第19話「ZERO〜Act2」
1
ズァァッ!
ロープの反動を利用した十六夜が、ZEROめがけて地を蹴る!
両腕をクロスさせて、宙を舞う十六夜のフライング・クロス・チョップ・・・しかし!!
「なにぃっ!」
今まさにヒットしようとした瞬間、残像とともに十六夜の視界からその姿を消すZERO。
目標を失った十六夜は虚しくマットへと自爆し、そのまま場外へと転がり落ちる。
「く・・・。」
衝撃に頭を振りながら起き上がる十六夜。
「1・・・2・・・3・・・」
レフェリーのKOTE−Uがカウントを開始する。
「速い! 何て速さだ・・・。」
動揺を隠せない十六夜、それはオペレートしたマサキとて同様であった。
マットに打ちつけたダメージをチェックするように、2度、3度と左腕を振りながらリングに近付き、ようやくエプロンに登った十六夜をトップ・ロープ越しに掴むZERO。
「無用心ダゾ! 十六夜!!」
気合一閃、軽々と十六夜を持ち上げるZEROのトップ・ロープ越しのブレーン・バスターだ。
しかし、十六夜はまたも上死点で切りかえし、ZEROの背後に降り立つ。
「でやぁ!!」
今度は十六夜が気合一閃!!ZEROの胴に両腕を巻き付け、そのままジャーマン・スープレックスの体制に入る。
しかし、ZEROは咄嗟に左足で十六夜の股間を蹴り上げる。
それは十六夜の受信機にヒットし、一瞬ではあるが十六夜とのリンクにノイズが生じる。
「ぬう!」
受信機への攻撃は、明らかに反則だ。
しかし、両腕を挙げて首を振り『故意』でないことをアピールするZERO。
レフェリーのKOTE−Uが、そんなZEROに注意を促し、両者をリング中央に戻す。
「ファイッ!」
KOTE−Uの両腕が交差すると同時に、ZEROとの間合いを一気に詰める十六夜。
「ひゅっ!」
鋭い呼気とともに繰り出される、膝から伸びるムエタイばりの右ハイ・キック。
「!!」
しかし、伸びた右脚はZEROのいた空間を虚しく薙ぐだけであった・・・。
2
それからの展開は一方的であった。
古くからFISTを、そして十六夜を知るファンにとって、信じられない光景が続く。
変幻自在に現れては消えるZEROに、為す術も無い十六夜。
対してZEROは、十六夜をからかう様に姿を現し、的確に攻撃を加えてくるのだ。
マサキのPCに表示された十六夜の破損箇所は、全身に及んでいた。
「くっ!」
背後に現れたZEROに振り向きざまのエルボーを見舞う十六夜。
しかし、やはりそこにZEROの姿は無い。
すり足で慎重に辺りの様子を窺がう十六夜の背後に、またも現れるZERO。
「ぬああ!」
十六夜は反射的に前方へダイブし、前回り受身から背後のZEROに向き合う。
「オマエハ、FISTデモ屈指ノ『プラレスラー』ト聞イタガ・・・FISTノレベルハ、コノ程度ナノカ?」
十六夜を指差し、不敵に嘲笑するZERO。
「く・・・。 なめるな!」
スクッと立ち上がった十六夜が、再度ZEROとの間合いを詰め、側転からボディ・アタックを見舞う。
しかし、ZEROは難なく十六夜をキャッチし、そのままバック・ブリーカーに切って捨てる。
「がはっ!」
マットに倒れた十六夜の頭を掴んで上体のみ起こすZERO。
ZEROは背後から十六夜の左腕に自らの左腕を絡め、十六夜の首を右に向かせながら右腕を顔に巻きつけると、左右の手をがっちりとつなぎ合わせる。
メキメキメキッ!!
嫌な音を立てて決まるZEROのチキン・ウイング・フェース・ロック。
「ドウダ! オトナシク、ギブ・アップスルンダナ。 コノ技カラハ、逃ゲラレマイ?」
「く・・・。」
ギ・・・ギチ・・・。
十六夜の関節が悲鳴を上げる。
3
「ギブ・アップカ?」
レフェリーのKOTE−Uが十六夜に問う。
「くう・・・ノ・・・ノーだ!」
何とかロープにエスケープせんと、もがく十六夜がKOTE−Uに答える。
「無駄ナ、アガキヲ!」
言いながら更に締め上げるZERO。
「ぐあああああ!」
叫ぶ十六夜の関節から、ステッピング・モーターのニクロム線が焼ける匂いが漂ってくる。
「無駄よ。 無理をすれば十六夜はクラッシュするわ。 大人しくギブ・アップすることね。」
「止むを得ん・・・十六夜・・・脚部『MCシステム』フル稼働・・・。」
ジュンの勧告に答えず、マサキは十六夜にコマンドを送る。
「無駄だと言ったはずよ!」
そう言ったジュンの声は、場内に湧き上がる歓声にかき消される。
「そんな!」
ジュンも目の前の光景に驚きの声を上げる。
その視線の先・・・リングの上では、十六夜が脚部の力だけで立ち上がらんとしていた。
尋常ならざるパワーで伸び上がるJr・ヘビーとしては太い脚部とは裏腹に、頚部関節、肩関節の付け根から、微かに立ち上る白煙。
関節を極めながらも、立ち上がらんとする十六夜を押さえ込もうと力を込めるZERO。
「馬鹿ナ! コ・・・コノ、パワーハ一体? MCシステムトハ何ダ?」
ビシッ!
肩の関節が嫌な音を立てる。
「ぐ・・・ぐおあああああああああああああああああああああああ!!!!」
ZEROの右腕が巻かれている為、くぐもった雄叫びをあげて、ついに立ち上がる十六夜。
今、ゆっくりと歩を進め・・・ようやく右脚がロープにかかる。
「ZERO! ブレイクダ!」
レフェリーのKOTE−UがZEROに十六夜を放する様に促す。
呆然とするZEROが、ハッと気付いたように素直にロックを外す。
ようやく解放された十六夜はロープにもたれながら、左肩を押さえている。
そのフェイス・マスクはZEROの右腕に割られ、今にも素顔があらわになりそうだ。
「十六夜、ファイト可能カ?」
レフェリーのKOTE−Uが、十六夜の顔を覗き込みながら尋ねる。
その問いに無言で頷くと、十六夜はロープから離れてリング中央へと歩み寄る。
ZEROの待つ場所へ。
つづく
〜あとがき〜
十六夜、大苦戦。
度々登場する『MCシステム』については、いずれ書きます。
ヒントは・・・筋肉、柔王丸のリニア・モーター・レッグ。
ZEROの速さの秘密、次回は明らかにできるのかなあ。