第33話「地下〜Act8」
1
決勝トーナメントの第1試合、『降魔』対『ザ・マハーラージャ』が開始された。
独特のファイティング・ポーズでユラユラと上体を揺らし、降魔にゆっくりと接近するマハーラージャ。
対する降魔は、腕組みをしたまま微動だにしない。
ピク・・・。
降魔が、組んだ両腕を解こうと僅かに動いたその瞬間を、マハーラージャは見逃さなかった。
キラリとマハーラージャの眼が光る。
「ムウン!」
マハーラージャの腕が、マットを削り取らんとするかの様に低空から、降魔に伸びる。
相手の間合いの外からの攻撃。
ドン!!
凄まじい衝撃音が炸裂し、マハーラージャの両腕は、的確に降魔の胸元に打撃を加える。
間髪入れず、続けて2度、3度と繰り返し降魔の胸元に叩き込まれる、マハーラージャの両腕。
「フフフ・・・。 動ケヌカ、降魔。 ソノママ、“すくらっぷ”ニシテクレヨウゾ!」
目にも止まらぬ速さで引き戻された両腕は、更に降魔に迫る。
その時、動かずにいた降魔が動いた。
接近する両腕を跳んでかわすと、そのままマハーラージャの頭上高く達する降魔。
「一撃ダ。」
降魔がマハーラージャの頭上から、回転急降下しながら呟く。
「何ヲ!」
対するマハーラージャは周囲の空気を吸い込むかの様な動作の後、降魔のいる上空目掛けて炎を吐き出す。
ボウ!と音を立てて炎が伸びる。
可燃性の液体と、空気との混合気を口腔内のノズルから噴出させ、そこに着火したのだ。
さしもの降魔のボディもこれには耐えられまいと、マハーラージャのオーナー・カラサリスは思った。
マハーラージャも。
しかし。
ギャリイイイインッ!!
次の瞬間、マハーラージャのボディは、その思考もろとも粉々に砕け散って、リングに撒き散らされた。
ボンッ!
マハーラージャに内臓されていた可燃性の液体が、炎を上げてリングを焦がす。
その炎に照らし出されて浮かび上がる、悪魔のごときシルエット。
会場の観客は、声も無く静まり返っていた。
やがて降魔は、身体のみならず、高速回転しドリル・ビットと化していたのであろう、停止した手首の感触を確かめた後、悠然と引き上げて行くのであった。
2
第1試合の凄惨さを目の当たりにし、降魔の脅威を胸に抱きながら、マサキはテーブルの上で十六夜の分解整備をしていた。
十六夜の出番は、まだ後だ。
決勝トーナメント第1戦目の相手は、『アイアン・ビースト』。
自分に出来る事は、十六夜の調子を最高の状態に仕上げる事だけである。
「このフレームの木目模様は・・・まさか! ダマスカス鋼?」
小田島は、初めて剥き出しになった十六夜のフレームを見て、その材質に気が付いた。
「お! よく分かりましたね。」
マサキは、小田島が十六夜のダマスカス・フレームに気づいた事に驚いた。
「このフレームは偶然に父と創り出した産物なんです。 あれは、川崎の工場にお邪魔した時の事です。 本来は純度の高い玉鋼でフレームを作る予定だったのですが。」
マサキは、かつて父と共に各地を渡り歩いた時の事を思い出すように、小田島に語った。
「その製造過程で、私が色んな原料をひっくり返してしまって。 混ざり合った結果、しなやかで且つ丈夫なコイツが出来上がったんです。」
「ふうむ・・・。」
小田島は、興味津々と言った面持ちで、取り外されている十六夜の装甲を手にとって尋ねる。
「あのドラグノフの炎や、震電の張り手にも耐えた、この装甲も?」
その問いには、マサキは首を振った。
「残念ながら、ダマスカス鋼ではありません。 偶然の産物であった為に、二度と再現する事はかないませんでした。 ですが、十六夜の装甲には、ダマスカス鋼に勝るとも劣らない、日本古来の技術が使われています。」
「日本古来・・・もしや。」
「お分かりになったようですね。 その装甲は、玉鋼と軟鉄を混ぜ、高温で鍛えてあるんですよ。」
「日本刀の製造工程。」
「正解です。」
マサキは頷いて、小田島の手から十六夜の装甲を受け取ると、十六夜を元通りに組み立てていく。
「しかし、よくこれだけのパーツを作り出しましたね。」
小田島が、感嘆した面持ちで問う。
「私だけの力では、とうてい作りえませんよ。 全身のパーツを日本刀の製造工程で作り上げるのに、刀工に以来してから何年も待たねばなりませんでした。」
マサキは、丁寧且つ素早く十六夜を組み立て終えると、PCから十六夜を起動する。
「しなやかに曲がる柔軟性に富んだフレームに、曲がれども決して折れぬ日本刀の強靭さを備えた装甲・・・。」
その様子を見ながら、小田島の脳裏に、様々な可能性が浮かんでいく。
「もう一つ。 十六夜の駆動にはモーターは補助にしか使われていません。 ほとんどの動作は、MCによって駆動されています。」
マサキは、以前T−REX達に語って聞かせたMCシステムの説明を小田島にも聞かせた。
「これ程のモノを失礼ながらプライベーターのあなたが創り上げられるとは・・・。 正直、驚きです。」
「でしょうね。」
マサキは、苦笑しながら頷く。
「十六夜ならば、降魔・・・いや、『ディアボロス』を我々の手に取り戻せるかもしれません。」
「我々の?」
小田島が言ったフレーズが気になったマサキが尋ねる。
「ええ。 あなたは信頼するに足る方だと確信して、全てお話しましょう。 島村さんはGUN−DOLLをご存知ですか?」
「GUN−DOLL? ああ、ヴァンダイの。」
GUN−DOLLと言えば、ヴァンダイの主力商品である。
「そのGUN−DOLLに続く、次期エンターテイメント・ゲームの開発に我々は携わっていました。」
「と言うことは・・・小田島さんはヴァンダイの!」
「その通りです。 そして、その次期エンターテイメント・ゲームの名はAURA−FIGHTERと言い、その試作機が『ディアボロス』・・・すなわち降魔なのです。」
3
戸口に現れた白いプラレスラーは、ドミニオンと名乗った。
一同の脳裏に疑問が浮かぶ。
「試したって・・・どう言う事? あなたのオーナーは誰なの?」
その疑問を、アスミがドミニオンに尋ねる。
「正確には、あなた方のプラレスラーではなく、十六夜を試すはずでした。 しかし、試合中にはベースの性能不足から満足な試験データが取れず、公園では鬼蜘蛛と言う名のプラレスラーの邪魔が入って、これも失敗に終わったのです。 私のオーナーについては追って説明します。」
「じゃあ、あのスーツの男はあなたのオーナー、もしくは使いだったのね? ZEROを乗っ取ったのは、あなた達だったの!!」
ドミニオンの話を聞いて、ジュンが叫ぶ。
「そう。 しかし、今また十六夜の試験データは取れませんでした。」
「何故? 何故十六夜の試験データを必要としているの?」
アスミが問う。
「私のオーナーは、コードネーム『HAYATE』を探しています。 数多くリスト・アップされたデータの中から、最も可能性のあるプラレスラーの1機が十六夜なのです。」
「ハヤテ? それが、何だって言うの?」
訳が分からず、まくし立てるアスミ。
しかし、ドミニオンはそれに構わず話し始める。
「あなた方は、降魔と名乗るプラレスラーを知っていますね?」
「ええ、知っているわ。 あなた・・・仲間なの?」
「答えはNOです。 むしろライバルと言った方が正しいかもしれません。 しかしながら、私は奴の足元にも及びません・・・。 それ故に私のオーナーは『HAYATE』の力を欲しているのです。」
少しうつむきながら、ドミニオンが答える。
「さっきも聞いたけど、あなたのオーナーは誰なの?」
「・・・。 お答えしてもいいのですが、一緒に来て貰いたい場所があるのです。」
「いいわ。 何処へでも行ってあげるから、教えて頂戴。」
「私のオーナーは、アメリカ合衆国航空産業メーカー『ノースラップ』に所属する、次世代兵器開発責任者ライナス・マコーミックです。 ・・・そして奴、降魔を名乗る『ディアボロス』のオーナーは、アメリカ合衆国航空産業メーカー『ロッキード』に所属する、次世代兵器開発責任者クリス・ブラッカイマー。 両社とも80年代初頭から現代に至るまで、開発競争を続けています。」
ドミニオンの言葉に声も出ない一同。
やがて、アスミが口を開く。
「次世代兵器? 開発競争? それじゃあ何? 私達・・・開発競争に巻き込まれてるって訳?」
「答えは・・・YESです。 しかしながら、私のオーナーであるライナスはプラレスを愛しています。 軍事的利用には本来反対なのですが、『ディアボロス』が採用されるのを食い止める為に私を創り上げたのです。」
「何て事・・・。」
アスミが呟いた時、それまで無言だったコウゾウが前に出る。
「ドミニオンと言ったか? ぬしら、何故『疾風』を知っておる? その名を何処で知ったのだ。」
「お義父さん?」
いつもの温和なコウゾウと異なる物言いに、アスミが驚いてコウゾウを見る。
「・・・その質問に対する答えは、オーナーが直接お答えしたいと申しております。」
ドミニオンが、一瞬の間を置いて答える。
「ならば、オーナーに会わせてもらおう。 場所は?」
「福生を出発して、ここに向かっています。」
「福生・・・。 米軍横田基地!?」
ドミニオンの答えた場所が何処か、アスミにはすぐに判った。
「その通りです。」
プシュウ・・・。 キュオオン。
ドミニオンが肯定した時、店の前のニュータウン通りに巨大なトレーラが停車した。
つづく
〜あとがき〜
プラVAN連載開始で毎月楽しみが増えましたね!!
ついでにLINUXなんかにも手を出したりで、随分と間が空いてしまいました。
今回からネタばらしをしつつ、ラストに向けてガンガン進んでいきます。
デス・ドラグーンとアレックスは、最初から降魔狙いですから活躍してもらいますぞ。
〜あとがき・2〜
加筆&修正は降魔VSマハーラージャ。
この辺りの展開が、初稿とは全く異なっています。
試合の中の強大な敵のイメージがいまいち希薄な感じだったので。