オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第21話「クラッシュ〜Act1」

1 

 十六夜の関節部分を狙い、空気を裂いて繰り出されるZEROの打突。

 鎧を着た状態での格闘を主眼とした、古武術をベースとしてファイティング・プログラムが組み上げられている、ZEROならではの攻撃と言えた。

 時折フェイントを混ぜながら、手刀、そして拳が飛んでくる。

 その拳とて、ただの握りでは無く、人差し指が突き出た独特の拳である。 

 打突の手を休めず、前に出るZERO。

 それをさばきながら繰り出す十六夜の打突も、拳を突き出すよりも引き戻す方が速い、独特の突きであった。

 そうする事で、背中まで突き抜ける様な打突が可能なのだ。

 まるで香港の功夫映画を見ているかの様な、一進一退の攻防が続く。

 ドスッ!

 互いに決定打の出ない二機であったが、ZEROの拳を左腕で払った十六夜が、その体勢から一瞬の隙を突き、十分に腰の回転に乗った右拳をZEROの鳩尾に決める。

 一瞬、浮き上がるZEROの上体。 

 「ガハッ!」

 呻き声とともに、二・三歩後退するZERO。

 衝撃によって、何かの回路に異常があったのか、そのボディが様々な光彩を放ち、やがて収束する。

 「やはり・・・。」

 ZEROのボディに浮かんだ光彩を目にして、マサキの予想は確信へと変わる。

 「ジュン。 ZEROの装甲は、液晶パネルだね?」

 「ええ。 その通りよ。」

 「そうか・・・。 現在、米軍等で開発されていると言うステルス・スーツ。 それは、機体各部に設けられた、超小型CCDカメラの映像を反対側の液晶パネルに投影することで擬似的に兵士の姿を消すと言うが・・・。 君は何者だ? 何故こんな技術を持っている? ZEROの変貌の原因は?」

 「話せば、長くなるわ。 詳しい事は後でお話します。 それより、お願い・・・ZEROを・・・倒して。」

 「・・・わかった。」

3  

 休む間も無かった攻防が止み、二機の間合いが離れる。

 接近戦では姿を消す事の無かったZEROだが、間合いの離れた次はどうか!?

 「・・・さあ来るんだ、ZERO。 お前をオーナーの元に戻そう。」

 十六夜は、そう静かに宣言すると、得意とする左半身のファイティング・ポーズを取る。

 それに呼応するかの様にZEROがのそりと動き、次第に速度を上げてロープへと走る。

 バウーンッ!

 ZEROの体重を受けて、大きくしなるロープ。

 ズアァッ!!

 次の瞬間、両掌を合わせるようにして手を前に突き出し、跳躍しながら回転を始めたZEROの姿が消える。

 ゴォッ!

 十六夜めがけて、急速接近するZERO。

 「おおおおおおおおおおお!」

 ZEROと同じ様に合わせた両掌を、大きく後方に引いた体勢で迎え撃たんとする十六夜。

 ドガッ!!!!!!!

 リング中央で激突する二機。

 ズダァンッ!!

 互いに弾き飛ばされて、マットに倒れる十六夜とZERO。

 静まり返る場内。 

 しばらく動かぬ二機であったが、先に立ち上がったのは、頭部があらぬ方向を向き、頚部から時折スパークを発しているZEROであった。

 やがてZEROは、ニ・三歩よろよろと歩き・・・うつ伏せに倒れた。

 激突する瞬間、十六夜が突き出した両掌がカウンターとなったのである。

 「ZERO・・・。」

 どんな理由があるにせよ、自らの愛機の最期はつらいものなのだ。

 一方の十六夜は、マットに仰向けになったまま、動こうとはしない・・・。

 「・・・十六夜っ!!」

 呻くマサキ。

 そのPCには、十六夜とのリンクが断ち切られた事を意味する“Connection Lost”の文字が浮かぶ。

 ZEROの回転する両掌が、十六夜の受信機を屠ったのである。

 「・・・よく、頑張ったな・・・。」

 そっと伸ばしたマサキの手が、十六夜に触れようとした瞬間・・・。  

 ギ・・・ギシ・・・。

 それまで動かなかった十六夜が、わずかに上体を起こす。

 様々な衝撃で発生した、機体のシステム障害が復旧したのだろう。

 しかし、その両掌はZEROへのカウンターを決めた瞬間に砕け、身体を支える事もままならない。

 ガクガクと関節から悲鳴を上げながら、コーナー・ポストを背にズルズルと脚の力だけで立ち上がった十六夜は、二・三歩よろめくが何とか踏みとどまる。

 そして、まだ闘おうと言うのか、震える四肢でファイティング・ポーズを取る十六夜。

 場内にわずかに響く、拍手。

 やがて、それは場内すべてに伝播し、大きなうねりとなって、場内を包み込む。

 「もういいんだ。」

 優しく語り掛けるマサキ。

 しかし、十六夜はドームの天井を仰ぎ見たまま、ファイティング・ポーズを崩さない。

 「?」

 訝しげに、マサキは十六夜の見つめる方向を見る。

 その視線の先には、スポット・ライトがあるだけである。

 「どうしたんだ。」

 と、マサキが十六夜に視線を戻した瞬間、聞き覚えのある音が聞こえてくる。

 「あの音は! 降魔!!」

 再度、天井を仰ぎ見たマサキの目に映る、蝙蝠の影。

 十六夜のAASCは過去にサンプリングした降魔の駆動音を察知して、傷付いた身体を再び闘いの場へと立ち上がらせたのだった。

 「今のお前じゃ、無理だ!」

 叫ぶマサキに対して、静かに首を横に振る十六夜であった。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 第1項とは、かなり違う展開になっています。

 つーことで、また長くしてしまいました。

 今回は全話の見直しもして、細かい所をちょこちょこと変えていますが、気にしないで下さい。

 

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