オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第25話「復活」

 眠らぬ地上の明かりに照らし出され、巨大な高層ビルの群れが闇の中に薄青い輪郭を浮かび上がらせている。

 ―――東京・新宿―――

 中央公園に程近いマンションの一室。

 薄暗い部屋の中、テレビの画像を一心に見つめている男がいた。

 そのテレビが映し出す画像・・・。

 それは、昼間行われたFISTの試合の録画映像であった。

 「あの動きは・・・。 間違い無い! 奴だ。」

 男は映し出される漆黒のプラレスラーの動きを見逃さなかった。

 「ついに、お前の出番が来たようだ。 行くぞ! “隼”。」

 男は、机の上に置かれた1体のプラレスラーをPCに格納すると、表札に“牛神”と書かれた部屋を後にした。

 

 〜蒼き疾風・第2部〜

 

 今夜も、寝苦しい夜であった。

 昼間の内に大地に蓄えられた熱気が、夜になっても抜けないのだ。

 誰もが寝苦しさに、寝返りを繰り返す深夜・・・。

 一人の男が、木製の作業台の前に座り、額の汗をぬぐう事も忘れていた。

 「まだまだ、バランスが悪いな〜。 もう一度バラすしかないか・・・。」

 もう何度目になるのであろうか、同じ作業を黙々と繰り返して、シリンダー状のパーツを外しては並べていく。

 「根気のいる作業だわい。 MC自体の見かけは同じでも、微妙にバラ付きがあるのじゃからのう。」

 同じ室内に設えられてある、パイプベッドに寝転んだまま、もう一人の初老の男が話し掛ける。

 黙々と作業を繰り返す島村マサキと、その様子を見守るマサキの父・島村コウゾウであった。

 「それにしても、工作精度が高くて助かるよ、親父。」

 「ふぉっふぉっふぉ。」

 「ふう、今度はどうだ? 十六夜。」

 マサキは、全部で16本に及ぶシリンダーの配置を入れ替え、1本あたりに掛けるパワー・バランスを慎重に調整しながら、最適の配置を割り出す作業に追われていたのである。

 ようやく組みあがった、エンド・スケルトン状態の十六夜を起動すると、各MCの状態を表すバー・グラフが伸縮を始める。

 「よおし! いいだろう。 セット・アップを続けよう。」

 「マサキよ。 わしが稼動試験で使ったクロモリ鋼のフレームでは、フル・パワーは5分と持たなんだ。 例えそのフレームでも5分以上持つかどうか・・・。」

 「親父と一緒に作ってきたんだ。 俺は、こいつの・・・」

 そこまで言うと、マサキは十六夜に向き直り、木製かと見紛うばかりに木目紋様の浮き出た、剥き出しのフレームを見つめる。

 「こいつの、このフレームを信じるさ。」

 「うむ。」

 コウゾウの脳裏に、マサキと共に十六夜のフレームを苦心して作り出した頃の記憶が蘇る。

 「それに、通常は30%の出力で十分だろう。 基本動作ひとつとっても、今までの十六夜より速いんだ。 正直、目が追いつかない。」 

 コウゾウと話しながら、マサキは次々とセット・アップ・メニューをこなしていく。

 基本動作のMC制御データに沿って、これまでに培った技を含む、様々な応用動作のメモリーとの整合作業を行わねばならないのだ。

 あと少しで、全メモリーの移植が終わる。

 前の十六夜の記憶と共に・・・。

 ―――同時刻〜中央自動車道・下り八王子本線バリア―――

 休日ともなれば、首都圏から県外の行楽地へと向かう車で、八王子から6kmほど西に離れた『元八王子BS』を先頭に、30kmもの渋滞を引き起こす中央自動車道。

 夏休みの今日も、渋滞の最後尾は高井戸を超えていた。

 しかし、深夜ともなれば、昼間の大渋滞もすでに解消し、通るのは大型貨物車か、渋滞を避けて夜間のうちに行楽地へと旅立つ乗用車が数台見られるばかりである。

 その八王子バリアの通行券自動発券機上に設置された警報機から、今しがたブースに侵入してきた大型トレーラーに向けて、アナウンスが流れる。

 表示機の軸重表示は、規定の10.0tをはるかに超えて13.0tを表示していた。

 〜「お客様のお車は、重量の制限をオーバーしております。 次のインターでお降り下さい。」〜

 だが、大型トレーラーは警告など聞こえなかったかの様に、通行券を取ってバリアを通過し、左側に設置されている管制塔のようなタワーに近づいて停車する。

 ドアを開けて降りてきたのは、迷彩服に身を包んだ米兵であった。

 タワー脇に備え付けられたインターホンで係員を呼び出すと、流暢な日本語で話し掛ける。

 「スミマセン。 八王子第二出口デ降リ損ネテシマイマシタ。」

 「わかりました。 そちらに係員がまいりますので、そのままでしばらくお待ちください。」

 係員との会話を終えた米兵が、トレーラーに戻る。

 程なく、『JH』の職員が料金所事務所からやって来て通行券を回収し、退出路からトレーラーを一般道へと退出させた。

 「さっきの軸重オーバーは米軍さんか・・・。 こんな時間に珍しいこともあるもんだな。」

 そう独り言を呟いて、職員は事務所へと戻る。

 蒸し暑い外の空気から逃げるように。

 一方、一般道へと降りたトレーラーは、国道16号線を川越方面に向かって走り続ける。

 ドヒュヒュヒュヒュ・・・。

 図太い排気音を残して、向かう先は誰にでも判った。

 その先には・・・米軍・横田基地があるからである。

 「マサキよ・・・。」

 移植作業も90%を超えた頃だった。

 ふいにコウゾウが険しい顔で、マサキに話し掛ける。

 「ん?」

 振り向いたマサキの顔に、まだ幼かった頃・・・2〜3歳の頃のマサキの面影がだぶる。

 コウゾウは、話そうと決めていた言葉を飲み込んだ。

 「・・・あまり根を詰めすぎないようにな。 先に休ませてもらうわい。」

 そう言うと、ゴロリと反対側へ寝返りを打つ。

 (竹之内・・・。 ワシには作り上げる才能は無かったが、ワシの息子がお主の遺志を受け継ごうとしとる。 お主の甥でもあるマサキを・・・どうか、運命から守り導いてやってくれ!)  

 コウゾウは、自ら運命の渦中へ巻き込んでしまったマサキを守って欲しいと、今は亡き人物に心の中で祈るのであった。

 

つづく

 

 註)

 1.軸重

   車軸1本あたりにかかる重量。

   道路法においては、その最高限度を10.0tと規定している。

   ちなみに軸重以外にも最高限度は決まっていて、総重量25.00t・高さ3.80m・長さ12.00m・幅2.50mとなっている。

   実際は、単車(通常のトラック)・連結車(いわゆるトレーラー)等によって細かい決め事がたくさんある。

   トレーラーも形態は様々で、フル・トレーラー、セミ・トレーラー、ポール・トレーラーに大別され、

   更にセミ・トレーラーの中で、タンク型、コンテナ型、バン型、幌枠型、車両運搬型、その他に分類される。

   今回、登場したトレーラーはセミ・トレーラーのバン型。

   トラクタ(牽引する前の部分)は3軸、トレーラー(荷室の後の部分)は2軸で考えています・・・て、本編には関係ないか。

 

〜あとがき〜

 ようやく第二部を始めることができました。

 今まで漠然と頭にあった設定も、ようやくまとめる事ができホッとしています。

 伊助くんのPUREがなければ、まとまらなかった部分があって、本当に感謝しています。

 ちょびっとかぶるかもしれませんが、よろしく〜。

 

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