オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

 

第14話「急襲〜Act.1」

―――東京・多摩ニュータウン PM9:00―――

 多摩ニュータウン通りから、やや南に位置する「乞田・貝取ふれあい公園」。

 その公園内にしつらえられた、木製のベンチには男が座っていた。

 ベンチの前にある、木製のテーブルには1体の青いプラレスラーが立ち、すぐ脇にはPCが置かれている。

 公園の外灯に照らされ、深い青に輝くプラレスラーは名を十六夜といった。

 そして、目の前に座る男はマサキであった・・・そして、悩んでいた。

 FISTの大会第1日目は、波乱の幕開けとなった。

 鬼蜘蛛に続いて、新たに姿を現した『降魔』。

 『地下ガレージ・プラレス』を主戦場に、どこかの企業が開発を進めてきた兵器のシミュレーション・ドール。

 もしも・・・である。

 もしも、自分が負けることによって、『降魔』をベースとした、その兵器が世界のどこかで実際に使用される事になってしまったら・・・。

 そう考えると、負けることは絶対に許されないと思う。

 かといって、このままでは、奴等がどんな手を使ってくるかもわからないことも事実だ。

 自分1人なら、それでも良かった。

 しかし、現在の自分は1人では無い。

 控え室で感じた、彼らに危害が及ぶことに対する恐怖が蘇る。

 「どうすればいい・・・このままでいいのか?」

 マサキは自問自答を何度も繰り返す。

 しかし・・・答えは出ない。

 焦燥感だけが、背中を押し続けていた。

 「くそ・・・。」

 固く握り締めた右拳を左掌に叩きつける。

 (・・・マサキ・・・)

 「ん?」

 ふと、十六夜に呼びかけられたような気がして、目の前のテーブルに立つ十六夜を見つめる。

 「闘おう、マサキ。 そして、勝ち続けよう。」

 「十六夜・・・。」

 「マサキの気持ちは、分身である俺にはよくわかる。 俺が負ければ現在(いま)は守れるだろう。 だが、子供達の未来は? 奴等を世に出してはいけない!!」

 「十六夜・・・。 俺の気持ちもお前と同じさ・・・わかっている。 闘い続けねばならないことは、わかっているんだ。」

 「ならば!」

 十六夜はそう言うと、軽くテーブルを蹴ってマサキの膝の上に立ち、顔を上げる。

 その顔にはフェイス・マスクが着けられていたが、その瞳からみなぎる勇気と決意が見てとれた。

 マサキの脳裏に家族の顔が浮かぶ・・・。

 とその時、背後に気配を感じて同時に振り向くマサキと十六夜。

 「!!」

 振り向いた2人の目に映ったモノは、公園の草むらから這い寄る黒い『蜘蛛』であった・・・。

 「『鬼蜘蛛』!!」

 咄嗟に、PCを開くマサキ。

 その頭上に巨大なRC飛行船の姿を認める。

 「・・・そういう事か!」

 大方、RC飛行船にカメラでも仕込んでいるのだろう。

 PCはスタンバイ状態から復帰し、次々とコントロール・メニューを表示させていく。

 「十六夜!セットアップ!! 悩むのは後だ! 奴を倒せ!!」

 「オウ!!」

 ズァッ!

 セットアップを終えた十六夜が瞬く間に疾走を始め、夜の闇の中へとカメラアイの光が流れていく。

 シュシュシュシュシュシュ・・・。

 十六夜へと近づいた『鬼蜘蛛』へ、走りこんだまま右のニール・キックを放つ。

 今までのパターンで、変型すると踏んでのニール・キックだ!

 ピシッ!

 「くう!」

 次の瞬間、右脚を抱えて地面を転がる十六夜。

 「十六夜!?」

 慌ててモニターを見るマサキ。

 右脚の側部装甲に一点集中のダメージがある!

 それに、わずかだが小さな穴が開いているようだ。

 「これは! 一体何があった!?」

 右脚を引きずるようにして、立ち上がる十六夜。

 その十六夜の目の前で変型する『鬼蜘蛛』。

 「マサキ! こいつは・・・『鬼蜘蛛』じゃない!!」

 右脚をかばうように、ようやくファイティング・ポーズをとる十六夜が叫ぶ。

 「何!?」

 マサキはすばやく、十六夜のカメラ・アイからの画像ウィンドウを拡大する。

 十六夜からの画像は、その状況に応じて画像処理アプリケーションと同じように「明るさ」「コントラスト」「ガンマ値」を処理して表示しているのだが、マサキの目には『鬼蜘蛛』にしか見えなかったのだ。

 その拡大された画像と、過去の『鬼蜘蛛』の画像のデータとを照らし合わせる。

 「違う・・・。 確かに『鬼蜘蛛』ではない。 似てはいるが・・・何なんだ!? それに、あのダメージは一体。 クローの射程距離ではないはずだ。」

 そう、確かに違っていたのだ。

 よく見れば、両手には『鬼蜘蛛』には無かった鋏のようなモノが付いている。

 「十六夜、気を付けろ!」

 マサキが、そう言い終えると同時に『正体不明機』が十六夜に向かって走り、ファイティング・ポーズを崩さない十六夜に近付いた『正体不明機』が右手の鋏を突き出してくる。

 「かわせ! 十六夜!!」

 ヒュオンッ!・・・ガシッ!

 「馬鹿な!!」

 その鋏をかいくぐったはずの十六夜が鋏に首を掴まれ、軽々と宙に持ち上げられる。

 ギシ・・・ピシ・・・。

 「ぐ・・・」

 モニターのダメージ・グラフが上昇を始める。

 必死に鋏を掴んで、引き離そうとするがビクともしない。

 「このままじゃ、まずい!!」

 その時・・・夜闇の中に、ひとつの影が現れた。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 悩むマサキ。

 その答えも出ないまま、否応無く襲い掛かる敵。

 あえて、今回で答えを出す必要はないな、と加筆・修正を加えました。

 

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