第12話「新たなる敵〜Act3」
1
バキ!・・・バチバチ・・・ピシ!
魔神型へと変形し終えた『地獄の使い魔』は、両腕でタイラントを羽交い締めにして執拗に牙を突き立てるとタイラントの首筋にヒビが走る。
T−REXのディスプレイに浮かぶ、頚部へのダメージはとうにレッド・ゾーンへと達していた。
「くそ! フルパワーでも振りほどけんとは・・・やむを得ん。」
T−REXがプログラムの1つを選択する。
カッ!!
タイラントのカメラアイが光り、羽交い締めにされたままのタイラントがフルパワーで走り出し、そのままジャンプする。
ズドォン!!
背中から『地獄の使い魔』もろとも花道へと落ちるタイラント・・・セントーンだ。
それは、本来の技の使い方ではないが、背中に張りついた相手にダメージを与えるには格好の技であった。
「ギイッ!」
スーパー・ヘビー級のタイラントの全体重が乗ったセントーンを食らって、『地獄の使い魔』もその牙を首筋から放す。
しかし、強引に過ぎたのかタイラントの首筋の装甲が食いちぎられた格好になり、配線がショートしているのが見て取れる。
「よおし! そのままダブル・ニー・ドロップだ!」
しかし、タイラントは反応しない。
「!?まさか・・・。」
そのまさかであった・・・タイラントの唸り声が聞こえてくる。
「オオオオオ・・・。」
タイラントはT−REXの意志に反して無造作に起き上がり、右手で『地獄の使い魔』の頭を鷲掴むと、リング目掛けて投げ飛ばす。
しかし、投げ飛ばされた『地獄の使い魔』は、先程のセントーンのダメージをものともせず、巨体に似つかわしくない身のこなしで、軽々と身を捻ってリング近くに着地し、その右手でタイラントを指差す。
「フン・・・運ノイイ奴メ。 電波状態ガ良ケレバ、スクラップニシテクレタモノヲ・・・。」
そう言うと『地獄の使い魔』は、またも「蝙蝠」の姿へと素早く変形する。
ブアアアアアアアア・・・。
そして、バックパックに内蔵されたモーター・ファンが回転を始め空気を圧縮・噴出し、飛び立とうとする。
これは、主に「F16」等のジェット戦闘機型のRC飛行機で使用されているものと同種であろう。
ファンが回転することで実機同様に機体前方のインテークから空気を取り込み、圧縮された空気を後方から噴射することで推力を得るのである。
『地獄の使い魔』のそれは、さらに高推力を得る為にチューンされたものであるらしい。
「オオオオオ・・・。」
そこへ唸り声をあげっ放しで、無造作に走り込むタイラントが右腕でまたもラリアットを放つが、余裕で飛び立った『地獄の使い魔』にかわされてメカ・リングの支柱に自爆する。
グワ〜ン!
フルパワーのラリアットを食らって、ゆれるメカ・リング。
「フッ・・・フッハハハ!」
不敵に笑いながら、東京ドームの高い天井目掛けて飛び去る『地獄の使い魔』。
「グルルルル・・・。」
獣じみた声を発するタイラントが天を仰ぐ・・・と、そのままの姿勢でタイラントの動きが止まった。
「!?タイラント?」
T−REXのディスプレイには―――Battery Empty―――の文字が明滅し、タイラントが暴走状態に陥りフルパワー状態を続けた為にバッテリー切れとなったことを告げていた。
「やれやれ、バッテリー切れか・・・。」
ようやく肩の力が抜けたT−REXは、立ったままのタイラントを腕に乗せる。
「よくやったぞー、T−REX−!!」
「いいぞー! タイラントぉー!」
観客の歓声と拍手が、T−REXと動かぬタイラントに向けられる。
「あほか! いいとこ全然なし、第一勝っとらんわ!!」
やがてFIST関係者が殺到し、FISTとは無関係のプラレスラーであること、対戦相手の海外招待選手は控え室の廊下でクラッシュさせられていたこと等がT−REXと観客に説明された。
「おまえら・・・対応がいちいち遅えんだよ・・・。」
2
憤りながら控え室に戻ったT−REXを妻のユミと娘のヒナ、そしてマサキ達が出迎える。
「また暴走!? 今日は乱入相手だし、試合中じゃなかったからいいようなものの、ど〜しちゃったのよタイラントは・・・。」
とヒナ。
「ぐ・・・。」
言葉の出ないT−REX。
「まあまあ、ヒナちゃん。」
みんなに止められて、あたしだったらけちょんけちょんにしてやるだの何だのと息巻くヒナ。
「それよりも、あのプラレスラーだ。 剣さんが言っていた、『鬼蜘蛛』と同時期に出没している奴なんじゃ!? 可変型って共通項もあるし。」
「うむ、たぶんな。 気にするなとは言ったものの、こうも関わってくるとなると無関係とはいえんのう。」
「ああ。 だが、奴等は一体何者なんだろうか・・・。」
マサキの言葉に静まり返る控え室。
誰もが答えを出せずにいた。
「・・・答えを知りたいか?」
ふいの問いかけに全員がそちらを振り向く。
そこには、頭に巻いたバンダナに指をかけた1人の男が椅子に座り、その男のテーブルの上には十六夜と同じように青く、しかし太古の騎士を思わせるプラレスラーが立っていた。
3
「あなたは?」
マサキの問いかけにふらりと立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる男。
「俺の名は、ロウ。 あれは俺の相棒『デス・ドラグーン』。」
テーブルの上に佇む『デス・ドラグーン』。
その顔面を覆うバイザーに備えられたカメラ・アイが光る。
「あの、何でもありの『バトリング』が売り物の団体『アッセンブルEX10』を代表する!!」
「そうだ、よく知っているな。 それよりも、あのプラレスラーのことだが。」
この先も現れるであろう謎に満ちた相手を前にして、マサキはどんな情報でも欲しかった。
「知っているというよりも、知らされたと言うべきか。 俺は奴の事を1日たりとも忘れた事は無い。 奴の名は・・・『降魔』。」
「降魔・・・。」
マサキは、先程目にした『地獄の使い魔』こと『降魔』の姿を思い出していた。
(・・・降魔・・・魔の降臨・・・悪魔の形をした、あの可変蝙蝠型プラレスラーにピッタリの名前だ)
「そして、『降魔』は『地下ガレージ・プラレス』出身だ。」
―――地下ガレージ・プラレス―――
それは、主に賭博の対象として行われる、非合法のプラレスのことである。
「俺は、ある時『地下ガレージ・プラレス』の試合に出場した。 己の力が地下でも通用することを証明したかったからだ。」
ロウは抑揚の無い、淡々とした口調で語り始めた。
つづく
〜あとがき〜
ロウの登場シーンをこちらにもってきました。