オリジナル・ストーリー「蒼き疾風」

 

第42話「地下〜Act17」

 (ここは・・・。)

 朦朧とした意識の中、ぼんやりと隼の視界の中でライトが像を結ぶ。

 どうやら自分が、仰向けの状態にあることは判った。

 しかし、ここがどこなのか、なぜ仰向けなのかが判らない。

 (・・・俺は一体・・・。)

 そう思った時、視界の中で光り輝くライトの中に、黒い影がすっと浮かび上がる。

 恐るべき速さで記憶がたぐられ、その影の名を思い出す。

 「X−80!!」

 叫びながら、立ち上がる。

 (そうか・・・。 俺は・・・X−80との性能評価試験で・・・。)

 無意識に隼がファイティング・ポーズを取る。

 「!!」

 同時にメモリーから、ファイティング・プログラムが流れ込んでくるのを感じる。

 両掌を開いて見つめ、歓喜に震える隼。

 (動ける! 俺はヤツを・・・X−80を倒せる・・・。 俺は・・・勝つ!)

 ギュっと拳を握り締め、X−80との間合いを詰める。

 低い姿勢でタックルに行く・・・と見せかけて、首を両腕で抱える。

 そして、右膝。

 左膝。

 右膝。

 左膝。

 ムエタイ流の首相撲から、左右の膝蹴りを叩き込む。

 習い覚えたラッシュだ。

 普通のプラレスラーに使われるジュラルミンならば、陥没は免れない。

 (X−80・・・。 今度は、俺の勝ちだ!)

 十六夜が、肩で息をしているかの様な疲労の色が浮かべながらも隼に近付く。

 その瞬間、あびせ蹴りのダメージをものともせずに、隼が立ち上がる。

 「む。」

 次いでファイティング・ポーズを取った隼が、素早く十六夜との間合いを詰める。

 「まだ動けるのか!?」

 姿勢を低くしてのタックルだ。

 「ぬ・・・。」

 十六夜がタックルから逃れんとする。

 その十六夜の首に下からせりあがってきた隼の両腕が巻き付く。

 「しまった!」

 マサキの指がキーボードを叩く。

 が、すでに隼は十六夜の首を完全にホールドしている。 

 次いで衝撃。

 隼の、容赦の無い左右の膝蹴りが、十六夜に叩き込まれる。

 そして。

 ガッ!

 ホールドが解かれると同時に、隼の右ストレートが十六夜を襲う。

 反対の金網間際まで、弾き飛ばされた十六夜が、かろうじて踏みとどまる。

 「くっ!」

 その十六夜の頭部へ、空気を切り裂く様な隼の右ハイ・キックが襲う。

 これもかろうじてかわす十六夜。

 そこへ隼の左ハイ・キック。

 かわす十六夜。

 と、その十六夜の首に、またしても隼の両腕が巻き付く。

 首相撲だ。

 膝蹴りに備えて、両腕でガードする十六夜。

 「!!」

 しかし、衝撃は両腕ではなく後頭部を襲う。

 隼がホールドを解いて、右ヒジを十六夜に叩き込んだのだ。

 うつ伏せにマットに倒れる十六夜。

 その後頭部を狙って、隼のジャンピング・エルボー。

 咄嗟にかわす十六夜の目前で、隼のヒジがマットをえぐる。

 その時、十六夜は見た。

 隼のカメラ・アイが不気味に赤く光り輝いていることを。

 牛神のPCは、あびせ蹴りを喰らい、もんどりうって倒れた隼との間にコネクション・ロストを起こしていた。

 現在では携帯ゲーム機にさえ標準で搭載されるのが当たり前になったワイヤレス通信機能。

 PCとプラレスラーとの間においても使われているのだが、牛神のネットワーク内に隼が認識されないのだ。

 にも関らず、十六夜に襲い掛かる隼。

 それも、自分がオペレートするよりも鋭く、そして冷酷に。

 間近にいた自分だけが聞き取れた隼の叫び。

 「X−80!」

 それが何を意味するのか、牛神にはなんとなくではあるが判りかけていた。

 あの瞬間に、隼は意識を失ったのだと。

 隼のCPUは、頭部のシェル(頭蓋)内に封入されたバイオ・チップなのである。

 

つづく

 

〜あとがき〜

 42話リリースしました。

 

オリジナル・ストーリー目次へ戻る

第41話へ戻る

第43話へ進む