オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第28話「地下〜Act3」

 ドラグノフの右腕から吐き出されていた青白い炎が止み、次第に薄れ行く白煙の中から、除々に姿を現す十六夜。

 「さっさと決めちめえ! ドラグノフ!!」

 ドラグノフに向かって、観客達の声があちこちから上がる。 

 観客達は待っていた。

 ドラグノフの得意技「ファイヤー・ダブル・ラリアット」と、続く必殺技「ファイヤー・スピン・パイル・ドライバー」を。

 得意技の「ファイヤー・ダブル・ラリアット」は、ドラグノフの両腕に装備されたロケット・ノズルを生かして、凄まじい高速回転をする。

 その高速回転でロケット・ノズルの炎が渦を巻き、ドラグノフを炎で出来たコマへと変えるのだ。

 必殺技の「ファイヤー・スピン・パイル・ドライバー」は、相手を通常のトゥームストーン・パイル・ドライバーと同様に抱えて跳び、滞空中に片腕のロケット・ノズルを噴射する。

 そして、これも炎を巻いて高速回転しながら、相手の頭をコマの如くマットへ打ち込むのである。

 しかし、ドラグノフが観客達の声に応える様子は無い。

 無論、観客達の声に応える様な『エンターティナー』では無いのだが、今夜のドラグノフはいつもと違った。

 ドラグノフが、両腕をクロスしたまま動かぬ十六夜に向かって静かに構えたのである。

 「今夜はえらく慎重だな・・・。」

 観客達が言い合う声が、やがて驚きに変わった。

 それに応える様に、十六夜がクロスしていた両腕をゆっくりと下ろし、ドラグノフと同様に静かにファイティング・ポーズを取ったのだ。

 「あれだけ焼かれていながら・・・そんな馬鹿な!!」

 観客の発した、その声を合図に十六夜がドラグノフとの間合いを詰め、一気にドラグノフの懐へ飛び込む。

 「ムウ!!」

 対して、ドラグノフは両腕を組んで頭上に振り上げると、一気に十六夜に向かって振り落とす。

 ガキッ!!

 十六夜は、顔面をガードしていた両腕を頭上でクロスして、ドラグノフの両腕を受け止める。

 ボコン!

 耐え切れずに、十六夜を中心としたマットが『すり鉢』状にへこむ。

 「ヌウ・・・。」

 ドラグノフの呟きが漏れる。

 これまで、この両腕が潰してきたプラバトラーは数知れない。

 それをガードしようと言うのか。

 ドラグノフは躊躇する事無く、握り合わせた拳を再度頭上に振り上げる。

 だが、その一瞬の隙を突いて、十六夜がドラグノフの背後に回る。

 ドラグノフは、胴に回された十六夜の両腕を掴んで無造作に引き剥がすと、リングを囲む金網に十六夜を振る。

 ガシャッ!

 何の抵抗も無く金網に打ちつけられる十六夜。

 「・・・大したモノだ。 それに操縦者も冷静によく見ている。 止むを得ん・・・か。」

 マサキの指がキーボードを走る。

 金網にもたれる十六夜に、ドラグノフが歩み寄る。

 「出るぞ! ファイヤー・スピン・パイル・ドライバーだ!!」

 観客の声には応えないドラグノフの右腕が、十六夜の頭部を掴もうと伸びる。

 カッ!

 その瞬間、十六夜が覚醒する。

 自身に内蔵されたシリンダーに湧き上がる力を、十六夜は感じた。

 「オオオオオッ!」

 伸びる右腕を右掌で払い除けるや、反時計回りに回転しての回転エルボーを、幾度となく顔面に見舞う。

 ガッ・・・ガガッッ!

 しかし、回転は止まらない。

 ふいを突かれたドラグノフが後退するのに合わせて、十八番のローリング・ソバット!

 さらに、ローリング・ソバット!!

 駄目押しで、ローリング・ソバット!!!

 右掌で顔面を押さえ、グラグラとよろけるドラグノフ。

 ガシャ。

 いつの間にかドラグノフは、反対側の金網を背にしていた。

 「ヌ・・・ウ。」

 割れた顔面から破片がマットに落ちる。

 間髪入れず、獣の様にドラグノフへと飛び掛かった十六夜が、ドラグノフの両腕を強引にクロスさせて両脇に抱える。 

 相撲で言う、変型のカンヌキだ。

 十六夜は、そのままの体勢からタイミングを取る様に、マットを蹴る。

 「おおりゃあっ!!」

 気合一閃、ドラグノフの両腕をクロスさせて抱えたまま、凄まじい速さで後方へと反った十六夜が、見事なブリッジを作る。

 ベシイッ!

 十六夜のブリッジに沿って宙に浮いたドラグノフは、嫌な音を立てて顔面からマットに叩きつけられていた。

 カンカンカン!

 ここで、試合終了のゴングが鳴る。

 結果は十六夜のKO勝ちだった。

 抱えたドラグノフの両腕を離し、立ち上がる十六夜。

 バチッ・・・バチバチ・・・。

 その足元では、もげた首と両肘からスパークを発して、ドラグノフが機能を停止している。

 ウオーン。

 またも観客達の叫びが、唸り声となって場内に響く。

 ドラグノフに賭けた者達のチケットが宙を舞う。

 リング内は次の試合の為に、もうマットの交換が始められている。

 喧騒の中、コックピットを後にするマサキの肩を叩く、十六夜に賭けていた観客達。

 その観客達の中からマサキに近付いて来たのは、ザイツェフであった。

 「・・・。」

 無言で右手を差し出すザイツェフにマサキも応える。

 「この先・・・。」

 「?」

 「この先勝ち続ければ、貴様はこの地下に巣食う、全世界の脅威となり得る存在と闘わねばならん。」

 「・・・俺は、その為に地下(ココ)へ来た。」

 「そう・・・か。」

 ザイツェフはそれ以上何も言わず、擦れ違いざまにマサキの肩を叩くと、観客達の中へと姿を消す。

 「・・・ふう。 何とか初戦突破だな。」

 その後姿を見ながら、マサキは強敵との闘いの余韻に浸っていた。

 「ヒヒヒ・・・あのドラグノフを下すとは・・・。 お前さん、なかなかやるのう・・・ヒヒヒ。」

 「うわわ!」

 いきなり目の前に現れた男はセムシであった。

 「一時は危なかったがのう。 ヒヒヒ・・・お前さんはこっちじゃ。」 

 セムシに導かれて、着いた先はリング・サイドのVIP席の一つだった。

 「本来ならば、お前さんも他の連中と同様、別の控え室で次の予選を待ってもらうんだがね。 お前さんを試合開始前に指名してきたクライアントがおるでな、その場合はクライアントのVIP席で待機してもらう事になっとる。」

 「ふへ〜。」

 「お前さん、ツイとるね・・・ヒヒヒ。」    

 セムシはそう言うと、目の前のVIP席にマサキを招き入れた。

 ―――同刻、プラレス・スクエア・ガーデン階上のオフィス―――

 「あわわ・・・ばばば、ばかなっ!!(唾)」

 『外部』へと連絡を終えた中村は、オフィスのモニターで試合の模様を見ていたのである。

 あと少しと言う所で、よもやドラグノフが敗れるとは。

 「ッ!!」

 怒りが頂点に達した中村は、頭の先まで真っ赤になり、手にしたボールペンを机に向かって投げつける。

 カン・・・。

 しかし、ボールペンはあらぬ方向へと飛んで行った。

 「わわわ、私がこれまで受け持ってきた大会の中で、最悪の大会ですっ!!(唾)」

 中村はそう言うと、再度受話器を取ってリダイヤル・ボタンを押す。

 やがて相手が電話に出ると、中村は言った。

 「ももも、もしもし!!(唾)」

 「・・・。」

 「あああ、貴女のおっしゃる通り、十六夜が勝ちましたぞ!!(唾)」

 「・・・。」

 「そそそ、そんな呑気な!!(唾)」

 「・・・。」

 「わわわ、解りました!!(唾)」

 「・・・。」

 「ももも、もちろん私は言いますっ!!(唾) 遊ぶな!遊べ!!(唾) と。」

 中村は、意味不明の絶叫を上げると受話器を置いた。

 明るくなった店内を見て、アスミとジュンは背筋がゾッとした。

 天井や壁に張り付いていたのは、30pほどの『蠍』だったのだ。

 その数、20体・・・。

 「あれは、スコルピオン!! ・・・私を追って来たのね。」

 カシュン!!

 天井から一機のスコルピオンが人型へと変型し、床に降り立つ。

 ジュンの指が、素早くキーボードを走る。

 ギュウンッ!

 女性型へと改修された『ZERO−X』の美しい肢体が、スコルピオンの一体に向かって床を蹴る。

 「月読!」

 アスミが咄嗟にキーボードを叩き、月読も床を蹴る。

 かくして、スコルピオン達との死闘が幕を開けた。

 バキ!

 ビシ!

 スコルピオンの武器はその巨大な鋏と背面の針である事が、十六夜の戦闘データでわかっていた。

 ZERO−Xは持ち前の古武術で、月読はこれまで使わずに眠らせていた合気道の技で、敢然と立ち向かう。

 しかし、倒しても倒しても起き上がってくるスコルピオンの群れに、二人は飲み込まれようとしていた。

 「アスミさん、気をつけて! こいつら・・・操縦者はいないわ!! 自立型よ!」

 ジュンが叫ぶ。

 「やっぱり・・・。 どおりで受信機が無いと思った。 あ!」

 アスミが叫ぶ。

 月読が奮戦空しく、スコルピオンに捕まったのだ。

 必死にもがくが、首を挟んだスコルピオンの巨大な鋏はびくともしない。

 「あ・・・しまった!」

 一瞬、月読に気を取られたZERO−Xも、巨大な鋏にその首を挟まれ宙に浮く。

 二人ともに捕まっては、為す術も無かった。

 二人を掴んだまま、スコルピオンの背面から尻尾が、両脚の間を抜けて前方にせり出してくる。

 「やな予感・・・。」

 ジュンの予感通り、スコルピオンの尻尾の先端に備え付けられた鋭い針が、空気を抜きながら二度、三度と液を飛ばす。

 「この匂い・・・。」

 アスミもジュンも知っていた。

 この匂いは・・・シンナー。

 やがて、周囲のスコルピオンによって、抗う二人の両脚が左右に大きく広げられた。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 さっさとドラグノフ戦終了。

 青白い炎の正体は、ロシアの得意分野からの応用です。

 それに対して、短時間耐えた十六夜も日本の伝統技術。

 中村氏の元ネタがわかるのは、ピースケと伊助、隠れた読者のりく&○○○くんだけでしょうなあ。

 そして、4は今回書いているスピードが半端じゃなかったシーン!!

 頑張ったけど、月読&ZERO−Xは、貞操(?)最大ピンチ!!

 でも、プラレスラーにそんなモン(←何?)ありません。

 あくまでもスコルピオンの狙いは、プラレスラーの急所である受信機なんです。

 だけど、なんとなくエロくなってますね。

 かつての『う○つ○童○』とか『○○○伝説フ○ア』系のノリで、読んで下さい。

〜あとがき・2〜

 30話書いてから、少し書き直しました。

 初稿は間違い箇所もあったり、ドラグノフのイメージも単調だったので、某格ゲーの彼の技を拝借。

 結局、それらの技は使うヒマ無しでしたが。

 

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