第13話「新たなる敵〜Act4」
1
ロウの語る試合内容は、凄まじいものだった。
10機によるバトル・ロイヤル。
それは、一瞬で幕を閉じた。
撒き散らされたオイル、散乱する部品の中に佇む異形の影。
生き残ったのは、『降魔』だった。
「俺は、あの試合で愛機『クレイジー・ドッグ』を失った。 奴には手も足も出なかった。」
そこまで語り終えると、ロウはテーブルの上の『デス・ドラグーン』を見やる。
「その時の反省を基に、創り上げた『デス・ドラグーン』。 だが、果たして奴に通用するかどうか。」
ロウの話に、マサキは言葉も無かった。
『デス・ドラグーン』の噂は、マサキも聞いている。
それ程のプラレスラーを創り上げ、意のままに操るロウが、かつて降魔に敗れたと言うのだ。
今日の乱入で、タイラントが破壊されなかった事が奇跡のように思える。
と、ここまで考えて、ある疑念がマサキの脳裏に湧きあがる。
(創り上げる・・・。)
「『降魔』が地下のプラレスラーだと言うのは、間違い無いようだな。 だが、あれ程のプラレスラーを創ったのは一体誰なんだ? そして、その目的は?」
マサキは、新たに脳裏に浮かんだ疑念をストレートに口に出す。
「もしかしたら・・・。」
「?」
「もしかしたら、奴はただのプラレスラーじゃないのかも知れない。」
マサキの問いに、驚愕の言葉で答えるロウ。
「これは、あくまで俺の推測だが・・・。」
前置きした上で、ロウが語り始める。
「『降魔』は、どこかの企業が開発した兵器のシミュレーション・ドールと考えてみてはどうだ?」
「兵器!?」
まさしく爆弾発言であった。
「そうだ・・・。 かつて、プラレスを軍事目的のシミュレーションとして利用したという例がある。 それと同種だ。」
「そんな! まさか!?」
いくらなんでも、いきなり軍事目的のシミュレーションと結び付けるのは、いささか性急すぎる考えではないだろうか?とマサキは思う。
「ウラカンの名は知っていよう?」
ウラカン。
その名は、プラレスを知っている者ならば、忘れられない名前である。
ウラカン・・・そしてグール、トロール。
これらのプラレスラーは、最強の兵士を創り出す為のシミュレーション・ドールだったという噂があった・・・。
「知っている・・・。 じゃあ、あれは単なる噂ではなかったのか?」
ロウは、マサキの言葉に静かに頷いた。
2
言葉を失う一同。
ロウは続ける。
「表立って行動することによるリスクを避ける為、地下で実戦を繰り返していると考えれば、つじつまが合うのではないか?」
「表立って行動したくなかった理由・・・か。 もしや! FSX計画の轍を踏まない為?」
「そうだ。 プラレスを軍事目的に利用してるのは、奴等だけじゃない。」
深く考え込み、納得するマサキ。
「? どう言う事だ?」
いまいち状況が飲み込めない一同を代表するかのように、T−REXが尋ねる。
「ああ。 説明するよ。」
マサキが一同に向き直り、語り始める。
「昔から日本が独自の兵器を開発するには大きな壁がある。 あれは防衛庁の計画だったが、かつて日本のFSX(次期支援戦闘機)開発計画の時に、アメリカから圧力がかかって自国開発の計画案が白紙撤回させられた経緯がある。 零戦の再来を恐れたとも言われているがね。」
「あほか!零戦なんか作る訳なかろう。 全く馬鹿な話だな。」
「全くな。 だが、そう言われているのは事実だ。」
「でもよ、そしたら変じゃねえか? なんで奴等は表に出てきたんだ?」
当然の疑問だった。
「兵器として、ある程度完成した所で、デモンストレーションを行う必要があったんだ。」
「デモンストレーション!!」
「そう。 その為に、TV中継のあるFISTを選んで乱入してきた・・・と考えるのが、自然だろう。 ちなみにFIST以外の団体に現れたのは、表のプラレスのレベルを知る為の腕試しってとこかもしれないが。」
「じゃあ、俺達が奴等と闘う事が奴等の計画に加担してるってことになるじゃねえか!」
「そうだな・・・そして、それは過去の例に漏れず、プラレスが奴等にいいように利用されてるってことにもなる。」
「馬鹿な・・・。」
再び沈黙に包まれる控え室。
「でも・・・なんで、そんな連中が父さん達を狙っているの?」
ふと疑問に思ってコウが尋ねると、ユウもヒナもそうだと言わんばかりに注目している。
「それはね。 10年前の鬼蜘蛛も今日の降魔も、十六夜とタイラントに勝たねばならなかったのさ。 兵器のシミュレーション・ドールが、一介のプラレスラーに負けたとあっては買い手が付かないだろうからね。」
「うむ・・・そうなるな。」
「もっとも、今日の降魔はタイラントのデータ収集が目的だろう。 そして最終的には十六夜とタイラントを・・・。」
十六夜の前に立ちはだかる、鬼蜘蛛、そして降魔の姿。
背後にうごめく、強大な敵の出現。
(負けられない。)
そう決意しながらも、マサキは別の恐怖を感じずにはいられなかった。
つづく
〜あとがき〜
前後の繋がりを意識して、大幅にリニューアル。
大分、整理がついたと思いますが、いかがでしょう。