オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第32話「地下〜Act7」

 リング間際まで辿り着いたマサキ。

 しかし、そこに降魔の姿は見当たらず、リング内では決勝トーナメントの準備が進められている。

 「間に合った・・・。」

 息をつくマサキの肩口に飛び乗る十六夜。 

 そのズシリとした感触が肩に心地良い。

 シュン・・・。

 瞬間、その感触がフッと消える。

 マサキは反射的にPCを開き、十六夜が跳躍したと思われる方向へと視線を移す。

 「上か!!」

 十六夜の跳躍したその先には、ようやく姿を現した降魔の姿が確認できる。

 「十六夜、頼むぞ・・・。」

 マサキはPCのモニターを見つめながら、キーボードに指を走らせた。

 ―――――

 「フン!」

 自らに接近する十六夜に気付き、急速に人型へと変型した降魔の豪腕が、唸りを上げて十六夜を叩き落さんと迫る。

 その豪腕が十六夜に到達しようとする瞬間、降魔と十六夜の間に割って入る影があった。

 ガキィーン!

 リングの真上で火花が散る。

 ズダダン。

 その衝撃でリングに落下する影。

 マサキも見た。

 照明に照らし出された影は、隼であった。

 リングに叩きつけられた衝撃で、うつ伏せてはいるが隼に間違い無い。

 となれば、隼も降魔の出現を感じ取ったと言う事か。

 「何だ? 決勝前に私闘でもおっぱじめやがったか? 隼」

 「こりゃ、おもしれえ!」

 粗末なコピー用紙に印刷された、決勝トーナメントの対戦表を見つめて予想に懸命だった観客達も、これに気付いてざわめいている。

 ギョム。

 失速して同じくリングに着地する十六夜。

 「また来やがった・・・て、ありゃ〜十六夜じゃねえか。」

 「ますます、おもしろくなってきやがったぜ! バトル・ロイヤルにしろや!!」

 「よし、誰か仕切れ! 俺は隼に張るぜ!」

 勝手に賭けを始める者まで現れ、観客達のざわめきが一層大きくなる。

 グン・・・。

 しかし、十六夜は意に介さず、無言のまま跳躍の姿勢に入る。

 「?」

 その時、十六夜の足首を掴む者がいた。

 十六夜が足元を見ると、それは隼であった。

 「アイツは俺の獲物だ。 邪魔はしないでもらおう・・・」

 「何!?」

 ズドオン! 

 「!!」

 音のした方向に視線を移してファイティング・ポーズを取る十六夜。

 その視線の先には、地響きを立てて降り立った降魔がいた。

 「ホホウ、コレハコレハ。 ソノ姿ハ、十六夜カ? 随分ト回復ガ早イナ。」

 十六夜に向き直り、降魔が言う。

 「・・・。」

 対して十六夜は、無言でファイティング・ポーズを崩さない。

 「先程割リ込ンデキタノハ・・・コレハ懐カシイ・・・隼デハナイカ。」

 視線を十六夜から隼に移して、降魔が言う。

 「貴様は俺の獲物だ。 そして、貴様がそうであるように、俺も20年前の俺とは違う!」

 そう言って、隼は立ち上がる。

 「ホウ。 大シタ自信ダナ。 ダガ、忘レタ訳デハアルマイ? 貴様ト、貴様カラ生マレタ、我ヲ倒セルノハ・・・。」

 「『ハヤテ』だけ・・・。 ふん! そんなモノがどこにある!! 貴様を倒すのは・・・俺だ!!」

 シュ!

 そう言うと、隼は降魔めがけて駆け出していく。

 「隼!」

 十六夜がファイティング・ポーズのまま叫ぶが、隼には降魔しか見えていない。

 「今こそ、親父の無念を晴らす時! 行けえ、隼!!」

 その声の主、マサキの反対側で同じ様にPCを開いて隼をオペレートするのは、牛神であった。

 降魔の元へ駆ける隼の目の前に、突如として複数のプラバトラーが立ち塞がる。

 青く輝く騎士の甲冑を思わせる装甲板を身に纏ったプラバトラー、『デス・ドラグーン』。

 全身に緑のペイントを施された降魔に勝るとも劣らない体躯と、チェーンの装備された異様なまでに大きい両腕を持つプラバトラー、『アイアン・ビースト』。

 白く輝く均整のとれた体格のプラバトラー、『アレックス』。

 その名の通り闘牛士をモチーフとした細身のプラバトラー、『エル・マタドーレ』。

 明らかにシヴァ神をモチーフにしたと判る6本の腕を持つプラバトラー『ザ・マハーラージャ』。

 いずれも本戦出場を決めた8機のプラバトラーの残り5機であった。 

 これでリングに立っているプラバトラーは、降魔と隼、そして十六夜を含め、計8機である。

 「貴様ら・・・。 邪魔をするつもりか!?」

 と隼が3機に問う。

 「邪魔? こいつは俺にとっても仇敵なんでな。 貴様だけに闘らせるわけにはいかんのだ。」

 と答えたのは、かつての試合でアイアン・ファルコンもろとも降魔に敗れたアイアン・ビーストである。

 デス・ドラグーンとアレックスは答える必要もないとばかりに、無言のままだ。

 「く・・・。」

 さしもの隼と言えど、並み居るプラバトラー全てを相手に勝ち目は無い。

 「フフン! 面白クナッテキタジャナイカ。 何ナラ、貴様ラ全員相手ニシテヤッテモ、ヨイノダゾ? ソレモ、今スグニダ!!」

 その様子を冷ややかに見ていた降魔が、獣の咆哮をあげる。

 瞬間、リング上の全てのプラバトラーが降魔に向き直り、ファイティング・ポーズを取る。

 まさに一触即発。

 その時である。

 「ちちち、ちょっと待ったあ!(唾)」

 スピーカーを通じて、中村の声が場内に響き渡る。

 と同時に2階から1体のプラバトラーが降下・・・というよりも転げ落ちてくる。

 ベシイッ!

 「ガハ・・・。」

 鈍い音を立てて落下したそれは、ずんぐりとした風体の異様なプラバトラー「エル・コ・コンガ」であった。

 口の端にオイルを滲ませながら、コ・コンガが降魔に向き直る。

 「げふぅ・・・。 “でぃあぼろす”。 ココ、みーノおーなーニマカセル。」

 怪しい口調でコ・コンガがそう言うと、再び場内のスピーカーを通じて中村の声が流れ出す。

 「かかか、会場の皆様!(唾) ななな、並びにクライアント及びモデラーの皆様!(唾)」

 その呼び掛けに、騒然となっていた場内が次第に静かになっていく。

 中村は、頃合いを見計らって続ける。

 「たたた、大変長らくお待たせ致しました!(唾) こここ、これより決勝トーナメントを開始いたします!(唾)」

 その瞬間、轟と唸りをあげる会場。

 煙草の紫煙と、熱気に煙る場内の空気が震える。

 「ちょっと待て。」

 牛神の声で静まる場内。

 「ななな、何か?」

 「トーナメント開始は判った。 それで、この対戦表に記載されている『X』ってプラバトラーは、奴か?」

 牛神の指先が、降魔を指し示す。

 「そそそ、その通りです!(唾) こここ、今夜のUGPWAには、マスター・プラバトラー『降魔』が降臨いたしましたあ!(唾)」

 中村の絶叫に、観客のボルテージが上がる。

 マサキは傍らの観客の手にしていた対戦表を見る。

 『X』である降魔の相手は・・・『ザ・マハーラージャ』!

 それも第1試合だ。

 『ザ・マハーラージャ』も、それに気が付いたらしく、既に圧倒されかかっている。

 「よよよ、よろしいですかな?」

 中村は、会場の空気を読む様に一呼吸置くと、

 「そそそ、それでは第1試合を開始します!(唾) 『降魔』と『ザ・マハーラージャ』以外のプラバトラーはリングから出なさい!(唾)」

 こうして、降魔をめぐる決勝トーナメントの幕は切って落とされたのであった。

 「ギ・・・ギ・・・。」

 頼りない足取りで、2体のスコルピオンに近付くフェニックス改。

 「大丈夫なのか〜? じいちゃん。」

 コウがフェニックス改の動きを見て、心配そうにコウゾウに声を掛ける。

 「黙って見ておれ。 おおっと。 よっ、ほっ、こりゃ。」

 「あちゃ〜。」

 声を揃えてコウとユウは頭を抱える。

 「ギ・・・。」

 スコルピオンは攻略は容易いと判断したのか、突如としてフェニックス改に襲い掛かる。

 空気を裂いてフェニックス改の頭部をなぎ払わんと迫る、スコルピオンの右腕の鋏。

 その瞬間、足がもつれたフェニックス改が転びそうになりながら、スコルピオンの胸元へ倒れ込む。

 ゴン!

 空振りバランスを崩した上、偶然とは言え、モロに装甲の接合部に頭突きをくらったスコルピオンが、もんどりうって仰向けに倒れる。

 そこへ、もつれて倒れたフェニックス改の肘がスコルピオンの喉元に偶然刺さる。

 ついに1体のスコルピオンが、作動不能に陥ってしまった。

 「じいちゃん・・・ある意味すげえ・・・。」

 皆が呆気に取られている中、コウゾウは真剣そのものだ。

 「あれは・・・酔拳?」

 「酔拳?」

 ジュンが漏らした呟きにアスミも驚く。

 「ギ・・・。」

 残る1体は慎重に倒れたフェニックス改に近付く。

 フラフラとおぼつかない足取りで立ち上がったフェニックス改を見て、チャンスとばかりにスコルピオンがフェニックス改の背後から飛ぶ。

 「おっとっと。」

 コウゾウの発した声と同時に、フェニックス改は足元に倒れていたスコルピオンに躓いて、片脚を大きく後ろに振り上げる。

 ゴイ〜ン!

 あろう事か、スコルピオンはフェニックス改の振り上げた脚に直撃され、床に落下した。

 「はあ・・・。 なんかアイツらが憐れになってきたよ。」

 とコウ。

 「そうか〜? おっといかん!」

 とコウゾウ。

 「ギギ・・・。」

 それでも立ち上がろうとしたスコルピオンであったが、よろけたフェニックス改に頭部を踏み潰されて、作動不能に陥ったのであった。

 「これで全部ね。 コウ、ユウ、お義父さん。 それにジュンさん。 ありがとう。」

 全てのスコルピオンの倒れた今、改めて店内を見回すアスミ。

 月読はオーバーホールが必要になるが、何より子供達が怪我もなく、また逞しくなったのが嬉しかった。

 キ・・・。

 「!!」

 そんなアスミの感慨も、ドアを開けて現れた新たなプラレスラーによって一瞬で消し飛んだ。

 「またなの〜?」

 ユウはワルキューレを戸口に向ける。

 「またかよ〜。」

 コウも雷牙を同じ様に戸口に向けた。

 そこに現れた白いプラレスラーは、雷牙とワルキューレとの間合いの外まで静かに歩み寄ると、こう言った。

 「私はドミニオン。 あなた方を試したのは私のオーナーです。」

 

つづく

 

〜あとがき〜

 GC版ゼルダの付録で時のオカリナにはまってしまいました。

 いや〜面白いね。

 バイオ0は隠し無しで、3時間半以内クリアしたぞ>伊助

 ロケランよりマグナムの方がいいな。

 さて、今回も少しずつネタばらし&新展開。

〜あとがき・2〜

 加筆&修正版は、どうでしょうか。

 降魔を乱入者ではなく、中村の要請で正式に参加するプラバトラーとして決勝に組み入れました。

 この方が自然なので。  

 

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