第22話「クラッシュ〜Act2」
1
装甲は全身ひび割れ、両手首と受信機を失い、関節を震わせながら、なおも降魔と闘おうとする十六夜。
(馬鹿な・・・十六夜が、俺の言う事を聞かないとは・・・。)
リンクの失われた現在、ファイティング・プログラムは十六夜のメモリー内に残されたモノしか無く、ましてや十六夜の受けたダメージがどれほどのものなのか、マサキには知る術が無い。
今、降魔と闘えば、十六夜は敗れるであろう。
それが判っていて、なお闘いを挑む十六夜。
だが、もしも自分が十六夜ならば、どうするか?
自ずと答えは判っていた。
「十六夜・・・。」
2
・・・イイイイイイイ・・・・ン・・・ギョム。
不気味な金属音とともに飛来した降魔が、人型・・・否、悪魔へと変型を終え、倒れ、動かぬZEROの前に降り立ち片膝をつく。
降魔の姿を見るのは2度目だが、改めてその巨体に驚かされる。
タイラントと同じ位の背丈であろうか?
魔神といった趣きの降魔は、その変型機構のせいなのかパーツ一つ一つが太く、その横方向のボリュームは圧倒的で、一種異様な威圧感を感じる。
「・・・コレガ“東京マルタ”ノ、ZEROカ。 コノ装甲ハ非常ニ、興味深イ。」
ZEROの胴体にかざした掌を、頸部へと移動する降魔。
そして・・・。
ゴキ・・・ブチブチ・・・ズルリ。
嫌な音を立てて、ZEROの首を脊髄ごと引き抜く。
「酷い・・・。」
「なんて奴だ・・・。」
騒然となる場内に響く、悲鳴と怒号。
「く・・・。」
オーナーであるジュンは、手を出そうにも出せないもどかしさに唇を噛み締めるが、それは賢明な判断であった。
起動中のプラレスラーを素手で止める事は、無謀な行為以外の何物でも無いからである。
やがて、降魔は引き抜いた首をぶら下げて立ち上がり、十六夜へと向き直る。
「・・・。」
無言で身構える十六夜。
その時である。
「待テ!!」
タッ・・・シュタタ・・・。
前回の教訓(※1)を元に、乱入者である降魔を制止する為、5機のサーペントがリングに飛び込み、降魔を取り囲む。
「フン・・・。」
じりじりと輪を狭め、今にも飛び掛らんと身構えるサーペント達を一瞥し、降魔はそのマントのごとき翼を広げ、その姿に似合わぬ静かな動作でくるりと回転する。
「?」
出鼻を挫かれ、一瞬あっけにとられるが、すぐに思い直した様に降魔目掛けて一斉に飛び掛るサーペント達。
ごとり・・・。
その瞬間、全てのサーペントの上半身がマットに落ち、降魔は倒れたサーペントの屍を超えて、十六夜へと歩み寄る。
水を打った様に静まり返る場内。
何が起きたのかわからないが、あまりの鮮やかさに声も出ない。
3
「クックックック・・・フ・・・フハハハハッ!! 『ぷられすらー』トハ何ト貧弱ナモノヨ。」
既に絶命し、答える事など出来はしないサーペント達へ、侮辱の言葉を投げる降魔。
ぴくり・・・と十六夜の身体が震え、砕かれた頸部ガードの隙間からこぼれた髪が逆立つ。
「・・・まれ・・・。」
十六夜がぼそりと呟く。
「ンー? 聞コエンナ。」
「黙れ」
今まで聞いた事の無い、低く重い声で降魔を一喝する十六夜。
同時に降魔目掛けて歩み出すが、その足元はがくがくと震え、一歩一歩を確かめるような足取りであった。
「ハッ! ソノ身体デ、何ガデキル! ダカラ言ッテイルデハナイカ。 “貧弱”ト。」
「っ・・・ほざけ!・・・。」
時折つまづきながらも降魔へと近づく十六夜。
「イイ度胸ダ。 “鬼蜘蛛”ハ仕損ジタヨウダガ、俺ハ奴ノヨウナ“出来ソコナイ”デハ、無イゾ?」
そう言って、全身を覆うマント状の羽を背後に翻して広げ、ZEROの頭部をマットに置くと、自らも十六夜に向かって歩み出す降魔。
やがて2機は、互いの間合いに入る。
「行クゾ・・・。 貴様ノ正体、見極メヨウゾ。」
「おう!!」
降魔に応じて、十六夜のメイン・メモリから流れ出したファイティング・プログラムがCPUを駆け抜ける。
ギ・・・ギシ・・・ギギ。
しかし、傷付いた十六夜の関節は、ファイティング・サーキットからの電気信号を正確に実行できないでいた。
「ムウン!」
その間にも十六夜の懐へ飛び込んでくる降魔。
ドゴン!
凄まじい衝撃。
降魔のショルダー・タックルが十六夜の身体を吹き飛ばす。
背中からロープへと吹き飛ばされた十六夜は、バウンドしてマットの上にうつ伏せに倒れる。
「ガハッ・・・」
砕けた両掌でようやく上体を支え、オイルを吐き出す。
そこへ走り込んだ降魔の、容赦ない蹴りが十六夜の腹をえぐる。
ドカ! バキ! ピシッ!
「ぐああ!!」
うつ伏せの体勢のまま、身体がマットから浮き上がる程の蹴りを受け続ける十六夜。
「フハハハハ! 貴様モドウヤラ、タダノ貧弱ナ“ぷられすらー”ダッタヨウダナ。 我ガ主戦場トシテキタ「地下」ト同ジ・・・イヤ、ソレ以下カ。」
降魔の一方的な攻撃は止まらない。
もはや為す術も無い十六夜を無理矢理引き起こし、逆さまに抱えて宙に浮く降魔の巨体。
トゥーム・ストーン・パイル・ドライバー。
ドオン!
脳天からマットに叩きつけられた十六夜は、降魔が離れてからも動こうとはしなかった。
「く・・・十六夜。」
マサキは咄嗟に十六夜へと手を伸ばそうとする。
しかし、その時。
(マサキ、よせ! その手を失えば、俺は二度と蘇ることはできない! 降魔を、その動きを見極めるんだ。 そして・・・降魔に対抗し得る俺を創り上げてくれ! 皆の為にも・・・頼む。)
動かぬはずの十六夜の声が聞こえた気がして、マサキは戸惑う。
「十六夜・・・。」
やがて、マサキは硬く握り締めた拳を開き、静かに頷いた。
「トドメダ・・・。」
重く響く声と共に、降魔の右翼が伸び・・・次いで驚くべき速さで十六夜へと振り下ろされる。
シャウン・・・。
振り下ろされた翼端がマットにめり込むと同時に、十六夜の四肢が震えた。
つづく
※1 タイラントのエキシビジョン・マッチにおいて、その対戦相手の破壊、及び入場時に乱入を許してしまった事。
〜あとがき〜
ボロボロ・・・。
プラレスラーと、プラレスラーとは異質のモノとの闘いって、圧倒的だと思います。
人間とアンノウンみたいに。
ただし、プラレスラーの中にも例外はいて、例えばタイラントなんかは互角に渡り合えるんじゃないか?
と思っています。
ラストで十六夜、クラッシュしてますが、なんか伊助の後追いみたいで、やばいなあ。