オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第24話「真実〜Act2」

 「はい、ごめんなさいよ。 やれやれ、やっと着いたわい。」

 開襟シャツにスラックス、所々白髪が混じった髪をバックに流した初老の男は、小さな風呂敷包みを抱えて入ってくるなり、戸口で息をつく。

 「思ったより早かったな。 親父。」

 その男の名は、島村コウゾウ。

 マサキの父である。

 コウゾウは定年退職後、長野で小さな自動車用精密部品工場を友人と共同経営していた。

 そのコウゾウに、コウとユウが走り寄る。

 「長野のおじいちゃ〜ん!!」

 「おお、おお。 コウもユウも大きくなったなぁ。 どれ、コウ。 抱っこさせてみい、よっこら・・・ぐほあっ!!!」

 (ごきり・・・。)

 孫の身体を抱き上げんとしたコウゾウの腰が悲鳴をあげる。

 「そりゃ無理だよ・・・親父。 コウは12月になれば、もう11歳なんだぜ? 俺でもやっとだよ。 それより、例のモノは?」

 「あいたた・・・。 ほれ。」

 腰をさすりながら、床に下ろしていた風呂敷包みを持ち上げ、そのままアスミに勧められた椅子に腰掛けながら、目の前のテーブルに風呂敷包みを置くコウゾウ。

 そして、その傍らに置かれた2体のプラレスラーに目をやる。

 「ふむ・・・TVで観たより、ずっと酷いのう。」

 「ああ。 それで、急遽上京してもらったんだ。 あれ? そう言えば、お袋は?」

 「おお。 埼玉のお前の姉の所へ寄ってから来るそうだ。」

 「あそ。 それで、本題なんだが・・・?」

 「まあ、そう急くな。 お前の送ってよこした設計図通りに作って組み付けてはあるものの、さすがに最終調整はお前に委ねねばならん・・・見よ!」

 コウゾウがテーブルに置いた風呂敷包みを開く。

 そこには40cmほどの木箱があった。

 一同が固唾を飲んで見守る中、マサキはそっと木箱の蓋を留める紐を解く。

 「何が入ってるの?」

 コウとユウ、そしてT−REXの娘ヒナは興味津々でテーブルの淵から顔を覗かせている。

 その様子を穏やかな笑顔で見つめながら、マサキはまずPCを起動させ、次いで木箱の蓋を外す。

 「これが父さんの最後の切り札になるかもしれない。」

 そう答えるマサキの指が、素早くキーボードの上を走る。

 「目覚めよ・・・『十六夜!!

 「ええー!?」

 どよめきの中、マサキのオペレーションで木箱から飛び出したのは、銀色の影であった。

2 

 ズアッ・・・・・ギョギョン。

 空中に踊り出た銀色の影は、宙で身を捻ると危なげなくマサキの目の前のテーブルに着地する。

 「どうだな?」

 「・・・親父。」

 「ふぉっふぉっふぉっ♪」

 満面に笑みを浮かべるコウゾウとがっちり握手を交わすマサキ。

 「え〜!? この銀色の骨格標本みたいな・・・これが十六夜〜?」

 不思議なモノでも見ているかのように、子供達はポカンと口を開けている。

 「アハハ・・・驚いただろう? こいつはまだ外部装甲を被せる前の状態なんだよ。」

 「おい、マサキ! 『真』てどういうことだ? それに、このパーツ配置は・・・。」

 子供達同様、大口を開けていたT−REXが、十六夜に配されたパーツ構成を珍しそうに眺める。

 その剥き出しのフレームは鈍い光を放ち、関節と関節の間には、何本もの円筒形シリンダーが筋肉を形作るように配置されているのである。 

 「文字通り『真』さ。 そして、こいつに配されているシリンダーこそ、MCシステムの集大成だ。」

 「そのMCシステムって、昔っからあるけど・・・何だ?」

 「あれ? 前に教えなかったっけ? えーと、MCの「M」は“Muscle(筋肉)”と“Magnet(磁石)”を表す。 そして「C」は“Cylinder(筒)”さ。 要するに、磁力で駆動するシリンダーって訳。 考え方としては“レールガン”と同じだよ。」

 「・・・すまん・・・訳わからん・・・。」

 「んー・・・。 つまり、シリンダーの中にコイルがあって、そこに流れる電流によって磁界が形成され・・・。」

 「・・・分からん・・・。」

 「・・・うう。 今までの十六夜では、他のプラレスラーと同様、関節の主駆動はモーターで、大腿部にだけモーターでは出せない瞬発力の為にMCを使ってたのね。」

 「うむ。」

 「今度はそれを逆転させて、MCを全身に使用し主駆動にして、モーターはあくまでも軽動作用サポート。 これによって、モーターは小型のモノで十分だし、高速セッティング・プラレスラーの限界を超え、パワーセッティング・プラレスラーのトルクに負けない瞬発力を得ることができるって訳。 ただし、バッテリー消費量はかなりのものになるけどね。」

 「・・・なるほどー。(←実はよくわからない。)」

 と全員。

 「そして、今までの十六夜は、全てこいつを完成させる為のテスト・ベッドであったと言ってもいい。」

 マサキはそこまで言うと、テーブルの上に横たわったまま動かぬ十六夜にそっと触れる。

 「十六夜・・・。 これまで、よく頑張ってくれたな。 お前の意志は、残されたメモリと共に新たな十六夜に受け継ごう・・・。」

 そう語りかけるマサキの瞳に浮かぶ哀しみの色・・・だが、やがて思い直したように、次第に力強い光を取り戻していく。

 「よし。 動ける様になったとは言え、この十六夜はまだまだ未完成。 今夜からこいつの完成を急ごう。」

 「うむ。 では、また明日だな。 ところで、大会の方はどうすんだ?」

 「ああ。 とりあえずは何とも言えない。」

 「そうか・・・。 ぼやぼやしてやがるとKOF王座とっちまうからな!」

 「はいはい。」

 「じゃあ、帰るわ。 ・・・て、ヒナ寝てやがる。 しようがねえな・・・どっこらせ、と。 じゃあな。」

 いつの間にか眠ってしまった子供達。

 T−REXは、その広い背中にヒナを背負うと、ユミと共に帰路につくのであった。

3 

 「うちのも部屋に運ぶとするか。 親父は俺の作業場にベッドがあるから、そこで寝てくれ。」

 「ほいほい。」

 マサキに言われるままに、2階へと姿を消すコウゾウ。

 「ジュン・・・君はどうする?」

 問いながらマサキはコウを、アスミはユウをそれぞれ抱き上げる。

 「ホテルにでも泊まるから、心配なさらないで。」

 「泊まっておいきなさいよ。 客間が空いてるし、ユウはあなたの事が気に入っているみたい。 急にいなくなったら悲しむわ? ねえ、パパ。」

 アスミはユウを抱いたまま、ZEROをPCに収納して出て行こうとするジュンを、引き止める。 

 「でも・・・。」

 躊躇しながら、ジュンはマサキの顔を見た。

 「全然、構わないよ。 行く宛が無いのなら、うちにいるといい。」

 寝ている為に、さらに重くなったコウの体重によって、膝が笑いぎみのマサキはあっけなく了承する。

 これ以上の辞退は失礼と考えたのか、ジュンも今夜だけはやっかいになろうと決めた。

 こうして、鬼蜘蛛の再来に端を発した慌しい日々が、十六夜のクラッシュという結果をもって終わりを告げた。

 だが、謎はますます深まる。

 タカダ・トイ、東京マルタの背後で暗躍する影。

 ZEROの言う“あるじ”とは、何者なのであろうか。

 その正体は未だ判らない。

 何より、果たして土鬼の言う通り、プラレスラーは兵器なのであろうか。

 マサキと十六夜の闘いは、新たな局面を迎えるのだった。

 

 〜蒼き疾風・第一部 完〜

 

〜あとがき〜

 MCシステム、わかりましたか?

 実際には無理ですけど、コイルの内蔵されたシリンダー内に磁界を発生させ、その内部に小型コイル内蔵の磁性シャフトをおくことで、リニア・モーターとしました。

 お話の方は、一応の一区切り。

 次回からは、十六夜を完成させるまでとか、その他のメンバーのサマー・カップでの試合とか書きたいと思っています。

 

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