オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第23話「真実〜Act1」

 ブアアアァァァ・・・ヒュイイイイイイイン

 降魔は、踵を返してZEROの頭部を拾い上げると変型を終え、バック・パックに内蔵されたモーター・ファンを始動する。

 「フ・・・フハハハハ!」

 嘲るような笑いを残して、悠然と飛び去る降魔。

 後に残された場内は、異様に静まり返っている。

 マサキが・・・否、場内の全員が呆然と見つめるリングの上は惨憺たる状態であった。

 リング中央にはZEROが横たわり、その周りを囲むようにしてサーペント達が倒れ、ロープ際には十六夜が横たわっていた・・・。

 ―――――

 横たわったままの十六夜。

 しかし、そこはリングではなく、木製のテーブルの上だ。

 そう、ここは模型店「STF(シマムラ・テクニカル・ファクトリー)」の1階。

 「そうか・・・。 君は“マルタ”の。」

 「ええ・・・。」

 マサキの言葉に首肯するジュン。

 試合後、ジュンの希望でマサキ達は場所をここに移し、ジュンのこれまでの経緯を聞いていたのだ。

 「昨夜の襲撃・・・。 あれもうちの人間がやったことなの・・・。 襲撃に使われたPSG−1、あれはうちの製品よ。」

 「!!」

 「本当にごめんなさいっ!! 私が責めると、彼らは言ったわ『どうしてもZEROを勝たせたかった』と。」

 「何故、そこまでして・・・?」

 「RCの時もそうだったけど、ノウハウの無いプラレスの分野で立ち遅れていた私達は、タヤマのZECROSSを参考にZEROを作ったの。」

 「それで、身のこなしがZECROSSに似てたわけか・・・。」

 「ええ。 でも、試作一号機はオリジナルには敵わなかった・・・。 それからというもの、何としてもZEROを商品化させようと、私達は必死に改良を重ねたわ。 けれど、ある時・・・。 社内に別のプラレスラー開発プロジェクトが持ち上がったの。」

 淡々と語るジュンの表情が一層曇る。

 「そのプラレスラーの名は“スコルピオン”・・・。」

 「スコルピオン!! 蠍・・・まさか、あいつか!」

 マサキには心当たりがあった。

 「知っているの?」

 「ああ。 昨夜、すぐそこの公園で出くわした奴だ。 あれは君達では無かったのか?」

 「!! そんな・・・知らなかった・・・。」

 驚きの声をあげるジュン。

 「“スコルピオン”は、これまでに類をみない可変型プラレスラーとして、社外から持ち込まれた技術で作られているわ。」

 「社外・・・。」

 「その技術の供与元はわからないけど、その“スコルピオン”の開発が決まって、私達は愕然としたわ・・・。 あと一歩の所で、ZEROは見捨てられたと思ったの。」

 そう話すジュンの顔が曇る。

 「そこで私達は会社に黙って“FIST”のサマー・カップでZEROをデビューさせようと画策したの。 世間の評判がよければ、会社も動かざるを得ないと踏んだのよ。」

 「なるほどな。」

 「でも、駄目だった・・・。 それより! 試合中にZEROが暴走したことについて、思い当たる節があるの。」

 「どういうことだ?」

 「試合直前になって、会社の者だと言うスーツ姿の男が『本社から預かってきたものだ』と言って、新しいチップ・セットとステルス・プラ・スーツを持ってきたの。 私達は喜んだわ。 ZEROは見捨てられたと思っていたんですもの。 そのチップ・セットを早速組んでみたら、ZEROの反応速度は飛躍的に向上したわ。 それに攻撃を受けない為の最強の鎧も得た。 それなのに、今まで暴走なんかしたことなかったZEROが、あんなになってしまうなんて・・・。 思えば、あれはZEROを乗っ取る為の回路だったのかもしれない。」

 「何の為に? 暴走前にZEROが言った“あるじ”の為?」

 「そう・・・そうかもしれないわ。 だって、ZEROがその言葉を発した時、すでに私とのリンクは切れていたんですもの・・・。」

 「何てことだ・・・。 それで、その回路は?」

 マサキの問いに首を振るジュン。

 「降魔・・・あいつがZEROの首ごと持って行ってしまったわ。 私達は利用されたのよ。」

 「となると、そのスーツ姿の男もマルタの人間じゃない可能性があるな。」

 「ええ・・・。 でも会社に確認するのも信じられなくて・・・ごめんなさい。」

 「謝る事は無い。 それよりも、ややこしくなってきたな。 十六夜を見て『“あるじ”ノ求メル』と言ったZERO・・・。 そのZEROをサンプリングした降魔・・・。 一見、繋がりが無いように思えるが、どうなんだろう。」

 「わからねえな・・・。」

 頭が混乱して、まとまらないマサキ、そして腕組みしたまま聞き入っていたT−REXも答えを見出せないでいた。

 Puruurururu・・・・。

 その沈黙を破るように電話が鳴る。

 「はい、STFです。 ・・・ ちょっとお待ち下さい。 ・・・パパ。」

 アスミが、マサキに受話器を差し出す。

 「土鬼・・・。」

 電話を代わったマサキが呟く。

 「フ・・・ざまあねえ。 俺としたことが、やられちまっ・・・・た。」

 受話器の向こうで、苦しそうな土鬼の息遣いが響く。

 「今、どこだ? 一体、何があった。 誰にやられた。」

 矢継ぎ早にマサキが問う。

 「まあ、聞きな・・・。 奴等・・・俺の鬼蜘蛛を・・・噛ませ犬にしやがった・・・。」

 「奴等って誰なんだ! 知っているんだろう?」

 「タカダ・トイ・・・。 ついこの間まで、俺が所属していた会社だ・・・。 奴等、鬼蜘蛛のデータを基に新たなメカ・バトラー“タランチュラ”を作りやがった。 やばいぜ・・・そいつは、鬼蜘蛛より一回り程でかくて・・・この前の蠍野郎よりも強力だ・・・。 くそ! 鬼蜘蛛本体だけ持ち出せても、データだけはプロテクトが掛かっててな、消せなかったが・・・。」

 「馬鹿な!!」

 「・・・本当さ・・・。 10年前、主力商品だった『トランス・メタル』で得た可変機構を盛り込んだのが鬼蜘蛛だ・・・。」

 「何故だ? 何故、タカダほどのメーカーが? TVアニメとタイアップでヒットした『マシン・トルーパー』シリーズや『バトル・アーマー』シリーズがあるじゃないか。」

 「ああ・・・。 だが、あれはあまりにもマニア向けだった為に、一部のユーザーにしか受けなかっただろう? ロウと言ったか・・・あいつの団体が無ければ、今ごろは消えている商品よ。」

 「俺は高く評価してるが・・・。」

 答えるマサキの脳裏に、ロウの『デス・ドラグーン』の姿が浮かぶ。

 「そうか・・・ならば、教えてやろう。 鬼蜘蛛・・・いや、お前の十六夜も含めて、遡ると原点は一つ・・・プラレスラーは本来、兵器開発の為のモノだったと言ったら・・・お前はどうする?」

 「!! ・・・そんな、馬鹿な!!」

 「違うと言い切れるのか? お前は疑問に思ったことはないのか? 何故、あの時代に突如としてプラレスラーが世に出たのかを・・・。 俺は知ってしまったんだ・・・その原点・・・素体とも言うべきモノの存在を・・・。」

 「素体?」

 「ああ、素体だ。 おそらく、ありとあらゆる様々なメーカーに同じ素体をばら撒いたんだろうよ。 そして、その素体を基に各社はこぞってプラレスラーを開発したと考えられないか? 自らの求める兵器をモノにする為には手段を選ばずってやつだ。 素体を基に開発されたプラレスラー。 その、あらゆる長所をフィードバックして開発された人型兵器。 見た事は無いが・・・その完全体とも言うべき奴は、おそらく素体の面影など、ほとんど無いと言っていいだろうよ。」

 「まさか・・・。 そんな事が・・・。」

 「そのまさかよ。 そして奴等はさらなる改良に乗り出した。 現存する兵器とは異なる発想・・・それが、タカダのような玩具メーカーの持つ発想なのさ。」

 「『トランス・メタル』の可変機構・・・。」

 「その通り・・・獣の持つ機動力と人の持つ汎用性を両立させる『トランス・メタル』の可変機構が画期的に映ったんだろう。 そうして鬼蜘蛛は生まれたんだ・・・。 もっとも、十六夜に敗れるようでは、兵器として失敗作の汚名は免れん・・・。 それでも量産されたら、要人暗殺の自爆ぐらいには使えるだろうよ。 ともかく、俺はそんな事に加担している事実に嫌気がさしてな・・・鬼蜘蛛を持って逃げたのさ。」

 「ならば・・・降魔もか?」

 「ああ、あれも別系統で開発された、改良プランの一つに過ぎんだろうよ。 くくく・・・これで判っただろう? プラレスラーが兵器だと言う意味が・・・。」

 「そんな事・・・信じられるものか・・・。」

 「くくく・・・そう言うと思ったよ・・・。 まあ、いい。 その内、お前も現実に気付く時がくるだろう。」

 「・・・。」

 「じゃあな・・・鬼蜘蛛を失った今、俺はしばらく消えるとしよう。 あばよ・・・。」

 「待て!」

 マサキの叫びも空しく、受話器の向こうからは切断音だけが流れるのであった。

 「大方、察しはつくわ・・・プラレスラーが兵器というのは・・・私も聞いたことがあるの・・・。」

 呆然と受話器を掴んだままのマサキにジュンが話し掛ける。

 「そんな・・・。」

 言葉に詰まるアスミ。

 「いや、もしかしたら、そうなのかも知れない・・・。」

 マサキがかすれた声でジュンの言葉を肯定する。

 「パパまで・・・。」

 その場に居合わせた全員が、意外そうな顔でマサキを見る。

 「待ってくれ。 だが、例えそうであっても、使う人間次第でプラレスラーは兵器にはならないはずだ。 違うかい?」

 脳裏に蘇る土鬼の言葉・・・。

 “それでも量産されたら、要人暗殺の自爆ぐらいには使えるだろうよ。”

 それを振り払い、自らに言い聞かせるように、ゆっくりと語るマサキ。

 「俺は・・・奴等がフィードバックして作り上げたオリジナルを捜そうと思う。 そいつがおそらくZEROの言った“あるじ”なんだろう。」

 「捜すたって・・・。 どうすんだ? 十六夜だって壊れたまんまだぞ?」

 「心配するな。 もう手は打ってあるよ、T−REX。」

 そのマサキの言葉に訝しげな表情を浮かべるT−REX。

 その時、店のドアが開き、一人の初老の男が入ってきた。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 どんどんネタばらしていきますぞ。

 異論はあろうかと思いますが、プラレスラーって、どうして1/6スケールなんだろう?

 その基準は誰が決めたんだろう?

 というトコから、想像してみました。

 

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