第20話「ZERO〜Act3」
1
「ZEROか〜。 身のこなしからタヤマのZECROSSに相違ないと踏んだんだがなあ。 あの速さは尋常じゃねえぞ? プラレスラーの限界を超えている。」
控え室のTVモニターを食い入るように見つめ、自分達の所属するFISTの、それもファースト・ステージに属する十六夜の思わぬ苦戦に呆然としている選手達。
その最前列で、T−REXことタツヤが呟いた。
FISTの中にあって、そのスピードでは十六夜と1、2を争う彗星王のオーナー、ヒサシに至っては声も無い。
「尋常じゃないって・・・。 じゃあ、あいつも奴等の?」
コウが問う。
「いや・・・わからんな。 今までの奴等は見るからに”悪”って感じだったから、すぐわかったんだが。 ZEROに限って言えば、見た目は至って普通だ。 まあ、もう少し様子を見ようや。」
自らも漠然とした不安を感じつつ答えるT−REX。
本当ならば観客席の最前列で、マサキに気合の一つも入れてやりたい気分であったのだが、彼はマサキに頼まれて、得体の知れない”敵”の手からマサキの家族を守る為、仲間の大勢集まる控え室で観戦することを選んだのだった。
(マサキ・・・。 俺以外に遅れを取るなんざ、許されねえぜ?)
2
ZEROにゆっくりと歩み寄る十六夜。
「ソノ“姿”・・・。 ソノ“力”・・・。 マサカ・・・オマエハ。」
怯えと畏敬の念を込めてZEROが呟きながら、後ずさる。
そのZEROに対して、間を詰める十六夜。
「オマエガ・・・“あるじ”ノ求メル。 グッ!!・・・ガ・・・!!・・・」
突如、頭を押さえてガクガクと震え、もだえ苦しむZERO。
「大丈夫カ? ZERO。」
為す術も無く見守る、レフェリーのKOTE−U。
何度も全身を痙攣させ、時折四肢を突っ張るようにのけ反る。
やがて、うずくまったZEROが立ち上がった。
再度、近寄るKOTE−U。
「ZERO。 ファイト可能カ?」
「・・・。」
尋ねるKOTE−U、しかし彼はZEROの答えを聞くことは出来なかった。
ゆらりと立つZEROが、その左手刀でKOTE−Uの胴を貫いたのだ。
一瞬、間をおいた後、オイルを吹き上げて倒れるKOTE−U。
ZEROの全身に、オイルが返り血の様に飛び散る。
優勢に試合を進めていたZEROの凶行に騒然となる場内。
「枝島ジュン! レフェリーの破壊は重大な反則となる。 新たなレフェリーのセットアップまで、ZEROをコーナーに下がらせなさい。」
レフェリーのヤマモト氏は、リングの上に散らばった愛機「KOTE−U」の残骸を気丈に片付けながら、そう宣告し、さらなる愛機「KOTE−U.Evo」をセットアップする。
「ZERO? どうしたのよ!」
ヤマモト氏の声も聞こえないのか、自分のPCを凝視してキーボードを狂ったように叩くジュン。
「・・・ダメ! コントロールが完全に失われているわ!!」
悲痛な声を上げるジュン。
「なんだってぇ!?」
同時に叫ぶマサキとヤマモト氏。
「本当なの! 完全にリンクが切れて・・・何これ! 別のコントロール・プログラムが勝手に動いてる・・・。 !!」
どうにもリンクを取り戻せないジュンであったが、何か思い当たる節があったのか、考え込む。
(まさか! 先刻の・・・アレのせい?)
3
「仕方無い。 ZEROがオーナーのコントロール下に無い以上、このエキシビジョン・マッチはノーコンテストとする。 両者とも異論は無いな?」
レフェリーのヤマモト氏が、マサキとジュンに宣言する。
「止むを得まい。 了承する。」
マサキの言葉に、ジュンも頷く。
カンカンカンカン・・・。
高速セットアップを終えたKOTE−U.Evoが両腕を激しく交差させ、激しく打ち鳴らされるゴングが試合終了を宣言する。
場内に沸き起こる動揺と怒号。
しかし、その間にもZEROは十六夜に向かって歩む。
「ZERO、止まって!」
コントロール下に無いZEROを止めようと、手を伸ばすジュン。
「・・・ッ!」
小さな悲鳴とともに手を押さえるジュン。
押さえた掌から、わずかに血がにじむ。
ZEROがその鋭い手刀でジュンの手を払ったのだ。
「止マレ! ZERO。 モウ、試合ハ終ワッタンダ!」
その様子に気付いたKOTE−U.Evoが前に立ちふさがり、強制停止命令を発動する。
キンッ!
しかし、ZEROはKOTE−U.Evoの制止を無視して、なおも歩き続ける。
「ア・・・アウ。」
「下がっていろ、KOTE−U.Evo・・・。」
どうにかして、二人の間に割って入ろうとするKOTE−U.Evoを十六夜が制する。
「イ、十六夜。 シカシ!!」
「こいつは先刻までのZEROじゃない。 オーナーのコントロール下に無いとなれば、とにかく奴を倒すより他、止める手が無い。」
言いながら、しかしZEROの脇をすり抜けるようにロープへと走る十六夜。
「おおりゃぁっ!」
十六夜が走り込んだ勢いを殺さず、ZEROのリーチ外で左脚を突き出しながらジャンプする。
「・・・。」
しかし、ヒットの瞬間、余裕で姿を消すZERO。
やはり駄目なのか!?
「ん?」
時間にして数秒、そのわずかな間に映りこむ見慣れたリング。
しかし、どこか違和感を感じた十六夜は、ある事実に気付く。
「!! あれは・・・。 そうか!!」
ZEROの消失ポイントで、十六夜の左脚が引かれ腰が回転する。
その腰の動きに連動するかのように突き出される右膝、そして右膝から伸びていく右脚。
「いけぇっ! 竜巻旋風脚!!」
400年の伝統を持つタイの格闘技、ムエタイの蹴りに似た膝から伸びる右の回し蹴り!!
ガシィッ!!
「ッ!」
呻き声とともに姿を現すZERO。
「手応えあり!!」
すぐさま身をひねって左のローリング・ソバット!
そして最後に一瞬、自らの蹴りの反動で勢いが殺される十六夜であったが、再度右の回し蹴りをZEROの左側頭部にヒットさせる。
「!!」
胸部に2度、左側頭部に浅くであったが1度の衝撃を受け、もんどり打って右に倒れるZERO。
そして、仕掛けた十六夜も無茶な体勢からバランスを崩して、背中からマットに落下する。
「あの馬鹿! 波動拳とその技は不可って言ったじゃねえか!!」
その様子を控え室のモニターで観戦していた、T−REXが呻く。
そんな心配をよそに、十六夜は仰向けの体勢から両脚を大きく振って、立ち上がりニュートラル・コーナーに下がる。
起き上がりざま、ぎこちない動きで自分の手を見つめ、ゆっくりと立ち上がり十六夜に向き直るZERO。
「・・・。」
先程とは打って変わって、無言で十六夜へとZEROが走る。
その間合いを一気に詰め、先程KOTE−Uを屠ったZEROの左手刀が十六夜へと伸び・・・そして、ZEROの姿が消える!!
「ひゅっ!」
呼気とともに右前方へ出つつ、右腕で何も無い空間を薙ぎ払う十六夜。
ガッ!
払われた左手刀が空を切り、十六夜が元いた場所に現れるZERO。
言葉は発しないが、驚愕の表情で十六夜を見る。
そのZEROに対して、静かにたたずむ十六夜。
しばらく互いに睨み合う二機。
やがて、どちらからとも無く攻防が始まる。
つづく
〜あとがき〜
全体の流れから、更に加筆・修正。
こうして読み返してみると、まともな試合って無いな。
作動中のプラレスラーを人間が止めるのは、リスクが大きいと筆者は考えます。
参考になりませんが、ノーコントロール状態のRCを止めるのも結構大変なので。(^^;
註)
「竜巻旋風脚」
言わずと知れた、アノ技。
実際には不可能であるが、一つの答えとして映画版「ストU」にてリュウが出したパターンがある。
某SLGで使いたかったけど、ピーに却下された不遇の技。