締め上げ、ヒサシのモニターに表示されるダメージ・グラフは見る間にレッド・ゾーンへと駆け上る。
「くう!このままじゃ首がもたん・・・残念だが・・・。」
目を閉じて、コックピットの「ギブ・アップ」ボタンを押すヒサシ。
そのスピードを武器にセカンド・ステージまで駆け上がってきた彼にとって、それは苦渋の決断であったが、己のファイト・スタイルとは180度方向性の異なる相手に、むしろ畏敬の念を抱く。
「自分の試合ペースに引き込めなかった・・・完敗です。」
「いえいえ、たまたま運が良かっただけです。 試合開始前はハラハラしていましたよ。」
リング上では、アレックスが彗星王を助け起こし、ガッチリと固い握手を交わしていた。
「アレックス・・・いい動きをする。 派手さは無いが、無駄が無い。 なによりあの時のアレックスの動き・・・まるで自分から動いているように見えたのは気のせいなのか?」
(ファースト・ステージに上がってくれば、手強い相手になりそうだ・・・。)
やがて訪れるであろう、強敵のとの対戦に思いを馳せるマサキであった。
2
「さてと・・・サード、セカンドと来て、お次は俺の出るエキシビジョン・マッチか。 そんなら、ぼちぼち行くとするか。 見てろよマサキ! タイラント、行くぞ!!」
立ち上がり、控え室へと向かうT−REX。
そしてオーナーに応えて、肩口に飛び乗る漆黒のプラレスラー・タイラント。
「負けるなよ? T−REX。」
「誰に言ってんだ!」
肩で笑いながら歩み去るT−REXを見ながら、何故か胸騒ぎがするマサキ。
(気のせいだといいが)
「失礼・・・島村さんですね。」
胸騒ぎの原因について思案にくれるマサキに話し掛ける1人の男。
「・・・あ、はい。 あ!あなたは。」
思案していた考えを振り払って顔を上げると、そこには先程までコックピットにいた矢口が立っていた。
「矢口さん?でしたね。」
「どうも。 初めてお目にかかります。」
「あ、こちらこそはじめまして。 試合、観させて頂きました。 このまま勝ち進めば、入れ替え戦にエントリーできそうですね!がんばって下さい。」
「いえいえ。 まだまだ、これからですよ。 ですが・・・あなたの十六夜との対戦を楽しみにしていますよ。 私も、そしてアレックスも。」
矢口の言葉にアレックスが肩の上で頷く。
「それは光栄ですね。 私も楽しみにしています。」
「それでは、また後程。」
そう言い残して矢口は控え室へと歩み去る。
『それでは続きまして、本日の第1回目のエキシビジョン・マッチを行います。 皆様、花道にご注目下さい! ファースト・ステージのプラレスラー・タイラントの入場です。』
リング・アナのコールでカーテンが開き、T−REXとタイラントが場内に響くテーマ曲に乗って入場してくる。
そして、それはマサキの胸騒ぎが現実のものとなる始まりでもあった。
つづく
〜あとがき〜
今回のモデルは「仲間堂プラモ開発室」の管理人さんです。
プラレスラー・アレックスのファイト・スタイルはご本人の希望によりレスリング&グレーシー風にしています。
次回、T−REXとタイラントはどうなるんでしょうね。
ピースケ次第かな?