オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第39話「地下〜Act14」

 跳躍した十六夜の青いボディが宙に舞う。

 隼は、咄嗟に差し出した両腕で十六夜を抱えて受止めると、そのまま後方へ投げを打つ。

 ダダン!

 「ぐ・・・。」

 目標を失い、自らの跳躍による慣性と隼の投げによって、マットへうつ伏せの状態で叩き付けられる十六夜。

 間髪入れず、両脚を一本橋の様に開いた踵落としが、うつ伏せていた十六夜の後頭部に斧の様に振り下ろされる。

 「ぬうっ!!」

 うつ伏せの姿勢から、横方向へ2転3転しながら、紙一重で隼の踵をかわし、転がった勢いを利用して膝立ちの姿勢から立ち上がる十六夜。

 その目前に迫る隼の右膝。

 それが十六夜との間合いに入った瞬間、右膝が引かれ、左膝が後ろからせり出してくる。

 ―――真空飛び膝蹴り。

 咄嗟に十六夜が、右腕を左側頭部から右前方向へ払いながら前へ出る。

 通常ならば立ち止まったままガードするか、もしくは後退をするところを、敢えて前進することで、隼の膝蹴りの打点を大腿部に移すのだ。

 そして。

 ヒュッ。

 十六夜は、ガードした右腕を引き戻し、左の掌打を隼の顎目掛けて、下からアッパー気味に打ち込む。

 「む!」

 隼はスウェーでかわして、バック・ステップし間合いを取る。

 それを追って、身体を右に回転させた十六夜の右裏拳が唸る。

 ガシッ!

 隼は、右手を軽く右側頭部の横に挙げてブロックすると、掌を返して十六夜の右手首を掴み、右方向へと捻る。

 可動限界まで絞り上げる隼。

 と、隼の掌から抵抗が消失する。

 ヒュッ・・・

 十六夜は捻られる方向へ前方宙返りして立つと、右掌を開きながら素早く左半身の構えを取る。

 と同時に、右掌を開いて右胸の前に引き付けながら、左掌で隼の顔面に目打ちを喰らわす。

 「ぬ!」

 目打ちはダメージこそ無いものの、隼の視界を塞ぎ、気をそらすには十分であった。

 一瞬の隙を突いて、十六夜の左掌が、右手首を掴む隼の右掌に掛かる。

 同時に、右手首を支点に右肘を隼の身体の方向へ入れて外し、隼の指を折り畳む。

 右掌に掛かった左掌を返しながら、左脚を右脚の後方に引く。

 ―――小手返し。

 十六夜の流れる様な動作が終わった時、隼は背中からマットに引き倒されていた。

 「ぬう!」

 十六夜に手首を極められたままの右腕を、強引に振り解こうとする隼。

 その瞬間、十六夜は極めた右手首を絞りながら、隼の右肘にあてがった自らの右膝で、隼の右肘の関節を逆に極める。

 ビキ・・・ピシィ・・・ピキ・・・。

 「・・・・・うがああああああああああ!」

 一瞬の間を置いて、隼の絶叫が場内に響き渡る。

 十六夜が隼の右肘を極め、そのまま折らんと力を込める。

 その瞬間。

 バチッ!!!!

 目も眩むばかりの凄まじい閃光を発して、今まさに隼の右腕を作動不能に追い込まんとしていた十六夜が飛び退く。

 「何!?」

 隼との間合いを取り、痺れた様な感触の残る右腕を見つめる十六夜。

 その青い塗装に残された、2つの黒点。

 立ち上がった隼の左拳からは、白煙が立ち上っている。

 (隼にスタン・ナックルを使わせるとはな。 ヤツの対戦まで使う事はあるまいと思っていたが・・・止むを得ない・・・か。)

 「隼、フレーム・チェンジだ!」

 ヒュウウウウウ・・・ン。

 牛神のオペレートによって、隼の内部で何かが変わる。

 「フレーム・チェンジ?」

 「ククク・・・驚いたか? これが、俺の真の姿よ。」

 「真の姿?」

 「そう・・・2系統構造。 さっきまでの俺は剛構造。 そして今は・・・柔構造。」

 「剛と柔・・・。 だが、余裕だな。 自らの秘密を喋っていいのか?」

 「フ・・・。 十六夜・・・貴様はプラレスラーにしてはタフな奴だ。 だが、俺はこんな所でやられる訳にはいかん。 ヤツを倒すのは俺なのだからな!」

 プラレスの歴史にあって、過去に隼と同様の2系統回路を搭載していたとされるのは、ただ1機。

 かつて、成田シノグのリキオーとタッグ・マッチに臨んだ、ルダ・ロドリゲスのラ・ジョロナである。

 第2回プラレス大会時のエル・ウラカンも2系統回路を搭載していたとされるが、それとは別種の内容であった。

 牛神のオペレートと同時に、隼が一気に十六夜との間合いを詰め、己の間合いに入った瞬間、その右脚が地を蹴る。

 「オオオオッ!」

 裂帛の雄叫びを上げて、隼の右脚が十六夜の左側頭部目掛けて伸びる。

 対する十六夜のメモリーに蓄積されていた、今試合での隼の蹴り。

 そのデータが指し示す速度と軌道計算。

 それに従って、左肘を曲げてガードする十六夜。

 だが。

 隼の右脚は、それまでと全く異なる速さと軌道を描いて、十六夜の左側頭部に吸い込まれる。

 それも、これまでに無い程綺麗に・・・である。

 観客から見れば、隼が舞う様にして右脚を跳ね上げた様にしか見えなかった。

 「な・・・。」

 左側頭部からの衝撃が、右側頭部へと抜ける様に伝わり、がくりと両膝を折る十六夜。

 その頭頂部へ振り下ろされる右の踵落としもまた、鞭の様にしなやかであった。

 ガクン・・・。

 ゆっくりと十六夜がうつ伏せに倒れ込む。

 「十六夜っ!」

 マサキのPCに表示される十六夜のダメージ表示は、異常であった。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 半年近く間が空いてしまいましたな。

 異動してから書く機会が減ったせいもありますが、十六夜VS隼の試合展開を何回も書き直しているうちに遅くなってしまいました。

 プラレスらしくない地味な展開になりましたが、隼の立ち技に対抗するには、これが最も効果的かなと思います。

〜あとがき・2〜

 関節を極めて折るあたりを削除。

 やっぱり似合わない様な気がしますので。

 

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