オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第31話「地下〜Act6」

 ―――プラレス・スクエア・ガーデン階上のオフィス―――

 「あばば!(唾) ししし、震電までっ!!(唾) ままま、全くもって情けないっ!!(唾)」

 明かりも点けようとせず、中村は会場に設置されたカメラが映し出す画像をモニターで見ながら、独り身悶えていた。

 「ややや、やはりあの女の提案に乗ったのが間違いだったのです!(唾) おおお、表だけでなく裏!(唾) そそそ、それも私の目前でFISTの刺客が勝ち進むなど、私には耐えられませんっ!(唾)」

 中村は独りでまくしたてると、目の前のスチール・デスクを激しく叩いた。

 「くふっ・・・。 ももも、もしもの時・・・その時は!(唾)」

 そう言って顔を上げた中村の眼鏡に映りこむのは、中村自慢のタワー型PCに何本ものケーブルで繋がれた1体のプラバトラー。

 その容姿は、どのプラレスラーやプラバトラーとも異なる妖しさを醸し出していた。

 トーナメントの第1回戦を終えたマサキはBOX席に戻り、PCから十六夜の自己診断プログラムを起動する。

 真・十六夜としては初陣である地下のリングにあって、FISTのリングと同じ様に、相手に攻め込ませる闘いをした十六夜。

 如何に震電の張り手に耐えうる装甲を持っていても、その衝撃は内部にまで達していても不思議は無い。

 「異常は・・・無しか。 予想してたよりも、この装甲とフレームの組合せは悪くないな。 ところで・・・。」

 マサキは満足気に頷くと、ロウの語った10機によるバトル・ロイヤルの事を思い出し、聞いた話の全てを小田島に語り、今夜は行われないのかと尋ねた。

 「そんな事があったんですか。 残念ながら、わかりませんね。」 

 小田島は今期からクライアントをしている身であった為に、降魔が参加したと言うバトル・ロイヤルに関しては知らなかった。

 「降魔が参加していたとなると気になりますね、調べてみましょう。」

 小田島は、そう答えて席を立つ。

 どこでどうやって調べるのか判らないが、マサキは詮索しない。

 何故なら、マサキは小田島の雰囲気からただのクライアントでは無い事を感じ取っていたからである。

 大方、どこかのメーカーの人間であろう事は容易に想像できた。

 表のプラレスでもメーカーのワークス・マシンやモデラーが正体を隠して参加している事はよくある事で、当の本人達は、いたって大まじめに正体を隠しているが、バレているケースが大半なのである。

 だが、誰もその事実を詮索する事はしない。

 自分の創り上げたプラレスラーとの対戦データが、開発に生かされている。

 そんなワークス・マシンと闘える事はモデラーにとって光栄な事なのだ。

 何より、メーカーのそうした活動によって、より優れたプラレスラーが市場に送り出されている以上、それを阻害する様な真似は無益以外の何物でも無かった。

 それは、裏の場合も基本的に同じであろう。

 そして、小田島の場合も立場こそ違えど、そうした部類の人間であろうとマサキは感じていた。

 「ふう・・・。」

 慣れない場所での試合のせいか、マサキは大きく息をつく。

 「十六夜、すごいね。」

 ふいにミサトが十六夜に話し掛ける。

 「あのね・・・。 さっき私が描いた人なんだけど。」

 さっき描いた人と言うのは、ミサトが隼を見た時に浮かんだ映像に表れた旧日本軍の軍服に身を包んだ人間の事である。

 「実は、似た様な服を着た人の映像イメージね・・・十六夜にもあるの。」

 「へ?」

 唐突にとんでもない話を切り出すミサトに、マサキは二の句を継げない。 

 「あ! でもね、何て言うのかな。 違うのよ。 隼って言ったかな。 あのプラバトラーを見た時に浮かんだ映像に現れた人と十六夜を見た時の人、着ている服は同じだったけど、別の人だったわ。」

 ミサトに何らかの能力が備わっている事は疑う余地は無い。

 しかし、隼だけでなく十六夜にまで同じ様な映像が浮かぶとは、どういう事か。

 「ふうむ・・・。」

 かろうじて返事は返すものの、マサキには皆目見当がつかない。

 「十六夜はね、安心。 だって、さっきの隼をやっつける為に生まれたんだもの。」

 またしてもミサトの謎の言葉が、マサキに脳裏を駆け巡る。

 安心はともかく、十六夜が隼を倒す為に生まれた?

 十六夜は、父と共に創り上げてきたプラレスラーだ。

 「父と・・・。」

 思わず、そう口にした瞬間、マサキの脳裏に記憶がフラッシュ・バックする。

 第一次プラレス・ブームの時、中学生だったマサキは現在の十六夜を創り上げるべく、休みになると父と共に全国を歩いた。

 当時も現在も一般的な素材であるプラスチックやABS、ポリカーボネートといった素材を使って十六夜は創り上げられていたが、より装甲やフレームに最適な素材を得る為にである。

 しかし・・・。

 「!」

 その時、マサキはある事実に気が付き戦慄した。

 十六夜は確かにマサキが創ったプラレスラーだ。

 だが、そのデザイン・ソースはマサキが幼い頃から家にあり、そして遊んでいた木製の人形ではなかったか。

 当時は何とも思わなかったが、現在にして思えばその人形が精巧なモック・アップであったとも考えられなくも無い。

 しかし、それが何故マサキの家に?

 それを知っているのは・・・。

 「・・・・・・! ・・・さん! 島村さん!!」

 考え込んでいたマサキは、ミサトに呼ばれハッと我に返る。

 「ああ、ミサトちゃん。 ごめん、考え込んでた。」

 「大丈夫? ずっと黙ったまま怖い顔をしているから。 私があんな事言ったせい?」

 不安気にマサキの顔を覗き込むミサト。

 「違う違う! そんなじゃないんだ。 ちょっと昔の事で気になった事があってね。 ミサトちゃんのせいじゃないから、気にしないで。」 

 マサキは、慌てて場を取り繕う。

 「そう・・・。 ならいいんだけど。」

 「うんうん。」

 努めて明るく振舞うマサキであったが、ミサトは俯き加減に話し始める。

 「私・・・。」

 「うん?」

 「私ね・・・この変な力のせいで、友達いなくなっちゃったんだ〜。」

 「・・・。」

 「もう、わかってると思うけど。 私、色んなモノを見たり、触れたりするとね。 そのモノの持ち主とか、色んな事がわかるの。 最初はそれが普通だと思ってたけど、ある時友達の考えてる事がわかっちゃって・・・。 そしたら『バケモノ』だって。 他の人はわからないのが普通なんだって、その時初めて知ったの。 でもさ、『バケモノ』は無いよね〜。」 

 話している内容の割に、「えへっ」と舌を出す仕草が不憫だった。

 「誰が言ったんだ、そんな事! 俺がぶん殴ってやる!!」

 「え!? ちょ、ちょっと・・・。」

 意外なマサキの激昂に、慌てたのはミサキの方であった。

 「いいかい? 人間なら誰でも得意な事や苦手な事があるだろう? それこそ十人十色ってね。 ミサトちゃんの力だって同じ事なんだ!」

 「は、はい!」

 「きっとミサトちゃんには、ミサトちゃんのやるべき事があるから、その力が備わっているんだと俺は思う。」

 「私のやるべき事・・・。」

 そんな事、ミサトは考えた事も無かった。

 自分に出来る事って何だろう。

 考えながら、両親以外に自分の事を理解してくれる人がいた事が嬉しかった。

 「だから、そんな事は気にしない!」

 「はい!」

 ミサトの表情が、明るさを取り戻す。

 「うちのコウだって、そうさ。 普段はのんびりしてるが、センスは俺より上だと思ってるよ。」

 「コウ?」

 「息子だよ。 ミサトちゃんと同じ位の年齢のね。 あとコウの妹で、ユウって娘もいる。」

 「ふうん。 会ってみたいな♪」

 「よかったら、今度遊びにおいで。 家は多摩ニュータウン通りにあるから。 コウの奴、ミサトちゃんみたいなタイプに弱いから、きっとメロメロになるよ。」

 「本当〜?」

 「本当さ。」

 「あはは! おかしい・・・ありがとう、島村さん。」

 「お礼なんて、言わないでいいよ。 さ! まもなく決勝トーナメントが始まるぞ。」

 「はい!」

 その時、スタンバイ状態の十六夜が自動復帰する。 

 「マサキ! 降魔の駆動音を確認、来るぞ!!」

 「何だって!」

 十六夜の警告に思わず立ち上がるマサキ。

 だが、降魔の姿はまだ見えず、会場内で気付いた者がいる様子も無い。

 「十六夜の言ってる事は本当よ! パパの捜してるプラバトラーが来るわ!!」

 ミサトも感じたのか、十六夜の警告を肯定する。

 「よし! ミサトちゃんは、お父さんを呼んでくるんだ!!」

 「はい!!」

 そう答えて、ミサトが駆け出す。

 マサキは急いで十六夜に繋がれたケーブルを引き抜くと、PCを片手に十六夜と共にリングに向かって駆け出していた。

 「雷牙! ワルキューレ!!」

 アスミとジュンの背後に揃って膝立ち、PCを操るのはコウとユウであった。

 その後ろにはコウゾウもいる。

 「アスミさん、この場はまかせなさい。 それと、こいつを借りますぞ。」 

 コウゾウの手には、いつの間にか店に飾られていたタヤマのPWH−02SW「フェニックス改」があった。

 「コウ! ユウ! それに、お父さんまで・・・。」

 驚き慌てるアスミ達を尻目に、コウゾウが続ける。

 「セット・アップじゃ。 コウ、ユウ、行くぞい! おっと、コウはPAP使ってな。」

 「おう!」

 「うん!」

 キュウウンと音を立てて、フェニックス改が起動する。

 それに合わせて、雷牙とワルキューレも6体のスコルピオンにそれぞれ駆け出して行く。

 6体のスコルピオンに対して3体、1体あたり2体を相手にする格好だ。

 「ギ・・・。」

 スコルピオンがZERO−Xの背中を踏み付けていた脚をゆっくりと床へ下ろす。

 先陣を切ったのは、雷牙だ。

 「オオオオオオ!」

 雷牙が雄叫びとともに空中に身を躍らせ、向かって右側に展開していた2体の内の1体に狙いを定めて手刀を振り下ろす。

 「スーパー・・・大切断!!」

 ズバッ!!

 何と言う威力であろうか。

 その重量とPAPによる全身の連動によって繰り出された手刀は、スコルピオンの鋏によるガードなどモノともしなかった。

 両腕の鋏は折られたと言うより、切り落とされたと言った方が正しいであろう。

 それが床に落ちた時には、既に装甲は紙のごとく裂かれ、内部パーツが転げ出ていた。

 しかし、雷牙の勢いは止まらない。

 残る1体の両腕を強引にクロスさせて素早く両脇に抱えると、勢いよく後方へ投げる。

 「あれは十六夜のストライク・ツー! コウったら、いつの間に・・・。」

 アスミは、コウと雷牙の闘う姿にマサキの姿を重ね、それまで抱いていた不安が安心感へと変わるのを感じていた。

 「パパ・・・。 コウはあなたにそっくりよ。」

 投げられたスコルピオンは、受け身をとる事もできなかったであろう。

 雷牙が立ち上がった時には、哀れにもスコルピオンの両腕は折れ、頭部が胴体にめり込んでいた。

 「すごい・・・。 これがFISTのモデラーの実力・・・。」

 ジュンは身体が震えるのを感じた。

 古武術をたしなみ、開発者としては経験豊富でも、操縦者としては駆け出しのジュン。

 彼女にとって、先程のアスミの操作技術もさることながら、コウの技量も感嘆に値した。

 「ギ・・・ギ・・・。」

 一方、向かって左側では、対プラレスラー戦に弱いスコルピオンが相手である事を差し引いても、ワルキューレの動きは過日とは別物と言って良かった。

 雷牙ほど派手では無いが、月読譲りの合気道で1体をすでに倒している。

 スコルピオンの繰り出した左の鋏をかわしながら左手で掴み、その肘を右手で掴む。

 次いでワルキューレはスコルピオンの突き出した力に逆らわず、手首と肘を引きながらラリアットを叩き込んだのである。

 スコルピオンは自らの突き出した力と重量、そしてワルキューレの力でラリアットを叩き込まれるのだから、たまらない。

 以前のワルキューレの装甲では、ここまで大胆に攻め込ませる事が出来なかったであろう。

 ヴァルキリーの予備パーツを使用した事で、最強の盾を得たと言っても過言ではないワルキューレに、相手の攻撃する力を利用する合気道はマッチしているのであろう。

 残るスコルピオンは2体。

 「じいちゃん! 大丈夫?」

 「おじいちゃん、頑張って!」

 孫2人の声援(?)を受け、コウゾウは張り切っていた。

 「おう! よお〜し見とれ〜。」

 ぎこちない動きで、コウゾウの操るフェニックスが中央に展開しているスコルピオンと対峙した。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 色塗りをしてて、オリストが遅々として進みませんでした。

 その分、今回はバリバリ書いてみました。

 合気道は、相変わらず「沈黙の〜」のスティーブン・セガールの動きしか知りません。

 この前、NHKで合気道講座やってたので見たんだけど、力の利用のしかたが間違ってるかもしれません。

 誰か、教えてくれ〜。

 次回、コウゾウ大丈夫か?

  

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