オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第37話「地下〜Act12」

 いよいよベスト4が出揃った、地下・ガレージ・プラレスのトーナメント戦。

 次の試合は、ディアボロス×アレックス戦である。

 リングの修復作業も終わり、真新しいリングの上にはディアボロスとアレックスが佇んでいる。

 アレックス側のコックピットには、既にアレックスのオーナーである矢口もスタンバイを完了しているが、対するディアボロス側のコックピットは、相変わらず空席のままだ。

 姿を見せぬのは、過日「FIST」に乱入した時も同じであるが、一体何処からディアボロスをオペレートしているのであろうか。

 その一種異様な光景の中、試合開始を告げるゴングが鳴った。

 マントの様に見えた翼を、その両腕を左右に開くと同時に大きく背後に展開して折り畳み、セット・アップを終えて振り向くディアボロス。

 ズシャア!!

 その瞬間、元いた場所に残像を残し、アレックスが前腕・フクラハギ・背面の全てのエア・ノズルを全開にしてディアボロスに急接近する!

 「はやっ!」

 誰もが、一瞬その姿を見失う程の加速である。

 間合いに入った瞬間に放たれる、アレックスのフライング・ラリアット!

 しかし、ディアボロスは、両腕を上げてこれをガードする。

 ガキインッ!

 凄まじい衝突音が、会場の中に響き渡る。

 しかし、あれ程の速度で衝突したにも関らず、ディアボロスはよろめく事すら無い。

 むしろ、技を仕掛けたアレックスの方が、弾き返されている。

 「・・・。」

 アレックスは無言で体勢を立て直すと、トントンとリズムを刻み、フット・ワークを使ってディアボロスの隙を伺う。

 「ハッ!」

 ジリジリと間合いを詰め、驚くべき速さでディアボロスの背後を取るや、気合一閃。

 見事な弧を描いてジャーマン・スープレックスを見舞うアレックス。

 ズダダダンッ!

 ディアボロスの後頭部がマットに打ちつけられる。

 その刹那、何を感じ取ったのか、すぐに立ち上がって間合いを取り、ファイティング・ポーズを取るアレックス。

 次いで、ディアボロスものそりと起き上がる。

 「・・・どう言うつもりだ?」

 アレックスが問う。

 続け様に攻め込んで・・・否、攻め込まされている事を言っているのだ。

 「フフフ・・・。 貴様ノ相変ワラズノ、“しゃーぷ”ナ動キヲ堪能シテイタマデヨ。 “あれっくす”・・・否、“うらかん”!」

 ディアボロスの発した名前を聞き取れた者は驚愕した。

 「ウラカン!?」

 20年前、モデラーの間にばら撒かれた兵器のシミュレーション・ドールの一つがウラカン型であった。

 「そんな馬鹿な! ウラカンはF型がプラリンピアの大会で敗れ去り、放棄されたと聞いている・・・。 残っているはずは・・・。」

 ボックス席でその名を耳にしたマサキも、驚きの表情でリング上のアレックスを見つめる。

 「待てよ・・・そう言えば、その時のウラカンの行方は記録にも残っていない・・・。 まさか!仲プラが密かに回収していたのか?」

 マサキがハッとした様に呟く。

 「もしかすると、それが正解かもしれません・・・。 あくまでも非公式・・・ですが。」

 そのマサキの推測を、小田島が肯定する。

 「貴様・・・何を言っている? 俺の名は、アレックスだ。 ウラカンなどと言う名は知らん!」 

 そう叫びながら、全てのエア・ノズルを全開にして、再度ディアボロスに向かって行くアレックス。

 「ナラバ、確カメテヤル。 ナニシロ、本国デ改修ヲ受ケタ後、各地ニバラ撒カレテイタ貴様ノ同族ヲ、何度モコノ手デ葬ッテ来タノダカラナ。」

 ディアボロスは、右手を握り締め、次いで真横に振りながら言った。

 ズア!

 対するアレックスが、両腕を前に伸ばし、指先を剣先の様に揃えた姿勢で宙に飛ぶ。

 キュウウィィィン!

 その手首から先が回転し、ディアボロスに襲い掛かる。

 手首を避け、その両腕を真っ向から掴むディアボロスの両腕。

 「ハッ」

 宙に浮いた格好のアレックスは、即座に両脚でディアボロスの胸元を蹴る。

 強引に両腕を振りほどき、トンボを切って着地するや、ドロップキックを見舞うアレックス。

 その瞬間、アレックスよりも早く、そして高く宙に飛んでいたディアボロスのドロップキックが、アレックスを打ち落とす。

 ズダダン!

 マットに打ちつけられたアレックスであったが、ディアボロスよりも早く立ち上がり、遅れて立ち上がろうとしていたディアボロスの胴に両腕を回す。

 「フン!」

 アレックスの気合いと同時に、アレックスの胸の前で綺麗に回転するディアボロス。

 風車式背骨折りだ。

 「ガハッ!」

 弓なりに背を反らせたディアボロスの背中に走る衝撃。

 アレックスは、間髪入れずディアボロスの頭部を掴み、無理矢理立ち上がらせてダブル・アーム・スープレックス!

 そして、すぐさまエルボー・ドロップ!!

 更にギロチン・ドロップ!!!

 そして、金網からのダイビング・ヘッド!!!!

 ディアボロスに反撃の隙を与えず、矢継ぎ早に攻め込むアレックス。

 「ああ・・・。」

 観客の口から漏れる意味をなさない溜息。

 これまで、ここまで攻め込まれているディアボロスを見た事が無かったのである。

 しかし、それも杞憂であった。

 ギシリ・・・。

 「ヤハリ貴様ハ“うらかん”ヨ。 畳ミ掛ケル様ナ猛攻ハ、相変ワラズ見事ナモノダ。」

 ディアボロスはむくりと起き上がると、背後に折り畳んでいた翼を展開した。

 「く・・・俺を・・・ウラカンと呼ぶなあ!」

 雄叫びと共に、残像を残して跳躍するアレックス。

 ガガッ!

 場内に激しい擦過音が響き渡る。

 しかし、アレックスの勢いは止まらない。

 着地したと同時に跳躍し、何度も何度もディアボロスに襲い掛かる。

 ディアボロスの左側頭部が僅かに抉られ、微かなスパークが見て取れるのは、アレックスのスチール製手首ドリルの成せる技であろうか。

 「時代ノ移リ変ワリトハ、残酷ナモノダナ“うらかん”ヨ。」

 これまでに受けたダメージをモノともせずに、ディアボロスは独り呟く。

 「行クゾ・・・。」

 ゴオ!

 その瞬間、ディアボロスが跳躍すると同時に背面に取り付けられていたノズルから噴射炎が噴出し、その巨体が瞬く間に跳躍するアレックスに肉迫する。

 FISTに乱入した時に装備していたモーター・ファンの推力とは段違いの加速力であった。

 その煙の残滓から、ドラグノフの腕部に取り付けられていたモノと、同種のモノが取り付けられているであろう事は推測できた。

 「ぬう!」

 突如、目前に現れたディアボロスに、アレックスは抗う間も無く、その両腕を掴まれる。

 「サラバダ・・・“うらかん”。 セメテ最後ハ、貴様達ノ得意ダッタ必殺技デ決メサセテモラウ。」

 「く・・・何を!」

 ギョム!

 アレックスの両腕を掴んだまま、ディアボロスはリング中央に降り立つ。

 「フン!」

 そして、ディアボロスはアレックスを頭上に抱え上げると両脚を沈み込ませて跳躍し、背面の噴射炎と共に垂直に上昇する。

 「行クゾ“うらかん”ヨ・・・。 食ラウガ良イ・・・ピラミッド・・・クラ〜ッシュ!!

 「何いっ!?」

 ディアボロスは頭上にアレックスを抱え上げたまま、天井の照明近くまで上昇すると位置を入れ替え、急降下する・・・そして。

 ドガッ!

 凄まじい衝撃音と共に、マットに叩きつけられるアレックス。

 両腕を掴まれている為に受身も取れず、しかも、その胸部装甲にディアボロスの頭部がめり込んでいる。

 「あ・・・あれは・・・。」

 古くからのプラレス・ファンの脳裏に、つい昨日の出来事の様に蘇る『第2回全日本プラレス選手権』の強烈な記憶。

 そのフィニッシュの形から名付けられた、かつてのウラカンの必殺技であった「ピラミッド・クラッシュ」。

 それを、よもやディアボロスが使い得ようとは!

 「ナカナカ楽シマセテモラッタゾ。 我ニ手傷ヲ負ワセタ事ヲ、同族ニ誇ルガ良イ。」

 ディアボロスは、マットに仰向けに倒れたまま動かぬアレックスにそう言うと、アレックスのもげた頭部を右手で拾い、頭上に掲げる。

 ウオオオオオオン・・・。

 それと同時に場内に沸き起こる歓声。

 それは、観客に対する勝利のアピールであった。

 「あの当時、全ては牛神大将の思惑通りに事は進んでおった。 しかし、その悪魔の如き計画に気付き、これを阻止せんとする男が現れたのじゃ。」

 コウゾウの話を、固唾を飲んで聞き入る一同。

 「その男の名は・・・竹之内コウイチロウと言う。」

 その名に聞き覚えあったアスミがハッとした表情を浮かべる。

 「お義父さん・・・。 竹之内ってもしかして、お義母さんの?」

 「その通り。 うちのヤツの兄よ。 戦死した事になってはいるが・・・の。」

 「それってどう言う?」

 その言い回しに疑問を感じたアスミが問う。

 「まあ、待ちなさい。 牛神と同じ陸軍大将であった竹之内は、牛神の提唱する『機人兵計画』の本当の目的を知った。 そして、その計画に真っ向から反対したのじゃよ。」

 当時を思い出す様にして、ゆっくりと語るコウゾウ。

 「しかし、既に敗戦色の濃くなっていた軍内部において、竹之内の言葉に耳を貸す者はおらなんだ。」

 「じゃあ・・・出来上がっちゃったの?」

 とコウが尋ねる。

 コウゾウはゆっくりと頷く。

 「物資の不足しておった当時において、実物大の機人兵など作り得ないであろうと思っておったが、大方の予想に反して試作機は一応完成したのじゃよ。」

 「そんなあ・・・。」

 「コウ、安心せい。 試作機は完成したものの、肝心の脳の提供者がおらなんだ。」

 そう言って、コウの頭を撫でるコウゾウ。

 「何人か牛神の配下の者が志願したそうじゃが、適性が合わなくての。 そこで、牛神はあろう事か、罰当たりにも戦死者の脳を使いおった。 結果的にそれがまずかったのじゃろうが、試作機は動作が不安定にも関わらず暴れに暴れ、研究施設から脱走する直前に牛神本人の手によって破壊されたと言う話じゃ。」

 「ふうん。」

 「さて、その時。 試作機の暴走による混乱に乗じて、竹之内が潜り込ませておった間者・・・今で言うスパイが、基本設計を牛神の研究施設から持ち出す事に成功しての、竹之内にもたらされた基本設計は、牛神の計画に反対する科学者や技術者のグループに委ねられたのじゃ。 牛神が万が一にも完全な『機人兵』を完成させた時の為、ソレを上回る性能を持ち、ソレを破壊する為の対抗兵器を創り上げる為に・・・な。」

 「それが、『HAYATE』になるのですね・・・。 では、『疾風』も人間の脳を?」

 それまで黙っていたライナスが尋ねる。

 「いいや。 当時、既にあった『鉄人計画』の設計を取り入れて、電波誘導で操縦する事になっておった。 しかも、試作品完成時の暴走も考慮し、最初は1/6スケールでな。 ちょうど牛神の連中も、実物大での稼動試験の危険性やら、歩行時安定性やら、課題が山積しておったらしくての、先程のスパイからの情報もあって、牛神の連中と同じ1/6スケールに落ち着いたんじゃが。 まあ、牛神陣営と違ってハナから物資不足であったからの、その方が一石二鳥だったと言う理由もある。 なにしろ使える金属と言えば、真鍮位しか残っておらなんだからのう。」 

 コウゾウは、そこまで話すと息をつき、一同の顔を見回してから続きを語り始める。

 「ところが・・・じゃ。 こちらと同じく、牛神の手の者が潜り込んでおったのよ。 その者の情報によって『疾風』の存在が牛神の知る所となってな、『疾風』が間も無く完成しようかと言う矢先に、いち早く完成した試製『隼』による襲撃があったのじゃ・・・。」

 目を閉じたコウゾウの脳裏に、その時の光景が鮮明に蘇る。

 「むろん、儂らも反撃した。 じゃが・・・恐るべき事に、身長わずか30p程度の・・・しかも、たった1体の試製『隼』によって、竹之内の配下は儂を除いて全滅、完成間近であった『疾風』も破壊され、屋敷は炎に包まれたのじゃよ。」

 「竹之内さんは、どうなったんですか!?」

 ジュンが悲痛な面持ちで尋ねる。

 「うむ・・・。 その時、竹之内は『疾風』の設計図を同郷の儂に託してな。 自らは爆薬とようやく捕獲した『隼』を胸に抱いて、燃え盛る屋敷の内部に引き返して行ったのじゃ・・・。」

 「・・・。」

 僅か50年程前の出来事に、言葉も出ない一同を乗せたトレーラーは、いつしか首都高速4号線を走っていた。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 自分で書くのも何ですが、特に終戦間際がダークな展開です。

 これで、プラVANあたりが創生期のエピソードなんかやったりしたら、アウトだろうな〜。

 次回もネタばらしです。

 

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