オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第20話「ZERO〜Act3」

 「ZEROか〜。 身のこなしからタヤマのZECROSSに相違ないと踏んだんだがなあ。 あの速さは尋常じゃねえぞ? プラレスラーの限界を超えている。」

 控え室のTVモニターを食い入るように見つめ、自分達の所属するFISTの、それもファースト・ステージに属する十六夜の思わぬ苦戦に呆然としている選手達。

 その最前列で、T−REXことタツヤが呟いた。

 FISTの中にあって、そのスピードでは十六夜と1、2を争う彗星王のオーナー、ヒサシに至っては声も無い。

 「尋常じゃないって・・・。 じゃあ、あいつも奴等の?」

 コウが問う。

 「いや・・・わからんな。 今までの奴等は見るからに”悪”って感じだったから、すぐわかったんだが。 ZEROに限って言えば、見た目は至って普通だ。 まあ、もう少し様子を見ようや。」

 自らも漠然とした不安を感じつつ答えるT−REX。

 本当ならば観客席の最前列で、マサキに気合の一つも入れてやりたい気分であったのだが、彼はマサキに頼まれて、得体の知れない”敵”の手からマサキの家族を守る為、仲間の大勢集まる控え室で観戦することを選んだのだった。

 (マサキ・・・。 俺以外に遅れを取るなんざ、許されねえぜ?)

 ZEROにゆっくりと歩み寄る十六夜。

 「ソノ“姿”・・・。 ソノ“力”・・・。 マサカ・・・オマエハ。」 

 怯えと畏敬の念を込めてZEROが呟きながら、後ずさる。

 そのZEROに対して、間を詰める十六夜。

 「オマエガ・・・“あるじ”ノ求メル。 グッ!!・・・ガ・・・!!・・・」

 突如、頭を押さえてガクガクと震え、もだえ苦しむZERO。

 「大丈夫カ? ZERO。」

 為す術も無く見守る、レフェリーのKOTE−U。

 何度も全身を痙攣させ、時折四肢を突っ張るようにのけ反る。

 やがて、うずくまったZEROが立ち上がった。

 再度、近寄るKOTE−U。

 「ZERO。 ファイト可能カ?」

 「・・・。」

 尋ねるKOTE−U、しかし彼はZEROの答えを聞くことは出来なかった。

 ゆらりと立つZEROが、その左手刀でKOTE−Uの胴を貫いたのだ。 

 一瞬、間をおいた後、オイルを吹き上げて倒れるKOTE−U。

 ZEROの全身に、オイルが返り血の様に飛び散る。

 優勢に試合を進めていたZEROの凶行に騒然となる場内。

 「枝島ジュン! レフェリーの破壊は重大な反則となる。 新たなレフェリーのセットアップまで、ZEROをコーナーに下がらせなさい。」

 レフェリーのヤマモト氏は、リングの上に散らばった愛機「KOTE−U」の残骸を気丈に片付けながら、そう宣告し、さらなる愛機「KOTE−U.Evo」をセットアップする。

 「ZERO? どうしたのよ!」

 ヤマモト氏の声も聞こえないのか、自分のPCを凝視してキーボードを狂ったように叩くジュン。

 「・・・ダメ! コントロールが完全に失われているわ!!」

 悲痛な声を上げるジュン。

 「なんだってぇ!?」

 同時に叫ぶマサキとヤマモト氏。

 「本当なの! 完全にリンクが切れて・・・何これ! 別のコントロール・プログラムが勝手に動いてる・・・。 !!」

 どうにもリンクを取り戻せないジュンであったが、何か思い当たる節があったのか、考え込む。 

 (まさか! 先刻の・・・アレのせい?)

 「仕方無い。 ZEROがオーナーのコントロール下に無い以上、このエキシビジョン・マッチはノーコンテストとする。 両者とも異論は無いな?」 

 レフェリーのヤマモト氏が、マサキとジュンに宣言する。

 「止むを得まい。 了承する。」

 マサキの言葉に、ジュンも頷く。

 カンカンカンカン・・・。

 高速セットアップを終えたKOTE−U.Evoが両腕を激しく交差させ、激しく打ち鳴らされるゴングが試合終了を宣言する。

 場内に沸き起こる動揺と怒号。

 しかし、その間にもZEROは十六夜に向かって歩む。

 「ZERO、止まって!」

 コントロール下に無いZEROを止めようと、手を伸ばすジュン。

 「・・・ッ!」

 小さな悲鳴とともに手を押さえるジュン。

 押さえた掌から、わずかに血がにじむ。

 ZEROがその鋭い手刀でジュンの手を払ったのだ。

 「止マレ! ZERO。 モウ、試合ハ終ワッタンダ!」

 その様子に気付いたKOTE−U.Evoが前に立ちふさがり、強制停止命令を発動する。

 キンッ!

 しかし、ZEROはKOTE−U.Evoの制止を無視して、なおも歩き続ける。

 「ア・・・アウ。」

 「下がっていろ、KOTE−U.Evo・・・。」

 どうにかして、二人の間に割って入ろうとするKOTE−U.Evoを十六夜が制する。

 「イ、十六夜。 シカシ!!」

 「こいつは先刻までのZEROじゃない。 オーナーのコントロール下に無いとなれば、とにかく奴を倒すより他、止める手が無い。」

 言いながら、しかしZEROの脇をすり抜けるようにロープへと走る十六夜。

 「おおりゃぁっ!」

 十六夜が走り込んだ勢いを殺さず、ZEROのリーチ外で左脚を突き出しながらジャンプする。

 「・・・。」

 しかし、ヒットの瞬間、余裕で姿を消すZERO。

 やはり駄目なのか!?

 「ん?」

 時間にして数秒、そのわずかな間に映りこむ見慣れたリング。

 しかし、どこか違和感を感じた十六夜は、ある事実に気付く。

 「!! あれは・・・。 そうか!!」

 ZEROの消失ポイントで、十六夜の左脚が引かれ腰が回転する。

 その腰の動きに連動するかのように突き出される右膝、そして右膝から伸びていく右脚。

 「いけぇっ! 竜巻旋風脚!!」

 400年の伝統を持つタイの格闘技、ムエタイの蹴りに似た膝から伸びる右の回し蹴り!!

 ガシィッ!!

 「ッ!」

 呻き声とともに姿を現すZERO。

 「手応えあり!!」

 すぐさま身をひねって左のローリング・ソバット!

 そして最後に一瞬、自らの蹴りの反動で勢いが殺される十六夜であったが、再度右の回し蹴りをZEROの左側頭部にヒットさせる。

 「!!」 

 胸部に2度、左側頭部に浅くであったが1度の衝撃を受け、もんどり打って右に倒れるZERO。

 そして、仕掛けた十六夜も無茶な体勢からバランスを崩して、背中からマットに落下する。

 「あの馬鹿! 波動拳とその技は不可って言ったじゃねえか!!」

 その様子を控え室のモニターで観戦していた、T−REXが呻く。

 そんな心配をよそに、十六夜は仰向けの体勢から両脚を大きく振って、立ち上がりニュートラル・コーナーに下がる。

 起き上がりざま、ぎこちない動きで自分の手を見つめ、ゆっくりと立ち上がり十六夜に向き直るZERO。

 「・・・。」

 先程とは打って変わって、無言で十六夜へとZEROが走る。

 その間合いを一気に詰め、先程KOTE−Uを屠ったZEROの左手刀が十六夜へと伸び・・・そして、ZEROの姿が消える!!

 「ひゅっ!」

 呼気とともに右前方へ出つつ、右腕で何も無い空間を薙ぎ払う十六夜。

 ガッ!

 払われた左手刀が空を切り、十六夜が元いた場所に現れるZERO。

 言葉は発しないが、驚愕の表情で十六夜を見る。

 そのZEROに対して、静かにたたずむ十六夜。

 しばらく互いに睨み合う二機。

 やがて、どちらからとも無く攻防が始まる。

 

つづく 

 

〜あとがき〜

 全体の流れから、更に加筆・修正。

 こうして読み返してみると、まともな試合って無いな。

 作動中のプラレスラーを人間が止めるのは、リスクが大きいと筆者は考えます。

 参考になりませんが、ノーコントロール状態のRCを止めるのも結構大変なので。(^^;

 

註)

 「竜巻旋風脚」

 言わずと知れた、アノ技。

 実際には不可能であるが、一つの答えとして映画版「ストU」にてリュウが出したパターンがある。

 某SLGで使いたかったけど、ピーに却下された不遇の技。

 

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