オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

 

第18話「ZERO〜Act1」

 『それでは続きまして、本日の第1回目のエキシビジョン・マッチを行います。 皆様、花道にご注目下さい! ファースト・ステージのプラレスラー・十六夜の入場です。』

 リング・アナのコールで十六夜のテーマ曲が流れ始め、太鼓をベースにしたイントロを終えた所でカーテンが開く。

 前日のT−REXのような派手なタイプでは無いマサキは、いつものようにTシャツにジーンズ、ワークブーツを履き、悠然と歩を進める。

 「どうだ? 俺には見えんが・・・昨日のような乱入の気配はあるかい?」

 マサキは、肩口に座る十六夜に語りかける。 

 「全周囲に、各プラレスラー独自の周波数、それに付随する認識コード、コマンド・コードの反応はある。 しかし・・・昨日、サンプリングした降魔の気配は無い。」

 「そうか。 気を抜かずに行こう。」

 程無くして、マサキは会場に設置された5つのメカ・リングの内、一段高い中央の第1メカ・リングに辿り着く。

 「うーん・・・拍子抜けだな。 絶対、乱入してくると思ったんだが。」

 そう思いながら、リング脇に設けられたコックピットにつくと、目の前のテーブルに自らのPCをセットする。

 「まあ、いいか。 十六夜、セット・アップ!!」

 マサキのオペレートで、PCから十六夜へと純粋なセットアップ・プログラムが流れ、スタンバイ・モードにあった十六夜が目覚める。

 シュオン!

 十六夜は大きく屈伸すると、蒼い残像と軽い駆動音を残してコーナーポストの上に危なげなく降り立つ。

 それは、誰の目にも瞬間移動したかのように見えた。

 この素早さ、これこそが『蒼き疾風』の異名で呼ばれる所以の一端であった。

 セット・アップを終えて、エキシビジョン・マッチの相手の入場を、コーナーポストの上に立ち、腕を組んで待つ十六夜。

 『続きまして〜本試合に特別参加となりますのは、会場にて厳正なる抽選で選ばれました、プラレスラー『ZERO』の入場です! FISTファースト・ステージの十六夜を相手に、どこまで闘えるのか!? その能力は未知数です!! 皆様、反対側の花道に御注目下さい!!』

 轟!

 軽快なテーマ曲に乗って、マサキが入場してきたのとは正反対に位置するカーテンが開かれ、人影が現れる。

 「ZERO・・・聞かない名だな。 モデラーは・・・と。」

 颯爽と歩いてくるモデラーにスポット・ライトが当たった時、マサキは思わず息を呑んだ。

 「お・・・女なのか。 ZEROなんて名前のプラレスラーだったから、俺はてっきり男かと思って。」

 そう、その人影は女性だったのだ。

 年齢はマサキ、いやアスミよりも若く見える。

 ボーイッシュなショート・ヘアにノースリーブのシャツ、黒の膝丈のパンツといった出で立ちだ。

 その女性も、マサキと同じく何事もなくメカ・リングを挟んで反対側のコックピットに着席する。

 「あら、女性だからって、同性のプラレスラーを使わなければいけない道理はなくってよ? 島村さん?」

 「あ、失礼。 つい、珍しいな・・・と思って。 気を悪くしたなら、謝る。」

 「それならいいの。 気にしてないわ。」

 「えーと・・・?」

 「私はジュン。 枝島ジュン。」

 「ジュン・・・(そういえば剣さんも、ジュンだったな。 ジュンて人は異性型プラレスラー愛用者が多いのか?)。」

 マサキがふと思い出している中、ジュンが言葉を続ける。

 「そしてこれが・・・。」

 いいながら、既にコックピットにセットした黒いPCを叩く。

 「『ZERO』システム、オールグリーン。 セット・アップ。」

 ジュンのオペレーティングで『ZERO』がリングサイドへと跳躍すると、トップロープを飛び越えてリングの中に降り立つ。

 「どうかしら? これが私の『ZERO』。」

 「これは・・・身のこなしの雰囲気からすると、タヤマのZECROSSがベースか?」

 「ふふ・・・闘えばわかるわ。 ZECROSSかどうか試してみたら?」

 「確かに君の言うとおりだ。 では、お手合わせ願おう。」

 エキシビジョン・マッチ専属レフェリーの山本氏が、ジャッジ専用コックピットに着く。

 そして、これもエキシビジョン・マッチ専用レフェリーの『KOTE−U』タイプが、十六夜とZEROのチェックを規則通りにこなしていく。

 「異常ナシ。 二人トモ、イイFIGHTヲ期待スル。」

 『KOTE−U』のチェックが済み、2人が互いのコーナーへ戻る・・・そして。

 カァー―ン!

 轟!

 エキシビジョン・マッチのゴングが、今鳴らされたのであった。

 「十六夜。 何とも不思議な感じのする相手だが、ここは相手の力をきっちり出して、その上で試合を組み立てていこう。」

 「了解。」

 マサキの指示に十六夜が軽く頷きコーナーを離れると、いつものようにフットワークを使いながら、リングの上に反時計回りの円を描き始める。

 一方。

 「ZERO。 あなたにとって、これが初の桧舞台ね。 思う存分、闘っておいで。」

 「イエス!マスター。」

 愛しそうに指示を出すジュンにZEROが応え、歩きながらコーナーを離れる。

 やがて、リングの中央で立ち止まると、十六夜は左半身に、ZEROは右半身に構えて、互いを牽制しつつ腕を伸ばす。

 両者の指先が軽く触れる・・・と同時に、動いたのはZEROだ!

 「ハッ!」

 ZEROは鋭い呼気とともに十六夜の左手首を両手で掴み、その腕と平行になるように身体を浮かせ、その左脚は十六夜の片口から首へと巻きつく。 

 「サンボか!?」

 体重をかけて十六夜をそのまま倒そうとするZERO。

 その入り方、形のそれは、サンボの『飛びつき腕ひしぎ逆十字』のそれに似ている。

 ヘビー級の体重が左腕にかかり、仰向けに倒れる十六夜。

 ビシッ!

 鈍い音を立てて、ひび割れる十六夜の後頭部ガード。

 「何!?」

 見ると、ZEROの右膝が十六夜の後頭部に当てられ、首に巻かれた左脚と挟み込むような形になっている。

 ZEROのそれは、単なる腕ひしぎ逆十字ではなかったのだ。

 「これは、サンボじゃないな・・・。」

 マサキの脳裏に浮かぶ、様々な格闘技の数々。

 「もしや古武術?」

 「そう。 よく御存知ね。」

 マットの上では、ZEROがそのままの体勢で十六夜の左腕を極めて、締め上げていた。

 素早く回り込む『KOTE−U』レフェリー。

 「十六夜、ギブアップ?」

 「く・・・ノーだ!」

 ギシギシと締め上げられながらも、意思表示する十六夜。

 「ふふ・・・どう? このままクラッシュに持ち込んでもいいのよ?」

 「・・・。 十六夜、脱出だ。」

 カッ!!

 マサキのオペレートで十六夜のカメラ・アイが光ると、その両足が上にあがり、そのまま頭の方へと倒れていく。

 それは、ちょうど後転をしたような格好になり、十六夜はたやすくZEROの両足のロックを外す。

 「いい技だ・・・けど、そのまま極めるには脚の位置が問題だな。 容易にポイントをずらせるし。」

 左腕にZEROをぶらさげたまま、十六夜が立ち上がると、ようやくZEROがその手を離す。

 改めて対峙する2機。

 十六夜は極められた腕のダメージを確認するかのように振ると、両掌をZEROに向け猫足立ちに構える。

 対してZEROは、先程と同じ右半身の構えだ。

 「今度は、こちらから行く!」 

 十六夜はそう言うと、ZEROめがけて掌打を繰り出す。

 ダダダダダ・・・。

 それは、ZEROの胸部へマシンガンのごとく叩き込まれ、ZEROはその反動でコーナーへと追い詰められるのであった。

 「だめ! 回避がついてかない! なんて打撃なの!? 」

 「まだまだ!」

 ふいに掌打がやみ、次いでZEROの前頭部に叩き込まれる十六夜の踵・・・あびせ蹴りだ。

 コーナーとの間に挟まれ、バウンドしながらうつ伏せに崩れるZERO。

 すかさずダメージ表示を確認するジュン。

 「ダメージは! だいぶ削られたわね。 頭部パーツに不具合、試合続行は・・・可能ね!」

 ギシリ・・・と、立ち上がったZERO。

 両者は再度組み合うために、またも互いを牽制しながら十六夜は右手を、ZEROは左手を伸ばし、ようやく折り合いをつけて組み合わせる。

 と、ZEROがまたも先に動く。

 組み合わせた左手を引き、右肘を十六夜の側頭部に叩き込む。

 「的確に急所を狙ってくるな・・・。 ならば。」

 ZEROは引き手を離さず、2度、3度と肘を叩き込んでくる。

 その度に上がっていく十六夜のダメージグラフ。

 十六夜はその引き手にタイミングを合わせると、自らZEROの懐に潜り込み、その頭部に右腕を回す。

 ヘッド・ロックだ。

 グイグイとZEROの頭部を締め上げる十六夜。

 「あ! く・・・。 ZERO!」

 ジュンの手がせわしなくキーボードを叩くと、ZEROの両腕が十六夜の腰に巻かれる。

 セオリー通り、バックドロップに持っていく気だ。

 その気配を察して十六夜がヘッドロックを外す。

 そして、ZEROの両腕からすり抜けるように、2回転、3回転とその場でスピン、そのまま蟹バサミの要領でZEROをうつ伏せに倒す。

 轟!!

 盛り上がる観客。

 十六夜は蟹バサミの体勢のまま、ZEROの脚を畳み込んで、関節を極める。   

 「ぐう!」

 呻き声をあげる、ZERO。

 十六夜は極めていた脚を外し、ZEROを強引に立たせる。

 と、その隙をついて回り込んだZEROが、十六夜の腰に両腕を回す。

 今度こそ、バックドロップだ! 

 「やべ!」

 Jr・ヘビーゆえの軽さが災いして、軽々と持ち上げられる十六夜。

 しかし、十六夜は上死点に達しようとした瞬間、自ら後ろへと回転するや、ZEROの背後に降り立つ。

 慌てて振り向くその胸へ、十六夜のローリング・ソバットが決まり、2歩、3歩よろめいて後退するZERO。

 すかさずロープへと走る十六夜。

 「強烈なソバット・・・。 さっきのあびせ蹴りといい、Jr・ヘビーの十六夜のどこにそんなパワーが!?」

 試合中だというのに、接触して集めたデータを検証しながら、ジュンは驚きを隠せないでいた。

 

つづく 

 

〜あとがき〜

 ちょっと、著作権的にやばいか?と思ったので、技名とか削除。

 そして、ちょびっと加筆・修正。

 今回の相手、ジュンは初日にユウがぶつかった女性です。

 そして、ZEROは・・・。

 これ(↑)書くまで、何話必要なんだろう。

 

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